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閑話休題

【閑】深読み名古屋めし

私は愛知県の出身です。愛知県といえば、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三英傑を生んだ土地ですが、今でも色々なところで戦国時代の名残を感じることができます。


愛知県は、お寺の多さで日本一です。愛知4,600、大阪3,400、京都3,100、東京2,900。だいたいこんな感じです。愛知県にこれだけたくさんのお寺があるのは、戦国時代に戦勝祈願をしたり亡くなった武将を弔ったりと、お寺がよく使われたからだと言われています。
また、愛知県人はバカ、アホの意味で「たわけ」をよく使います。時代劇で殿様が「たわけもの!」と部下を叱るあれです。ほかにも、年配の方は「お先に失礼します」の意味で、「ご無礼します」と言ったりします。

食にも戦国時代の名残を感じます。例えば、「味噌煮込みうどん」です。太い生煮えの粉っぽい麺が、赤みその濃厚なだし汁の中でぐつぐつ煮えているやつです。赤みそは八丁味噌とも言われますが、家康の生誕の地、三河の岡崎が発祥です。
では、あの特徴的な麺はどこで生まれたと思いますか?答えは、山梨県です。味噌煮込みの麺のルーツは「ほうとう」です(他説もあり)。山梨の名物ですが、ほうとうはその昔、戦国武将の携帯食でした。
となれば、武田信玄が徳川を攻めたときも、ほうとうを持参したに違いありません。残念ながら、武田氏は長篠の合戦のあとで滅んでしまいますが、戦国最強の武田軍の兵士の多くは、三河藩に転職したといわれています。(その後三河藩は最強と言われた) ここで三河の八丁味噌と甲斐のほうとうが運命的な出会いをします。そして生まれた愛の結晶が「味噌煮込みうどん」だったのです。

次にご紹介したいのが、あんかけスパです。「あん」といっても、あんかけうどんや天津飯とは違ってスパイシーなデミグラスソースのようなものです。
炒めた太麺パスタにソーセージやベーコン、玉ねぎ等をトッピングし、その上に黒褐色のあんをかけます。希望によってカツやハンバーグ、目玉焼きなんかを乗っけることもできます。見るからにB級グルメ。初めて食べた人は間違いなく「何だこれ?」と感じることでしょう。はっきりいって美味しくはありません。二度と口にしようと思わない人が大半です。でも何かの間違いで3回口にすると、不思議なことに虜になってしまいます。実際、あんかけスパのお店はどこも大人気です。

ところであんかけスパのルーツはどこでしょうか?これは私の勝手な推測です。
あんかけスパ発祥とされる名古屋市の某店は、もともと洋食屋さんでした。通常、洋食における主役は、カツやハンバーグ、ステーキです。そして、少量のパスタやサラダが脇役として申し訳程度に添えられます。
ここからは私の推測ですが、ある日某店のシェフはふと思いました。洋食の主役と脇役を逆にしたら、どんな料理になるだろうと。そんなシェフの偶然の思い付きから生まれた料理が、あんかけスパではないでしょうか。
ここではパスタが主役に躍り出て、カツやハンバーグは脇役に格下げされます。これぞまさに洋食界の下剋上。農民から天下人に成り上がった秀吉を彷彿とさせます。

愛知県人は今日も名古屋めしを食べながら、戦国の武将たちに思いを馳せるのです。