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株式

【株】GDP世界1位は幸せか?

世界各国の経済力を比較するときに、一人当たりGDPという指標がよく使われます。これは、その国のGDPを人口で割った数字で、その国に住む人々の平均的な豊かさを表す指標となります。IMF(国際通貨基金)の推計による2023年の一人当たりGDP(※1)のランキングでは、日本は世界34位となっています。しかし、1993年と1994年は日本の一人当たりGDPは世界1位であり、当時日本は世界で最も豊かな国だったことになります。私は1987年に社会人となり、1993年は若手社員としてバリバリ仕事をしていた時期です。今回はそんな当時の記憶も呼び起こしながら、一人当たりGDP世界1位の日本とはどんな様相であったのか、振り返ってみたいと思います。  (※1)ドル建て名目ベースです。

最初に白状してしまうと、私の1993年~1994年頃の日本の印象は決して芳しいものではありません。本邦経済は1989年のバブル崩壊の傷が癒えないまま、ズルズルと悪化の一途を辿っていました。銀行の不良債権がヤバそうと言われ始めたのも、この頃かと思います。1995年には阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件とバッドニュースが続き、時代は世紀末の様相を呈していきます。株価、地価とも下落が止まらず、1997年、4大証券の一角であった山一証券が自主廃業し、都銀の北海道拓殖銀行が倒産。翌1998年には長期金融界の雄、長銀と日債銀が経営破綻します。こうして、我が国は戦後最大の金融危機に陥りました。
1993年~1994年当時の為替は概ね1ドル=100円~110円程度で、現在より大幅に円高の水準でした。本邦経済は不況であったにも関わらず、円高に阻まれて輸出をドライバーとした景気回復を図ることができません。政府が打つ総合経済対策も空振りに終わり、後に「失われた30年」といわれるデフレスパイラルに突入することになりました。

当時の私は顧客企業の退職年金の資産を運用する仕事をしていましたが、株式市場の不調でマイナスの運用が続き、顧客企業から怒られてばかりいました。詐欺師!と罵られたことも、一度や二度ではありません。就職できない若者は街にあふれていましたが、皆な活気はなく、疲れた表情で俯いていたように思います。この頃の日本が世界で最も豊かだと言われても、ブラックジョークにしか聞こえません。唯一、海外旅行をした人だけが、日本の豊かさを実感できたことでしょう。

当時を知らない若者にはピンとこないかもしれませんが、これから日本でインフレ(※2)が常態化すれば、たとえ一人当たりGDPが世界34位であっても、総合的に見て現在の日本の方がずっと幸せだと私は思います。デフレで人々の心が萎縮した日本で、一人当たりGDPが世界1位だと言っても、そんなものは偽りの世界一です。逆に、インフレで人々の心がアクティブに前向きになれば、一人当たりGDPが世界34位であったとしても、私はそんな日本の方が幸せであり、豊かだと思います。また、インフレでモノやサービスの値段が上がると、どうしてもミクロ面(家計や企業)の悪いイメージが先行しがちですが、中長期的には経済活動が活発化することでマクロ面のメリットが効果を発揮し、一人当たりGDPのランキングも徐々に改善していくことでしょう。
(※2)インフレ、デフレは物価の高低とともに、経済の体温を表します。マイルドなインフレ下の経済は「高圧経済」と呼ばれます。

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ライフプラン

【ラ】ストレスのない暮らし

私は今年60歳となり、正社員から契約社員になりました。年収は従前の半分以下に下がりましたが、職務上の責任も軽くなり、ほとんど好き勝手に仕事をさせてもらっています。年収は下がったものの、個人年金と企業年金の支給が60歳から始まるので、株の配当と合わせれば従来の年収なみの水準は確保できます。贅沢さえ言わなければ、毎日の生活に苦労することはないと思います。
今の私は仕事上のストレスはほぼゼロ。生活費は年金と株の配当、そして僅かな給料で何とかギリ賄える。「これってFIREじゃね?」と、ふと思いました。もちろん、私は既に還暦ですし、仕事も辞めていないので、厳密な意味でFIREを名乗る資格はありません。しかし、契約社員=副業と考えれば、かなりFIREに近い状態(※)になっているのではないでしょうか。
(※)サイドFIREというやつです。ただの年金生活者という説もありますが……。

疑似FIRE状態となった4月以降、私の心にある変化が生じました。仕事のストレスがなくなり、お金の心配もほぼなくなったため、私の心は一気に軽くなりました。いや、軽くなりすぎました。そのため、逆に私の心は緊張を求めるようになったのです。人が緊張を感じるには、リスクが必要です。私は心の命じるまま、以前にも増してリスクを取りにいくようになりました。日経平均が40,000円の高値圏にあるとき、私は無謀にも複数の銘柄を買いました。お陰で今は評価損の拡大に怯える緊張の日々です。また、この夏、私は沖に流される可能性のある伊豆の海で、何度も潜りました。そして、今週末、滑落の危険がある中央アルプス宝剣岳に登る予定です。やめときゃいいのにと思われるでしょうが、緊張を求める私の心がそれを許しません。

大昔、ヒトがまだお猿さんだった頃、ジャングルで常に捕食者に狙われていたご先祖様は、大変なストレスを感じていたことでしょう。現代人は、代わりにコンクリートジャングルで、別のストレスを感じながら暮らしています。ストレスは決して体にいいものではありませんが、人間が生きていくうえで欠かすことのできないものかもしれません。だから、今日も私はリスクを求めて彷徨うのでしょうか。

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株式

【株】蘇るガースー

自民党総裁選が行われた9月27日の金曜日、日経平均株価は東京時間15時に40,000円目前の39,829円と大幅に上昇して引けました。しかし、自民党総裁選に高市氏でなく石破氏が選ばれたことが伝わると、ナイトセッションでは28日の未明に37,290円の安値へ約2,500円も急落しました。何でも、石破氏の主張する金融所得課税や法人税増税などが嫌気されたとのことですが、ホンマかいな? 事前の予想でも、総裁選の一番手は石破氏であったはず。予想通りの結果なのに、なぜに相場は上へ下へと大騒ぎするのか。言うまでもありませんね。8月5日の令和のブラックマンデー、植田ショックと同じ構図です。高市氏が追い上げているとの報道を受け、円売り・日経平均買いを進めたCTA等の海外ファンド筋が、総裁選の結果を見てポジションを解消しただけの話。日経平均の急落を嘆く暇があれば、ここは落ち着いて、石破政権の経済運営の方向性を見定める方が有意義だと思います。

私は政治の素人ですので、あくまでも私見となりますが、私は石破政権のキーマンは菅副総裁ではないかと見ています。従前より派閥を持たず政治基盤の弱い石破総裁が、最後に頼るのは菅氏だと思うからです。(菅氏も派閥に属していませんが、勉強会を立ち上げ人脈の構築に注力していました。)菅氏はコロナ禍で志半ばで政権を追われた過去があり、そのとき実現できなかった幾つかの政策を、今度こそは実現しようと思っているはず。そのため、菅政権時に菅氏が目指していた経済政策=スガノミクスの内容を、改めておさらいしておくのもいいと思います。

スガノミクスはアベノミクスを継承しつつも、行政・規制改革の断行による成長戦略に重点を置いた政策です。アベノミクスの成果と言われることの多い「インバウンドによる観光振興」や「農産物の輸出拡大」、「携帯料金の値下げ」や「ふるさと納税」等は菅氏が主導し実現させた政策です。コロナ禍で世論の逆風の前に撤退したGoToも菅政権の政策でした。こう見てくると、ミクロ政策の積み上げで経済成長や生産性向上を図るのがスガノミクスの特徴で、マクロ政策の出番はないように思えます。しかし、菅氏は人事権をたてに官僚をコントロールすることに長けた政治家です。また、民間の経済人とも強いパイプを持っているので、経済現場の状況に応じた適切なマクロ政策を打ち出すことは可能でしょう。

石破政権が課税強化、円高・金利引き上げの道を進むというのは、いかにも短絡思考です。菅氏が副総裁として睨みをきかせる石破政権は、財務・日銀官僚の描く財政再建・金利正常化シナリオに容易に従うとは思えません。経済実態にフィットした地に足の着いた経済政策が実行されるものと期待しています。

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閑話休題

【閑】東京と大阪

私は普段名古屋で仕事をしていますが、3ヶ月に1度東京本社に会議のため上京します。新幹線が多摩川を超え東京都に入ると、私の体は緊張で強ばってきます。アドレナリンが分泌され、血圧が上昇して、心臓の鼓動が激しくなります。東京といえば、地方の人にとってショッピングや食事、観光等の娯楽を楽しむ夢のある街ですが、私にとってはできれば足を踏み入れたくない場所です。なぜなら、かつて私の東京勤務の日々が、絶望に満ちたものだったからです。たび重なる仕事上のトラブル、ミス。上司や同僚、大勢の関係者に迷惑をかけました。その全てが私の至らなさが原因です。今でも当時のことを思い出すと、胃液がこみ上げてきます。

10年間の東京勤務のあと、私は追い出されるように大阪転勤となりました。大阪でも私のポンコツぶりは変わらず、ミスが続きました。仕事が終わってもまっすぐ家に帰る気になれず、最寄り駅の近くの焼き鳥屋でぐだぐだ時間を潰しました。ほろ酔い気分で、このまま消えてなくなりたいと何度思ったことか。ポキッと心が折れる音を聞いたのも、この頃です。でも、不思議なんです。私は大阪にネガティブな印象を持っていません。最近もプライベートで大阪に行きましたが、東京のような緊張感を強いられることはありませんでした。
なぜでしょうか。大阪の街が持つ暖かさのせいでしょうか。大阪には私のような敗者も受け入れてくれる、懐の深さがあります。「大丈夫だから。今は黙って眠りな。」 そうささやいてくれる兄貴のような街です。

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閑話休題

【年】遺族年金の見直しについて

2024年7月30日の社会保障審議会年金部会において、遺族厚生年金の見直しが議論されました。現在の厚生年金では、子のない世帯の遺族厚生年金において男女差が存在しており、今回これを見直そうというものです。複雑で非常に分かりづらい公的年金(厚生年金、国民年金)ですが、以下では細部を省きビジュアル的にお示しすることで、現在進行している遺族厚生年金見直しの議論を直感的にご理解いただこうと思います。

子(18歳到達年度の末日までの子。または1・2級の障害状態にある20歳未満の子)のない世帯の遺族厚生年金には、男女差が存在します。現在、妻は夫の死亡時に30歳未満であれば5年の有期給付(有期年金)、30歳以上であれば終身給付(終身年金)を受け取れるのに対し、夫は55歳以上で妻を亡くした場合のみ、60歳以降に終身給付(終身年金)を受け取れることとなっています。これは女性は稼得能力が低く男性は高いという、旧態依然としたイメージが前提にあります。しかし、今や社会情勢は変化しており、喫緊の格差見直しが求められています。

2024年7月30日の社会保障審議会年金部会では、20歳代から50歳代(60歳未満)で死別した子のない配偶者に対する遺族厚生年金の見直しの方向性として、以下の3点が打ち出されました。
①男女で条件を分けず、5年間の有期給付とする
②現行制度のおける生計維持要件のうち、収入要件(年収850万円未満)の撤廃
③現行制度の遺族厚生年金額よりも年間の金額を充実させるため、有期給付加算(仮称)を新設

今回の年金部会で有期化の対象として議論されたのは、今後発生する子のない現役世帯の遺族厚生年金です。受給権が既に発生している人、子のある世帯、高齢期の遺族厚生年金の給付については、現行制度維持の方針が示されました。また、今後発生する子のない妻への遺族厚生年金については、(20年以上の)十分な経過措置期間をもって段階的に有期年金化を進める方針が検討されています。
確かに30歳以上の子のない妻にとっては、今回の遺族厚生年金の有期年金化は明らかな制度改悪であり、十分な経過措置期間が必要となります。また、子のある世帯では激しい男女間格差(※)が引き続き存続することとなりますので(上図ご参照)、早期の是正が望まれます。また、新設が検討されている有期給付加算(仮称)は、現行の中高齢寡婦加算とのバーターである点に注意が必要です。尚、今回の内容は「三井住友信託銀行 年金コンサルティングニュース 2024Autumn」を参考にさせて頂きました。 
(※)子のある夫が妻の死亡時に55歳未満であった場合、遺族厚生年金は支給されません。また、55歳以上であった場合も60歳までは支給が停止され(夫が遺族基礎年金の受給権を有する場合は支給停止されない)、60歳到達後に支給開始となります。一方、子のある妻は、夫死亡時の年齢に関係なく、その時点から遺族厚生年金が支給されます。

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閑話休題

【閑】山と株式投資

9月10日の火曜日、私は有休を取って日帰りで北アルプスの蝶ヶ岳へ行ってきました。標高2,677mと北アルプスの中では標高は控えめで、登山道もよく整備されているので、老若男女を問わず大変人気の山です。この日も平日にも関わらず、大勢の登山者で賑わっていました。蝶ヶ岳は山頂から眺める槍ヶ岳~大キレット~穂高岳の大迫力が魅力です。(当日は山頂がガスに覆われており、残念ながら目にすることはできませんでした。)また、山頂直下にある蝶ヶ岳ヒュッテ(収容150人)に泊まれば、美味しい食事をとりながら非日常的なひとときを過ごすことができます。ただ、北アルプス入門編の山といっても、そこは北アルプス。気軽に行ける場所ではなく、それなりの準備が必要になります。皆さんも軽いトレーニングをした上で、1度訪れてみることをお奨めします。きっと人生観が変わりますよ。

前置きが長くなりました。今回は私が蝶ヶ岳に登っている間に考えたこと、「何でオレは山に登るんだろう?」という点についてお話したいと思います。私が山を始めたきっかけは、他人から趣味を聞かれたときに「これです」と言えるものを一つ持っておきたかったからです。それから、健康上の理由(高血圧や高コレステロール)で運動をしなければいけなかったこと等もあり、山を続けてきました。そして、今回もう一つ、私が山に登る意味に思い到りました。それは「成長」です。

去年、私が蝶ヶ岳に挑戦していたら、途中でバテて日帰りは難しかったでしょう。でもこの1年、私は色んな山に登ってきました。その中で私の体力は少しずつ強化されてきたのだと思います。来年はもう少しタフな山にも挑戦する予定です。このように山を続けることで、(いつか限界は来ますが)年齢に関係なく登れる山のレベルは上がっていきます。還暦を過ぎたジジイでも可能です。これってすごくないですか? 人間のパフォーマンスは加齢とともに低下していくのが自然の摂理です。それなのに加齢に逆らってパフォーマンスがアップするなんて、アンビリーバブル! 私は「成長」を求め、これからも山に登ります。(もちろん、筋トレや他のスポーツを通してでも「成長」は可能です。)

と、ここまで考えて、私はさらにもう一つのことに気付きました。私が年金(企業年金と個人年金)のお世話になっても株式投資を止められない理由、それも「成長」なんじゃないか? 確かに株式投資にはマイナスもありますが、長期的にはプラスの成長が期待できます。どれだけ投資家が高齢になっても、投資先の企業は関係なく成長していきます。私の足腰が衰え、いよいよ山登りができなくなっても、株式は成長を止めません。Going Concern。永遠の命です。私がくたばってあの世に行ったあとも株式は成長を続け、私の家族を見守ってくれることでしょう。(8月下旬に予定していた南アルプスの光岳は、台風10号の影響で断念しました。)

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株式

【株】長期投資と、この嫌な気持ち

最近、何をやっても面白くありません。仕事で大口の案件が成約できたり、ダイビングで潜った西伊豆の海のコンディションが最高だったりと、いつもなら大ハッピーなはずの出来事も、素直に喜ぶことができません。何でだろうと理由を考えると、運用が上手くいってないからだと気付きます。
株式相場の10%から20%の調整は想定内であったはずなのに、調子に乗って春から夏にかけて、日経平均で38,000円~40,000円の水準でかなりの銘柄を仕込んでしまいました。お陰様で、足下では相当な評価損を抱えています。(怖くて金額は計算していません。)

しかし、これも長期投資家=リスク屋の宿命です。こうやって人々がいやーな気持ちになっているときに、その気持ちを代わりに引き受けるのが、私たち長期投資家の仕事でありミッションです。嫌な気持ちを引き受けることで、私たちはリターンという報酬を頂いていることを忘れてはいけません。もし、この嫌な気持ちから逃れたいばかりに、安易に株式を売却するような輩にはリターンは巡ってきません。そして、永遠のゼロサム地獄に陥ることになるのです。

以上、ある長期投資家の負け惜しみでした。

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株式

【株】順張りVS逆張り、リスク対応の違い

8月5日に「令和のブラックマンデー」といわれる大暴落を演じた日経平均株価ですが、月末近くになってようやく落ち着きを取り戻しつつあるようです。今回の急落は先物の売りが主導したとされる一方、下値では値ごろ感から現物の買いがしっかり入っていました。先物と現物の、この対照的な動きはどう説明したらいいのでしょうか? まず、投資主体の違いが上げられます。(ファンド系VS年金基金等の機関投資家) それから、投資の時間軸も違います。(短期VS長期) さらに、リスク対応の手法の違いもあると思います。(順張りVS逆張り)

初めに、年金基金等が伝統的に採用してきたリスク対応の手法について、簡単にご説明します。彼らは、基本ポートフォリオ(または政策アセットミックス)という運用計画に基づいて、内外の債券・株式の現物4資産に投資を行います。下図はGPIFの基本ポートフォリオですが(出所:GPIF基本ポートフォリオの考え方)、事業法人等の年金基金も、ほぼ同様の手法をとっています。(尚、資産構成割合は各社で異なります。)

GPIFは、最初に資産を内外債券・株式に25%ずつ配分します。次に、例えば国内株式が下落して、資産構成割合が25%から15%に低下したとします。逆に国内債券は上昇し、割合が25%から35%に上昇したとします。このとき、国内株式は許容乖離幅の下限である17%(=25%-8%)を下回っているので、国内株式を購入して割合を17%まで引き上げる必要があります。一方、国内債券は許容乖離幅の上限である32%(=25%+7%)を上回っているので、一部を売却して割合を32%まで引き下げる必要があります。これら資産構成割合の調整をリバランスといいますが、ここで注目いただきたいのは、GPIFのリバランスが、相場が上がったら売り、下がったら買い、という逆張りで行われている点です。このように、逆張り戦略を取るGPIFや年金基金等機関投資家の対応は、マーケットの急変に対しブレーキをかける役割を果たしています。

次にファンドのリスク対応の手法ですが、詳細は不明です。分かるわけがありません。分かってしまったら、ファンドの優位性がなくなりますから。ファンドのリスク対応手法は、企業秘密です。(ただ、ファンドは流動性やコストの観点から先物を多用することが分かっています。) ですので、以下ではファンドや先端の機関投資家が採用していると思われる手法のひとつについて、推測を交えてお話させていただきます。それは、マーケットのリスク量に応じて投資額を機動的に変更するというものです。マーケットのリスク量なんて、どうやって計るんだと思われるかも知れません。色々な手法があるでしょうが、VIX指数(米国株)や日経VI(日本株)なども使われていると思われます。VIX指数が上昇したらリスク量が増加したと判断し、米国株の割合を引き下げる。逆に、VIX指数が低下したらリスク量が減少したと判断し、米国株の割合を引き上げる、こんな具合です。基本的に、VIX指数が上昇するのは相場が下落するとき、VIX指数が低下するのは相場が上昇するときです。そのため、この手法を採用するファンド等の運用は、相場が下がったら売り、上がったら買い、という順張りになります。結果、ファンド等はマーケットが変動したとき、変動幅を拡大するアクセルのような役割を果たすことになります。

植田日銀総裁の会見を機に為替が急速に円高に振れて、キャリートレードの巻き戻しを誘発。日経平均が下げ基調となる中、ファンド等がリスク量の増大から大量の先物を売ったことで、日経平均は加速し猛スピードで下落。その後、年金基金等機関投資家が現物にリバランスの買いを入れたところで、上昇に転じることとなった。8月5日以降の相場展開は、ザックリ、こんな感じの図式になるのではないでしょうか。
今や日本株(特に先物)市場のメインプレイヤーは、逆張り系の機関投資家ではなく、順張り系のファンド等になっています。このことが、昨今の日本株市場のボラ上昇の一因となっている可能性は高いと見ています。

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ライフプラン

【ラ】改めて考える、老後2000万円問題への対応

皆さん、覚えてらっしゃいますか? 少し前に、高齢者の家計が2000万円の資産がないと破綻するというので、大騒ぎになりましたよね。いわゆる”老後2000万円問題”ってやつです。報告書を作成した金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の趣旨はそういうことではなかったようですが、2000万円の数字が一人歩きしちゃったんですね。老後資金は2000万円あれば足りるのか足りないのか。人によって言うことは違いますが、当たり前だと思います。なぜなら、想定する老後生活の水準次第で、必要な金額は変わってくるからです。また、人生100年時代において、増加が見込まれる医療費や介護費をどう織り込むかによっても、結果は違ったものになります。

私は老後に必要となるお金について、ライフプランを立ててあれこれ悩んでも意味がないと思います。そもそも、自分が何歳まで生きるか分かりませんし、医療費や介護費がどれだけ増加するかも想像がつきません。それにインフレによる物価高が加わります。(※1) もう、なるようにしかなりません。ただ、できるだけのことはやっておきたいもの。まず、なるべく長く働き、年金の受給を繰り下げ、企業年金や公的年金の極大化を図る。そして、終身での受け取りが可能であれば、終身年金を選択する。(※2) これらの対応により、”想定外の長寿リスク”はある程度ヘッジすることが可能です。
(※1)①想定外の長寿、②医療費・介護費の高騰、③物価高。これが私が考える老後の3大リスクです。
(※2)公的年金の繰り上げを薦める論者もいますが、長寿リスクへの対応に鑑みれば、もってのほかです。また、株式の運用をしている方は、株式配当も終身年金の原資となります。

悩ましいのが、”医療費や介護費の高騰”への対応です。将来的に医療費や介護費がどれだけ値上がりするかは予測困難であり、ヘッジのしようがありません。できることは、生活費を年金の枠内に収まるよう工夫し、資産の取崩しをできるだけ避けて、資産寿命を自分の寿命いっぱいまで長期化することくらいです。これにより複利効果を最大限活用し、資産の極大化を図ることができます。(もちろん資産が大幅に減少するリスクもありますが……。) 資産を極大化し、医療費・介護費の高騰への耐性を高めておくことが、できる限りの対応だと考えます。

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株式

【株】低ボラティリティのパラドックス

今回の株式暴落の背景にオプションの売りが絡んでいたらしい件については、”日経平均下落のわけ”で触れましたが、以下では「ボラティリティの低さはリスクの高さを表す」という、一見矛盾したお話をします。

まず、簡単にボラティリティの説明をしましょう。ボラティリティは株式等の証券の価格変動性のことで標準偏差で表すことが多く、ボラティリティが高いことは価格変動性(=リスク)が大きいことを意味します。と、ここまでが一般的な説明です。ここからは、少しマニアックなお話です。最近は個人投資家もボラティリティ(略してボラ)という言葉を普通に使いますが、ボラティリティに2つの種類があることを意識している人は少ないと思います。一つ目は、1年とか3ヶ月とか過去の証券の実際の値動きから算出するもので、ヒストリカル・ボラティリティ(HV)といいます。二つ目は、オプション価格に織り込まれているボラをブラック・ショールズ・モデル等のプライシングモデルを使って逆算するもので、インプライド・ボラティリティ(IV)といいます。

VIX指数(Volatility Index)は、米シカゴ・オプション取引所(CBOE)が、S&P500種株価指数を対象とするオプションのインプライド・ボラティリティを元に算出し、公表している指数です。VIX指数が20を超えると市場がやや不安な状態と判断され、40以上の数値は危険水域とされます。下のチャート(出所:TradingView)でも8月5日の下落局面で、VIX指数は40手前まで上昇していることが分かります。

ところで、VIX指数やインプライド・ボラティリティ(IV)は、どういうときに低下するのでしょうか? まず考えられるのが、実際の証券の値動きが小さくなり(HVの低下)、その影響でIVが低下するケースです。「低ボラティリティ=低リスク」の一般的な理解が妥当なケースです。もう一つは、オプションの需給でIVが低下するケースです。つまり、オプションの売りに押されてオプション価格(プレミアム)が低下し、IVも低下するケースです。これは、8月5日の日経平均暴落前に起きていた現象です。機関投資家やファンド等がプレミアムの享受を狙って大量のプットオプションを売っていました。オプションを売ればオプション価格(プレミアム)は低下しますが、低下したらさらに量を増やしてオプションを売ることになります。オプションという商品は、買い手のリスクは限定されますが、売り手は無限大のリスクにさらされます。オプションの大量の売りが蓄積していた8月初の東京株式市場は、まさに発火性ガスの充満した倉庫のような状態でした。そこに火を付けた人がいたわけです。株価の下落を見たプットオプションの売り手は、慌てて株式先物に売りを出します。売りが売りを呼び、それがやがてパニックとなり、8月5日の日経平均大暴落へと繋がりました。

需給の歪みから極端にIVが低下したときは、市場がリスクの存在に目をつぶり弛緩しきっているとき。「低ボラティリティ=高リスク」な瞬間です。そんなとき、普段ならちょっとした相場の調整が、想定外の下落に繋がったりします。今回の日経平均暴落の教訓を、私たち個人投資家は胸に刻んでおきたいものです。