カテゴリー
保険

【保】生命保険買取サービス

2024年7月11日にマネックスグループ(株)は、子会社のマネックスライフセトルメント(株)が生命保険買取サービスを提供開始した、とプレスリリースしました。同社はこのサービスを通じ、「がん患者の経済的な悩みの解決を支援しQOLの向上を目指す」、としています。私は最初この報道を目にしたとき、てっきり、がん保険の買取サービスが始ったのだと思いました。私が働いている保険代理店は、いわゆる第三分野のがん保険と医療保険をメインに取り扱っており、がん保険の買取ができたらお客さんに喜んでもらえます。一方で、掛け捨てのがん保険の買取価格なんてどうやって計算するんだろうと、疑問に思いました。そこで、プレスリリースの資料や同社のHP等を見ているうちに、買取サービスの対象は死亡保険(終身保険だけ? 定期保険は対象外?)のみで、対象となる被保険者もステージⅢかⅣで5年生存確率が50%以下のがん罹患者に限定されることが分かってきました。

同社はサービス提供の背景を、「これまで、がんに罹患された方が生命保険を継続することが難しくなった場合は、生命保険を解約するしか選択肢はありませんでした。そこで、当社では生命保険契約を解約返戻金よりも高い金額で買い取ることにより、がん患者の皆様がより有利な金額で保険を手放すことができるよう、本サービスの提供を開始しました。」と説明しています。
がんの治療には保険適用外の先進医療が効果を発揮する場合がありますが、医療費の負担が厳しい方は泣く泣く治療を断念せざるを得ません。そんなとき、生命保険を買い取ってもらうことができれば、治療が可能となることもあるでしょう。標準治療でやれることは全てやり切り、なお僅かな可能性に賭けて先進医療に命を託すがん患者。ただ、買取価格は患者が生き残る可能性が低ければ低いほど上がるのです。何とも皮肉な仕組みです。

死亡保険には、ふつう追加の保険料は不要で、「リビングニーズ特約」という特約をつけることができます。これは被保険者が余命6ヶ月と診断されたとき、死亡保険金の一部または全額を生前に受け取れるものです。生前に受取ったお金の使途に制限はありませんし、税金も一切かかりません。(ただし、使い残した分は相続税の課税対象となります。) そこで一見、リビングニーズ特約に入っていれば、生命保険の買取は不要と思われます。しかし、余命6ヶ月を宣告されるまでの状況になく、治療による寛解・延命の余地がある場合は、生命保険買取サービスを利用するニーズが生じます。尚、買取サービスで受け取ったお金には、一時所得として所得税が課税される点に注意が必要です。

結局、このサービスの本質ですが、①治療費や生活費が不足するがん患者(及び家族)に生命保険の買取を通じ流動性を提供する、②解約返戻金<買取価格<死亡保険金の関係を利用し患者・買取会社の双方がメリットを享受する、の2点だと思います。(※) しかし、患者死亡後に保険金が受け取れなくなる家族にとっては微妙な部分もあります。その点については、保険買取契約締結の前に、家族などの主要な関係者に同意書の提出を求めることで対応するようです。
最後に、このサービスは生命保険買取を謳っており、保険契約の売買のように見えますが、現状日本では保険会社の同意なしに契約者の変更はできません。一方、受取人の変更は通知のみでできる旨法律で定められており(商法675条1項)、同サービスでは患者から買取会社への受取人の変更で対応するとしています。(尚、簡易生命保険では保険者の同意なく契約者の変更が可能です。)

(※)買取会社は患者の死亡後、保険金受取人として死亡保険金を受取ります。つまり、「死亡保険金-買取代金」が同社の利益となります。死なない人はいないので、買取会社は低リスクで利益を獲得することができます。保険買取によるキャッシュアウトと、死亡保険金受取りによるキャッシュインのタイムラグがビジネス上のリスクといえますが、キャッシュインが先行する企業年金の買取ができるようになると、安定したビジネスモデルとなるでしょう。