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【保】生命保険の歩き方

今回は、「生命保険の歩き方」と題して、生命保険の3つの使い方についてお話します。

最初は予期せぬアクシデント(保険事故)に見舞われたときの出費に備える、保障ツールとしての使い方です。これは改めてご説明するまでもありませんが、死亡、病気・ケガ、就業不能等に備えて、定期/終身保険、医療/がん保険、就業不能保険等に加入することです。ただ、各種保険に入り過ぎて、保険料の支払いで保険貧乏になっては元も子もありません。保険に入る前に、しっかり社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険等)の給付内容をチェックし、足らないところに限って民間の保険を利用すべきです。保険料の目安は家計収入の5%~10%と言われますが、そんなには要らないと思います。3%程度で十分じゃないでしょうか。(月収30万円の家計で保険料1万円のイメージ)

ここで、簡単に国の保険(社会保険といいます)についてご説明します。死亡に関しては、厚生年金・国民年金から遺族年金が支給されます。病気・ケガの場合は、健康保険に加入していれば治療費の自己負担は3割で済みますし、手術や入院が必要で多額の治療費が生じた場合も、高額療養費制度で自己負担は月当たり10万円以下に抑えられます。また、就業不能時には、健康保険から傷病手当金として給料の2/3程度の金額が最長1年6ヶ月支給されます。さらに、障害が残った場合には、傷病手当金の期間を引き継いだ1年6ヶ月経過後から障害年金が支給されます。(役所の障害認定が必要です)

次は運用ツールとしての使い方です。以前、「保険アラカルト」でお話しましたが、保険は他の金融商品と比べて大変コストの高い商品です。そのため運用ツールとして使うには不向きで、預貯金や投資信託を優先すべきです。例外があるとすると、超長期国債の代替として使うケースです。長期金利が急騰(債券価格が急落)した後の金利低下局面を捉え大きなリターンを得ようと思ったら、できるだけ残存期間の長い固定利付債を買うことが有効です。しかし、今のところ日本で私たち個人投資家が購入できるのは、10年変動利付国債と5年&3年固定利付国債のみです。個人年金は残存期間が30年を超える超長期の社債と見えなくもないので、代替策として使おうという話です。ただし、国債であれば好きなときに売却できますが、個人年金は売却はできません。中途解約も元本を大幅に割り込むため、事実上不可能です。個人年金に流動性はないものとご理解ください。

最後は、相続ツールとしての使い方です。これもご存知の方が多いと思いますが、死亡保険金の受取人が法定相続人の場合、保険金のうち「500万円×法定相続人数」までは相続税が非課税になります。非課税メリットのほかに、争続予防メリットがあります。相続が発生したのち、死亡保険金は受取人固有の資産とされ、遺産分割の対象からはずれます。(共有財産とならない)つまり、被相続人が生前に渡したいと思った相手=受取人に、確実にお金を渡すことができるのです。遺産分割の対象にならないということは、他の相続人から遺留分侵害額請求をされる恐れも、基本的に(※)ないということです。これは遺言や家族信託にもない、非常に大きなメリットです。
(※)最高裁の判決では生命保険金について、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて持戻しの対象となると解する」とされています。つまり、他の相続人との不公平が度を過ぎて大きい場合には、保険金受取人は遺留分侵害額請求を受ける可能性があると言うことです。

また、医療保険(がん保険)も相続ツールとして使うことができます。例えば、父=資金負担者=契約者、子=被保険者=受取人、とする医療保険に保険料全期前納払(一括払)で加入します。そして、父(契約者)に相続が発生した場合に、子に名義変更します。契約設定時は資金負担者=契約者=父であるので、子への贈与には当たらず贈与税は発生しません。父の相続発生時に契約者を父→子へ名義変更する際、子に相続税が課税されます。この場合の相続税課税評価額は、保険料払込期間終了後は解約返戻金相当額(入院給付金日額の10倍)となります。一括払保険料が300万円で入院給付金日額が1万円の場合、相続税課税評価額は1万円×10=10万円、となります。現金300万円の評価を10万円に圧縮できたことになります。死亡保険金の相続税非課税枠をすでに使用済で、さらに財産圧縮を図りたいという方には最適なツールです。

また、この全期前納払の医療保険は契約時に保険料の払込が完了し、以後の保険料負担はありません。つまり、子=被保険者=受取人は、生涯の医療保障を父からプレゼントされたことになります。これからの人生100年時代において、医療費の自己負担の増大は避けられず、民間の医療保険等で公的医療保険を補完する備えが必要です。受取人となった子が手にするメリットは、今後ますます大きくなるでしょう。
本スキームは親から子への医療費の贈与に等しい経済効果がありながら、法律的には贈与行為に該当しないため、贈与税が課税される余地はありません。今後、相続と贈与の一体化の議論において贈与税非課税措置の撤廃が懸念される中、本スキームの有効性は変わることはなく、一層クローズアップされていくものと見ています。