今回は、金融関係者にとっては常識かもしれませんが、一般には余り知られていない、そんなお話です。
6月13日の日経新聞朝刊に、「東急、CBで600億円調達」と題する記事が掲載されました。「東急は12日、ユーロ円建ての新株予約権付社債(転換社債=CB)を発行し、……」と記事は続きます。この記事、よく読むと何か変だと思いませんか? ユーロは言うまでもなく、EU加盟国の共通通貨のことです。東急が通貨ユーロを調達したのなら、冒頭の記事は「東急は……、ユーロ建ての……」となるはずですが、「東急は……、ユーロ円建ての……」となっています。「ユーロ円」って「1ユーロ=150円」みたいな、ユーロと円の交換比率のことじゃなかったっけ? ユーロ建て? 円建て? 東急はどっちで調達したの? 記事の内容が意味不明です。
ここで先にネタばらしをすると、「ユーロ円」には「ユーロと円の交換比率」の他に、もうひとつ別の意味があるんです。
話は1950年代に遡ります。当時、アメリカとソ連(今のロシア)は、資本主義V共産主義というイデオロギーのもと、世界を2分して激しく対立していました。そして、ソ連陣営に属する東欧諸国は、アメリカによる差し押えを回避するため、自国の中央銀行が保有する米ドルを西欧の銀行に預けていました。米国の主権が及ばない国外に預けられたドルは「ユーロドル」と呼ばれました。その後、「ユーロドル」に倣って自国市場外で取引されるドル以外の通貨も、ユーロなら「ユーロユーロ」、円なら「ユーロ円」と呼ばれるようになったのです。冒頭の記事を、東急が(日本国内にある円ではなく)海外にある円を調達する、という意味で読めばすっきり腹落ちします。
「ユーロ円」がどちらの意味で使われているのかは、その都度文脈から判断するしかありません。ややこしいですね。