コンサルティングファームのマーサーが、各国の公的医療保険と民間医療保険の状況を比較する興味深いレポートを出しているので、概要をご紹介したいと思います。
日本は国民皆保険制度を採用しているので、国民は誰もが健康保険など何らかの公的医療保険に加入しています。そして、公的医療保険の保障だけでは不十分と考える一部の企業が、従業員福利厚生の一環で民間の医療保険を従業員に提供しています。これらの企業は全体の2割もありませんが、先進医療費用や差額ベット代など公的医療保険では保障されない部分を提供し、他社との差別化や従業員満足度の向上を図っています。日本では人口の100%が公的医療保険に加入し、企業の20%未満が従業員に民間医療保険を提供する形となっています。しかし、これは海外と比べると特異な状況といえます。では、次に諸外国(米国と英国、シンガポール)の状況を見てみましょう。
まず、米国です。米国では1966年から一部の国民を対象に公的医療保険制度がありましたが、2010年に国民全員が医療にアクセスできるようにと医療保険制度改革(オバマケア)が起こり、従業員数50名以上の企業に従業員とその扶養家族に民間の医療保険等の医療保障を提供することが義務付けられました。その結果、95~99%の事業主が従業員と扶養家族に医療保障を提供しています。米国では人口の約18%が65歳以上の高齢者等を対象としたメディケア(公的医療保険)に、人口の約20%が低所得者を対象としたメディケイド(公的医療保険)に加入、そして企業の95~99%が従業員と扶養家族に民間医療保険を提供する形となっています。
次に英国です。英国では公的医療保険制度として、1948年から国民保健サービス(NHS:英国国民及び長期移住者の全員が対象)が運営されています。しかし、この制度は専門医の予約が取りにくい等の問題があるため、約50%の企業が福利厚生の一環として従業員に対し民間医療保険の提供を行っています。そして、約28%の企業が従業員家族に対し民間医療保険の提供を行っています。
また、シンガポールでは医療費は基本的に全額国民の自己負担となりますが、備えとして医療費を積み立てさせる公的なメディセーブ制度(シンガポール市民または永住者全員)が存在します。しかし、これらの積立金は高額医療や透析のみに適用されるなど十分な備えとはならないため、約97%の企業が福利厚生として民間医療保険を提供しています。
どうでしょうか。諸外国と比べて日本の公的医療制度がいかに充実しているか、お分かりになったと思います。しかし、この日本の公的医療制度の充実も今や風前のともしび。今後は制度の縮小が避けられません。諸外国では、公的医療保険の不足を企業が提供する民間医療保険でカバーしています。しかし、日本企業は今でも高額の社会保険料(医療+介護+年金)を負担しており、このうえ民間医療保険の保険料の負担を期待するのは無理な相談です。そうなると、国民は自らの負担で民間の医療保険に加入し、公的医療保険の不足を補っていくほか手はありません。
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