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【不】リスクと不確実性

米国の経済学者、フランク・ナイトは数学的に確率判断が可能なものを「リスク」、数学的に確率判断ができないものを「不確実性」、といって区別しました。そして、企業活動において「リスク」は費用であり、「不確実性」こそが利潤の源泉だと考えました。今日、投資で一般にリスクと言われるものの中には、ナイトのいう「リスク」と「不確実性」が混在しています。

代表的な投資である不動産投資と株式投資について考えてみましょう。
不動産投資は、物件購入から売却までの賃料収入と売却損益、借入れに伴う元本と利息の返済、空室や滞納の発生よる損失、管理費や修繕費、募集広告費、固定資産税や都市計画税、所得税等の税金、減価償却費といった収入と支出のキャッシュフロー・シミュレーションを叩き台に行います。各支出項目の変動はある程度予測可能であり、ナイトの分類では「リスク」に該当します。不動産投資の本質は、アップサイドを追求することよりも、ダウンサイドを抑制する「費用の極小化」にあります。借家法に守られた借家人を相手に、賃料の値上げを交渉するのは限界があります。しかし、空室を埋めるとか、修繕費用を安く抑えるといったコスト面での大家の汗かきは、パフォーマンス向上に地味に効果を発揮します。(尚、ここでいう不動産投資とは、値上がり益=キャピタルゲインを狙うタイプではなく、賃料=インカムゲインを狙うタイプの投資をいいます。)

一方、株式投資ですが、20年~30年といった長期目線での投資の場合、投資先の企業の業績が将来どうなっているかは、ほとんど予測不可能です。当然、株価の変動も予測不能であり、ナイトの分類では「不確実性」に該当します。(※) 株式投資の本質は、アップサイドを果敢に取りに行く「利潤の極大化」にあります。私は、複数の投資先企業の中から倒産する企業が出ても気にしません。テンバーガーの企業が1社でも出てくれば帳消しにできるからです。長期の株式投資には損益シミュレーションが成立する余地はなく、不確実性の低減策は(時間と銘柄の)分散だけです。株式投資に関しては、膨大な書籍やブログ、ユーチューブ動画等がありますが、いずれも長期投資には役に立ちません。愚直な積み立て投資こそが、唯一の正解となります。
(※)短期では株価の変動は正規分布に従うとの前提を置くことが一般的です。この場合は、株式の変動は「リスク」に該当します。

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【不】もし10億円あったら

最近あるFIRE系ブログを見ていたら、「もし10億円あったらどんな運用をするか?」という興味深い記事を目にしました。私が10億円なんて大金を手にする可能性は未来永劫0%ですが、たまにはそんな妄想の世界に心を遊ばせてみるのも悪くありません。

FIRE界隈でよく語られるのが、1億円の資産を4%で運用できれば年間400万円の収益を稼げるので、働かなくても生活ができるという話です。その場合、4%の運用は、高配当の株式や投資信託で実現するという設定が多いようです。今なら、為替リスクの分散と高金利が得られる米国債に投資する手もありかと思います。これが、10億円となると、年間の収益は4000万円となります。都心一等地のタワマンに住んで、真っ赤なフェラーリに乗って、週末はクルーザーで東京湾パーティー……。そんな夢のような生活が現実のものとなります。トレビアーン! すいません。ちょっと興奮し過ぎました。

妄想の世界から現実に戻ります。さて、この10億円。はたして、使い切っていいものでしょうか? もし子供がいたならば、子供に資産を残したいという人もいるでしょう。資産を次世代に承継するかしないかで、運用の方向性は大きく変わってきます。次世代への承継を考えた場合、資産運用は資産を増やすという単純なゲームから、資産を増やしつつ同時にインフレや相続のダメージから資産を守るという複雑なゲームへと変貌します。そして、資産規模が大きくなるにつれ、後者の色彩が濃くなります。

野村総研のリポート「日本の富裕層の特殊性」(野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 2023年)によると、日本の保有資産上位1%の総資産平均は約4億円だそうですが、このうち77%が不動産とのことです。資産規模がある程度以上になると、資産運用の目的はインフレ対策と相続対策が主となり、結果、お金が不動産に流れます。富裕層は運用収益(賃料収入)を狙って不動産投資を行うのではなく、インフレに負けない不動産価格の上昇、あるいは、相続税評価額の圧縮を目的に不動産に投資します。

冒頭のブログ主殿は、10億円の投資対象として不動産を候補に上げていましたが、私は今は一般ピープルが資産増額ゲームとして不動産に手を出すタイミングではないと考えています。なぜなら、不動産価格の上昇によって、足下の利回り水準が低すぎるからです。現在、首都圏の築浅収益物件の表面利回りは、せいぜい4%程度だと思います。ここから、客付けコストや運用経費、管理費、固都税等を差っ引くと、実質利回りは3%程度でしょう。全額キャッシュを投入し、手間暇かけてこの利回りなら、JREITや高配当株の方がよほどましです。

従来は借入れによるレバレッジで利回りを膨張させ、キャッシュ・オン・キャッシュ(CCR)ベースで高利回りを実現するスキームが可能でした。しかし、昨今、金融機関の不動産投資案件への融資スタンスは硬化しています。新築/築浅区分を除き、一般ピープルが借り入れによる不動産投資を行うのは、事実上不可能な状況です。
もし10億円あって単純な資産増額ゲームを行うのなら、日本株と米国株の分散投資が流動性の面からも一番いいように思います。

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【不】再考、不動産投資

不動産投資というと、株式投資と似たようなものと考える人が多いかもしれません。が、実態は投資というよりも事業です。ですから、本当は他のビジネス、例えば飲食業などと比較すべきです。不動産投資家は、事業者=プロとして不動産事業に関わることが求められます。不動産投資で得られた賃料収入は、不動産所得として事業所得と同じ総合課税の対象となりますし、不動産投資家には株式投資家を守る投資者保護基金のようなセーフティネットは用意されていません。国も不動産投資家を事業者=プロと見ている証拠です。そもそも、銀行が積極的に融資してくれるのも、彼らが不動産投資家を事業者とみなしているからです。株式投資家からすると、ありえへん話です。

このように、プロとしての取り組みが必要な不動産投資ですが、書店には素人向けの解説本が山積みされており、気軽に始められる副業としてサラリーマンに人気があります。一部の解説本は、賃料という安定収入に借入れによるレバレッジをコーティングすることで、ローリスクでハイリターンを手にできるかのような幻想を読者に与えてきました。私は不動産の世界に不用意に足を踏み入れた投資初心者が、これからの金利上昇で損失を被ることを懸念しています。

ところで、従前私はレバレッジを効かせた不動産投資について、超ハイリスク運用との認識を持っていましたが、最近考えを改めました。不動産投資は、やり方によってはリスクを軽減できることを知ったからです。今ではハイレバレッジの不動産投資を、ローリスクは言い過ぎでもミドルリスクくらいなら言ってもいいのでは、と思っています。

不動産投資には6つのリスクがあるといいます。空室リスク、滞納リスク、災害リスク、価格下落リスク、修繕リスク、金利上昇リスクです。しかし、このうち予測不能で事前対応が困難なリスクは災害リスクだけ。他の5つは投資家の経験とスキル、そして外部業者のサポートが有れば、ある程度対応が可能です。例えば、空室が発生しても、迅速に空室を埋めるノウハウを投資家が持っていれば、空室のダメージを軽減できます。設備の老朽化で修繕が必要な場合も、低コストで対応してくれる親密な業者さんがいれば、修繕のダメージを軽減できます。また、複数の物件をタイミングを分散して入れ替えていけば、価格下落や金利上昇等のマーケットリスクにも対応できます。ベテラン投資家は各人が独自のスタイルでリスク対処法を確立し、本来はハイリスクなレバレッジ付き不動産投資をミドルリスク化しているのです。

不動産投資家は、下表のようなCF(キャッシュフロー)シミュレーションを用いて投資の是非を判断します。(下表はサンプルです) 空室リスク、滞納リスク、価格下落リスク、修繕リスク、金利上昇リスクをシミュレーションに織り込んだうえで、イメージするCFが獲得できる目途が立てば物件の購入に進みます。そして、最終的な投資の成否は、物件の運営でいかにリスクを抑え、シミュレーションと実績の乖離を圧縮できるかにかかっています。不動産投資は株式投資と異なり、投資家自らリスクの源にアクセスし、改善を図れる点がメリットであり、また、シミュレーションベースで投資を考えられることから、株式投資よりもリスクは低いと言えそうです。(株式投資で15年間の損益シミュレーションを立てても、毎年の損益のブレが大き過ぎて役に立ちません!) ただし、それは投資家に十分な経験とスキル、そして信頼できる外部業者との連携があっての話となります。


【おまけ1 最近の融資事情】
かぼちゃの馬車事件以降、銀行の不動産融資への態度は硬化しており、区分は別にして一棟物ではフルローンはほぼ不可能な状態です。某銀行では最近、頭金2割以上、年収1200万円以上、金融資産5000万円以上が融資実行のメルクマールになっているとの話もあります。

【おまけ2 素人が見た不動産投資の本質】
今回の論考の中で気付いたことがあります。私は不動産投資の経験がない素人ですが、素人なりに「これが不動産投資の本質では?」というものに思い至りました。実務にあたる不動産投資家の方々にとっては「何を今更」でしょうが、「灯台もと暗し」という言葉もあります。忘れないうち記録に留めておきたいと思います。
「不動産投資はシミュレーションに始まり、シミュレーションに終わる」 この一文から不動産投資の本質が見えてきます。
①シミュレーションが成立する物件を購入する
②リスク削減に注力しシミュレーションからの乖離を極小化する
この2点です。


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【不】株式投資家から見た不動産投資

株式投資と不動産投資の比較は当ブログにおいて、過去に何度か行ってきましたが(不動産と株式を比較してみた/不動産とJREIT、そして株式/不動産VS株式、通説と現実のギャップ)、改めて株式投資家から見た不動産投資の特性を考えてみたいと思います。中堅サラリーマンが億円単位の借入れを起こして一棟マンションをバンバン買いまくる時代は過去のものとなり、今や不動産は企業オーナーや地主、高給サラリーマン等の富裕層限定の投資商品となっています。現在、彼らは都心のRCマンションを十億円ロットで買いまくっています。一般ピープルにはとても手の届かない価格帯ですが、島国日本で希少価値の高い都心の物件はインフレの後押しもあり、今後まだまだ上がると見ているのでしょう。
これらの物件を買う人には賃料収入(インカムゲイン)という発想はなく、値上がり益(キャピタルゲイン)だけを考えているはずです。株式投資家から見ると、この投資手法はグロース株(成長株)投資に相当します。グロース株投資では配当は考慮せず(高配当のグロース株など聞いたことがありません)、株価の値上がりをひたすら追求することになります。

では、資金力に乏しい一般ピープルは不動産投資に手を出すことはできないのでしょうか。不動産市場が高値圏にあり、かつ銀行が不動産融資に慎重スタンスな今、私は一般ピープルが無理をして不動産投資を始めるタイミングではないと考えます。不動産アナリストの幸田昌則氏は近著「不動産バブル静かな崩壊」(日本経済新聞出版)の序文で次のように述べ、不動産市場の今後に警鐘を鳴らしています。「足下の実態を見ると、すでに22年の夏頃から大都市圏では流通市場だけでなく、不動産業界内にも住宅・投資物件・土地などの在庫(売れ残り)が、月を追うごとに増加している。業界内の在庫水準は、2008年のリーマンショック時の水準を15年ぶりに超えてしまった。」 幸田氏の言うとおりバブル崩壊とまでは行かなくても、不動産市場に調整が入れば不動産価格が下がって賃料利回りが上がり、一般ピープルにももう少し買いやすい状態となるでしょう。(※)

不動産投資は都心の駅近物件に限ると主張する関係者もいますが、何もそんなピカピカ物件に拘る必要はありません。将来的に賃貸ニーズが期待できる地方都市もあるはずです。そういった地方都市の中古木造一棟もので、コスト控除後キャッシュフロー(ATCF)で採算の合う高利回り物件を購入すれば、物件が値上がりしなくても投資は成り立ちます。中古木造なら価格、コストともRC造・鉄骨造より抑えられるので、一般ピープルにもアクセスしやすいです。株式投資家から見ると、この手の投資手法は配当狙いのバリュー株(割安株)投資に相当します。私は一般ピープルが目指すべき不動産投資は、このバリュー株投資タイプだと思います。ただ問題なのは、今の市場環境では採算が合う価格帯の物件が見つからないこと。銀行から融資を引きにくいこと。そして、中古なだけに物件の保全状況の目利きが問われることです。
株の世界では「休むも相場」という格言があります。今は無理をせず、物件購入に向けた頭金の準備と、目利きの「目」を養うときです。

(※)飯田グループHD<3291> は4月8日大引け後に業績修正を発表しました。24年3月期の連結最終利益を従来予想の700億円→310億円(前の期は755億円)に55.7%下方修正し、減益率が7.4%減→59.0%減に拡大する見通しです。これは、同社が余剰在庫処分のため、販売価格の調整により早期販売を行ったためです。

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【不】高配当資産としてのJREIT

高配当資産として人気のJREITですが、下表のとおり今年に入ってからのパフォーマンスは芳しくありません。コロナ後のインバウンドで盛り上がるホテル主体型や商業施設型を除き、どの用途のJREITも投資口価格は大きく下落しています。日経平均株価が+15.97%と絶好調なだけに、JREITの不調が余計に目立ちます。なぜここまで下がっているかですが、金利上昇を嫌気した海外ファンドや地銀が売りを出しているようです。

今のところ、JREITは分配金利回り5%の水準で、何とか踏みとどまっているように見えます。4月に入れば、海外ファンドの買い戻しも期待できるかもしれません。値頃感から買い推奨する市場関係者も増えてきました。しかし、今後、日銀のマイナス金利解除で我が国の長期金利に一段の上昇圧力が加わります。そうなると、さらなる下落の可能性を念頭に置かなければなりません。住居系リートはインフレに強いと聞いていましたが、アドバンス・レジデンス投資法人(3269)は、きっちりマイナスです。日本経済が脱デフレ、マイルドなインフレ下に置かれることを想定すると、私は高配当資産としてJREITを保有することに疑問を感じます。JREITの高配当の源泉は、利益の90%以上を分配することで法人税が非課税となる点にあります。でも、毎年毎年、利益の9割を分配していたら、利益⇒投資⇒利益⇒投資の循環による複利効果(=投資口価格の上昇)は期待できません。だったら、利益の内部留保が可能で複利効果が期待できる高配当株の方が、ずっと魅力的です。

複利効果はいらないので短期的な高配当がほしいという方には、インフラファンドをお薦めします。インフラファンドもJREIT同様に金利上昇の影響で騰落率はマイナスとなっていますが、7%前後の分配金利回りに対し下落率は▲2%程度と、十分おつりが来る水準です。確かにインフラファンドは、FIP制度、導管性、電力会社による出力制御等の懸念材料を抱えていますが(参照:インフラ投資高配当で人気殺到「インフラファンド市場」が危ない)、5年程度の期間限定で配当を狙う作戦であれば十分勝算ありです。

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【不】不遇男さんの本を読んで

「逆転の狼煙」の不遇男さんといえば、不動産系ユーチューバーとして有名な方です。今回は、不遇男さんが最近出された書籍「人生が逆転する不動産投資入門」(ビジネス社)を読んだ感想をお話したいと思います。

巷の不動産投資本の多くが、再現性の怪しいキラキラ大家さんの体験談や、不動産物件の購入や物件購入後の管理のノウハウを書いたものであるのに対し、本書は投資家が不動産物件を購入する前にやるべきことや心構えを中心に書かれています。背景には、業者に煽られて事前準備不十分なまま物件購入に突き進み、致命傷を負う投資初心者が後をたたない現実があります。

不動産投資は割高な物件を買わないことに尽きます。割高な物件を購入してしまうとリカバーが困難となり、詰む可能性が高まります。(空室が発生したり、修繕が必要になったりという事象なら、大家の汗かきで何とかリカバー可能です。)本書は不遇男さんが不動産投資家として身につけた実践的なノウハウが満載です。不動産投資家を志す人は、割高な物件をつかまないためにも本書を手にすべきです。最後に、本書に書かれた不遇男さんのノウハウの中で、私が一番すごいと思ったものを一つご紹介します。

不動産投資を始める前にでお話したように、私は不動産投資で成功する秘訣は人脈と情報だと思います。一見さんの投資家には有利な情報は回ってきません。そのためには、いったん不動産業界に身を置いて、人脈を構築する必要があると考えています。しかし、言うのは簡単ですが、実際に不動産業界に就職してから不動産投資を始めるなんて、余りに遠回りです。この問題点に対し、不遇男さんは解決策を提示してくれました。それは、事前に金融機関を回り、担当者に融資可能な物件の条件についてヒアリングすることです。そして、「こういう条件の物件なら銀行から融資を受けられそうなので、物件の紹介をお願いします」と、投資家の方から不動産業者に営業をかけるのです。不動産業者から降ってくる情報に美味しいものはありません。だったら、投資家の方から不動産業者に情報を取りに行けばいいのです。まさに「逆転」の発想です。もちろん、直ぐに条件通りの情報が提供されることはないでしょう。でも、何社かの営業マンと情報のキャッチボールを続けているうちに人脈ができ、やがて有利な情報が入るようになると思います。
私があと20歳若ければ、不遇男さんスキームで不動産投資に挑戦していたかもしれません。

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【不】不動産投資を始める前に

私は投資経験のない不動産についてブログを書くため、これまで不動産関連の本を読んだり、サラリーマン大家さんのブログやユーチューブを見たりと試行錯誤してきました。しかし、投資経験がないというのは致命的で、駄文をブログ上に垂れ流してきたと反省しています。経験不足をカバーできればとJREITに投資もしましたが、JREITと現物不動産は全くの別物です。JREITは不動産というより株式に近い投資商品です。
私がこの2年間の机上学習で知ったのは、不動産投資には株式投資をはるかに上回るスキル、ノウハウが要求されるということです。

不動産投資は投資金額が巨額になるため、失敗は許されません。一発目の案件から十分なキャッシュフローを生み出す必要があります。しかし、素人にそんなことが可能でしょうか。私の結論はNoです。不動産投資をやりたいと思ったら、遠回りでも一度不動産業界に身を置いて、不動産で利益を上げる仕組みを理解し、また業者間の人脈を作ってからにすべきだと思います。
株式投資なら失敗しながら経験値を高めていくこともできますが、不動産投資でそれをやったら自己破産です。業者の立場で他人のお金を使って不動産を経験したうえで、ローンを含む自分のお金で勝負に出ればいいのです。さもなくば、リーマンショックのような金融危機が来て不動産業者が物件を投げ売りするチャンスをひたすら待つことです。

くれぐれも、アベノミクス初期に運良く投資を開始したキラキラ大家さんの、今や再現不能なストーリーに乗っかることは避けたいものです。

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【不】再考、持家か賃貸か?

以前、持家と賃貸、どっちが得か議論しました。(持ち家と賃貸) そのときの結論は、同一グレードの物件での単純なコスト比較なら持家が得だけれども、定性面を含めた総合的な評価では持家が得か賃貸が得かは一概に言えない、というものでした。今回は、不動産投資家にとって持家と賃貸のどっちが得か、改めて考えてみたいと思います。一般の方の場合とはまた違った結論になるかもしれません。 

収益物件への投資を考える人が住宅ローンで持家を購入すると、その分アパートローンの与信枠を食われてしまい、以後の投資に支障が出ます。不動産投資家は自身の与信枠をアパートローンに集中する方が合理的です。たとえ、ハイパフォーマーであっても社宅等の借り住まいで我慢し、不動産投資による賃料収入の獲得に専念すべきです。また、リスクテイクに余力のある方には、併行して株式投資を行うことをお薦めします。不動産投資のレバレッジ効果と株式投資の複利効果の両輪で、資産は大きく成長することでしょう。知らんけど。

そこまでリスクを取りたくないという方には、ヤドカリ投資をお薦めします。これは、持家の住み替えを繰り返しながら、キャピタルゲインを積み上げていく投資手法です。ヤドカリ投資では、まず自己居住用の持家を住宅ローンで購入します。ここで大切なことは、将来高く売却できる可能性のある物件を選ぶことです。そして、値上がりのタイミングを捉えて物件を売却します。ヤドカリ投資の良い点は、意に反し物件が値下がりしても、そのまま住み続けていれば損失が顕在化しないことです。投資の失敗が致命傷となりにくいのです。
また、ヤドカリ投資で購入するのは自宅であるため、低利の住宅ローンを利用できます。さらには、持家を売却して利益が出た場合、所有していた期間に係わらず3,000万円までの特別控除を使えます。これは、収益物件にはない優遇措置で、ヤドカリ投資の大きなメリットです。なお、ヤドカリ投資では条件を満たせば住宅ローン控除も使えますが、3,000万円の特別控除との併用はできませんので注意が必要です。

不動産投資家にとって持家と賃貸のどっちが得か。アパートローンを利用して収益物件への投資を考えている方なら賃貸が得、ヤドカリ投資を考えている方なら持家が得、となります。

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【不】不動産投資そもそも論

不動産投資は最終目標(ゴール)をどこに置くかによって、大きく2つのタイプに分かれると思います。

一つ目は、保有する物件数の極大化を図るタイプです。30年~40年後、全ての借入れの返済を終えた時点でひとつでも多くの物件を保有し、豊富な賃料収入で悠々自適なシニアライフを目指す。そんな、ストック志向型のアプローチです。
このタイプでは、フルローン、オーバーローンを厭わず、可能な限りの借入れを行い、レバレッジをフルに効かせて物件を買い進めていきます。しかし、借入れの返済計画に狂いが生じた途端、自己破産に一直線となる危険性と隣り合わせであることを忘れてはいけません。

それだけのリスクを負って物件を買い進めた先にある到達点ですが、そこには厳しい現実が待っています。40年後、手元にある築古マンション達に、キャッシュフローを生み出す力がどれだけ残っているでしょうか。ほとんどが幽霊マンションと化し、空室が大量に発生したり、設備の老朽化で高額な修繕費が必要になったりと、毎年増加するキャッシュアウトに悩まされることでしょう。これらの負動産に年金の代わりは期待できません。「こんなはずじゃなかった」と嘆いてみても、あとの祭りです。
そもそも、大きくレバレッジを効かせたストック志向型のアプローチは、米国のようなインフレ傾向の国で、時間の経過とともに借入れの実質価値が減価していく環境でこそ有効な戦略です。デフレ傾向の我が国においては、借入れの実質価値が時間とともに増大するので、大きなレバレッジは不利です。(今後、日本でもインフレ傾向が定着すれば、ストック志向型アプローチが有効となるでしょう。)

二つ目は、各種リスクへ配慮しつつ物件の購入・売却を繰り返し、獲得するキャッシュの極大化を図るタイプで、フロー志向型のアプローチです。
このタイプは、十分な頭金と借入れで物件を購入し、物件の賃料で短期間での借入れ返済を目指します。完済したところで改めて借入れを行い、もう1物件を購入、以後2物件で借入れを返済していきます。当然、返済スピードは早くなります。その後も完済と同時に借入れを行い、物件を買い増していきます。そして、購入した物件は5年~10年単位で売却し、別の物件に入れ替えます。購入と売却のサイクルの中で、賃料利回りと借入れ金利のスプレッドを抜いていくイメージです。これはJREITや私募不動産ファンドが採用する戦略と同じで、日本のように低金利な環境で有効となります。
なお、このタイプは頭金の確保がネックとなりますが、ローンの破綻リスクは限定的です。また、継続的に物件の売却と購入を繰り返すので、流動性も確保できます。さらには、物件の購入と売却のタイミングを分散しており、金利や不動産市場等マクロ環境の変動リスクにも対応可能です。
不動産市場が低迷している場合、物件の売却には不利ですが、物件を購入するには最高の環境です。この戦略では売りと買いがセットとなるので、不動産市況の影響を中和することができます。

以上、不動産投資の2つのアプローチについてお話をしましたが、実際は両者の中間を行く投資家の方が多いと思います。また、今回は主に不動産投資のマクロ的な側面に触れましたが、優良物件の仕込み方や物件の管理手法等ミクロ的な側面も運用の成否を分ける重要なファクターとなります。

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【不】10年で資産を倍にするには

10年で資産を倍にする。言うのは簡単ですが、いざ実行しようとしたら大変です。今回は株式や不動産を使って、はたして10年で資産を倍にできるかどうか、頭の体操をしてみたいと思います。

まず、株式です。一般に株式投資では複利効果を活用して資産を増やします。ご存じの方も多いと思いますが、「72の法則」というものがあります。これは資産が倍になる年数と利回りをかけると72になるという法則です。例えば、利回りが6%なら、だいたい12年で資産が倍になります。(6×12=72) 今回は10年で資産を倍にしたいので、必要な利回りは7.2%となります。皆さん、どうお感じでしょうか。私には7.2%の運用を10年も続ける自信はありません。また、過去の相場から考えると、10年の間に20%程度の相場下落を1回、10%程度の下落を1回は想定しておく必要があると思います。その場合、残りの8年間で必要な利回りは13.6%まで跳ね上がります。(※)
(※) 1×(1-0.2)×(1-0.1)×(1+0.136)^8=1.997
やはり、10年で資産を倍にするのは相当に難易度の高い宿題です。 
また、10年後に資産をキャッシュ化する場合、株式の売却に伴い(NISA等の非課税枠が使えない場合)20%の所得税を覚悟しなければいけません。

次に、不動産です。一般に不動産投資では借り入れによるレバレッジ効果を活用して資産を増やします。今、手元に5,000万円あるとします。これを頭金に銀行から5,000万円を借入れ(金利:0.5%変動、借入れ期間:10年)、1億円の中古一棟賃貸マンションを購入するとします。この場合、毎年の返済額(元利均等返済)は515万円です。(ご参照:高精度計算サイト) したがって、515万円÷1億円=5.15%以上の(実質ベース)賃貸利回りがあれば、10年後にローンを完済し資産倍増を達成することができます。ただ、賃貸経営には固都税を始め、FR・AD等の客付け費用、修繕費・火災保険やリフォーム代等の運用経費等、諸々のコストがかかってきます。そのため、実質ベースで5%となると、都心でも表面利回りベースで8%は必要と思われます。しかし、今どき地方の築古物件やワケあり物件を除いて、そんな高利回り物件にお目にかかることはまずありません。また、賃料の下落や空室・滞納の発生、借入れ金利の上昇(変動金利ローンの場合)等のリスクも考慮する必要があります。やはり不動産の場合も、10年で資産を倍にするのは至難の技のようです。
なお、賃料収入には不動産所得として所得税がかかってきます。また、10年後にキャッシュ化のため投資物件を売却する場合、市場環境によっては売却損が発生する可能性もあります。

今回、株式投資と不動産投資に、「10年後の資産倍増」という同じ目標を掲げてみました。両者を同じ目標の下で比較すると、投資手法の違いや特徴が良く見えてきます。株式投資は、いかに資産を増やしていくかという、足し算的な方法論。一方、不動産投資は、いかに諸々のコストを抑えローンの返済計画を無難に回していくかという、ある意味引き算的な方法論と言えます。そして、両者に共通しているのが、出口のリスクです。株式投資も不動産投資も、投資対象のキャッシュ化が終わって初めて投資の総括と結果の判断が可能となります。