不動産投資の本にはメリットとして、ローンを借りやすい、他人が借金を払ってくれる、時間を買うことができる、などが上げられることが多いです。しかし、レバレッジをきかせやすいというのは、両刃の剣だと思います。
私は不動産投資のメリットは、インフレヘッジと賃料収入による安定的な運用が期待できることだと考えます。不動産投資は衣食住のうち住を供給するものであり、食料、衣料を供給する仕事とともに、人がいる限り需要がなくなることはありません。景気の波に大きな影響を受ける株式投資に比べ、安定した収益を得られる点が魅力です。
ただ、不動産投資には株式投資にはない固有のリスクがあります。それは、不動産が食品や衣料品と同様に、現物=生モノであることです。現物である以上、時間とともに品質が劣化することは避けられません。不動産投資は時間との勝負です。
株式投資が時間を味方にした長期投資であることと対照的です。不動産投資の本質は、運用の開示時点から出口を意識し、中期的な目線でアクティブに物件の入替えを行っていくもの、と私は理解しています。
私はメールで某業者さんから物件情報を送ってもらっています。メールには賃貸物件の損益シミュレーションが添付されており、参考にさせて頂きます。賃料の下落、空室の発生、出口戦略(10年後に売却)が保守的に織り込まれた上質なシミュレーションだと思います。ただ、1点気になる箇所があります。それは売却価格です。
このシミュレーションでは、収益還元法(=純収益NOI/投資利回り)で売却価格が算出されており、投資利回りは物件購入時(つまり今現在)のものが適用されています。足元の不動産投資利回りは、マイナス金利やデフレ経済の影響で史上最低水準にあります。その利回りが今後10年も続くと見るのは、いささか楽観的に過ぎる気がします。
不動産投資の本では物件の長期保有・持ち切りが前提となっているせいか、投資利回りについて言及されることは少ないです。しかし、中期での物件入替えを前提とした場合、対応が困難という点で最大のリスクは投資利回りの上昇ではないでしょうか。以下の例で、出口(売却)時における投資利回りの上昇インパクトを見ていきましょう。なお、以下では便宜上、投資利回りをネット等で簡単に検索できる表面利回りで代用しています。
東京23区の築浅RCマンションの表面利回りは概ね4%前後でしょうか。仮に純収益が1000万円の物件があるとすると、この物件の価格は1000万円÷4%=2億5000万円、となります。10年後も純収益は不変であったとして、利回りが①6%、②8%、③10%に上昇した場合、売却価格は次のようになります。①1億6700万円、②1億2500万円、③1億円。10年間で稼いだ純収益1億円は、一瞬で消失してしまいます。因みに、リーマンショック後の2009年当時、23区内の新築RCの表面利回りは7~9%の水準でした。10年後に利回りがそこまで上昇しない保証はありません。
不動産業者は知ってか知らずか出口に言及することは少なく、物件の持ち切りを前提とした生命保険の代替効果や年金の代替効果を強調します。しかし、築後数十年の築古マンションに、保険や年金の代わりになるキャッシュフローを期待するのは厳しいです。むしろ経年劣化による修繕費の増加、賃料の下落、空室の増加、賃借人の属性悪化による滞納・トラブルの増加と、手残りの減少・手出しの増加が予想されます。
そんな負動産を押し付けられる家族こそ、いい迷惑だと思いませんか。