株式投資の解説書を読むと、期待リターンだの標準偏差だの、アルファだのベータだのと、小難しい用語が次々に出てきます。でも私たちは投資期間や許容リスクを制限されたプロの投資家ではないので、そんな細かい話は無視しましょう。もっとザックリと大きな流れをつかむことの方が大事です。そこで、今回は「年1時間で億になる投資の正解」を読んででご紹介した内容を引きながら、株式投資のキモをザックリ理解してみたいと思います。
ここで一つだけ専門用語を使うことをお許し下さい。JPモルガンの超長期市場予測(2024年版)によれば、日本大型株の期待リターンは6.7%、日本小型株の期待リターンは7.2%となっています。そこで、取り敢えず間を取って、日本株の期待リターンを7%とします。期待リターンというと何かすごいことのように聞こえますが、何のことはありません。ただの利回りのことです。日本株に投資したら、年7%の利回りが期待できるということです。期待というのは、株式はリスク資産なので、預金のように利回りが確定したものでなく、あくまで期待=予想ベースの数字だよ、という意味です。
ところで、皆さんは「72の法則」をご存じでしょうか?「72の法則」とは、お金が倍になるために必要な期間が簡単に分かる算式のことです。72÷金利(%)=お金が倍になる期間、となります。(※) ここに日本株の期待リターンの7%を入れると、72÷7=10となります。10年で資産が倍に、20年で資産が4倍になる計算です。
(※)あくまで概算、目安です。
株式投資はいいことばかりじゃありません。リスクも考えなければいけません。しかし、私たちは素人の長期個人投資家ですから、標準偏差のような細かい理屈は要りません。ザックリ、何年で何%くらい下落するといった情報があれば十分です。そこで、「年1時間で億になる投資の正解」の出番です。この本の中でS&P500の過去データとして、1年に3回▲5%の下落、16ヶ月に1回▲10%の下落、7年に1回▲20%の下落、そして22年に1回▲50%の下落が紹介されています。米株と日本株の違いはありますが、日本株を米株よりやや厳しめに見ておけば大丈夫。日本株は、1年に1回▲10%の下落、5年に1回▲20%の下落、20年に1回▲50%の下落をするものとしましょう。
5年に1回▲20%の下落なんて、とんでもない! 20年に1回▲50%の下落って、資産が半分になるって話? ふざけるな!
お怒りはごもっともです。ですが、ちょっと待って。日本株の期待リターンに目をやって下さい。10年で資産は倍、つまり利回りは100%です。20年で300%。確かにこれらは計算上の話、机上の空論です。実際はそんなに上手くはいきません。でも、20年、30年……といった長期の時間軸においては、机上の空論が現実となる可能性が高まります。5年で▲20%、20年で▲50%相場が下落しても、それまでの相場上昇で十分なお釣りが来るはず、という仕掛けです。
長期の株式投資の成功の秘訣は、短期的に含み損を抱えても安易に損切りせず、複利の効果で資産が積み上がるまで我慢することです。一旦資産が積み上がれば、含み益がクッションとなって短期的な相場下落も気にならなくなります。長期の時間軸では「相場下落による損失」よりも、「相場上昇による利益」の方が圧倒的に大きいのです。そして、相場の下落は、次なる相場上昇のために欠かすことのできないものなんです。あなたは高くジャンプしようと思ったとき、どうしますか? 一度大きく屈み込みますよね。それと同じです。
【株】今年最初のトレード
ご挨拶が遅れて申し訳ありません。今更ですが、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。
さて、元日の日経新聞には恒例の企業経営者の相場予想が出ていましたが、皆様一様に強気でしたね。こんな年も珍しいのではないでしょうか。ひねくれ者の私は、かえって弱気を吐きたくなります。とはいうものの、投入資金があれば直ぐに買いたくなる”ダボハゼ”の私。NISAの成長投資枠を埋めるべく、新年早々買い指し値を入れ、早速約定しました。購入した銘柄は、わが地元企業のセイノーホールディングス(9076)。配当利回りが4%を超える高配当株です。成長投資枠というくらいですから、本来はグロース株を買うべきかも知れませんが、自分の年齢を考えると値上がりを待つ時間は余りありません。ですので、どうしても高配当株に目が行きます。今回は枠の半分程度を埋めましたが、3月末までに残りの半分を埋めたいと思います。今のところ、INPEX(1605)あたりが候補です。
日本株式市場の先行きは分かりませんが、本邦経済はインフレの定着による名目ベースの経済成長が当面続くと見ているので、今年も引き続き強気で臨んでいいのではと考えています。
【株】「年1時間で億になる投資の正解」を読んで
「年1時間で億になる投資の正解」(ニコラ・ベルベ著、新潮新書)を読みました。いやあ、実に示唆に富んだ良書ですね。株式投資初心者の方には、最初にこういう本を読んでほしいと切に思います。書店にいくと投資関係の本が山積みになっていますが、ほとんどがFIRE達成者の再現性も怪しいひとりよがりの体験記か、書いてあることは間違ってないものの、それって投資じゃなくて投機でしょって感じの本ばかりです。何で日本人の書く投資本はこうなっちゃうんでしょうね? しかし、本書はそんなマガイモノではありません。本書を読めば、なぜ(個別株でなくインデックス投信による)長期のほったらかし投資が一番なのか、どなたも理解できるはずです。詳細は是非本書を手に取ってご確認いただくとして、以下では私が記憶に留めたいと思った箇所をピックアップしてご紹介します。
1.株式投資をする目的
本書のP138にこんな記載があります。「私たちの身の回りにあるものは、ほとんどが時間とともに価値を失ったり劣化したりする。数年前に買った最高性能のコンピューターの処理速度はだんだん遅くなっていく。風雨にさらされるマイホームは高いお金をかけてメンテナンスしなければならない。身体だって衰えてくる。」「だが、こと投資にかけてはその逆が起こる。時間が私たちに味方する数少ないケースが、投資の世界なのだ。」
(私たち自身を含め)私たちの身の回りのあらゆるものは、時間の経過による陳腐化から逃れることはできません。中高年になると若い頃のようにバリバリ働くことはできませんし、マンションの賃料は築年数がたつにつれ低下していきます。このように、ナマモノである現物資産のパフォーマンスは時間の経過とともに劣化する運命にあります。しかし、バーチャルな資産である株式等の金融資産は異なり、経年劣化とは無縁です。それどころか、複利の効果で時間の経過とともにパフォーマンスは加速度的にアップしていきます。したがって、株式等の金融資産を現物資産と併せ持てば、人生の後半でパフォーマンスが落ち込む現物資産の欠点をカバーできます。
株式投資をする目的。それは人生の全期間におけるパフォーマンスの安定です。(一部、私の個人的な解釈が入っています。)
2.長期株式投資が難しいわけ
P131に作家のサイモン・シネックのコメントが紹介されています。「長期的視点に立って行動することにはたくさんのメリットがあるが、実行するのは容易ではない。」「それには大変な努力が必要だ。人間には本能的に厄介な問題をその場で解決しよう、手っ取り早く勝利を収めて野心を実現しようとする。」
人間は目の前の障害を速やかに取り除き、さらなる前進を続けるように設計されています。人間の本能に従えば、株式投資の含み損は速やかに損切りし、次の投資先に資金を投入することが正解です。しかし、長期株式投資は異なります。本能に逆らって含み損を放置し、じっと相場の回復を待つことが正解となります。内なる自分と戦い投資を継続しなければならないところが、長期株式投資の難しい点です。
3.株式という商品
P168には「暴落はありふれたこと、避けられないこと、そして必要なこと」とあります。本書ではS&P500の過去データを紹介していますが、1920年代以降、平均して年3回は5%の下落が起きています。過去100年では16ヶ月に1回のペースで10%の下落が起きており、また7年に1回のペースで20%以上の下落が起きています。そして、1950年以降では22年に1回のペースで50%の下落が起きています。まさに、暴落はありふれたことであり、株式という商品が本来持っているリズムだといえます。
しかし「下落によるダメージは、通常長続きしない。たとえば第二次世界大戦以降、20%以内の調整であれば回復して下落前の状態に戻るまでの期間は平均4ヶ月だ。」「そして1974年以降にS&P500が10%以上下落したケースを見ると、底を打った翌月には平均8%以上、1年後には平均24%以上上昇している。」「金融市場最悪の惨事であった1929年の大暴落の後でさえ、市場は10年も経ずに回復している。」これもまた株式の持つリズムです。
皆さんには株式のこのリズムを理解したうえで、株式投資に取り組んでほしいと思います。
投資することの意味は、お金をお米に置き換えて考えるとよく理解できます。早速ですが、いま手許に100のお米があるとしましょう。このお米の使い方と結果をケース別に考えてみます。まず今年、2024年の状況からです。
(ケース1)
今年とれたお米100を全部食べてしまいました。さあ大変、来年食べるお米がありません。
(ケース2)
今年とれたお米100のうち50だけを食べて、残り50は来年のために蔵に備えておくことにしました。蔵は頑丈なので台風がきても安心です。
(ケース3)
今年とれたお米100のうち50だけを食べて、残り50は田んぼに播いて稲を育てることにしました。ただ、夏に台風が来ないか心配です。
次は時計の針を1年進めて、2025年の状況です。
(ケース1)
去年お米を食べ尽くしてしまったので、今年は家族全員で出稼ぎに行かなければなりません。
(ケース2)
お米を食べようと蔵を開けてビックリ。50あったはずのお米がネズミにかじられて30に減ってしまいました。
(ケース3)
幸いにも台風が来なかったので稲は豊作となり、200のお米を収穫することができました。でも、もし台風が来ていたら、20のお米しか収穫できなかったでしょう。
いずれのケースも一長一短であり、どれがベストか事前には分かりません。でも、私たちの祖先は果敢にリスクと向き合い、弥生の昔から(ケース3)を選択してきました。彼らはひと粒のお米が稲穂となり、何十粒ものお米が実ることを知っていたからです。そして、この稲作の複利効果が、今日の私たち日本人の繁栄の基礎となっています。
さて、ここでもう一度お話をお米からお金に戻して、上記ケースを眺めてみましょう。そうすると(ケース1)は賃金収入で生活費を100%賄うケース、(ケース2)はリスクを嫌ってお金を銀行に預けたもののインフレで目減りしてしまうケース、(ケース3)はリスクを受け入れてお金を投資に回すケース、に相当することが分かります。お金の場合も、どのケースがベストか事前には分かりません。ただ、私はお米に関する先輩たちの取り組みが参考になると考えています。
2024年の振り返りと2025年の課題で私は、「……基本的に相場のタイミングは取らない主義なので……」などと格好の良いことを申しましたが、あれはウソです。ごめんなさい。本当のところを白状します。私は我慢するということができない、ダボハゼのような男です。手許にキャッシュがあれば相場展開や企業業績にお構いなく、条件反射で目に付いた銘柄に片っ端から食らい付いてしまいます。これは、ひょっとしたら病気かもしれません。
そんな私が最も恐れること。それは買った銘柄が奈落の底へ下落すること? いえ、違います。買おうと思っていた銘柄が買えないまま、超高値圏へ一直線に上昇してしまうことです。想像しただけで、怖くて夜も眠れなくなります。
こんな私って変ですか?
【株】天才の短期投資VS凡才の長期投資
11月30日の朝日新聞be on Saturday(週末別刷り)は「フロントランナー」のコーナーで著名投資家のテスタさんを取り上げています。朝日新聞は一般紙なので、私たちが期待する突っ込んだ投資ネタは出てきませんが、「テスタ」は中学生のときに飼っていた鳥の名前だとか、テスタさんは子供の頃にゲームばかりやっていたこと、株と関わって最初に始めたのがデイトレードで今も短期投資が中心であることなど、興味深いエピソードが紹介されています。そして、テスタさんと親交のある松井証券のM氏は、テスタさんの最大の強みは”正しい時期の損切りが将来の利益につながる”ことを認識できていることだと言います。しかし、専門家にこう言われると、長期の時間軸で投資を行っている人まで、「そうか。自分も含み損を抱えた銘柄をホールドしないで、さっさと損切りした方がいいのかな。」と早合点しないか、心配性の私は気が気でありません。
いいですか。テスタさんは短期投資家です。短期投資家にとって、売買回転率の高さが勝負の鍵となります。だから、早め早めの損切りが有効なんです。そして、テスタさんはcisさんと同じように、ゼロサムの短期投資の世界を勝ち抜いてきた稀有な存在です。そんな天才の真似をしたところで、凡才の役には立ちません。
今まで長期投資と短期投資を混同した(自称)専門家の無責任なコメントが、いかに多くの個人投資家を惑わせ、誤った道に誘導したことか。(自称)専門家諸氏は、大いに反省してもらいたいものです。そして、ギャンブル等の才能に恵まれ、投資の世界でも成功できるという確信のある方以外は無駄な売買はせず、ほったらかしの長期投資を愚直に続けていきましょう。私たち凡才の進むべき道は一択です。
【株】2024年の振り返りと2025年の課題
8月5日の令和のブラックマンデーから、はや3ヶ月。相場は落ち付きを取り戻したように見えます。しかし、米株が最高値を更新する一方で日本株は上値の重さが目立ち、長期個人投資家にとっては我慢の日々が続きます。私は8月5日の当ブログ記事で「ひとやすみ、ひとやすみ」と申し上げましたが、気が付けば”三休み”くらいした感じです。このまま年内は38,000円~40,000円をコアとしたレンジ相場が続くとして、年明けに(今年と同じように)レンジの上放れを期待したいところです。
さて、今年もあと1ヶ月余りとなったところで、2024年の振り返りをやっておこうと思います。本当は、もう少し相場が戻ったところでやりたかったのですが、思いのほか40,000円の壁が厚そうなので、ここでやることにします。
今年は401kで運用していた資金と退職金が手許にあったので、久々にまとまった額の投資を行いました。私は基本的に相場のタイミングは取らない主義なので、キャッシュが私の口座に着金した順にマーケットに投入しました。時期的には、5月初から7月初にかけて、だいたい日経平均で39,000円~40,000円の水準です。今思えば、あと1ヶ月待てば良かったのですが、後の祭りです。購入銘柄は、高配当株を中心に、グロース系の国際優良企業や地元応援企業の株となっています。(下表ご参照)
まあ、全体で評価損になっているのは仕方ないとして、思ったよりも損の額は小さくて済んだかな、との印象です。
来年にかけては、いくつか課題があります。まず、NISAの成長投資枠の全額をニューマネーで埋めるのは難しいので、特定口座の株を一部売却する必要があります。しかし、どの株にもそれぞれ思い入れがあり、売るのは中々悩ましいです。また、つみたて投資枠で投信を買うべきか、決めなければいけません。それから、今年やるつもりだった為替の分散の問題があります。(結局、米国債は買えませんでした。やっぱり私に債券は無理っぽいので、次回いくなら米株でしょうね。)さらに、さすがに売られ過ぎの感があるJREITをどうするか。買うとしたら、どの水準で買うか。インフラファンドも安くなっているけど、こちらはちょっと買えないかな。まあ、悩みは尽きませんが、2025年も基本強気、買いの目で臨みたいと思っています。
【株】私が個別株投資にこだわる理由
私は株式投資を始めて以来、投資信託にはほとんど投資をしたことがありません。ただ、誤解のないように申し上げておきますが、私は決して投信否定派ではありません。個別株にも投信にも、それぞれ良い点と良くない点があると考えています。不動産に例えて言うなら、個別株は戸建て住宅、投信は区分マンションのようなものです。戸建てなら間取りや内装を自由にリクエストできますが、マンションだとそうもいきません。しかし、マンションであれば共用部分や外構の管理を管理会社に任せることができますが、戸建てではオーナー自ら庭の掃除や設備の補修を手配しなければいけません。株式投資も同じで、個別株であれば自分の思い通りに好きな銘柄に投資できますが、銘柄選択に際しては会社の業績等の入念な下調べが必要です。また、金利や為替等の外部環境にも目を配らなければいけません。しかし、投信であれば銘柄の選択や投資タイミングは専門家に丸投げできます。しかし、自分の好みを運用に反映することは困難です。
実際に、ネットで個別株と投信のメリデメを検索してみました。個別株へ投資する理由としては、株主優待が得られるから、ピンポイントで投資したい企業があるから、投信は運用手数料がかかるから、株主総会への参加等を通じて株主として活動したいから、自分で銘柄を選ぶのが楽しいから、といった意見が出ていました。一方、投信へ投資する理由としては、専門家に運用してもらえるから、自分で銘柄を選ぶことが難しいから、分散投資を実現しやすいから、少額から投資できるから、投資方針を基準にして選択できるから、といった意見が出ていました。ほぼ、予想通りの内容かと思います……。と、ここで今回の記事を終わりにしてもいいのですが、それでは本テーマを当ブログで取り上げた意味がありません。そこで、以下では、あまり語られることのない投信の特徴を、ひとつ指摘したいと思います。それは、私が個別株にこだわる理由でもあります。
実は以前、投資信託を考えるで一度触れています。一般に投資信託には、ベンチマークと言われるものが設定されます。投資におけるベンチマークとは、投信等の運用実績を評価する際に用いられる基準となる指標のことです。具体的には、日本株であれば東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価を指します。そして、多くのアクティブ型日本株式投信はTOPIXをベンチマークとして、TOPIXに勝つことを目標に運用されています。ここ、ものすごく大事なところですので、覚えておいて下さい。もう一度言います。TOPIXに勝つこと、が目標です。日本株式投信は+5%とか+10%といった絶対水準の利回りを実現することは目標じゃない、と言っています。あくまでTOPIXという指標に勝てば良い。相対利回りが運用の目標だということです。ですから、TOPIXが▲10%のときに投信が▲8%なら、+2%の勝ちで目標達成という妙な話になります。そんなこと、私たち個人投資家は頼んでいません。
このような運営は、TOPIXをベンチマークに設定している投信だけでなく、TOPIXを参考指数に指定している投信でも広く一般に行われています。ところで、そもそもTOPIXって、何者でしょうか? TOPIXは東京証券取引所に上場する銘柄を対象として算出・公表されている株価指数のことです。(2022年4月4日の新市場区分施行を契機に、流通株式時価総額100億円未満の銘柄については、段階的にウェイトが低減される見込み。)東京証券取引所に上場する銘柄を対象として算出するということは乱暴にいうと、「TOPIXに投資する」イコール「日本経済に投資する」と言っていいと思います。ご承知の通り、日本経済は少子高齢化の影響で今後も減速が見込まれます。そんな日本経済にTOPIXは、そしてTOPIXをベンチマークとした日本株投信は引っ張られます。パフォーマンスの劣化が分かっていながら日本株投信に投資するのも、何だかなあ~って感じです。しかし、日本企業の中には、成長が見込まれる海外市場を舞台に活躍しているところもたくさんあります。そういった海外志向の企業の株式を個別に選んで投資していけば、日本経済が低迷しても堅調なパフォーマンスを期待できます。これが私が投信ではなく、個別株にこだわる理由です。
もっとも、国内でも敢えてベンチマークを設定せず、30程度に厳選した銘柄に集中投資するコモンズ投信のようなファンドも出てきています。今後、さらにノンベンチマークの投信が増えてくれば、早晩、私も投信への投資を開始するかも知れません。
【株】「カオスの帝王」を読んで
「カオスの帝王」(スコット・パタースン著、東洋経済)を読みました。帯には、「早くパニックを起こせ!」「新型コロナで”4000%超”ものリターンを叩き出せたのはなぜか」「市場を混乱に陥れるブラック・スワンにいち早く気づき、行動を起こしたものだけが巨万の富を手に入れることができる」と刺激的なコメントが並びます。私が本書を手に取ったのも、経済ショック(ブラック・スワン)の発生を事前に察知し、回りの市場参加者をパニックに巻き込みながら驚異的なパフォーマンスを実現する、そんなアウトローたちのドラマチックなストーリーを期待したからです。しかし、本書の内容は私の予想とは少々違うものでした。(帯の表現はミスマッチです。)
本書は、ウォールストリート・ジャーナルの名物記者である著者が、マーケットの混乱によって利益を上げるというユニークな戦略を取るヘッジファンド:ユニバーサ・インベストメンツ(以下、ユニバーサ)、及び創業者であるスピッツナーゲルとその仲間たちの活躍を描いたノンフィクションです。仲間たちの中には、有名な「ブラック・スワン」の著者:ナシム・タレブも含まれます。
本書には、私が期待した市場参加者を喰いものにするような話は一切出てきません。ユニバーサの投資戦略は、ファー・アウト・オブ・ザマネー(OTMの中でもATMから5つ超、権利行使価格が外側に離れたOTMのこと)のプットオプションを安価に購入し、後はひたすら市場の急落を待つという、極めてオーソドックスなものです。(もちろん、細部には他社が真似できないユニバーサ固有の精錬された高度なノウハウがあります。)そして、株式市場が上昇している間、ユニバーサは損失を出し続けます。ですから、ユニバーサは帯にある「……ブラック・スワンにいち早く気づき、行動を起こした者」には当たりません。まあ、冷静に考えれば、ブラック・スワンにいち早く気付くなんて、神でもない限りできっこないですよね。
ユニバーサの運用報酬がバカ高いのは事実ですが、投資家はユニバーサを採用することで、結果的に割安にポートフォリオのリスク軽減を図ることができます。ユニバーサのテールリスクヘッジ戦略は、S&P500が年率15%以上も下落したときに1500%以上の利益を上げました。これこそが、この戦略のミソです。投資家は保有資産のごく一部(2~3%)を充当するだけで、十分なヘッジ効果を得られます。(1500%×2%=30%>15%) 金や国債、スイスフランといった他のテールリスクヘッジ商品と比べ、ユニバーサのケースでは株式等のリスク資産により多くのキャッシュを充当できます。そのため、ユニバーサの投資家は、上げ相場において大きな利益を上げることが可能です。つまり、上げ相場でも下げ相場でも勝てる(負けない)という、万能なポートフォリオを作ることができるわけです。
本当にそんな夢のような話があるんでしょうか。ちょっと信じがたい気がします。でも、投資においてリスクの低減とリターンの向上は両立する。これがユニバーサの、そしてスピッツナーゲルの主張です。まさに、リスクとリターンはトレードオフの関係にあるとする伝統的なMPTの基本教義を否定する主張です。そして、彼らの主張が正しかった場合は大変なことになります。日本でも多くの機関投資家が、リスクヘッジのためポートフォリオのかなりの部分を国債に充当し、アップサイドを犠牲にしています。それがポートフォリオの2~3%の資産でテールリスクをヘッジできるのであれば、機関投資家はユニバーサのファンドに殺到するでしょう。そして、国内機関投資家の投資戦略は抜本的に見直されることになります。もし、年金基金や生保等の機関投資家が国債を買わなくなったら、と思うとぞっとします。日本の長期金利は暴騰し、円高・株安を通じ実態経済は大きなダメージを受けることになります。
MPTへの挑戦。これが本書の隠れたテーマだと感じました。そして、カオスはブラック・スワンによってではなく、ユニバーサ自身によってもたらされるのかもしれません。
最後に本書のテーマからは外れますが、ウォーレン・バフェットが2017年にバークシャー・ハサウェイの株主に宛てた手紙の内容が本書に掲載されているのでご紹介します。
「秀でた知性も、経済学の学位も、ウォール街の隠語に通じていることも必要ありません」「かわりに投資家に必要なのは、群衆心理による恐怖や熱狂に惑わされず、一握りの単純な基本原則から目を離さない能力です」
さすが、バフェットさん。いいこと言いますね。私たち長期個人投資家も、見習いたいものです。
【株】GDP世界1位は幸せか?
世界各国の経済力を比較するときに、一人当たりGDPという指標がよく使われます。これは、その国のGDPを人口で割った数字で、その国に住む人々の平均的な豊かさを表す指標となります。IMF(国際通貨基金)の推計による2023年の一人当たりGDP(※1)のランキングでは、日本は世界34位となっています。しかし、1993年~1994年には日本の一人当たりGDPは世界1位でした。当時、日本は世界で最も豊かな国だったことになります。私は1987年に社会人となり、1993年は若手社員としてバリバリ仕事をしていた時期です。今回はそんな当時の記憶も呼び覚ましながら、一人当たりGDP世界1位の日本とはどんな様相であったのか、振り返ってみたいと思います。 (※1)ドル建て名目ベースです。
最初に白状してしまうと、私の1993年~1994年頃の日本の印象は芳しいものではありません。日本経済は1989年のバブル崩壊の傷が癒えないまま、ズルズルと悪化の一途を辿っていました。銀行の不良債権がヤバそうと言われ始めたのも、この頃かと思います。1995年には阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件とバッドニュースが続き、時代は世紀末の様相を呈していきます。株価、地価とも下落が止まらず、1997年、4大証券の一角であった山一証券が自主廃業し、都銀の北海道拓殖銀行が倒産。翌1998年には長期金融界の雄、長銀と日債銀が経営破綻します。こうして、我が国は戦後最大の金融危機に陥りました。
1993年~1994年当時の為替は概ね1ドル=100円~110円程度で、現在より大幅に円高の水準でした。日本経済は不況であったにも関わらず、円高に阻まれて輸出をドライバーとした景気回復を図ることができませんでした。政府が打つ総合経済対策も空振りに終わり、後に「失われた30年」といわれるデフレスパイラルに突入することになります。
当時の私は顧客企業の退職年金の資産を運用する仕事をしていましたが、株式市場の不調でマイナスの運用が続き、顧客企業から怒られてばかりいました。詐欺師!と罵られたことも、一度や二度ではありません。就職氷河期で街にあふれた学生たちは、皆うつろな表情で空を見上げていました。この頃の日本が世界で最も豊かだと言われても、私にはブラックジョークにしか聞こえません。唯一、海外旅行をした人だけが、日本の豊かさを実感したことでしょう。
当時を知らない今の若者にはピンとこないかもしれませんが、これから日本でインフレ(※2)が常態化すれば、たとえ一人当たりGDPが世界34位であっても、総合的に見て現在の日本の方がずっと幸せだと私は思います。デフレで人々の心が凍り付いた状態で一人当たりGDPが世界1位だと言っても、そんなものは偽りの世界一です。逆に、インフレで人々が冬眠から覚めてアクティブになれば、一人当たりGDPが世界34位であったとしても、私はそんな日本の方が幸せであり、豊かだと思います。インフレに関しては、モノやサービスの価格が上がるといったミクロ(家計や企業)のマイナス効果に焦点が当たりがちですが、中長期的には経済活動の活発化によるマクロのプラス効果を実感できるようになります。一人当たりGDPのランキングも、徐々に改善していくはずです。私はこれからの日本に希望しか持っていません。 (※2)インフレ、デフレは物価の程度とともに、経済の活性度合いを表します。マイルドなインフレ経済は「高圧経済」とも呼ばれ、経済が適度に活性化した状態とされます。