大手格付け会社のフィッチ・レーティングスは8月1日、米国債の格付けを最上級のAAAからAA+に1段階引き下げると発表しました。この日を境に米国10年国債利回りは上昇のピッチを早め、4%台に突入しました。しかし、ここもとの米国10年国債利回りの急上昇について、国債格下げはあくまできっかけに過ぎず、本当の理由は別のところにあるように思われます。そのあたりの事情について、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのレポートが参考になると思うので、サマリーをご紹介します。
1.米国債利回りに何が起きているのか?
・米国10年国債利回りは4.18%に達しており(8/15現在、4.219%)、昨年10月22日に付けた節目となる4.25%に近付いている。
・興味深いのは、前回米国10年国債利回りが4.25%を越えたのは、世界金融危機(2007年~2008年のサブプライム・リーマンショック)が始る2007年6月ということである。
・10年債利回りが4.25%を越える可能性について最も重要なことは、それが低利回り時代にとどめを刺す象徴になるということである。
2.利回りは現在、なぜ上昇しているのか?
・FRBは利上げサイクルの終了に近付いているため、債券利回りは通常、安定的に低下すると考えられるが、なぜそうなっていないのか。
・それは、利上げサイクルの終了後、直ぐにFRBが利下げを開始するわけではないからだ。
・債券市場は次の点を織り込み始めている。
①FRBが長期にわたって足下の高金利を維持する可能性
②米国経済のソフトランディング
③米国経済のハードランディングが起きる確率の大幅な低下
④低利回りの長期デュレーション債券は、今や米国の景気後退に対するヘッジ手段として割高なだけでなく、安全確実な投資対象でもなくなっている
・また、現在の長期債利回りは非常に低く、かつ極端な逆イールド(8/15現在、2年債4.959%、10年債4.219%)となっている。イールドカーブが逆転しているのは、今まで投資家が米国経済の景気後退やハードランディングに備え、ヘッジとして低利回りの長期債を買ってきたからだ。
・しかし、足下ではハードランディングのリスクが低下し、投資家がわざわざ低利回りの長期債を買う理由はなくなった。
・今後、米国債の逆イールドが解消しイールドカーブがフラットになった場合、10年債利回りは70bpも上昇する可能性がある。
以上、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのレポートから、米国長期金利上昇の事情についてご紹介しました。(尚、これは同社の見解ではなく、同社のグローバル・バランス・リスク・コントロール運用チームの市場に対する見方とのことです。) ここまでの内容を一言でいえば、「米国経済のハードランディングシナリオの修正に伴う逆イールドの巻き戻しによる長期金利の上昇」、となります。
株式に関してはレポートの中で、「利回りの上昇がグロース株セクターへの逆風……」、「バリューセクター志向の戦略を当運用チームは選好する」との記載がありますが、それはこのレポートが短期目線のマネースポンサーへ向けたものだからでしょう。
過去においてFRBが最終利上げから利下げに入るまでのインターバルは、平均で1年前後と言われています。私たち長期個人投資家にとって、FRBが利下げを開始するまでが勝負です。将来に向けて成長が期待できる優良銘柄を仕込む、絶好のチャンスです。レポートにあるように長期金利の上昇を受けグロース株が売られる局面では、臆することなく買い出動しましょう。