4月6日の新聞各紙は、日本生命が企業年金保険の予定利率を2023年4月に年1.25%から0.50%に引き下げると報じました。企業年金は掛金の積み増しや実績に応じた仕組みへの変更を迫られそうと結んでいます。続けて4月7日の日経新聞は、大手飲料メーカーの話として「受給者への給付を減らすなど、……検討したい」とコメントを紹介しています。今回の件は、確定給付企業年金(DB)のうち日生が受託している契約に関しての話ですが、他の生保も続いて予定利率を引き下げる可能性が高いと思われます。(第一生命はすでに2021年10月に予定利率を1.25%から0.25%に引き下げています)
年金の給付は掛金と運用収益で賄います。つまり、年金給付=掛金+運用収益、です。そして、運用収益は予定利率に連動するので、予定利率の引き下げは運用収益の減少につながります。企業が一時金や年金といった年金給付の水準を維持しようとしたら、掛金を引上げるしか方法はありません。しかし、コロナ禍や原材料費の高騰で体力が低下している企業にとって、コスト増となる掛金の引き上げは困難な状況です。そんな企業にとって残された選択肢は、給付の引き下げ(給付減額)です。それも既に年金を受け取っている受給者たるOB/OGの方々の給付を減額するのが最も効果的です。
しかし、受給者の減額は既得権の侵害にあたるため、法的に厳しい制約が課せられています。また、給付減額に同意しない方への支援策も用意する必要があります。確定給付企業年金(DB)の受給者減額は、企業にとって実現に向けたハードルが高く、過去の実施例は限定的ですが、今後は止むに止まれず、強行突破を図る企業が出てくるかもしれません。そうなった時に慌てて給付減額に同意することのないように、今回はDBの受給者減額と希望者への支援策の内容につきご説明したいと思います。
まず、確定給付企業年金法では受給者減額の理由要件として、「実施事業所の経営状況の悪化又は掛金額の大幅上昇により、掛金拠出が困難になると見込まれ、やむを得ないこと」が上げられています。これは「単に経営が悪化しさえすれば足りる」のではなく、「経営の悪化により企業年金を廃止するという事態が迫っている状況下で、これを回避するための次善の策として、受給者減額がやむを得ないと認められる」場合に限られる、と解釈されています。次に、手続き要件として、「受給権者等の2/3以上の同意」と「希望者に対し給付減額前の最低積立基準額の一時金支給等の選択肢(受給権者等の全員が減額に同意した場合を除く)」が上げられています。
小難しい言葉が並んでしまいましたが、要は会社がつぶれそうで年金を廃止しないとどうにもならないような最悪の状態でないと、受給者減額はできませんよ。その場合は、受給者全員の同意をもらいなさい。それが無理なら、せめて受給者の2/3以上の同意をもらいなさい。そして、希望者には減額する前の水準で一時金を支払いなさい。ざっと、こんな内容です。
ここで、希望者への一時金支給の部分が支援策となります。なぜ支援策となるかですが、通常、年金を一時金で受け取る場合(選択一時金といいます)、年金を予定利率という利率で割り引いて一時金に換算します。現在は予定利率(※1)は2.0%~2.5%に設定している会社が多いようです。ところが、受給者減額に係る希望者への一時金に関しては特別な利率(※2)が使われ、令和4年度に関しては0.66%となっています。
(※1)ここでいう予定利率は会社が独自に設定するもので、新聞記事になった生保の予定利率とは別物です。
(※2)30年国債の応募者利回りの5年平均のことです。
やや専門的な話になって申し訳ありませんが、年金を一時金に換算する際、割り引く率が小さいほど一時金は大きな額となります。例えば、月額10万(年額120万円)の15年確定年金を2.5%で割り引いたときの一時金は約1490万円ですが、0.66%で割り引くと約1710万円になります。受給者減額に係る希望者への一時金は、通常の一時金よりも220万円も大きくなっています。
今後、皆さんの会社(あるいは以前お勤めだった会社)から受給者の年金を減額したいという申し出があった場合に、皆さんにとっていただきたい行動についてお話します。既に年金を受給中の方や年金を受給する権利を持っている方は、会社の人事や労働組合、OB会等から給付減額に同意するように依頼されても、気安く同意しないで下さい。そして、給付減額前の最低積立基準額の一時金支給を希望するようにしてください。減額に同意した元上司や元同僚との仲が気まずくなることが懸念されますが、同意したら最後、年金は2/3とか半分に削られてしまいます。同意しなければ、元の年金の(場合によっては)何割増しかの一時金が受け取れるわけです。あまりにも大きな差です。ここは多少の気まずさには目をつぶり、我が道を行きましょう。
尚、この場合の一時金は退職所得扱いとなりますので、ご安心ください。