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株式

【株】ヘッジファンドは神を目指す

2023年1月24日の日本経済新聞の夕刊に「存在感増すオルタナ投資」と題する記事が掲載されました。ここでは米ヘッジファンド運用会社大手のシタデルが、2022年の1年間に160億ドル(約2兆円)と業界最大の収益を上げたことを報じています。ただ、私は収益の金額以上にそこで紹介されているシタデルの運用手法に驚かされました。同社は小売企業のPOSデータや衛生画像を使った位置情報、SNSの投稿などをデータ化し、投資先企業の業績や投資商品の相場見通しに生かしているというのです。また、同社は近年、地球温暖化の加速で世界各地で洪水や干ばつなどの気候変動が起こっていることを踏まえ、博士号を持つ気象学者が率いるチームを編成して気候関連のビッグデータから商品先物の先行きの予測などに活用しているとのこと。運用の世界もここまで来たか、との思いがします。

以前、短期投資というもので世界有数のヘッジファンド:ルネサンス・テクノロジーズを取上げました。彼らの投資手法は、超高性能コンピューターの力を借りて相場の動きをミクロの時間軸に分解します。そして、その一瞬の時空間に出現するアノマリーを見出し、統計的有意性が確認されたなら超高速回転のアルゴリズム取引を仕掛けるというものでした。電子顕微鏡で相場に蠢く微生物を見つけるイメージです。
一方、シタデルはオルタナティブデータを高性能のコンピューターで解析し、鳥の目で世界各国の公的機関よりも早く社会や環境の今を認識することができます。まさに、ハッブル望遠鏡で宇宙の彼方を観測するイメージです。でもこんな話を知ってしまうと、雇用統計やCPIといった景気指標に市場関係者が一喜一憂する姿が茶番に見えます。

シタデルもルネサンス・テクノロジーズも超高性能コンピューターという武器を手に神の領域に分け入り、獲物を狩り立てます。私たち個人投資家にできるのは彼らに近付かないこと。同じ土俵で戦わないことです。自分の身は自分で守るしかありません。

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不動産

【不】不動産VS株式、通説と現実のギャップ

不動産VS株式と書きましたが、不動産投資と株式投資は決して相反するものではなく、補完し合うものです。それぞれの長所を活かし上手に使い分けることで、全体の運用効率を高めることができます。しかし、世の中に流布する不動産投資と株式投資の通説には現実と乖離したものが多く、それらを鵜呑みにすると思わぬ怪我をする危険性があります。そこで、今回は①リスクとリターン、②投資の手間、③投資の期間、の3点について不動産投資と株式投資の通説と現実とのギャップについて確認したいと思います。

①リスクとリターン
不動産投資の解説本を読んでいると、「株式はリスクが高く損失を被る可能性がありますが、不動産は安定的に収益を上げることができるので安心です」といった説明を目にすることがあります。株式=ハイリスク、不動産=ローリスク、という位置づけです。ところで、運用を少しでもかじったことのある人にとって、リスクとリターンが比例することは常識です。(正確にはリスクとリターンは比例しませんが、リスクが高ければリターンも高い、リターンが低ければリスクも低い、ローリスク・ハイリターンはありえない、という運用の基本を言っています。) では、不動産のリスクとリターンの水準は如何ほどでしょうか。一般に不動産投資に際しては多額の借入れを行います。少し前までは自己資金ゼロのオーバーローンと言われる融資も、一部銀行を中心に盛んに行われていました。この場合のリターンを計算してみましょう。仮に物件価格1000万円で年間賃料40万円のワンルームマンションがあったとします。CCR(キャッシュ・オン・キャッシュ・リターン)は賃料÷自己資金=40万円÷0円=∞、となります。えっ?リターンは無限大? これは21世紀の錬金術でしょうか。リターンが無限大ということは、リスクも無限大ということです。
不動産投資は当初の計画通りにキャッシュが回っている間は安定的に収益を上げることができます。しかし、金利の上昇や空室の増加、多額の修繕費の発生等のハプニングにより計画に狂いが生じるとローンの返済が滞り、最悪の場合、自己破産・一家離散の危機に直面します。多額の借入れに依存した不動産投資は安定運用とはかけ離れた、超ハイリスク・超ハイリターンの世界です。不動産投資の(デフォルト)リスクを抑えるには、厚めの自己資金を投入しレバレッジ比率を下げるしか手はありません。そして、レバレッジ比率が下がればミドルリスク・ミドルリターンの運用が可能です。

②投資の手間
株式投資は相場の動きを24時間チェックする必要があり、気が休まる暇がない。それに比べ不動産投資はほったらかしでいいので、気が楽です。こんな説明も不動産投資の解説本で目にします。でも、「ほったらかし」は本来、長期の株式投資に相応しい言葉です。内外株式のインデックスファンドを定時定額で買い付けていけば、相場観も企業業績の分析も不要。ほったらかしで何の問題もありません。逆に不動産投資こそ手間をかける必要があります。投資といいますが、不動産投資は本来不動産賃貸業と呼ぶべきもの。不動産投資家は事業主として、自らの手で経営に参画する気概と覚悟が必要です。賃料の回収、物件のメンテ、空室の募集等事業主としての仕事は山ほどあります。賃貸管理を業者にアウトソースすることは可能ですが、それは収益の低下を意味します。また、賃料保証を謳ったサブリースの問題点はここでお話するまでもないでしょう。管理を業者に委託する場合も丸投げは避け、定期的に物件に足を運び自分の目で管理の状況をチェックする等、手間を惜しむべきではありません。

③投資の期間
不動産投資は将来の年金や生命保険の代わりになります。またローンを払い終わったあとは資産として残ります。こんなセールストークを不動産会社の営業マンから聞いた方は多いでしょう。でも、ローンを払い終わった35年後、貴方の目の前にあるマンションの姿を想像してみて下さい。現在新築の物件でも築35年の築古となります。築10年なら築45年もの。そんな超築古マンションに資産価値はありません。下手したら幽霊マンション化して負動産になっているかもしれません。何でこんなことになるのでしょうか? それは不動産が現物投資だからです。不動産は野菜や魚と同じで、時間の経過とともに腐っていく運命にあります。ですから不動産投資は時間との勝負です。中期目線での投資となります。営業マンの言う通り35年も物件を抱えていたら大変なことになります。不動産投資は投資開始の時点で、ちゃんと出口を意識しておくことが肝要です。出口のない不動産投資はありません。劣化する前に物件は売却し、別の物件を購入する。これの繰り返しです。5年~10年程度の中期での入れ替え売買(5年内に売却すると短期譲渡所得として税金が高くなります)が、不動産投資の基本的なリズムです。
一方、株式投資は長期目線での投資が好ましいです。不動産投資に比べ不確定要素の多い株式投資では、短期~中期目線では需給や市場参加者の思惑といったノイズの影響が大きく、収益が安定しません。長期目線で投資に取り組むことで、投資先企業の成長と安定した収益を得やすくなります。

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年金

【年】公的年金の現状と今後

突然ですが、厚生年金や国民年金(2つまとめて公的年金といいます)が確定拠出型の年金だといったら、あなたは信じますか? もともと公的年金は、加入期間や支払った保険料に応じて受取る年金額が決まる確定給付型の年金でした。しかし、2004年の年金改革で保険料を現役世代が負担可能な水準に固定し(※1)、決められた保険料の範囲内で給付額を調整する(=減額するという意)マクロ経済スライドという仕組みが導入された結果、公的年金は確定拠出型の年金に変身したのです。今や年金問題の核心は、「どう破綻を回避するか」から「どう年金額の大幅な低下を食い止めるか」に変わっています。
(※1)保険料の固定:厚生年金の保険料率を18.3%(労使折半)、国民年金の保険料額を16,900円に固定すること。

2019年の年金財政検証では、いくつかのケースにわけてマクロ経済スライドによる年金額の将来推計が示されました。その中で、女性と高齢者の就業を促進し、年率0.4%程度(実質)の経済成長を維持できれば年金財政が長期的に安定するとされるケースⅢ(人口:中位)でみると、モデル年金の所得代替率(※2)は次のように低下する見込みです。
 基礎年金2人分:36.4%→26.2%
 報酬比例部分 :25.3%→24.6%
ここで、国民年金加入者(基礎年金のみ)は約28%、厚生年金加入者(基礎年金+報酬比例部分)は約18%所得代替率が低下します。つまり、国民年金の加入者の方が厚生年金の加入者よりも将来の年金額の目減りが大きくなっています。これは、マクロ経済スライドによる年金の調整が基礎年金と報酬比例部分で別々に行うこととなっており、報酬比例部分に比べ財政状況の悪い基礎年金の方が長期間に亘って年金の調整が続くからです。
(※2)所得代替率:現役男子の平均手取り収入額(ボーナス込み)に対するモデル世帯の年金額の比率のこと
(参考:マクロ経済スライドと公的年金の将来

国民年金加入者の大幅な年金の減額を避けるため厚労省が2020年12月に公表した改革案の1つが、「マクロ経済スライドの調整期間の一致」です。これは、基礎年金と報酬比例部分で別々に行っている調整をやめ、公的年金一体で財政が健全化するまで調整を続けるルールに変更するものです。これにより基礎年金の調整期間は現行よりも短期化し、年金の減額幅は圧縮されます。一方、報酬比例部分の調整期間は長期化し、年金の減額幅は拡大します。

2つ目の改革案が「基礎年金の45年化」です。国民年金の保険料納付期間を現行の40年から45年に延長し、満額の基礎年金額を増額する(1.125倍)ものです。ただ、単純に基礎年金を増額すると、基礎年金財源の半額を賄う国庫負担も増加してしまうので、財政難の昨今、一筋縄ではいかない話です。そこで考えられるのが、1つ目の改革案との合わせ技です。これだと国庫負担の増加を抑えつつ、国民年金加入者の年金額の大幅な減額も避けることができます。そして犠牲になるのは、いつものように会社勤めの厚生年金加入者です。
(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構 特別講義資料「公的年金の現状と課題」を参考にさせて頂きました。)

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株式

【株】霧は晴れたか

2023年が始まり10日がたちました。年始恒例の市場関係者による相場予測では、2023年前半は金融引締めの影響で欧米の景気が悪化し株価は下落する、そんな見立てが多いようです。ところで、市場関係者が最も忌み嫌うものは何でしょうか?それは、相場に立ちこめる霧。つまり市場の不透明感です。市況が悪くても見通しさえつけば、投資家はそれなりに受け身が取れるもの。本当に困るのは、市場の先が見通せないときです。

私たちはここ数年の間に、コロナによるパンデミックやロシアのウクライナ侵攻、そして米国でのインフレ発生と急激な利上げ、と立て続けに異常事態に遭遇してきました。未知のウィルスによる人類滅亡、核戦争の勃発、高インフレによる日常生活の崩壊、といった最悪のシナリオも想定されました。一時、世界は見通しのきかない深い霧に閉ざされたのです。しかし、株式市場は霧の中を彷徨ながらも、何とか無事今に至っています。

私は深い霧を凌いだ株式市場のしぶとさ、打たれ強さに驚きを禁じ得ません。冒頭で金融引締めの影響で景気が悪化し株価が下落するとの市場関係者の見立てをご紹介しましたが、景気悪化は金融引締めの当然の帰結です。FRBの金融政策の工程表に沿ったものであり、もはやそこに不透明感はありません。また、景気悪化が行き過ぎた場合は、FRBには潤沢な金融緩和の余力があります。
市場関係者の見立て通り2023年前半に株式市場が下落する場面があれば、私は目をつぶってでも押し目を拾うべきだと考えます。