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【年】公的年金の現状と今後

突然ですが、厚生年金や国民年金(2つまとめて公的年金といいます)が確定拠出型の年金だといったら、あなたは信じますか? もともと公的年金は、加入期間や支払った保険料に応じて受取る年金額が決まる確定給付型の年金でした。しかし、2004年の年金改革で保険料を現役世代が負担可能な水準に固定し(※1)、決められた保険料の範囲内で給付額を調整する(=減額するという意)マクロ経済スライドという仕組みが導入された結果、公的年金は確定拠出型の年金に変身したのです。今や年金問題の核心は、「どう破綻を回避するか」から「どう年金額の大幅な低下を食い止めるか」に変わっています。
(※1)保険料の固定:厚生年金の保険料率を18.3%(労使折半)、国民年金の保険料額を16,900円に固定すること。

2019年の年金財政検証では、いくつかのケースにわけてマクロ経済スライドによる年金額の将来推計が示されました。その中で、女性と高齢者の就業を促進し、年率0.4%程度(実質)の経済成長を維持できれば年金財政が長期的に安定するとされるケースⅢ(人口:中位)でみると、モデル年金の所得代替率(※2)は次のように低下する見込みです。
 基礎年金2人分:36.4%→26.2%
 報酬比例部分 :25.3%→24.6%
ここで、国民年金加入者(基礎年金のみ)は約28%、厚生年金加入者(基礎年金+報酬比例部分)は約18%所得代替率が低下します。つまり、国民年金の加入者の方が厚生年金の加入者よりも将来の年金額の目減りが大きくなっています。これは、マクロ経済スライドによる年金の調整が基礎年金と報酬比例部分で別々に行うこととなっており、報酬比例部分に比べ財政状況の悪い基礎年金の方が長期間に亘って年金の調整が続くからです。
(※2)所得代替率:現役男子の平均手取り収入額(ボーナス込み)に対するモデル世帯の年金額の比率のこと
(参考:マクロ経済スライドと公的年金の将来

国民年金加入者の大幅な年金の減額を避けるため厚労省が2020年12月に公表した改革案の1つが、「マクロ経済スライドの調整期間の一致」です。これは、基礎年金と報酬比例部分で別々に行っている調整をやめ、公的年金一体で財政が健全化するまで調整を続けるルールに変更するものです。これにより基礎年金の調整期間は現行よりも短期化し、年金の減額幅は圧縮されます。一方、報酬比例部分の調整期間は長期化し、年金の減額幅は拡大します。

2つ目の改革案が「基礎年金の45年化」です。国民年金の保険料納付期間を現行の40年から45年に延長し、満額の基礎年金額を増額する(1.125倍)ものです。ただ、単純に基礎年金を増額すると、基礎年金財源の半額を賄う国庫負担も増加してしまうので、財政難の昨今、一筋縄ではいかない話です。そこで考えられるのが、1つ目の改革案との合わせ技です。これだと国庫負担の増加を抑えつつ、国民年金加入者の年金額の大幅な減額も避けることができます。そして犠牲になるのは、いつものように会社勤めの厚生年金加入者です。
(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構 特別講義資料「公的年金の現状と課題」を参考にさせて頂きました。)