山崎元さんの過去のブログ記事:勘違いだらけの「長期投資」(トウシル/楽天証券)を読んでいたら、次のような気になる文章に出くわしました。「投資では、対象となる企業や経済の成長に賭けているのではない。対象が成長しなければ儲からないと考えている投資家が少なくないが、投資のリスクを負担することに対するリターンの源泉は、資産の価格形成にある。」「株式であれば、同じ予想利益に対し、高成長が予想されれば株価が高く形成されるし、成長率が低く予想されれば株価は低く形成されているはずだ。どちらに投資しても、”リスクフリー金利+リスクプレミアム”のリターンが期待できる。」「投資家が論理的に期待すべきなのは、投資対象の成長率ではなく、資産価格形成に含まれるリスクプレミアムなのである。」
これだけでは分かりにくいので、山崎さんの他のブログ記事も参考にしながら、数値例を使ってもう少し分かりやすく説明したいと思います。まず、証券分析の教科書の最初に出てくる、株価の算出式を考えます。ここで、株価(P)を将来の純利益の割引現在価値の合計と考え、割引率(r)、純利益の成長率(g)、予想される1期目の一株利益(E)として、理論株価(P)を求めると、P=E/(rーg)~①、となります。(これは割引配当モデルと言われるものです。算出過程は教科書等でご確認下さい。)尚、割引率(r)はリスクフリー金利(i)と、投資家が求めるリターンであるリスクプレミアム(p)の合計です。r=i+p~② ①式を変形すると、r=E/P+g 。 ②式を代入して、p=E/P+g-i~③、となります。E/PはPERの逆数で益利回りです。それに純利益の成長率(g)を加え、リスクフリー金利(i)を控除したものがリスクプレミアム(p)です。
具体的な数値を当てはめてみましょう。日経平均株価の平均PERは足下で、15倍程度ですので、E/Pは6.7%(1/15×100=6.7)です。利益成長率を仮に5%、リスクフリー金利を0.5%と仮定すると、リスクプレミアムは11.2%となります。次に米国S&P500について、平均PERを20倍とすると、E/Pは5%、利益成長率を10%として、リスクフリー金利を5.5%とすると、リスクプレミアムは9.5%となります。
どうでしょうか。米国株の利益成長率を日本株の倍と仮定しても、米国株のPERとリスクフリー金利の高さから、リスクプレミアムでは日本株の方が優位との計算結果となりました。ただ、これはあくまで理論上の話です。実際にこの通りになるとは限りません。なぜなら、実際の株式市場には資産価格形成のメカニズムを歪める様々なノイズが存在するからです。ただ、山崎さんの「投資家が論理的に期待すべきなのは、投資対象の成長率ではなく、資産価格形成に含まれるリスクプレミアムなのである。」というメッセージは、(利益成長率で米国株に劣る)日本株を愛する多くの日本人投資家にとって、心強い一言になることは間違いありません。
今回のポイントは、利益成長率の高い銘柄は人気が高くPERも高いので、逆に益利回り(PERの逆数)は低くなる。つまり、利益成長率(g)と益利回り(E/P)は、トレードオフの関係にあるということです。gはグロース株的リターン、E/Pはバリュー株的リターンと見れば、ごもっともな話ではあります。尚、今回、為替は出てきませんでした。為替は2国間の通貨の交換比率に過ぎず、長期的な期待収益率はゼロと考えられるからです。