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保険

【保】医師が考えるがん保険の必要性

2024年11月8日にSBI損害保険株式会社は、がん治療やがん保険について、がん治療に携わる一般外科医110名に対しアンケートを実施し、調査結果をプレスリリースしました。調査の結果、①患者の経済的事情に鑑み、がんの治療計画を見直した経験がある医師は83.6%、②患者が自由診療をカバーする保険に加入していた場合、最善の治療を行うことができると考える医師は80%、となったとのことです。

この数字だけ見るとがん保険は必須である、との印象を受けます。しかし、本来、がん保険の必要性を考える場合、対象となるがん患者の総数と、その中で医師が患者の経済的事情から治療計画を見直したケースが何件あったかが判断基準となるはずです。今回のように医師の数で見てしまうと、A医師が担当したがん患者総数1000人中1人に治療計画の見直しがあったケースも、B医師が担当したがん患者総数10人中1人に治療計画の見直しがあったケースも、同様に医師1名とカウントされミスリーディングです。さらに、今回の調査は対象期間を特定せず、2024年10月11日断面での調査となっているので、医師が①、②の経験や認識を持ったのがいつの時点なのかも不明です。10年前に経験したことも、直近で経験したことも、同様に扱われてしまいます。

このように突っ込みどころ満載のSBI損保のプレスリリースですが、是非、追加調査をお願いしたいものです。その際は、例えば、調査対象期間:2025年1月1日から2025年12月31日、調査対象がん患者数:○○○名、うち経済的事情により治療計画を見直した患者数:○○名、といった感じで調査してもらえると有意義なものとなると思います。

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株式

【株】私が個別株投資にこだわる理由

私は株式投資を始めて以来、投資信託にはほとんど投資をしたことがありません。ただ、誤解のないように申し上げておきますが、私は決して投信否定派ではありません。個別株にも投信にも、それぞれ良い点と良くない点があると考えています。不動産に例えて言うなら、個別株は戸建て住宅、投信は区分マンションのようなものです。戸建てなら間取りや内装を自由にリクエストできますが、マンションだとそうもいきません。しかし、マンションであれば共用部分や外構の管理を管理会社に任せることができますが、戸建てではオーナー自ら庭の掃除や設備の補修を手配しなければいけません。株式投資も同じで、個別株であれば自分の思い通りに好きな銘柄に投資できますが、銘柄選択に際しては会社の業績等の入念な下調べが必要です。また、金利や為替等の外部環境にも目を配らなければいけません。しかし、投信であれば銘柄の選択や投資タイミングは専門家に丸投げできます。しかし、自分の好みを運用に反映することは困難です。

実際に、ネットで個別株と投信のメリデメを検索してみました。個別株へ投資する理由としては、株主優待が得られるから、ピンポイントで投資したい企業があるから、投信は運用手数料がかかるから、株主総会への参加等を通じて株主として活動したいから、自分で銘柄を選ぶのが楽しいから、といった意見が出ていました。一方、投信へ投資する理由としては、専門家に運用してもらえるから、自分で銘柄を選ぶことが難しいから、分散投資を実現しやすいから、少額から投資できるから、投資方針を基準にして選択できるから、といった意見が出ていました。ほぼ、予想通りの内容かと思います……。と、ここで今回の記事を終わりにしてもいいのですが、それでは本テーマを当ブログで取り上げた意味がありません。そこで、以下では、あまり語られることのない投信の特徴を、ひとつ指摘したいと思います。それは、私が個別株にこだわる理由でもあります。

実は以前、投資信託を考えるで一度触れています。一般に投資信託には、ベンチマークと言われるものが設定されます。投資におけるベンチマークとは、投信等の運用実績を評価する際に用いられる基準となる指標のことです。具体的には、日本株であれば東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価を指します。そして、多くのアクティブ型日本株式投信はTOPIXをベンチマークとして、TOPIXに勝つことを目標に運用されています。ここ、ものすごく大事なところですので、覚えておいて下さい。もう一度言います。TOPIXに勝つこと、が目標です。日本株式投信は+5%とか+10%といった絶対水準の利回りを実現することは目標じゃない、と言っています。あくまでTOPIXという指標に勝てば良い。相対利回りが運用の目標だということです。ですから、TOPIXが▲10%のときに投信が▲8%なら、+2%の勝ちで目標達成という妙な話になります。そんなこと、私たち個人投資家は頼んでいません。

このような運営は、TOPIXをベンチマークに設定している投信だけでなく、TOPIXを参考指数に指定している投信でも広く一般に行われています。ところで、そもそもTOPIXって、何者でしょうか? TOPIXは東京証券取引所に上場する銘柄を対象として算出・公表されている株価指数のことです。(2022年4月4日の新市場区分施行を契機に、流通株式時価総額100億円未満の銘柄については、段階的にウェイトが低減される見込み。)東京証券取引所に上場する銘柄を対象として算出するということは乱暴にいうと、「TOPIXに投資する」イコール「日本経済に投資する」と言っていいと思います。ご承知の通り、日本経済は少子高齢化の影響で今後も減速が見込まれます。そんな日本経済にTOPIXは、そしてTOPIXをベンチマークとした日本株式投信は、引っ張られる可能性が高いわけです。パフォーマンスの劣化が分かっていながら日本株に投資するのも、何だかなあ~って思います。しかし、日本企業の中には、成長が見込まれる海外市場を舞台に活躍しているところもたくさんあります。そういった海外志向の企業の株式を個別に選んで投資していけば、日本経済が低迷しても堅調なパフォーマンスを期待できます。これが私が投信ではなく、個別株にこだわる理由です。
もっとも、国内でも敢えてベンチマークを設定せず、30程度に厳選した銘柄に集中投資するコモンズ投信のようなファンドも出てきています。今後、さらにノンベンチマークの投信が増えてくれば、早晩、私も投信への投資を開始するかも知れません。

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年金 閑話休題

【年】公的医療・介護、今そこにある危機

以前、年金改革の背後で蠢く国の悪企みで公的医療(健康保険)や介護(介護保険)の危機的状況について触れました。でも、医療・介護がそれほど危機的状況だっていうなら、なんで世間が騒がないんだ?、と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。確かに年金の場合、消えた年金問題とか、年金の破綻とか、メディアやSNS等でヒステリックに叫ぶ人が絶えません。それに比べ、医療・介護の危機を叫ぶ声は、ほとんど聞こえてきません。今回は、そのあたりの謎について考えてみたいと思います。

まず、確認しておきたいのが、年金と医療・介護の仕組みの違いです。年金の場合、国民は国民年金なら20歳から60歳まで、厚生年金なら会社に入社してから退職するまで、毎月保険料を払います。そして、保険料の支払いが終わったあと、国民年金、厚生年金とも65歳から年金の受取りが始ります。ここでは、保険料の負担(支払い)が先、年金の給付(受取り)が後の形です。また、年金の場合、受取る年金額は加入期間の月数と、その間の給料(平均標準報酬額)で予め決まります。
一方、健康保険や介護保険の場合、国民は毎月保険料を払う点(1回目の負担)では年金と同じですが、実際にサービスを受ける段階で、病院や介護施設の窓口で改めて支払い(2回目の負担)が必要となる点で異なります。ここでは、1回目の負担は給付より先、2回目の負担は給付と同時の形となります。また、医療や介護の場合、サービスの金額とサービスを受取る時期は、受取るサービスの内容によって変わってきます。

上表から、年金と医療・介護に対する国のスタンスの違いを推測できます。年金の場合、国は国民が保険料を払い終わったら、あとは金額の確定した年金を払うことしかできません。(年金の裁定を受けると国民に財産権が生じます。)払う段になって、「予定より年金の額が減っちゃいました。ご免なさい。」なんてことは法的に許されません。ですから、国は年金の財政状況が厳しくなってきたら、前広にメディア等を通じて「ヤバイヨ!ヤバイヨ!」と国民にアピールします。そして、国民が保険料を払い終わる前に保険料を値上げしたり、マクロ経済スライドで年金額を(名目ベースは維持しながら)インフレ控除後の実質ベースで減額したりするわけです。また、年金を減額するだけでは国民から不満が出るので、NISAやiDeCoといった税制優遇措置を設けて、国民の自助努力を後押しするわけです。

医療・介護では、2回目の負担(病院や介護施設の窓口での自己負担)と医療・介護サービスの給付は同じタイミングで行われます。また、医療・介護のサービスの金額も受取り時期も、事前には決まっていません。つまり、医療・介護の場合、年金と違い国のフリーハンドが大きいと言えます。(そもそも医療・介護には年金のような財産権という概念もありません。)医療・介護の財政が厳しければ、いざとなったら患者や利用者の窓口負担を増やすとか、医療・介護の保険給付を削減することも、理屈の上では可能です。2回目の負担と給付は同時履行の関係にあるので、窓口負担の値上げを拒否する患者や利用者は、サービスの提供をストップされます。また、治療薬や介護サービスの保険適用が削減されたと病院や介護施設からと言われれば、黙って従うほかありません。

このように、医療・介護の場合は、年金に比べ制度運営における国の裁量が大きいため、(後からでも何とかなるだろうと)財政悪化に対する国の危機感が弱いのではないかと推察されます。あるいは、医療・介護財政が厳しいことを下手に国民に知られて騒がれては、今後、自己負担の増加や保険給付の削減がやりにくくなるので、今は敢えてメディア等への露出を控えているのかもしれません。

財政の危機的状況という点では、既にマクロ経済スライド等の対策が打たれ、今後も5年毎の財政検証で改善が図られていく年金に比べ、(保険料の引上げは後追いで行われていますが)未だ手付かずの医療・介護の方がはるかに深刻です。また、今回は敢えて言及しませんでしたが、医療制度は医師会とモロに利害がバッティングする領域です。そのため、医療制度改革は、医師会を初めとした強力な政治パワーとの調整が不可避であり、政治家、官僚とも手を付けたくないというのが本音かと思います。私たち国民としては、国が医療・介護の危機をアピールしてこない事に安心するのではなく、リスクシナリオを念頭に、前広に自助努力を進めることが賢明と考えます。