日本は団塊の世代が超高齢者となる「大相続時代」を迎えようとしています。大相続時代についてMUFG資産形成研究所は1月の月次レポート「資産所得倍増プランの実現に向けて」の中で、「団塊の世代を含む70歳以上の高齢者層に最も家計金融資産が偏在している環境下、年間死亡数が140万人を超える大相続時代を迎えることになります。特に、団塊世代が80歳代に突入する2030年代は年間死亡数が160万人台となり、現在の約145万人から2040年のピークである約167万人へと大幅な増加が見込まれています。」(P15)と伝えています。
政府は資産所得倍増プランの目標として、家計による投資額(株式・投資信託・債券等の合計残高)の倍増を掲げています。足下(2023年9月末)の家計の有価証券投資残高は285兆円ですが、これを570兆円レベルまで持ち上げようというのです。新NISAがスタートしてNISA全体の残高が倍増したとしても25兆円ほどですから、なかなかハードルの高い目標です。そして、さらに目標の達成を困難にするのが冒頭の「大相続時代」です。株式を相続した相続人は、後になって「二重課税」に悩まされることになります。そのため、被相続人(予定者)の多くが相続発生前に株式を売却し、キャッシュの状態で相続する道を選ぶことになります。結果、株式は次世代に受け継がれることなく、家計の有価証券投資残高は減少します。
ここで、相続株式の二重課税の問題についてお話します。(上場)株式を相続した相続人は、相続した株式を相続発生時の時価(※1)を基準に相続税を納めます。そして、何年か後に相続した株式を売却すると、譲渡益(※2)に関し所得税を納めることになります。問題は譲渡益を計算する際の取得費の考え方です。相続人は相続時の時価をベースに相続税を払って株式を取得したわけですから、相続時の時価を取得費(取得原価)とすべきです。しかし、我が国の税制はそうなっていません。なんと、被相続人が株式を取得した時点の価格を取得費とする定めです。
被相続人が何十年も前に株式を購入したような場合、多額の含み益が生じている可能性が高いです。相続人は相続時点の含み益を反映した時価で、既に相続税を納付済です。それなのに、相続人が相続株式を売却すると、改めて相続時点の含み益に所得税を課税されてしまい、大きな経済的ロスを被ることになります。(米国では相続時の時価を取得費とするルールになっています。) 相続税は相続による経済的価値の移転に着目した課税、所得税は資本所得への課税、と税目の体系が異なるから二重課税には当たらない、というのが税務当局の見解のようですが、私には全くの屁理屈に思えます。
(※1)次の価額のうち最も低いもの。①相続発生日の終値②相続発生日の月の終値の平均③相続発生日の前月の終値の平均④相続発生日の前々月の終値の平均
(※2)譲渡益=売却金額ー取得費ー譲渡費用
政府が資産所得倍増プランを本気で実現したいなら、「大相続時代」が始る前に株式に係る相続税と所得税の二重課税を解消すべきです。もし徴収税額の減少が心配なら、現在余りにも優遇されている不動産の相続税を課税強化すればいいのです。その方が相続税制の資産種別間の不均衡も是正されて一石二鳥だと思いますが、いかがでしょう?
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