不動産VS株式と書きましたが、不動産投資と株式投資は決して相反するものではなく、補完し合うものです。それぞれの長所を活かし上手に使い分けることで、全体の運用効率を高めることができます。しかし、世の中に流布する不動産投資と株式投資の通説には現実と乖離したものが多く、それらを鵜呑みにすると思わぬ怪我をする危険性があります。そこで、今回は①リスクとリターン、②投資の手間、③投資の期間、の3点について不動産投資と株式投資の通説と現実とのギャップについて確認したいと思います。
①リスクとリターン
不動産投資の解説本を読んでいると、「株式はリスクが高く損失を被る可能性がありますが、不動産は安定的に収益を上げることができるので安心です」といった説明を目にすることがあります。株式=ハイリスク、不動産=ローリスク、という位置づけです。ところで、運用を少しでもかじったことのある人にとって、リスクとリターンが比例することは常識です。(正確にはリスクとリターンは比例しませんが、リスクが高ければリターンも高い、リターンが低ければリスクも低い、ローリスク・ハイリターンはありえない、という運用の基本を言っています。) では、不動産のリスクとリターンの水準は如何ほどでしょうか。一般に不動産投資に際しては多額の借入れを行います。少し前までは自己資金ゼロのオーバーローンと言われる融資も、一部銀行を中心に盛んに行われていました。この場合のリターンを計算してみましょう。仮に物件価格1000万円で年間賃料40万円のワンルームマンションがあったとします。CCR(キャッシュ・オン・キャッシュ・リターン)は賃料÷自己資金=40万円÷0円=∞、となります。えっ?リターンは無限大? これは21世紀の錬金術でしょうか。リターンが無限大ということは、リスクも無限大ということです。
不動産投資は当初の計画通りにキャッシュが回っている間は安定的に収益を上げることができます。しかし、金利の上昇や空室の増加、多額の修繕費の発生等のハプニングにより計画に狂いが生じるとローンの返済が滞り、最悪の場合、自己破産・一家離散の危機に直面します。多額の借入れに依存した不動産投資は安定運用とはかけ離れた、超ハイリスク・超ハイリターンの世界です。不動産投資の(デフォルト)リスクを抑えるには、厚めの自己資金を投入しレバレッジ比率を下げるしか手はありません。そして、レバレッジ比率が下がればミドルリスク・ミドルリターンの運用が可能です。
②投資の手間
株式投資は相場の動きを24時間チェックする必要があり、気が休まる暇がない。それに比べ不動産投資はほったらかしでいいので、気が楽です。こんな説明も不動産投資の解説本で目にします。でも、「ほったらかし」は本来、長期の株式投資に相応しい言葉です。内外株式のインデックスファンドを定時定額で買い付けていけば、相場観も企業業績の分析も不要。ほったらかしで何の問題もありません。逆に不動産投資こそ手間をかける必要があります。投資といいますが、不動産投資は本来不動産賃貸業と呼ぶべきもの。不動産投資家は事業主として、自らの手で経営に参画する気概と覚悟が必要です。賃料の回収、物件のメンテ、空室の募集等事業主としての仕事は山ほどあります。賃貸管理を業者にアウトソースすることは可能ですが、それは収益の低下を意味します。また、賃料保証を謳ったサブリースの問題点はここでお話するまでもないでしょう。管理を業者に委託する場合も丸投げは避け、定期的に物件に足を運び自分の目で管理の状況をチェックする等、手間を惜しむべきではありません。
③投資の期間
不動産投資は将来の年金や生命保険の代わりになります。またローンを払い終わったあとは資産として残ります。こんなセールストークを不動産会社の営業マンから聞いた方は多いでしょう。でも、ローンを払い終わった35年後、貴方の目の前にあるマンションの姿を想像してみて下さい。現在新築の物件でも築35年の築古となります。築10年なら築45年もの。そんな超築古マンションに資産価値はありません。下手したら幽霊マンション化して負動産になっているかもしれません。何でこんなことになるのでしょうか? それは不動産が現物投資だからです。不動産は野菜や魚と同じで、時間の経過とともに腐っていく運命にあります。ですから不動産投資は時間との勝負です。中期目線での投資となります。営業マンの言う通り35年も物件を抱えていたら大変なことになります。不動産投資は投資開始の時点で、ちゃんと出口を意識しておくことが肝要です。出口のない不動産投資はありません。劣化する前に物件は売却し、別の物件を購入する。これの繰り返しです。5年~10年程度の中期での入れ替え売買(5年内に売却すると短期譲渡所得として税金が高くなります)が、不動産投資の基本的なリズムです。
一方、株式投資は長期目線での投資が好ましいです。不動産投資に比べ不確定要素の多い株式投資では、短期~中期目線では需給や市場参加者の思惑といったノイズの影響が大きく、収益が安定しません。長期目線で投資に取り組むことで、投資先企業の成長と安定した収益を得やすくなります。