私は不動産投資の経験はありません。最初に白状しておきます。なぜ不動産投資をしないのかといいますと、【表1】のように不動産投資は株式投資と比較して、とても難易度が高いと考えるからです。生半可な覚悟で参入したら大怪我します。私はチキンなんです。ですから、本来、私に不動産投資の話をする資格はないのですが、そこのところは大目に見ていただくとして、以下では株式投資を補助線にして、素人の目に映る不動産投資の特徴を語ってみたいと思います。
それでは、不動産投資と株式投資のメリット・デメリット比較から参りましょう。
不動産を売買するときは、不動産会社に物件の売りや買いを依頼します。不動産取引は、1対1、相対で行われます。取引は密室で行われ、通常、外部のものが伺い知ることはできません。
一方、株式を売買するときは一応証券会社を通しますが、実際は証券取引所で多数の買い注文と売り注文を一斉にぶつけます。売買の状況は、インターネット等を通じて確認することができます。この売買形態の違いが、【表1】の流動性、コスト、情報の対称性の違いとなって現れます。流動性については不動産の場合、個別に不動産会社が取引の相手方を探してくることなりますから、相応の時間がかかります。株式の場合は、証券取引所に売買注文を出せば即日約定が可能です。このように、流動性に関しては、株式が圧倒的に有利です。
取引コストも不動産の場合は、どうしても高くなります。(例:売買金額×3%+6万円)
また、不動産は現物投資特有の管理費や固定資産税等の税金、火災保険料等の固定費がかかります。株式の場合は、ネット証券を通じて注文を出せば、売買手数料0円のケースもあります。
投資家と業者の情報の対称性に関しても、不動産の場合、情報は業者(不動産会社)に集中し、投資家は業者から提供される情報に頼るしかないのに対し、株式の場合は、投資家はインターネット等を通じて容易に情報を収集できるため、業者(証券会社)と投資家の情報格差は少ないと言えます。
また、証券会社の社員は、金融商品取引法によって株式の売買は原則禁止されているのに対し、不動産会社の社員はそのような法規制はなく自由に取引ができます。ここのところは重要です。本当においしい案件は、投資家に情報が流れる前に不動産会社の内部や業者間で消化されます。そして、不動産会社が食べなかった案件が富裕層等のお得意様の投資家に流れ、さらにあぶれた案件が私たち一見さんの投資家のもとに流れてくるわけです。
セーフティネットについては証券会社が破綻した場合、投資者保護基金が認めたものは1顧客あたり1000万円まで補償されますが、不動産会社が破綻しても個人投資家を守ってくれる制度はありません。この点も重要なポイントです。
なぜ、国は株式投資家を保護するのに、不動産投資家は保護しないのか。それは、国が株式投資家はアマチュアだから保護する必要があるけど、不動産投資家はプロだから助け船を出す必要はないよね、と考えているからです。株式投資はBtoCだけど、不動産投資はBtoBだということでしょう。不動産投資に覚悟がいるというのは、そういうことです。
でも、ちょっと待ってください。確かに不動産市場は株式市場と比べ非効率的です。しかし、その非効率性(流動性、コスト、取引金額、情報の非対称性)を逆手に取れば、収益チャンスに変えることが可能かもしれません。不動産は株で言えば新興市場株、いや未公開株(PE:プライベートエクイティ)に近いです。未公開株は流動性、取引コストとも上場株に劣りますが、未公開情報を上手く入手できた場合には大きなチャンスが訪れます。
不動産も同じだと思います。安くない授業料を払う必要はありますが、不動産会社からお得意様とみなされた投資家は、不動産会社が持っているホットな情報を手にすることができます。陳腐化していないホットな情報に、誰よりも早くアクセスすること。それが不動産投資での成功の鍵ではないでしょうか。
不動産マーケットの特徴を語るにあたって、地主の存在は無視できません。サラリーマンが不動産投資する際は、建物だけでなく土地の購入資金を用意しなければいけません。しかし、地主は土地を無料で用意することができます。不動産投資に関し両者の損益分岐点には、決定的な差があります。普通に戦ったら、サラリーマン大家に勝ち目はありません。何とか勝負に持ち込むには、物件の仕込み価格を抑えるしかないと思います。そのためにも優良な情報が必要です。
これから2035年に向け、我が国は大相続時代に突入します。2035年には団塊の世代が皆85歳以上になります。地主大家が保有している優良物件が、相続を経て不動産市場に大量に供給される可能性があります。これらの物件は相続税の納税の関係で売却期限があり、ある意味買い手優位の案件です。相続物件の情報に早期にアクセスできれば、お宝案件との出会いがあるかもしれません。
不動産ならではのメリットもあります。不動産賃料の安定性は株式にはない魅力的なものですし、ローンの借りやすさも株式とは比較にはなりません。しかし、だからといって頭金なしのフルローンはお勧めできません。ローンの割合は一定限度内に抑える必要があります。また、不動産投資は「投資」の名前が付いていますが、実態は限りなく不動産事業に近いものです。不動産投資をする場合は管理会社に任せきりにせず、不動産賃貸会社の社長になったつもりで経営に積極的に関与すべきです。それだけに、成功した場合の達成感も、株式投資にはないものと推察します。
最後に、不動産投資と株式投資で決定的に違うと思われる点をお話します、それはゲームのルールです。株式投資は時間を味方につけて長期で戦うゲームです。短期では上がり下がりする株価も、長期では上昇トレンドを描くことが期待できます。勝つまで待つことができます。一方、不動産は現物であり生ものです。時間の経過とともに劣化していきます。物件が腐り切る前に、勝負のケリを付けなければいけません。つまり、不動産投資は中期の勝負(長期譲渡所得の対象となる5年程度は保有する)であり、投資開始時からしっかりと出口をイメージしておくことが肝要だと思います。
因みに、運用資産230億円を誇る個人株式投資家のカリスマcisさんですが、不動産にも投資をしているそうです。リーマンショックで不動産価格が暴落したタイミングで購入したとのことで、不動産投資の腕も一流ということでしょう。そのcisさんいわく、「罰ゲームを受けているような気持ちになる」そうです。詳細は、「一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学cis」(角川書店)をご覧下さい。