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株式

【株】長期投資の本質

今回は長期投資の本質について考えたいと思います。長期投資の考察は次の式から始まります。
P=EPS×PER(※)
ここで、Pは株価、EPSは一株利益、PERは株価収益率です。この式はとても簡単に導けます。
P=EPS×P/EPS  尚、P/EPSは以後PERと呼ぶことにします。(P/EPS=PER)
以上、ただの数式の読み替えです。なんとも簡単な式ですが、これが重要な式なんです。

EPSは「当期純利益÷発行済株式総数」で計算され、株主が1株持っていた場合に1年間に受け取れる利益(配当+値上がり益)のことです。そして、EPSは会社の業績に連動します。次に、PERですが、これは株主が投資した資金を何年で回収できると予想(期待)するか、その年数を意味します。ここで注意が必要なのは、EPSは企業利益という実績値であるのに対し、PERは株主=投資家の心理状態を表す期待値である点です。PERは投資家の気分次第で不規則に変化します。例えば、A社株に対し10年間で資金を回収しようと想定していた投資家が、翌日になって20年先までに回収できればいいと考えを変更した場合、EPSが不変であれば株価は2倍になる計算です。このように、PERは株式に対する投資家の人気のバロメーターと言えます。人気の高い会社の株ほどPERは高くなります。
短期的な株価の変動をランダムウォーク(千鳥足)というのも、気まぐれなPERのせいです。

ここで、EPSとPERの特徴について考えてみましょう。まず、EPSですが、EPSは企業の業績に連動しています。先々のEPSを予測することは、企業業績を予測することと同じです。1年、2年先といった短期の企業業績の予測は可能かもしれませんが、10年、20年先といった長期の企業業績の予測は不可能です。私たち長期投資家は、EPSの予測は無理とのスタンスで株式投資に臨む方が賢明です。ただ、ひとつ言えるのは、良い会社の業績はどんどん良くなり、悪い会社の業績はどんどん悪くなる傾向があるということです。つまり、EPSのリスクは発散型です。それでは、具体的にどう対応すればいいのか。答えは、銘柄・業種の分散投資です。複数社に分散投資し、うち何社かは業績悪化で株価が低迷し、さらに何社かは倒産するかもしれない。でも、1~2社は良好な業績で株価も上昇するだろう。そんなアバウトな前提で分散投資するのです。
例えば、5社の株式に1万円ずつ投資するとしましょう。5年後、1社の株価は5倍になり、他の2社は業績低迷により株価は半分、残りの2社は倒産して株価はゼロになったとします。こんな悲惨なケースは珍しいです。では、全体資産の金額はどう変化したでしょうか。1社は株価が5倍で5万円、2社は株価が半分で5千円×2=1万円、2社は株価0円で、計6万円です。そう、こんなひどいケースでも、5万円はちゃんと6万円になりました。長期投資においては、株価が投入金額の10倍以上になることは珍しくありません。また、0円以下に値下がりすることもありません。このようにEPSの発散型変動リスクは、損益の非対称性を活用した銘柄・業種分散投資により希薄化することが期待できます。

次に、PERの特徴についてです。先程、PERは株主が投資した資金を何年で回収できると予想するか、その年数のことだと言いました。PERは株主=投資家の期待値で心理的な変数です。何の具体的根拠もなく投資家の思惑だけでPERは上昇し、下落します。しかし、短期的には不規則に上下動するPERも、中長期的には一定のレンジに収まることが知られています。つまり、PERのリスクは収束型です。日経平均株価であれば、PER=15倍程度がレンジの中央値となります。そこで、PERの収束型変動リスクは、時間分散投資(ドルコスト平均法)によって低減を図ることが期待できます。

長期(分散)投資の本質は、①長期の時間軸で複利効果のメリットを最大限享受しつつ、②銘柄・業種分散投資でEPSの変動リスクと、③時間分散投資でPERの変動リスクの低減を図ること、にあります。

<付録>
ときどき、長期投資のリスクが高いか低いかで議論している人を見かけます。これは、一方が(EPSの)リスクは長期の方が高いと主張し、もう一方は(PERの)リスクは長期の方が低いと主張しているわけです。両者は異なる論点に立って議論していることに気づいていません。双方の主張はそれぞれ正しく、この議論は永遠に平行線を辿ります。
私たちは長期投資におけるEPSの高リスクを、銘柄・業種分散投資を行うことで希薄化することを目指しています。