持家(分譲)と賃貸、どっちがお得か?今回はこの永遠のテーマについて考えてみましょう。
(※)以下では比較しやすいように分譲マンションと賃貸マンションを例にお話を進めます。
皆さんの中にも不動産業者の次のようなトークに誘われて、賃貸マンションから分譲マンションに住み替えた方がいるかもしれませんね。「分譲マンションは家賃並みのローンで住めますし、将来、資産として自分のものになります。賃貸マンションは高い家賃を払っても資産として何も残りませんから、今すぐ分譲に住み替えた方が絶対お得です!」
では、頭の整理から始めましょう。この問題の本質は、売買と賃貸という異なる契約形態でのコスト比較にあります。契約形態以外の条件は同じでないと、公正な評価はできません。持家か賃貸かの話になると住宅市場・賃貸市場で実際に観察されたデータを引用し、分譲マンションのローン返済額と賃貸マンションの賃料を比較したりしますが、これはダメです。
分譲マンションと賃貸マンションでは、立地や床面積は同じでも、一般に建物のグレードが異なります。グレードの異なる2つの物件を比較しても意味がありません。同一物件(グレード)において、分譲契約と賃貸契約での契約形態の違いによるコストの差異のみを比較すべきです。カローラのリース料とレクサスのローン返済額の大小を比較しても意味のないことと同じです。
同一物件で分譲と賃貸のコスト比較なんてできるのかと思われるかもしれませんが、以下のようなケースなら可能です。皆さんの友人や会社の同僚で、新居を手にしたとたん転勤を命じられた可哀そうな人はいませんか?そういう人は、泣く泣く新居を賃貸に出すことになります。その際、この友人・同僚は賃料をどういう基準で決めるか、想像してみてください。
まず、月々のローン返済額以上であることが最低条件でしょう。また、税金等の固定費の一部も賃料に含めたいところです。さらに、賃貸人としての利益や空室・滞納リスクも賃料に上乗せしたいと考えるかもしれません。(業者が賃貸人の場合は、当然そうなります)そうすると、賃料は以下のような式で決定されると思われます。
賃料=ローン返済額+固定費の一部+賃貸人の利益+リスクプレミアム=ローン返済額+α (α=固定費の一部+賃貸人の利益+リスクプレミアムとします)……①
となります。従いまして、賃料>ローン返済額、が成立します。
【結論1】同一グレードのコスト比較では、賃貸より分譲(持家)の方がお得
結局、先の不動産業者の営業トークが正しかったことになります。
細かい理屈は抜きに、そもそも論で片付けることもできます。分譲(持家)の場合のプレイヤーは建設会社と買い主の2人ですが、賃貸の場合は、建設会社、買い主=賃貸人、賃借人の3人、場合によってはさらに転借人が加わり4人となります。プレイヤーが増えるほど人件費とマージンが上乗せされますから、当然に【結論1】が正しいことになります。
さらには、賃料を月々のローン返済額以上に設定しようとする①式に問題があります。分譲物件のオーナーはローン返済後に物件を売却することで、返済額を一部回収することができます。ですから、賃料はローン返済額から将来の売却見込み額を控除した金額を起点に算出されるべきです。そういう意味で、①式をベースに決定した賃料は割高と言えます。
では、分譲(持家)の方がお得だとして、世の中にこれだけ賃貸物件が存在するのはなぜでしょうか。それは、グレードにこだわらなければ、賃貸物件は分譲物件よりも低価格で居住することが可能だからでしょう。
さらに、コスト以外にも賃貸が選ばれる理由があります。それは次のような賃貸メリットがあるからです。
・会社が賃貸住宅に住む社員に家賃補助を行っており、賃料負担が軽減される
・住宅ローンの返済リスクを負わない
・持家は経年劣化するが、賃貸は住み替えを行うことで新築に近い状態を維持できる
・賃貸はライフステージに合った間取りの物件に機動的に住み替えできる
・管理費、修繕積立金、税金等維持費が不要
・夫婦いずれかが一人っ子で親の自宅を相続する予定の場合、賃貸住宅に居住していれば相続税で優遇措置を受けられる(家なき子特例)
・地震等の天災で建物が被災しても問題ない
一方、分譲(持家)にも以下のようなメリットがあります。
・物件のオーナーとして満足感を得られ、リフォーム等も自由にできる
・資産として将来売却したときに売却収入が期待できる
・住宅ローン控除や住まい給付金、贈与税の非課税制度等、税制優遇措置がある
・他人に賃貸することで賃料を得ることができる
以上により私の最終的な結論は次の通りです。人々は分譲(持家)と賃貸を、コストだけでなく定性的な観点を加味し、総合的に判断している。
【結論2】人の好み、環境等によって賃貸の方がお得な場合もあり、一概に持家がお得とはいえない
えっ、結論になってない。これは失礼致しました。