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閑話休題

【閑】日本語は難しい

先日、ある会議の後で、70代の先輩からふいに年齢を聞かれました。私は「59歳です。年が明けると60歳になります。」と答えました。先輩は驚いた様子で、「えっ、59歳? お前、若いな。」と言ったのです。私は先輩が私のことを年齢より若く見えるから驚いたのだと理解し、即座に「ありがとうございます」とお礼を言いました。
家に帰ってから私は、「ちょっと、待てよ」と思いました。ひょっとしたら先輩は、私の見た目より実年齢が若かったことに驚いたのではないか。つまり、私は先輩が驚くほど老け込んだジジイということではないか。その可能性もあることに気付いたのです。

真実は先輩に確認するほかありませんが、改めて日本語の難しさを実感した次第です。英語であれば、”You are younger than you look.”と”You look younger than you are. ” で明確に区別できますが、日本語では比較対照をブラインドにして、単に「君、若いな。」で済ましがちです。これでは最悪の場合、話し手と聞き手で解釈が180度異なり、意図しない誤解が生じてしまいます。

これと似たようなことって、気付かないところで色々起こってそうで怖いですね。



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保険

【保】共済と保険

最近ある方から共済と保険の違いは何かと、質問を受けました。どちらも掛金(保険料)を払って、将来のリスクに備える点では同じです。運営主体が農協や生協、全労済等の非営利団体か保険会社かといった点や、共済は保険に比べ給付に制限がつくことが多い反面、掛金が低額である点等に違いがあります。また、共済には運営主体の決算で剰余金が発生した場合、契約者に割戻金が支払われるという特有の制度もあります。
それでは、共済と保険の商品性を具体的に比較していきたいと思います。ここで全商品を取り上げる余裕はないので、共済を代表して全労済が契約引受団体となっている「こくみん共済」の「医療保障タイプ」にご登場いただきましょう。保障内容は下表の通りです。

まず目に付くのが、掛金が加入時の年齢・性別に関わらず2,300円と一定であることです。(医療保険では、保険料は加入年齢が低いほど、また男性より女性の方が安くなります。) それから、各種共済金の給付額が、60歳以降5歳ごとに引き下げられています。

次に、某生保の医療保険を見てみます。保障内容は「医療保障タイプ」に近いものにしています。

上記医療保険の場合、先進医療給付金の最高限度が2,000万円になっているほかは、概ね「医療保障タイプ」の保障内容を下回っています。死亡・重度障害保障はありませんし、通院給付金は入院や手術、放射線治療に伴う通院に限定されており、「医療保障タイプ」の通院共済金よりも給付要件が厳しくなっています。(ただし、通院共済金は病気による通院は給付対象外です。) 医療保険の入院給付金は日額5,000円・支給限度120日で、「医療保障タイプ」の日額10,000円・支給限度180日を下回ります。

このように、上表の医療保険は保障内容が一見「医療保障タイプ」よりも劣っているのに、保険料は「医療保障タイプ」よりも高くなっています。これはどういうことでしょうか? 保険の運営主体が保険会社という営利団体だということもありますが、医療保険が終身で保障を約束している影響が大きいです。つまり、「医療保障タイプ」は病気になる確率がアップする60歳以降の保障が大きく切り下がり、「掛捨て」となる可能性が高いのに対し、医療保険は終身保障のため「元を取れる」可能性があり、その分だけ保険料が高く設定されているわけです。

掛捨ての安い掛金を選ぶか、終身保障の高い保険料を選ぶか、個人の好みの問題です。ただ、「時間を買う」医療保険の原則からいうと、共済を選ぶ方が合理的です。つまり、貯蓄が十分な金額になるまでの期間は医療費の負担を低額の共済で凌ぎ、十分な貯蓄ができたら共済は解約する。高齢期の医療費は公的医療と貯蓄で対応する。これがスマートな共済/保険との付き合い方です。しかし、お守りとして、また、財布代わりに使いたい人には保険の方が向いているかもしれません。

最後に、共済の割戻金について触れます。県民共済愛知県生協のパンフレットによると、令和3年の割戻率の実績について、こども型で掛金の13.89%、総合保障型・入院保障型、医療特約で36.71%、熟年型・熟年入院型、塾年医療特約で28.46%とのことです。相当に魅力的な数字です。低額な共済の掛金の実質的な負担が、さらに低下するという話です。共済、恐るべし!

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株式

【株】投資を楽しむ

株式投資をやるからには、儲けを狙うだけでなくプロセスを楽しみたい、他人にアピールしたい。そんな人にとって、ほったらかし投資ほどつまらないものはないでしょう。大事なお金をつぎ込んでいるのに、投資をしたら後は見ているだけなんてもったいない。そんな声が聞こえてきます。

投資を楽しみ、投資をアピールするには、マーケットに参加して積極的にトレードを行うことが必要です。スリルを味わいたいなら、信用取引や先物・オプションといったデリバティブ取引が効果的です。

ただ、残念ながら投資の儲けと楽しみは両立しません。投資は、他人の嫌がるリスクを引き受ける代わりに報酬(儲け)をいただく行為です。本来、そこに「楽しむ」余地はありません。投資は辛いものです。ですから、投資を楽しもうと思ったら、儲けに係わらず「エンタメ料」を別途支払わなければいけません。「ええじゃないか」や「スチールドラゴン2000」なみのスリルが味わえる信用取引やデリバティブ取引は、かなり高額な料金となります。

ケチで小心者の私は、地味にほったらかし投資を続けています。

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株式

【株】2つのユーロ円

今回は、金融関係者にとっては常識かもしれませんが、一般には余り知られていない、そんなお話です。
6月13日の日経新聞朝刊に、「東急、CBで600億円調達」と題する記事が掲載されました。「東急は12日、ユーロ円建ての新株予約権付社債(転換社債=CB)を発行し、……」と記事は続きます。この記事、よく読むと何か変だと思いませんか? ユーロは言うまでもなく、EU加盟国の共通通貨のことです。東急が通貨ユーロを調達したのなら、冒頭の記事は「東急は……、ユーロ建ての……」となるはずですが、「東急は……、ユーロ円建ての……」となっています。「ユーロ円」って「1ユーロ=150円」みたいな、ユーロと円の交換比率のことじゃなかったっけ? ユーロ建て? 円建て? 東急はどっちで調達したの? 記事の内容が意味不明です。
ここで先にネタばらしをすると、「ユーロ円」には「ユーロと円の交換比率」の他に、もうひとつ別の意味があるんです。

話は1950年代に遡ります。当時、アメリカとソ連(今のロシア)は、資本主義V共産主義というイデオロギーのもと、世界を2分して激しく対立していました。そして、ソ連陣営に属する東欧諸国は、アメリカによる差し押えを回避するため、自国の中央銀行が保有する米ドルを西欧の銀行に預けていました。米国の主権が及ばない国外に預けられたドルは「ユーロドル」と呼ばれました。その後、「ユーロドル」に倣って自国市場外で取引されるドル以外の通貨も、ユーロなら「ユーロユーロ」、円なら「ユーロ円」と呼ばれるようになったのです。冒頭の記事を、東急が(日本国内にある円ではなく)海外にある円を調達する、という意味で読めばすっきり腹落ちします。

「ユーロ円」がどちらの意味で使われているのかは、その都度文脈から判断するしかありません。ややこしいですね。

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不動産

【不】再考、持家か賃貸か?

以前、持家と賃貸、どっちが得か議論しました。(持ち家と賃貸) そのときの結論は、同一グレードの物件での単純なコスト比較なら持家が得だけれども、定性面を含めた総合的な評価では持家が得か賃貸が得かは一概に言えない、というものでした。今回は、不動産投資家にとって持家と賃貸のどっちが得か、改めて考えてみたいと思います。一般の方の場合とはまた違った結論になるかもしれません。 

収益物件への投資を考える人が住宅ローンで持家を購入すると、その分アパートローンの与信枠を食われてしまい、以後の投資に支障が出ます。不動産投資家は自身の与信枠をアパートローンに集中する方が合理的です。たとえ、ハイパフォーマーであっても社宅等の借り住まいで我慢し、不動産投資による賃料収入の獲得に専念すべきです。また、リスクテイクに余力のある方には、併行して株式投資を行うことをお薦めします。不動産投資のレバレッジ効果と株式投資の複利効果の両輪で、資産は大きく成長することでしょう。知らんけど。

そこまでリスクを取りたくないという方には、ヤドカリ投資をお薦めします。これは、持家の住み替えを繰り返しながら、キャピタルゲインを積み上げていく投資手法です。ヤドカリ投資では、まず自己居住用の持家を住宅ローンで購入します。ここで大切なことは、将来高く売却できる可能性のある物件を選ぶことです。そして、値上がりのタイミングを捉えて物件を売却します。ヤドカリ投資の良い点は、意に反し物件が値下がりしても、そのまま住み続けていれば損失が顕在化しないことです。投資の失敗が致命傷となりにくいのです。
また、ヤドカリ投資で購入するのは自宅であるため、低利の住宅ローンを利用できます。さらには、持家を売却して利益が出た場合、所有していた期間に係わらず3,000万円までの特別控除を使えます。これは、収益物件にはない優遇措置で、ヤドカリ投資の大きなメリットです。なお、ヤドカリ投資では条件を満たせば住宅ローン控除も使えますが、3,000万円の特別控除との併用はできませんので注意が必要です。

不動産投資家にとって持家と賃貸のどっちが得か。アパートローンを利用して収益物件への投資を考えている方なら賃貸が得、ヤドカリ投資を考えている方なら持家が得、となります。

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株式

【株】初夏の大花火大会

なぜ、相場は上がるのか? 投資経験のない人に聞いたら、「買う人がいるから」という答えが返ってくるでしょう。でも、私たち投資家は知っています。相場が上がるのは、「売る人がいるから」ということを。

確かに、上げ相場は買う人がいなければ始りません。でも、買い方が中心の上げ相場は、上げ幅が限られ長続きしません。想定外の急激な上げ相場の裏には、必ず売り方の踏み上げ(損失覚悟の買い戻し)があります。相場が上がる⇒売り方が踏む&新たに売建てる⇒相場が上がる⇒売り方が踏む&新たに売建てる⇒……⇒……。この売り回転が効いている限り、上げ相場は続きます。因みに、足下の日経平均の売り方の状況(空売り比率)は下表の通りです。

(出所:日経平均リアルタイムチャート

日経平均が27,000円台に留まっていた3月下旬から空売り比率は40%台のまま、変わっていません。今回の上げ相場で売り回転が効いている証拠です。しかし、売り方は相場の上昇で損失を被りながら、なぜ性懲りも無く再び売りを入れるのでしょうか。それは、彼らが近い将来、相場が下げに転じると確信しているからです。
米国の債務上限問題や金融機関の破綻、日本でも物価上昇や日銀金融政策の変更観測等、売り材料を上げたらきりがありません。明日、相場が急落したとしても何の不思議もないです。でも、市場に弱気なムードが漂っているときほど、意外と上げ相場は続くものです。

では、この上昇相場はいつ終わるのでしょうか? 正確なところは、神様に聞いてみないと分かりませんが、予兆を探る手立てならあります。それは、空売り比率の変化に注目することです。売り方が相場の下落に賭けることを諦め、売りポジションをたたんで空売比率が低下したら要注意です。上げ相場継続の条件である売り回転が効かなくなるからです。
売り方の買い戻しは、最初は少しずつですが徐々にヒートアップし、最終局面ではパニック的な様相を呈します。もはや株価を意識する冷静さは失われ、われ先にと日経平均を買いまくります。そして、初夏の夜を彩る打ち上げ花火のように、株価は天空を目指します。
恐らくこの瞬間、日経平均株価は、当面の高値を付けることになるでしょう。

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不動産

【不】不動産投資そもそも論

不動産投資は最終目標(ゴール)をどこに置くかによって、大きく2つのタイプに分かれると思います。

一つ目は、保有する物件数の極大化を図るタイプです。30年~40年後、全ての借入れの返済を終えた時点でひとつでも多くの物件を保有し、豊富な賃料収入で悠々自適なシニアライフを目指す。そんな、ストック志向型のアプローチです。
このタイプでは、フルローン、オーバーローンを厭わず、可能な限りの借入れを行い、レバレッジをフルに効かせて物件を買い進めていきます。しかし、借入れの返済計画に狂いが生じた途端、自己破産に一直線となる危険性と隣り合わせであることを忘れてはいけません。

それだけのリスクを負って物件を買い進めた先にある到達点ですが、そこには厳しい現実が待っています。40年後、手元にある築古マンション達に、キャッシュフローを生み出す力がどれだけ残っているでしょうか。ほとんどが幽霊マンションと化し、空室が大量に発生したり、設備の老朽化で高額な修繕費が必要になったりと、毎年増加するキャッシュアウトに悩まされることでしょう。これらの負動産に年金の代わりは期待できません。「こんなはずじゃなかった」と嘆いてみても、あとの祭りです。
そもそも、大きくレバレッジを効かせたストック志向型のアプローチは、米国のようなインフレ傾向の国で、時間の経過とともに借入れの実質価値が減価していく環境でこそ有効な戦略です。デフレ傾向の我が国においては、借入れの実質価値が時間とともに増大するので、大きなレバレッジは不利です。(今後、日本でもインフレ傾向が定着すれば、ストック志向型アプローチが有効となるでしょう。)

二つ目は、各種リスクへ配慮しつつ物件の購入・売却を繰り返し、獲得するキャッシュの極大化を図るタイプで、フロー志向型のアプローチです。
このタイプは、十分な頭金と借入れで物件を購入し、物件の賃料で短期間での借入れ返済を目指します。完済したところで改めて借入れを行い、もう1物件を購入、以後2物件で借入れを返済していきます。当然、返済スピードは早くなります。その後も完済と同時に借入れを行い、物件を買い増していきます。そして、購入した物件は5年~10年単位で売却し、別の物件に入れ替えます。購入と売却のサイクルの中で、賃料利回りと借入れ金利のスプレッドを抜いていくイメージです。これはJREITや私募不動産ファンドが採用する戦略と同じで、日本のように低金利な環境で有効となります。
なお、このタイプは頭金の確保がネックとなりますが、ローンの破綻リスクは限定的です。また、継続的に物件の売却と購入を繰り返すので、流動性も確保できます。さらには、物件の購入と売却のタイミングを分散しており、金利や不動産市場等マクロ環境の変動リスクにも対応可能です。
不動産市場が低迷している場合、物件の売却には不利ですが、物件を購入するには最高の環境です。この戦略では売りと買いがセットとなるので、不動産市況の影響を中和することができます。

以上、不動産投資の2つのアプローチについてお話をしましたが、実際は両者の中間を行く投資家の方が多いと思います。また、今回は主に不動産投資のマクロ的な側面に触れましたが、優良物件の仕込み方や物件の管理手法等ミクロ的な側面も運用の成否を分ける重要なファクターとなります。

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株式

【株】相場予想が当たらない訳

お正月の日経新聞では、大手企業の経営者が向こう1年間の株式相場の予想を行うことが恒例となっています。また、毎週月曜日には証券各社のホームページに、アナリストの「今週の相場予想」がアップされます。このように、いたるところで様々な立場の人たちが、日々相場の予想を行っています。しかし、私は30年以上マーケットの近くで仕事をしていますが、高確率で予想をヒットさせる人にはお目にかかったことがありません。

でもちょっと考えれば、超能力の存在でも前提にしない限り、相場の予想などできるわけないことが分かります。月曜日の朝、A証券会社のアナリストB氏が自社のホームページに今週の相場予想をアップするとします。時刻は、ただいま7:00AM。B氏は新聞各社の報道、情報端末やインターネットの記事等、7:00AM時点で入手可能なあらゆる情報をもとに完璧な相場予想を目指します。しかし、この予想はあくまで7:00AM時点の情報がベースです。7:05AMに新たなニュースが飛び込んできたら、7:00AM時点の相場予想の完璧性は崩れます。これが、1日後、1ヶ月後……と、時間が経過するにつれ当初は想定していなかった情報があふれ、相場予想は占いと化します。明日のことならいざ知らず、アナリストに将来の相場予想を期待することは、最初から無理な相談なのです。今や世界は24時間繋がっています。世界中のどこかで起きた事件、現象を相場は即座に織り込みにいきます。相場は自ら意思を持つ生き物の如く、時宜刻々と行き先を変えます。

プロの短期投資家は、相場の方向性にベットすることはありません。相場の方向性を予想することが無意味であることを知っているからです。彼らの判断軸は統計データです。拠って立つのは、あくまでサイエンスです。過去の何十万、何百万というデータと照らし合わせ、今現在の相場の値動きに統計的に有意な異常性(アノマリー)を見い出したら瞬時にポジションを取り、異常性が消えた次の瞬間にポジションを解消する。この瞬時の僅かなサヤ取りを、アルゴリズム取引による超高速売買で繰り返し繰り返し行い、収益を積み上げるのです。
私たち個人投資家に、プロの短期投資家の真似はできません。私たちにできるのは、信頼のおけるアナリストの相場予想に、時間の経過によって新たに加わった情報を自身の手で織り込み、エコノミストの相場予想をアップデートすることです。そして、アップデートした相場予想をもとに投資戦略を考えることです。しかし、アップデートした相場予想も数分後には一部が陳腐化し、時間とのいたちごっこが始ります。

結局、個人投資家も相場にベットすることはあきらめ、相場観を入れないドルコスト平均法によって、機械的に定時定額投資を続けることが賢明なように思います。

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保険

【保】保障最新化の罠

医学の進歩に伴い、医療の現場は日々変化しています。10年前は常識であったことが現在においては非常識、といったことが頻繁に起きます。例えば、がんの治療は、10数年前であったら手術の後、入院した状態で放射線や抗がん剤の治療を行っていました。自ずと入院は長期化します。しかし、今では余程大きな手術の後でも2週間程で退院し、通院しながら外来で放射線や抗がん剤治療を受けることが一般的です。
医療保険やがん保険の保障は、その時々の医療の実態に合わせ最適な状態に設計されます。したがって、保険の保障も医学の進歩に伴い時間の経過とともに陳腐化し、使いものにならなくなります。2週間で病院を追い出されるのに、がん保険に長期の入院保障は不要です。

保険会社や代理店は、実態に合わなくなった古い医療保険やがん保険の保障見直し(保障最新化)を盛んに契約者に訴えます。役に立たなくなった保障内容を放置したら、いざというときに契約者からクレームが出ることは避けられません。保険会社や代理店は契約者(被保険者)の利益を守り、さらには契約者(被保険者)の命を守るため、必死になって古い保険契約の最新化を訴えているのです。でも……、それだけでしょうか?

保険は若いときに加入した方がお得と、昔からいいます。確かに、終身払いの保険の場合、20歳で加入した方が40歳で加入するよりも保険料の月額は安くなります。なぜ安くなるか。その理由ですが、若いときに加入した方が保険料を払う期間が長くなるからというだけではありません。病気になって保険金が支払われる可能性が高いのは、当然高齢者です。若年者は病気になる可能性は低く、保険金が支払われることもほとんどありません。つまり、保険会社にとって、高齢者はリスクが高く、若年者はリスクが低いということです。そのため、若いときに加入するほど保険料は安く設定されます。そして、若年者が払った保険料は自身の保険金として還元されることはなく、そのほとんどが掛け捨てとなり高齢者の保険金に充当されます。

ただ、これは不当ということではありません。安い保険料で加入した若年者も、やがては高齢者となります。病気がちとなり、通院だの入院だの手術だのと、頻繁に保険金の支払いを受けるようになります。つまり、若年期に掛けた保険料は、高齢期に元を取る仕組みになっているわけです。しかし、これは当初の契約を終身で継続した場合の話であって、途中で見直しを行った場合には該当しないことに注意が必要です。保険の見直しとは旧契約を解約し新しい契約に入り直すことですが、保険料も見直し時点の年齢で再計算されます。つまり、保険契約を見直すとは、若いときから掛けてきた保険料を高齢期に取り戻す権利を放棄し、年齢に見合った高いリスクを織り込んで再計算された割高な保険料に乗り換えることを意味します。
保険会社にしてみれば、若年者が高齢期に差し掛かった後は割安な保険料で保険金を支払わなければならず、逆ザヤとなります。そして、この逆ザヤは解消すべき経営課題となりましょう。

保障の陳腐化を避け、いざというときに役に立つ保険の質を維持するためには、定期的な保障の見直し、保障の最新化が欠かせません。保険会社や代理店のこの言葉に偽りはありません。しかし、保障の最新化によって失われる契約者の利益があることも憶えておいてほしいと思います。

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不動産

【不】10年で資産を倍にするには

10年で資産を倍にする。言うのは簡単ですが、いざ実行しようとしたら大変です。今回は株式や不動産を使って、はたして10年で資産を倍にできるかどうか、頭の体操をしてみたいと思います。

まず、株式です。一般に株式投資では複利効果を活用して資産を増やします。ご存じの方も多いと思いますが、「72の法則」というものがあります。これは資産が倍になる年数と利回りをかけると72になるという法則です。例えば、利回りが6%なら、だいたい12年で資産が倍になります。(6×12=72) 今回は10年で資産を倍にしたいので、必要な利回りは7.2%となります。皆さん、どうお感じでしょうか。私には7.2%の運用を10年も続ける自信はありません。また、過去の相場から考えると、10年の間に20%程度の相場下落を1回、10%程度の下落を1回は想定しておく必要があると思います。その場合、残りの8年間で必要な利回りは13.6%まで跳ね上がります。(※)
(※) 1×(1-0.2)×(1-0.1)×(1+0.136)^8=1.997
やはり、10年で資産を倍にするのは相当に難易度の高い宿題です。 
また、10年後に資産をキャッシュ化する場合、株式の売却に伴い(NISA等の非課税枠が使えない場合)20%の所得税を覚悟しなければいけません。

次に、不動産です。一般に不動産投資では借り入れによるレバレッジ効果を活用して資産を増やします。今、手元に5,000万円あるとします。これを頭金に銀行から5,000万円を借入れ(金利:0.5%変動、借入れ期間:10年)、1億円の中古一棟賃貸マンションを購入するとします。この場合、毎年の返済額(元利均等返済)は515万円です。(ご参照:高精度計算サイト) したがって、515万円÷1億円=5.15%以上の(実質ベース)賃貸利回りがあれば、10年後にローンを完済し資産倍増を達成することができます。ただ、賃貸経営には固都税を始め、FR・AD等の客付け費用、修繕費・火災保険やリフォーム代等の運用経費等、諸々のコストがかかってきます。そのため、実質ベースで5%となると、都心でも表面利回りベースで8%は必要と思われます。しかし、今どき地方の築古物件やワケあり物件を除いて、そんな高利回り物件にお目にかかることはまずありません。また、賃料の下落や空室・滞納の発生、借入れ金利の上昇(変動金利ローンの場合)等のリスクも考慮する必要があります。やはり不動産の場合も、10年で資産を倍にするのは至難の技のようです。
なお、賃料収入には不動産所得として所得税がかかってきます。また、10年後にキャッシュ化のため投資物件を売却する場合、市場環境によっては売却損が発生する可能性もあります。

今回、株式投資と不動産投資に、「10年後の資産倍増」という同じ目標を掲げてみました。両者を同じ目標の下で比較すると、投資手法の違いや特徴が良く見えてきます。株式投資は、いかに資産を増やしていくかという、足し算的な方法論。一方、不動産投資は、いかに諸々のコストを抑えローンの返済計画を無難に回していくかという、ある意味引き算的な方法論と言えます。そして、両者に共通しているのが、出口のリスクです。株式投資も不動産投資も、投資対象のキャッシュ化が終わって初めて投資の総括と結果の判断が可能となります。