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閑話休題

【閑】タンス預金の行方

第一生命経済研究所のEconomic Trends 2024年1月15日号によると、足下では銀行券発行残高が前年比マイナスになっており、2023年11月に前年比▲0.03%とマイナスに転じた後、12月も▲0.3%とマイナス幅が拡大したとのこと。理由は2024年7月に予定される新札発行を前に、タンス預金をしていた人たちが現行の紙幣で持つことを敬遠する人が多いからだとしています。タンス預金をしている人は、できれば新札で持ちたいと思うからでしょう。

当レポートの筆者(熊野英夫 首席エコノミスト)の試算では、タンス預金の残高は2023年12月に59.4兆円であり、ピークであった2023年1月の60.4兆円から▲1兆円減少したことになるそうです。同じ現象は20年前の新札発行時(2004年11月)にも起こっていました。このときは、前年比▲7.5%まで減少したとのことです。もし、今回も▲7.5%まで減少するとしたら、▲4.5兆円程度の資金シフトがタンス預金から見込まれることになります。いったい、この4.5兆円はどこへ行くのでしょうか。

一部では20年ぶりの新札発行は、積み上がったタンス預金をいぶり出すのが目的ではないか、との声もあるようです。ホントかウソか知りませんが、政府が進める資産運用立国政策の一環との見立てです。筆者は、目的や意図は別として、2024年夏にかけてタンス預金からのシフトが活発化することは間違いないとみています。大きな要因の一つが、2024年6月に所得減税が行われることです。過去、こうした一時的な所得増は、貯蓄やタンス預金に回ることが多かったです。2020年夏から秋に支給された国民1人10万円の特別定額給付金の際は、銀行券発行残高が前年比+5~6%まで大きく押し上げられました。今回は、新札発行が2024年7月のタイミングのため、所得減税で得たお金=総額5.4兆円の中からタンス預金に回る割合は相当少なくなると思われます。所得減税分を含めた数兆円の資金の行方が気になります。

筆者はタンス預金の行き先として、現金によく似た性格であり、インフレ抵抗力もある金(ゴールド)や暗号資産を候補に挙げています。私は金や暗号資産は一般の人にとって、かなり特殊な投資先だと考えます。やはり第1候補は単純に銀行預金でしょう。また、株式や投資信託にも一部のお金が流れるのではないでしょうか。