相続が発生したときに関係が疎遠な相続人(例えばAさん)がいたりすると、Aさんには相続発生の事実を知らせず内々で遺産分割の手続きを進めようとなりがちです。では、最後までAさんに隠し通すことは可能なのでしょうか。また問題はないのでしょうか。以下で、ケース別に確認してみたいと思います。
まず、遺言がないケースです。遺言がない場合、預金の名義変更や不動産の相続登記等の手続きに遺産分割協議書の提出を求められますが、同協議書には相続人全員の直筆の署名と実印の押印が必要です。そのため、一部の相続人に内緒で遺産分割手続きを進めることは不可能です。
次に、公正証書遺言以外の遺言(自筆証書遺言や秘密証書遺言)があるケースです。この場合、遺言書の開封前に家庭裁判所による遺言書の検認(※1)を受ける必要があります。検認に先立って、家裁は相続人全員に宛てて「検認期日」の連絡を入れます。一部相続人に内緒にしようと思っても、ここでバレてしまいます。
最後に、公正証書遺言があるケースです。この場合、遺言に遺言執行者(※2)の記載がある場合と、ない場合に分かれます。遺言執行者の記載がある場合、民法第1007条2項の規定により、遺言執行者は就職後にその旨を全ての相続人に通知することが義務付けられています。そして、ここでいう通知義務は就職の事実を知らせるだけでは不十分で、遺言書の内容まで知らせるべきと考えられています。従って、このケースでも、一部相続人に内緒にすることはできません。
では、公正証書遺言に遺言執行者の記載をしなければ、一部相続人に内緒で遺産分割手続きを進めることができるのでしょうか。残念ながら、それも難しそうです。遺言執行者の記載のない遺言の場合、金融機関によっては名義変更の手続きに応じないところがあるようです。また、通知されなかった相続人から、遺留分侵害額請求を提訴される可能性もあります。従って、後々のトラブルを回避するためにも、相続人全員に公平に遺産分割の内容を通知することが望ましいと思われます。
(※1)検認:相続人に対し遺言の存在とその内容を知らせるとともに、遺言の形状、加除訂正の状態、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続き。尚、遺言の有効・無効を判断するものではないので注意が必要。
(※2)遺言執行者:遺言の内容を正確に実現させるために必要な手続きを行う人のこと。遺言執行者は各相続人の代表として、遺言の内容を実現するため様々な手続きを行う権限を有している。