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【株】公式から見える株価変動のメカニズム

証券分析で使用する公式はいくつかありますが、今回はシンプルで利用価値の高い2つの公式に焦点を当て、そこから見えてくる株価変動のメカニズムについて考えたいと思います。

最初にご紹介する公式は、P=EPS×PER……① です。Pは株価、EPSは1株利益、PERは株価収益率です。株価は1株利益に株価収益率をかけたものに等しい、という意味になります。ここでPERについてご説明します。①式の両辺をEPSで割ると、PER=P÷EPSとなります。つまり株価が1株利益の何倍か、その倍率がPERです。ですから、PERが大きい株は1株利益に対し割高、PERが小さい株は割安と見ることができます。また、別の見方もできます。PERが大きい株は割高でも買われるほど人気のある株、PERの小さい株は割安でも買われない人気のない株、という見方です。特に、この人気という観点でPERを評価する場合、PERは理屈の世界を離れ、好き嫌いという市場参加者のセンチメントの世界に入ってしまい、投資家にとって扱いにくいものになります。

もう1度①式を見てください。決算が好調な企業は1株利益EPSが上昇しますので、通常であれば株価Pも上昇するはずです。しかし、好調な決算を発表した企業の株価が、決算発表後に急落する場面を私たちは頻繁に目にします。これはどういうことでしょうか。可能性の一つが、決算に対する投資家の期待が高く、決算発表前のPERが高過ぎたケースです。決算発表の前後でEPSが100→120に2割増加したとします。PERに変化がなければ、株価も2割上昇するはずです。しかし、PERが20→10に減少したらどうでしょう。株価は100×20=2000から120×10=1200に下落します。
企業の決算をチェックすることでEPSの動きはそれなりの確度で予測できますが、市場参加者の心理状態を映す鏡であるPERはその時々で自在に変化し、短期的な動きを予測することは困難です。短期的な株価がランダム・ウォークする所以です。
PERが極端に上昇した状態をバブルといいます。そして上昇しきったPERが通常の水準に回帰する過程がバブル崩壊です。株価PはEPSの上昇に合わせて中長期的には上昇トレンドを描きながら、PERの上下動に伴い短期的にはトレンドを離れ上昇、下落を繰り返します。

次にご紹介するのは、割引配当モデルと言われるものです。P=D÷(rーg)……②
Pは株価、Dは配当、rは株主資本コスト、gは配当成長率です。株価は配当を株主資本コストから配当成長率を引いた率で割ったものに等しい、という意味になります。株主資本コストとは耳慣れない言葉ですが、ここでは「株主資本コスト(r)=国債利回り+α」、とザックリご理解ください。金利の上昇によって株価が下落することはよくありますが、②式から、金利↑⇒r↑⇒P↓の因果関係が見えてきます。
最近の米国市場では金利の上昇を受け、ナスダックのグロース株がバリュー株に比べ大きく売られるケースを目にします。この点を②式で確認します「´」をグロース株、「”」をバリュー株とします。配当成長率はグロース株の方がバリュー株より高いですから、g´=3%、g”=1%、と仮定し、金利上昇に伴いrが4%⇒5%に上昇したとします。この場合グロース株は、P´=D´÷(4%-3%)=100D´が、P´=D´÷(5%-3%)=50´、に50%下落します。
バリュー株は、P”=D”÷(4%-1%)=33D”、がP”=D”÷(5%-1%)=25D”、と24%のの下落に留まります。

このように、②式から金利上昇の影響は、配当成長率の高いグロース株の方が強く受けることが分かります。しかし、過去のデータから、中長期的には金利上昇局面でグロース株が上昇することが分かっています。これはどう理解したらいいのでしょうか。もう一度②式をご覧ください。先程の例では配当成長率gは不変としましたが、通常、金利が上昇するときは景気が良好なときです。企業の業績も好調でしょうから配当も増加するはずです。rが上昇しても、それ以上にgが上昇すれば、例えば、rが4%⇒5%のときにg´が3%⇒4.5%となったら、P´は100D´⇒200D´と2倍になります。つまり、金利の上昇は、配当成長率gが変化しない短期においてはグロース株の下落要因となりますが、配当成長率gが上昇する中長期においては、グロース株の上昇要因になるということです。


また、別の見方もできます。配当Dを不変とすると金利の低下に伴う株主資本コストrの低下により、株価Pは上昇します。これが金融相場です。一方、配当成長率gの上昇による株価Pの上昇が業績相場です。
景気が悪化すると、中央銀行は金融緩和策を取ります。これにより金利は低下、金融相場が始まり株価は上昇に転じます。景気は徐々に回復し、金利も上昇していきます。中央銀行のスタンスも金融緩和から引締めモードに変わります。金融相場の終了です。このままでは株式相場は下落します。しかし、景気回復に伴い企業業績が改善すれば、配当成長率は上昇。業績相場が始まり、株価は更なる上昇を演じます。

P=EPS×PER、とP=D÷(r-g)というシンプルな2つの公式ですが、以上のように株価変動のメカニズムを簡潔に説明してくれます。ときどきこれらの公式を思い出して、現状の把握に役立てていただきたいと思います、