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【株】単利と複利の認識ギャップ

単利と複利の違いはお分かりでしょうか。何を今更って感じですか。念の為ご説明しますと単利は最初の元本のみに利息が付く方式、複利は元本だけでなく利息にも利息が付く方式です。ただ、これだけでは分かりづらいので、数式で表現してみましょう。単利は、元本+利息+利息+……+利息。複利は、元本×(1+利息)×(1+利息)×……×(1+利息)です。ご覧の通り、単利は足し算、複利は掛け算で元本が増えていきます。
ところで、私たちは日常生活を掛け算でなく足し算で認識することに慣れています。食品の値上がり、身長の伸び、交通違反での制限速度オーバー、等々。そして、株価の変化についても、やはり足し算で認識しがちです。足し算は物の変化を変化幅=額、掛け算は変化率で認識するということです。今回は、株価の変化を率でなく額で認識しやすい人間のバイアスが及ぼす影響について考えたいと思います。

改めて、私たちは日常生活において価格の変化をではなく、で認識する傾向(バイアス)があります。ガソリン価格が1ℓ150円から160円に値上がりしたとき、私たちは「10円上がった」とは言いますが、「6.7%上がった」とは普通言いません。株価の変化についても、同じです。私たちは株価の変化を200円上がったとか、500円下がったというように変化の額で認識し、1%上がったとか2%下がったとか変化の率で認識することは少ないです。(運用会社や機関投資家の間では変化率で話をする方が一般的です。)
その理由ははっきりしています。価格の変化を率で認識した場合、お米が2%上がり、電気料金が3%上がり、携帯料金が5%下がった……、となり個別の変化率は理解できても、変化率の全量を把握することは困難です。それに対し、価格の変化を額で認識すれば、お米が500円上がり、電気料金が300円上がり、携帯料金が400円下がった……、という個別の変化額を合算することで変化額の全量を一瞬で把握できます。同じように運用資産についても、A社株の変化額、B社株の変化額、C投信の変化額……と額ベースで変化額を合算すれば、資産全体の変化額を迅速かつ容易に把握できます。

このような事情により、私たちは日々の株価の変化を額ベースで追っていきます。しかし、実際には株式は「利息が利息を生む」複利のシステムの上で稼働しており、株価は率ベースで変化しています。私たちは率ベースで変化する株価を、額ベースで変化するものと思い込む傾向があります。そして、この額ベースと率ベースの認識ギャップが、私たちに株式投資の驚きと感動を与えてくれます。では、率ベースと額ベースの認識ギャップがどれほどのものか、実際に確認してみましょう。

【表1】は当初10,000であった資産が毎年10%の複利で増殖していく様を表しています。1年後→2年後の変化率も19年後→20年後の変化率も同じ+10%ですが、変化額(増加額)は1年後→2年後が+1,100であるのに対し19年後→20年後は+6,116とほぼ6倍になっています。率ベースでは変わらないものが、額ベースで見ると6倍に化ける。そして、私たちはこの6倍の変化に複利のパワーを実感するわけです。株式は毎年毎年、地味に粛々と率ベースで10%の増殖を続けているだけですが、それを額ベースの眼鏡を通して見てしまう私たちの目には、驚きの光景として映ります。
長期に亘り株式をほったらかしていた人が、ある日ふと思い出して株価を調べてみたら、あらびっくり!ほったらかしている間に株式は購入価格の何倍にもなっていた、なんてことがしばしばあります。タンス預金ならぬタンス株の驚異です。

【おまけ】
かなり前の話です。1987年にニューヨークダウが大暴落して世界中がパニックに陥る事件がありました。いわゆるブラックマンデーです。この日の下落率▼23%は未だに破られていない記録です。さて、ここで皆さんに質問です。この日、ダウは何ドル下落したのでしょうか? 答えは、508ドルです。「えっ?500ドルの下落なんて、何回も起こってるじゃん」と思った方も多いと思います。
実は、ブラックマンデー前日のダウは2,246ドルでした。これを今のダウの水準30,000ドルを基準に額ベースで考えると、ダメージの大きさが分かります。30,000ドル×23%=▼6,900ドル! リーマンショクでもコロナショックでも、1日でこんなに大きな下落はありません。