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年金 閑話休題

【年】公的医療・介護、今そこにある危機

以前、年金改革の背後で蠢く国の悪企みで公的医療(健康保険)や介護(介護保険)の危機的状況について触れました。でも、医療・介護がそれほど危機的状況だっていうなら、なんで世間が騒がないんだ?、と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。確かに年金の場合、消えた年金問題とか、年金の破綻とか、メディアやSNS等でヒステリックに叫ぶ人が絶えません。それに比べ、医療・介護の危機を叫ぶ声は、ほとんど聞こえてきません。今回は、そのあたりの謎について考えてみたいと思います。

まず、確認しておきたいのが、年金と医療・介護の仕組みの違いです。年金の場合、国民は国民年金なら20歳から60歳まで、厚生年金なら会社に入社してから退職するまで、毎月保険料を払います。そして、保険料の支払いが終わったあと、国民年金、厚生年金とも65歳から年金の受取りが始ります。ここでは、保険料の負担(支払い)が先、年金の給付(受取り)が後の形です。また、年金の場合、受取る年金額は加入期間の月数と、その間の給料(平均標準報酬額)で予め決まります。
一方、健康保険や介護保険の場合、国民は毎月保険料を払う点(1回目の負担)では年金と同じですが、実際にサービスを受ける段階で、病院や介護施設の窓口で改めて支払い(2回目の負担)が必要となる点で異なります。ここでは、1回目の負担は給付より先、2回目の負担は給付と同時の形となります。また、医療や介護の場合、サービスの金額とサービスを受取る時期は、受取るサービスの内容によって変わってきます。

上表から、年金と医療・介護に対する国のスタンスの違いを推測できます。年金の場合、国は国民が保険料を払い終わったら、あとは金額の確定した年金を払うことしかできません。(年金の裁定を受けると国民に財産権が生じます。)払う段になって、「予定より年金の額が減っちゃいました。ご免なさい。」なんてことは法的に許されません。ですから、国は年金の財政状況が厳しくなってきたら、前広にメディア等を通じて「ヤバイヨ!ヤバイヨ!」と国民にアピールします。そして、国民が保険料を払い終わる前に保険料を値上げしたり、マクロ経済スライドで年金額を(名目ベースは維持しながら)インフレ控除後の実質ベースで減額したりするわけです。また、年金を減額するだけでは国民から不満が出るので、NISAやiDeCoといった税制優遇措置を設けて、国民の自助努力を後押しするわけです。

医療・介護では、2回目の負担(病院や介護施設の窓口での自己負担)と医療・介護サービスの給付は同じタイミングで行われます。また、医療・介護のサービスの金額も受取り時期も、事前には決まっていません。つまり、医療・介護の場合、年金と違い国のフリーハンドが大きいと言えます。(そもそも医療・介護には年金のような財産権という概念もありません。)医療・介護の財政が厳しければ、いざとなったら患者や利用者の窓口負担を増やすとか、医療・介護の保険給付を削減することも、理屈の上では可能です。2回目の負担と給付は同時履行の関係にあるので、窓口負担の値上げを拒否する患者や利用者は、サービスの提供をストップされます。また、治療薬や介護サービスの保険適用が削減されたと病院や介護施設からと言われれば、黙って従うほかありません。

このように、医療・介護の場合は、年金に比べ制度運営における国の裁量が大きいため、(後からでも何とかなるだろうと)財政悪化に対する国の危機感が弱いのではないかと推察されます。あるいは、医療・介護財政が厳しいことを下手に国民に知られて騒がれては、今後、自己負担の増加や保険給付の削減がやりにくくなるので、今は敢えてメディア等への露出を控えているのかもしれません。

財政の危機的状況という点では、既にマクロ経済スライド等の対策が打たれ、今後も5年毎の財政検証で改善が図られていく年金に比べ、(保険料の引上げは後追いで行われていますが)未だ手付かずの医療・介護の方がはるかに深刻です。また、今回は敢えて言及しませんでしたが、医療制度は医師会とモロに利害がバッティングする領域です。そのため、医療制度改革は、医師会を初めとした強力な政治パワーとの調整が不可避であり、政治家、官僚とも手を付けたくないというのが本音かと思います。私たち国民としては、国が医療・介護の危機をアピールしてこない事に安心するのではなく、リスクシナリオを念頭に、前広に自助努力を進めることが賢明と考えます。

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年金

【年】年金改革の背後で蠢く国の悪企み

日経新聞は、10月3日の朝刊で「大企業健保1300億円赤字、11年ぶり 高齢者医療が重荷」と題し、「主に大企業の従業員と家族らが入る健康保険組合の2023年度収支が約1300億円の赤字になったことが分かった。高齢者医療への拠出金の増加が響き、赤字幅は12年度依頼、11年ぶりの大きさとなった。」と報じました。高齢者医療への拠出金とは、”後期高齢者支援金”といって、75歳以上の高齢者を対象とした後期高齢者医療制度の財源のうち、健保が負担する部分のことを指します。患者の窓口での自己負担を除く財源の内訳は、公費(税金)5割、後期高齢者支援金4割、後期高齢者の保険料1割、となっていますが、高齢化の進展によって健保の後期高齢者支援金の負担が、危機的状況に膨れ上がっているという話です。

今や健保(健康保険)の財政は限界まで逼迫しており、財政の健全化が喫緊の課題となっています。健保の赤字を削減するには、通常、3通りの方法が考えられます。まず、後期高齢者の病院窓口での自己負担割合を引上げることです。現在、原則1割の自己負担ですが、一般所得者等のうち一定以上の所得がある人は2割、現役並み所得者は3割と、既に自己負担の引上げは一部で実施済です。これを更に一般所得者全体に拡大するのは相当な困難が伴います。次に、健康保険の保険料を引上げることです。これも、実は過去から実施してきた経緯があり(協会健保では、2003年:8.2%→2010年:9.34%→2011年:9.50%→2012年:10.00%)、これ以上の引上げは困難な状況です。そして、最後は給付の削減。つまり、保険適用の対象となる医療行為や治療薬の範囲を縮小することです。しかし、これも「金のために人の命を削るのか?」といった国民の批判が予想され、実現に向けた政治的ハードルは極めて高いです。このように、健保財政の健全化は八方塞がりな状況です。

前置きが長くなりましたが、国は年金改革の背後で密かに(=国民に知られないように)健保財政の健全化を図ろうとしているようです。2024年10月1日より、社会保険(厚生年金と健康保険)の適用が拡大されました。従来、従業員数101人以上の企業では、正社員だけでなく、一定の要件を満たす短時間労働者(パートやアルバイト)についても、社会保険の加入が義務となっていました。それが今回、従業員数51人~100人の企業についても、一定の短時間労働者の社会保険の加入が義務化されたわけです。これにより、配偶者の扶養の範囲内で働いていた短時間労働者も年金が2階建てとなり、年金が増額されて生涯受取れるようになりました。(厚生労働省「社会保険適用拡大ガイドブック」) めでたし、めでたし。しかし、話はこれで終わりではありません。

私は上記ガイドブックについて、国は本来書くべき内容を意図的に隠しているのではないか、との疑念を持っています。ガイドブックでは、新たに社会保険の適用となる方について、年金の保険料(=コスト)が増える点については軽く触れるだけで、年金額(=リターン)が増える点をしきりに強調しています。でも、まあこれは良しとしましょう。問題は、今回の年金改革で、健康保険の保険料も増える点です。この点について、なぜかガイドブックはほとんど言及していません。(ガイドブックP2にわざとらしく小さな文字で短い説明がありますが。)代わりにガイドブックでは、傷病手当金や出産手当金といった給付(リターン)の充実を強調しています。でも、これらは年金と違って、誰もが受取れるものではありません。傷病手当金は病気やケガで、出産手当金は出産で一定期間働けないことが条件です。これらの条件に該当しない場合は受取ることはできず、保険料は完全な払い損です。また、保険料の3分の1は後期高齢者医療へ仕送りされ、消えてなくなります。このように、掛け捨ての保険料が増える話ですから、本来(掛け捨てでない)年金の保険料以上に丁寧な説明があってしかるべきです。しかし、国は説明責任を放棄しています。だから、私は国はやましいところがあって、わざと説明を避けているのでは、と疑っているのです。

それからもうひとつ、問題点があります。現在、被扶養者として配偶者の健保に加入している短時間労働者が、新たに自身のパート先の健保に転入することで、給付内容が悪化する恐れがあることです。配偶者の健保に付加給付の制度がある場合で、パート先健保にはないケースが該当します。(協会けんぽには付加給付はありません。)付加給付は大手企業の健保等が実施する、高額療養費の上乗せ制度です。3割の自己負担部分の一部を高額療養費で払戻しを受け、さらに2万円を超える自己負担部分の払戻しを受けることができます。パート先健保に転入することで、この給付を受けられなくなる可能性があります。保険料が上がって給付内容が悪化したのでは話になりません。こんな重要な情報が、ガイドブックに記載がないのは大問題です。(下記は某企業健保HPの付加給付に関する説明です)

このような健康保険の現状を、国民の多くは認識していません。政治家や厚労省のお役人が、国民に向けて説明することもありません。今回新たに社会保険の適用対象となった短時間労働者は、知らないうちに健康保険の保険料を負担させられ、知らないところで健保財政の健全化に協力させられるわけです。私はこういったやり方は、ほんとに良くないと思います。国民の理解が不十分なまま、社会保険料を打ち出の小槌のように使うのは、もういい加減やめてほしい。そして、年金や医療の政策は国会の場できちんと議論し、国民周知のうえで進めてもらいたい。

年金はマクロ経済スライドの導入により、(まがいなりにも)破綻の可能性はなくなりました。今、本当に危機的なのは、医療(健康保険)と介護です。年金についてはiDeCoやNISAといった自助努力の制度を国が用意してくれていますが、医療・介護の分野ではそういった取り組みもありません。最終的には、医療・介護版マクロ経済スライド(自動的な給付切り下げ制度)が導入されるかもしれません。そして、そうなった先には、米国のような自力救済の世界が待っています。
まだ遅くありません。国をあてにするのはやめにして、民間の医療・介護保険等も利用しながら、前広に自助努力を進められることを強くお薦めします。

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年金

【年】厚生年金のパフォーマンス

以前、投資家目線で考える公的年金で厚生年金と国民年金の投資利回りについて考えましたが、2024年の年金改正を見据え、改めて厚生年金(※1)のパフォーマンスについて考えてみたいと思います。2024年改正では国民年金(基礎年金)の加入期間が40年から45年に延長される見込みであり、また先々、国民年金の第3号被保険者や厚生年金の配偶者加給年金は廃止される可能性が高いです。そこで、今回はこのあたりの事情も織り込んでいきます。 
(※1)以下では老齢厚生年金に限定しています。障害/遺族厚生年金には言及しません。

まず、厚生年金の給付額(年額)ですが、ザックリ、「年収累計×0.55%」で計算できます。正確には「平均標準報酬額×5.481/1000×被保険者期間の月数」となりますが、興味のある方はご自身でネット等でご確認下さい。今、20歳から65歳までの45年間会社に勤務し、入社から退職までの平均年収が400万円(税金・社会保険料の控除前ベース)のA氏を想定します。そこで、A氏の厚生年金の額を計算してみると、400万円×45年×0.55%=99万円、となります。これとは別にA氏には国民年金(基礎年金)が支給されます。

基礎年金は、「81万円×加入年数/40年」で計算できます。国民年金の加入期間が45年に延長となると、81万円×45年/40年=91万円、の基礎年金を受け取れる計算です。したがって、A氏は厚生年金と基礎年金を合わせて年間190万円(=99万円+91万円)を、65歳から終身にわたって受取ることになります。ポイントは、厚生年金の金額を計算する際の年収累計が、税金・社会保険料控除前の金額である点です。憶えておいて下さい。

次に、厚生年金の保険料についてです。厚生年金の保険料率は18.3%ですが、これを社員と会社が折半して負担します。ですので、年収400万円のA氏が負担する保険料の金額は、400万円×18.3%÷2=36.6万円(年額)となります。尚、この金額は、全額社会保険料控除の対象です。そのため、税金の戻りを考慮した実質的な保険料負担は、36.6万円×(1-0.15)=31万円(※2)、となります。 
(※2)A氏の所得税を5%、住民税を10%と仮定。

では、毎年31万円ずつ資金を拠出して45年間運用し、その後、仮に65歳から85歳までの20年間にわたって毎年190万円(計3,800万円)を取り崩す場合、45年間の運用(複利)利回りは如何ほどか? 減債基金係数という数字を使って計算すると、約4%となります。当然、85歳より長生きすれば、利回りは上がっていきます。どうですか。4%という数字、私はかなりいけてると思います。なにせ、ほぼノーリスクですから。日本株の期待リターンが5%程度であることと比較しても、結構魅力的です。これだけのパフォーマンスが可能なのは、厚生年金の保険料の半分を会社が負担しているからです。

労働者にとって厚生年金に加入することの意味は、国家権力を援用して資本家に保険料の半額を強制的に負担させることにあります。会社員は是非この権利を行使したいもの。厚生年金は人生100年時代を乗り切るうえで、必須の資産形成ツールです。(平均年収や勤務年数によって厚生年金の利回りは変動します。平均年収400万円、45年勤務以外のケースでの利回りを知りたい方は、お手数ですが管理人までお問い合せ下さい。) 尚、投資家目線で考える公的年金では国民年金の加入期間を40年、扶養配偶者有り、運用利回りは単利、の前提で利回り計算しているため、今回の結果とは相違があることをお断りします。

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年金

【年】2024年、公的年金はどう変わる?

2024年は5年に1度の財政検証(※1)の年であり、公的年金(厚生年金と国民年金)にとって重要な一年となります。2004年のマクロ経済スライド(※2)の導入以降、公的年金の保険料は一定の水準(厚生年金:18.3%、国民年金:16,900円)に固定されていますが、一方、年金額は調整(減額)が続く結果、特に国民年金(基礎年金)が将来的に大きく落ち込む見込みとなっています。そこで、今回の財政検証では、国民年金(基礎年金)の大幅な減少を抑えるための方策を、国民の納得を得られる形で打ち出せるかがポイントとなります。厚生労働省は財政検証において、次の5項目のオプション試算(※3)を行う予定です。
①被用者保険の適用拡大
②国民年金の45年化
③国民年金と厚生年金の調整期間の一致
④在職老齢年金の廃止
⑤標準報酬月額の上限引き上げ
では以下、①~⑤について順に見ていきましょう。
(※1)公的年金の長期にわたる財政の健全性をチェックするために行う検証のことで、社会・経済の変化を踏まえながら原則5年ごとに実施される。
(※2)少子高齢化が進行しても財源の範囲内で給付を賄えるよう、財源に合わせて給付の水準を自動調整(減額)する仕組み。
(※3)財政検証に加えて行われる、年金制度の課題の検討に役立てるための検証作業。オプション試算の内容に沿って、公的年金の見直しが行われる。

①被用者保険の適用拡大
被用者保険とは会社員や公務員が加入する年金のことで、つまりは厚生年金のことです。2020年の年金制度改正法により、短時間労働者に係る被用者保険の適用(人数)要件が、2022年10月から101人以上へ、2024年からは51人以上へと拡大されてきました。また、個人事業所の適用業種についても、2022年10月から弁護士・税理士等の士業にも拡大されています。今回、これら人数要件の拡大を一層進めようというものです。場合によっては、人数規模を問わず全事業所が加入対象となったり、短時間労働者の勤務時間週20時間以上、標準報酬月額88,000円以上という加入要件が撤廃される可能性もあります。要件の緩和・撤廃によって、被保険者数の増加⇒保険料収入の増大により、年金財政の健全化促進を図る狙いがあります。

②国民年金の45年化
現在、自営業者やフリーランス等は国民年金に20歳から60歳まで加入し、保険料を40年間払うことになっています。これを20歳から65歳まで加入し保険料を45年間払うことに変更し、年金額の増額を図るものです。国民年金の保険料(月額)は令和6年価格で16,980円なので、支払い期間が5年延長すると保険料は累計で、16,980円×12ヶ月×5年=1,018,800円、と約100万円増えることになります。(ただし、国民年金保険料は社会保険料控除の対象なので、所得税+住民税の税率が30%の人で実質負担増は70万円ほどです。) 他方、受け取れる国民年金(基礎年金)額は令和6年価格で816,000円ですが、保険料納付期間の延長により12.5%(45年/40年=1.125)増の918,000円となります。約10万円の増額です。メディア等では保険料負担の100万円増ばかりクローズアップされていますが、年金の受取り額が増える点にも注目すべきです。5年分の保険料の実質増加額を70万円、1年分の国民年金の実質増加額(税・社会保険料控除後)を9万円とすると、70万円÷9万円=約8年で元が取れる計算です。決して損な話ではないと思います。

③国民年金と厚生年金の給付調整期間の一致
マクロ経済スライドによる給付水準の調整は、国民年金と厚生年金がそれぞれの勘定で財政均衡するまで続きます。国民年金は厚生年金に比べ財政状況が悪いため調整期間が長期化(20年以上)し、結果、国民年金(基礎年金)の将来の給付水準は厚生年金に比べ相当低いものとなります。2019年財政検証において、厚生年金の給付水準は2047年に向け実質ベースで約2割の減少見込みでしたが、国民年金(基礎年金)では約3割の減少見込みとなっています。そこで今回、国民年金と厚生年金で別々に財政の均衡を目指すことを止め、国民年金と厚生年金を一体で財政の均衡を目指す形に改めようというものです。これにより、国民年金(基礎年金)の調整期間は10年以上短縮され、現状の見通しよりも高い水準で給付が均衡します。一方、厚生年金の調整期間は長期化し、現状の見通しよりも低い水準で給付が均衡することとなります。

④在職老齢年金の廃止
在職老齢年金(在老)とは、働きながら厚生年金を受給している人が、厚生年金の月額(基本月額)とボーナスを含む年収の月額相当額(総報酬月額相当額)との合計で50万円を超えた場合、超えた額の1/2に相当する厚生年金を支給停止する仕組みのことです。(※4) (国民年金は支給停止の対象となりません。)この仕組みは、高齢者の就労意欲を削ぐと以前から批判されており、見直しが求められていました。また、政府は受給期間を遅らせることで年金額を増額する「繰り下げ受給」を推奨していますが、在老で支給停止された部分は繰り下げの対象外です。これは「繰り下げ受給」の増額効果を減退させるものであり、政府の方針に逆行しています。私は在老は今回、全面的に撤廃されるべきと考えます。
(※4)支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額ー50万円)×1/2

⑤標準報酬月額の上限引き上げ
標準報酬月額とは、厚生年金保険料の額を計算する際の元となる給料(保険料額=標準報酬月額×保険料率)のことで、被保険者(会社員や公務員)の4月~6月の給料の平均額から決定されます。標準報酬月額の決定にあたっては、厚生年金の全被保険者の標準報酬月額の平均の2倍を上限(現行65万円)とするルールがあります。今回、この上限を引き上げようというものです。政府は、上限に抵触している高収入の会社員に現行の上限を超える高額な保険料を負担させれば、年金の財源を増やすことができます。高収入の会社員も年金額が増えるので、ウィン・ウィンとなります。ただし、保険料の半分を負担する企業側の反発が予想されます。

以上、2024年の財政検証において見直しが予想される5項目について見てきましたが、今後①~③を中心に具体化に向けた検討が進められると思います。

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年金

【年】年金を繰下げる

皆さんが一番恐れているもの、最大のリスクは何でしょうか。仕事のストレスや上司のパワハラ? 相場の大暴落? 子供の将来? 数え上げたら切りがありませんが、私の場合は医学の進歩で人間が死ななくなること、超高齢期まで生き延びてしまうことです。そうなると医療や介護の費用が青天井でかかり、子供や(まだいませんが)孫に迷惑をかけてしまうことが心配です。

次世代にかける負担を少しでも軽くするため私たちにできることは、自分の面倒は自分でみることです。医療や介護の費用は極力自分で準備することです。そのために手っ取り早い方法が、(公的)年金の繰下げによる受取額の増額です。(5年の繰下げで42%の増額) 年金を繰下げるというと、「どうせ長生きできないから繰下げは損だ」という声が必ず聞こえてきます。そういう人は年金を「預金」と同じように考えています。年金は現役時代に国に預けたお金なのだから、退職後は利息を付けて返してもらわないと損だというわけです。

確かにそういう考え方も一理あります。しかし、年金の繰下げで増額された年金額は生涯にわたって保証されます。年金の増額で医療や介護の負担増に対応する余力がつきます。払った保険料は死ぬまでに回収したいという気持ちも分かりますが、年金を長寿への「保険」と考えてみてはいかがでしょう。体の動く間は仕事を続け、その間、年金は繰下げる。そして、いよいよ体が言うことを聞かなくなったら年金の受給を開始し、生活費や公的医療・介護制度で賄いきれない費用に充当する。もちろん、心や体の調子が悪い人が年金を繰上げることは、否定されるものではありません。でも元気な高齢者は、次世代の負担を軽減するため、少しばかり汗をかいても罰は当たらないでしょう。

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年金

【年】資産運用立国と予定利率の誤解

日本経済新聞は2023年11月4日付朝刊の社説「企業年金の運用効率化へ改革を進めよ」で、「年金基金は……加入者や受給者の利益を考え、リスクを管理しながら常に運用の果実を引き出す努力が欠かせない。」「金利の低下が続いてきた運用環境は変化しつつある。低い利回りを前提にした運用のままでいいのか。予定利率の引き上げを含めて検討を始めるべきだろう。」と論じています。これは、10月2日に開催された日経サステナブルフォーラムにおける岸田総理大臣のスピーチに対応したものと思われます。岸田総理大臣は同フォーラムで資産運用立国に関連して、「年金や保険等の形で家計から運用を委託されている、アセットオーナーシップの改革にも取り組んでまいります。受益者に適切な運用の成果をもたらすよう、アセットオーナーに求められる役割を明確化したアセットオーナー・プリンシプルを来年夏を目途に策定いたします。その中で、最善の利益をもたらす資産運用会社の選択や、ステークホルダー等への運用内容の見える化などを求めてまいります。」、と述べました。「最善の利益をもたらす資産運用会社」なんて予め分かれば誰も苦労しないんだよ!という突っ込みはひとまず措くとして、予定利率を巡る議論から何とも香ばしい香りが漂ってくるものですから、以下簡単にコメントしたいと思います。

まず、確定給付企業年金(DB)の目的と、予定利率について確認しておきます。厚生労働省が提示するDB規約雛形の第1条にDBの目的が規定されています。そこでは「本制度は、確定給付企業年金法に基づき、本制度の加入者及び加入者であった者(=加入者等)の老齢、脱退についてこの規約の内容に基づく給付を行い、もって公的年金の給付と相まって加入者等の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。」と定めています。簡単に言えば、DBの目的は規約通りに加入者等に安定した給付を行うことにある、ということです。
次に、予定利率です。日経新聞の論調からは、「日本企業は予定利率(=運用の目標利回り?)をわざと低めに設定し、運用努力を怠って加入者等の利益を損なっている」的な印象を受けますが、実際はちょっと違います。【図1】をご覧ください。

DBの原資は通常、退職金です。退職金の金額が最初にありきで(図1では1千万円)、そのうち会社が掛金として負担する部分がいくら、運用収益で賄う部分がいくらといった具合に、1千万円を切り分けます。つまり、予定利率は会社が負担する掛金と運用収益の予定額を按分する際の目安となります。予定利率が低ければ、運用収益の見込み額は少なく会社が負担する掛金は多くなりますし、予定利率が高ければ、運用収益の見込み額は多く会社負担の掛金は少なくなります。ここで重要なのは、予定利率の水準に関係なく、加入者等が最終的に受取る金額は1千万円で変わらないことです。1千万円を会社が掛金として拠出するのか、運用で稼ぐのかの違いです。そして、安定した給付を旨とするDBの目的に鑑みれば、不安定な運用収益に多くを依存しない低い予定利率の方が加入者等にとっては好ましいのです。
予定利率の引き上げ⇒加入者の利益とする日経新聞社説の表現が妥当でないことが分かります。予定利率を引き上げて得をするのは、掛金負担が減少する事業主の方です。

運用利回りの高い状態が続けば、会社が給付増額(年金や一時金の増額)をしてくれるので加入者等の利益に繋がる、という意見もあると思います。ただ、この場合、給付増額の原資となる剰余金(別途積立金)は、【図2】のように実際の運用利回りと予定利率の差額です。ですから、予定利率が低いほど剰余金は発生しやすく、やはり予定利率は低い方が加入者等にはウエルカムとなります。会社がリスクをとって高い運用利回りをあげても、同じだけ予定利率を引き上げていたら剰余金は発生しません。
そもそも、給付増額をするなら、年金資産の運用益を充当するといった回りくどいまねをしなくても、賃上げと同じように本業の利益を充当すればいいだけの単純な話です。

このように、予定利率の引き上げは加入者や受給者にとってメリットはありません。また、アセット・オーナーたる事業主が予定利率の引き上げに合わせ運用資産のリスク量を増やした場合、運用利回りのボラティリティの増加に伴って経営上のリスクが高まるので、予定利率の引き上げは会社にとっても必ずしも好ましいものではありません。
このあたりの事情を賢明な金融庁・厚生労働省の方々がご存じないはずはなく、予定利率引き上げ論の裏側に何か別の狙いが隠されているのではないかと、ゲスな管理人は勘ぐってしまいます。

<おまけ>
以上、確定給付企業年金(DB)の予定利率についてお話してきましたが、資産運用立国に関連した議論では確定拠出年金(DC)についても触れられています。DBの予定利率に相当するものがDCの想定利率です。DCでは最終的に加入者等が受け取る退職金(年金、一時金)の金額は運用実績に応じて増減するわけですが、当初、会社が負担する掛金を決める際は、DBの場合と同じく退職金の金額と、掛金と運用収益の予定額を按分する目安が必要となります。ただ、DBと違うのは、ここでの退職金の金額は確定したものではなく、あくまで仮置きの数字だということです。掛金と運用収益の予定額の按分目安を、DCでは想定利率といいます。仮に想定利率を2%に設定して掛金を算出した場合、加入者は退職までの全期間平均で2%の運用ができなければ、見込み通りの退職金は受け取れないことになります。2%を上回る運用ができれば、見込み以上の金額を手にすることができます。
つまり、DCにおいて想定利率は、まさに運用の目標利回りとなります。したがって、想定利率は低い方が加入者にとって有利です。そこで懸念されるのが、DBの予定利率引き上げ論と一緒にDCの想定利率引き上げ論が起こることです。DBでは予定利率を引き上げ高リスク運用で損失が発生しても、損失の補填責任は事業主にあり加入者等の負担は生じません。しかし、DCでは想定利率が引き上げられ、やむなく加入者が高リスク運用を行い損失が発生した場合、加入者は全ての損失を負担することになります。一方、会社は掛金負担減少のメリットのみを享受します。
このように、DCの想定利率引き上げは、従業員サイドとして譲れない一線となります。

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年金

【年】DC年金の悩ましい問題

私は今年60歳で正社員を退職し、来年度から嘱託社員として今の会社(R社)で継続雇用となる予定です。健康保険にも引き続き加入します。ですから、てっきり今加入している企業型確定拠出年金(DC)にも引き続き加入できるものと考えていました。ところが、会社のDC年金規約をパラパラとめくっていたら、嘱託社員は加入者とならないと書いてありました。念のため運営管理会社のコールセンターに問い合わせましたが、間違いないとのこと。そんなわけで、私はいきなり次の3択を迫られることとなったのです。

①DCから脱退し、積み立ててきた資産を一時金(または年金)で受取る。
②運用指図者としてDCに留まり、掛金の拠出はせず積立資産の運用だけ行う。
③DCの積立資産をiDeCoに移換し、iDeCoで掛金の拠出と積立資産の運用を行う。

どれを選択するか決めるためには、個別にメリット・デメリットを比較する必要があります。まず①ですが、DCの資産を受取ると、一時金なら退職所得、年金なら雑所得として課税されます。ですが、受取ったあとの資産の使い道は自由です。何で運用しようと制限はありません。次に②ですが、今まで会社が負担していた手数料(私の会社では393円/月)は自己負担となりますし、掛金を拠出することができなくなります。③の場合も自己負担の手数料が発生します。また、運用商品が一部の投信に限定され、個別株の運用はできません。しかし、掛金は所得控除の対象となるので、節税効果が期待できます。DCの加入期間とiDeCoの加入期間は通算されるので、DCに10年以上加入していればiDeCoに資産移換しても必要なときに資産を引き出すことができます。

さあ、どうしたものか? 悩ましい問題です。一晩考えて私が出した答えは、①と③の折衷案です。DCの積立資産は一時金で受取り、新NISAへ移換します。新NISAでは非課税の個別株投資を楽しみたいと思います。また、所得控除を受けるため、iDeCoに加入して毎月の給料から掛金を拠出します。iDeCoではエマージング株式のインデックス投信でも運用しようかと考えています。私のように企業年金に加入できない会社員の場合、iDeCoに最大23,000円/月まで掛金を払うことができるので、年間で23,000円×12ヶ月=276,000円 276,000×20%=5万5千円程度の節税ができます。(所得税10%、住民税10%の場合)


最後に、DC資産を一時金で受取る場合に注意すべき退職所得の控除額計算の特例についてお話します。
会社から退職金を受取ったあと何年か経過してDC資産を一時金で受取る場合、退職からDC資産受取りまでの期間が19年以内ですと退職所得控除の調整が必要となります。
私は1987年4月にM社に入社し2019年9月に退職、同10月に退職金を受取りました。また、M社のDCには2008年4月に加入し、2019年10月にM社の関係会社であるR社のDCに資産移換しました。そして、2024年4月にR社DCの資産を一時金で受取る予定です。ここで、M社退職金を受取った2019年10月から、R社DC一時金を受取る2024年4月までの期間が問題となります。その間4年と6ヶ月で19年以内ですので、調整が行われます。
本来であればDC一時金にかかる退職所得の控除期間はDC加入期間である2008年4月~2024年3月の16年となるはずですが、ここでは、M社退職金とDC一時金の重複期間を除いた2019年10月~2024年3月の5年(端数切上げ)となってしまいます。退職所得控除は40万円×5年=200万円、となります。(本来なら、40万円×16年=640万円)

ところで、先ほどお話したように私がDCに加入したのは2008年4月です。そう、リーマンショック(2008年9月15日にリーマンブラザーズ破綻)の直前です。運用開始早々に大変痛い目に遭いましたが、毎月1万円(2019年10月より1万2千円)ずつ愚直に日本株インデクッス投信を買い続けてきたお陰で、掛金合計196万円に対し時価資産額は415万円ほどになっています。複利とドルコスト平均法の威力を実感しています。
この415万円から退職所得控除200万円を引き、2分の1をかけた約108万円が退職所得となります。そして、これに所得税5%、住民税10%をかけた約16万円がDC一時金にかかる税金です。16万円÷415万円=4%の手数料と考えると、安くはありません。ちなみに、運用指図者としてDCに居座っても、DC一時金にかかる退職所得控除の枠は拡大しません。掛け金を拠出しない運用指図者であった期間は、退職所得控除の対象としてカウントしないルールとなっているからです。

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【年】配偶者加給年金の見直し

以前、当ブログの「国民年金の保険料納付期間延長の裏側」でふれた配偶者加給年金の見直しが現実のものとなろうとしています。

7月28日に開催された厚生労働省社会保障審議会の年金部会において、配偶者加給年金の見直しが取上げられたとのことです。(ニッセイ基礎研究所 年金ウォッチ2023年8月号) 加給年金とは、老齢厚生年金や障害厚生年金の受給権が発生した際に受給権者が扶養する配偶者や子がいる場合、老齢厚生年金や障害厚生年金に加算される年金のことです。その中で今回議論になっているのは、老齢厚生年金に加算される配偶者加給年金です。
厚生年金の被保険者が65歳になると老齢厚生年金の受給権者となります。そして、老齢厚生年金の受給権者が20年以上厚生年金に加入しており、かつ65歳未満の配偶者を扶養している場合に、配偶者が65歳になるまで配偶者加給年金として最大39万円(年額)が上乗せ支給されます。

年金部会では配偶者加給年金について、共働き世帯が増えている昨今の社会情勢からみて必要性が薄れているとか、女性の活躍や60代前半の就労の推進に逆行するという指摘がなされています。また、その仕組みに対する不公平感として、厚生年金の加入期間によって受給の可否が分かれることや、夫婦の年齢差によって受給額に違いが出ること、厚生年金の繰下げを選んだ場合に待機中は加給年金が受給できず待機終了後も年金額の割り増しの対象とならないこと等が問題視されています。

今後、日本でインフレが定着すると、マクロ経済スライドの影響で公的年金の実質的な金額は着実に減っていきます。その上で配偶者加給年金まで減らそうという話です。
厚生労働省のお役人と厚労族の政治家先生に言いたい。ただでさえ心許ない我々の老後の年金を、年金改革のどさくさに紛れ、国民の知らないところでこっそり減らすような真似は、いい加減やめにしてほしい。それでも減らすというなら、国民の前で正々堂々と議論してからにしていただきたい。

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【年】公的年金の現状と今後

突然ですが、厚生年金や国民年金(2つまとめて公的年金といいます)が確定拠出型の年金だといったら、あなたは信じますか? もともと公的年金は、加入期間や支払った保険料に応じて受取る年金額が決まる確定給付型の年金でした。しかし、2004年の年金改革で保険料を現役世代が負担可能な水準に固定し(※1)、決められた保険料の範囲内で給付額を調整する(=減額するという意)マクロ経済スライドという仕組みが導入された結果、公的年金は確定拠出型の年金に変身したのです。今や年金問題の核心は、「どう破綻を回避するか」から「どう年金額の大幅な低下を食い止めるか」に変わっています。
(※1)保険料の固定:厚生年金の保険料率を18.3%(労使折半)、国民年金の保険料額を16,900円に固定すること。

2019年の年金財政検証では、いくつかのケースにわけてマクロ経済スライドによる年金額の将来推計が示されました。その中で、女性と高齢者の就業を促進し、年率0.4%程度(実質)の経済成長を維持できれば年金財政が長期的に安定するとされるケースⅢ(人口:中位)でみると、モデル年金の所得代替率(※2)は次のように低下する見込みです。
 基礎年金2人分:36.4%→26.2%
 報酬比例部分 :25.3%→24.6%
ここで、国民年金加入者(基礎年金のみ)は約28%、厚生年金加入者(基礎年金+報酬比例部分)は約18%所得代替率が低下します。つまり、国民年金の加入者の方が厚生年金の加入者よりも将来の年金額の目減りが大きくなっています。これは、マクロ経済スライドによる年金の調整が基礎年金と報酬比例部分で別々に行うこととなっており、報酬比例部分に比べ財政状況の悪い基礎年金の方が長期間に亘って年金の調整が続くからです。
(※2)所得代替率:現役男子の平均手取り収入額(ボーナス込み)に対するモデル世帯の年金額の比率のこと
(参考:マクロ経済スライドと公的年金の将来

国民年金加入者の大幅な年金の減額を避けるため厚労省が2020年12月に公表した改革案の1つが、「マクロ経済スライドの調整期間の一致」です。これは、基礎年金と報酬比例部分で別々に行っている調整をやめ、公的年金一体で財政が健全化するまで調整を続けるルールに変更するものです。これにより基礎年金の調整期間は現行よりも短期化し、年金の減額幅は圧縮されます。一方、報酬比例部分の調整期間は長期化し、年金の減額幅は拡大します。

2つ目の改革案が「基礎年金の45年化」です。国民年金の保険料納付期間を現行の40年から45年に延長し、満額の基礎年金額を増額する(1.125倍)ものです。ただ、単純に基礎年金を増額すると、基礎年金財源の半額を賄う国庫負担も増加してしまうので、財政難の昨今、一筋縄ではいかない話です。そこで考えられるのが、1つ目の改革案との合わせ技です。これだと国庫負担の増加を抑えつつ、国民年金加入者の年金額の大幅な減額も避けることができます。そして犠牲になるのは、いつものように会社勤めの厚生年金加入者です。
(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構 特別講義資料「公的年金の現状と課題」を参考にさせて頂きました。)

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【年】国民年金の保険料納付期間延長の裏側

政府は国民年金の保険料納付期間を現行の20歳以上60歳未満の40年間から延長し、65歳までの45年間とする検討に入ったようです。これは平成16年の年金改正で導入したマクロ経済スライドの影響で、大幅な減額が見込まれる国民年金の給付額底上げを図るものです。現在は40年間フルに保険料を払った人で満額の約78万円(年額)が支給されますが、これを45年間に延長すると、78万円×45年/40年=88万円と10万円ほど増加することになります。

保険料の負担に関して個人事業主やフリーランスの方では、納付期間の5年延長で16,590円×12ヶ月×5年=995,400円と100万円ほど増えます。もっとも、国民年金の保険料は全額所得控除の対象となるので、実質的な負担増は(所得税20%、地方税10%として)70万円ほどです。そして、保険料の増加分を国民年金の増加分で割ると、もとを取るのに何年かかるか計算できます。国民年金にも税金や国民健康保険料・介護保険料がかかってきますので、手取りベースで計算すると概算で70万円÷8万円≒9(年)となり、65歳で年金の受取りを開始して74歳以上に長生きすればほぼもとが取れる計算です。

会社員や公務員等で厚生年金に入っている方ではどうかといいますと、再雇用等で65歳まで厚生年金に加入している人の保険料負担は変わりません。年金が10万円増えるのに負担は増えない? 今どきそんなおいしい話があるでしょうか? でも本当のようです。ただこの話、喜んでばかりはいられないんです。

現在、厚生年金に加入している人は会社に勤めている限り、70歳まで保険料を払い続けなければいけません(会社も同額の保険料を負担)。厚生年金は、保険料納付期間と給料の額から計算される2階部分と、国民年金(基礎年金)の1階部分から構成されます。2階部分は60歳以降も保険料を払った期間に応じて年金額は増えていきます。しかし、1階部分は40年を越えて保険料を払っても、年金額は78万円以上には1円も増えません。つまり、20歳で会社に入り65歳で退職した人の場合、60歳以降の5年間は国民年金の保険料をドブに捨てたことと同じです。もう少し上品な言い方をすれば、国に寄付することと同じです。今回、国民年金の保険料納付期間を65歳まで延長することで、ようやく60歳以降に払う保険料を正しく年金額に反映できるようになるということです。本来であれば、年金額に反映されない60歳以降の国民年金保険料相当は、60歳以降に払う厚生年金保険料から控除されて然るべきです。

国によるこの”搾取”は関係者の間では周知の事実でしたが、多くの国民にとっては「聞いてないよ!」だと思います。60歳から65歳の5年間に国に搾取される国民年金の保険料は、16,590円×12×5=約100万円。厚生年金では保険料は労使折半なので、会社員の負担は半分の50万円ほどになります。「聞いてないよ」で済む金額ではありません。国は今回の国民年金の保険料納付期間延長に合わせ、このあたりの事情を国民にきっちり説明すべきでしょう。なぜなら、今後70歳定年時代になれば保険料納付期間を65歳まで延長しても、65歳から70歳の5年間の保険料を国民は搾取され続けるからです。

もうひとつ嫌な話をします。先程、会社員等の厚生年金加入者は国民年金の保険料納付期間延長に伴い、追加負担なしで年金が増額になるとお話しました。しかし、少子高齢化の下、公的年金財政の一層の悪化に繋がるような話を政府(厚労省)がすんなり認めるとは思えません。何か裏があるのではないか。そこで考えられるのが、国民年金(基礎年金)増額のバーターとして、こっそり厚生年金の一部を削減ないし廃止することです。全く根拠はありませんが、私は配偶者加給年金(※)が狙われるのではと危惧しています。そして、その先には国民年金の第三号被保険者制度の廃止があるかもしれません。いずれにしろ、国民年金の保険料納付期間延長の裏側で、厚生年金加入者にとってマイナスとなるトラップを政府(厚労省)に仕掛けられないよう、私たちは危機感を持って議論の行方をウォッチする必要があります。
(※)加入期間が20年以上ある厚生年金加入者が65歳になった時点で、生計維持する65歳未満の配偶者がいるとき、老齢厚生年金にプラスされる年金のこと。約40万円が支給される。