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【株】長期投資を始めるにあたって

個人が株の長期投資を始めるにあたって、必要なものは何でしょうか? 私は相場変動に動じない「鈍い」メンタルと、投資資金だと思います。ここで強いメンタルと言うとハードルが上がってしまいますが、「鈍い」メンタルなら誰でも身につけられそうです。私が言う鈍いメンタルとは、相場の動きにブレない強い心ではなく、相場に無頓着で無関心で無神経でいる心のことです。

投信会社のフィデリティが2003年~2013年の10年間のパフォーマンスを顧客属性別に調査したところ、No.1は死人、No.2は口座を持っていることを忘れていた人、との結果になったという有名な話があります。運用実績のNo.1は金融関係者でなければ、大学教授でも、経営コンサルタントでもない。死人ですから売買を行うこともなく、最高に鈍いメンタルでもって10年間静かに相場と向き合っていたことでしょう。口座を持っていることを忘れていた人も、似たような状況であったと思います。
Set and forget. 買ったら、あとは死んだふり。私は個人の長期投資にはこれが負担が少なく、効率的にリターンを上げる方法だと考えています。代表的な銘柄を業種と時間を分散して複数購入しておけば、そのうちの1~2銘柄が長期の時間軸の中で大化けしてくれるでしょう。そうすれば、その他の銘柄の中に紙くずになる会社があったとしても、資産全体で納得のゆくパフォーマンスを達成できるはずです。相場が下がることを極度に恐れる必要はありません。(参照:私が株式投資を薦める理由②

次に投資資金の問題です。投資で成果を上げるには、十分な資金の投入が必要です。先程、相場が下がることを恐れる必要はないと申しましたが、短期的に相場が下がった場合に生活に支障が出ないことが前提です。生涯にわたって最低限の生活費を賄えるだけのキャッシュフローを確保する必要があります。(参照:現実的なFIREの手法について) そのため、まずは企業の正社員となって厚生年金に加入することが必要条件となります。厚生年金に加入すれば、国家権力によって会社に保険料の半分を拠出させることができます。後は会社にぶら下がっていれば終身で支給される厚生年金の資産が勝手に積み上がり、知らない間に老後のキャッシュフローが確保できます。次に年金が支給されるまでの間、日常生活を維持するため最低限必要な生活費を算出し、給料との差額をはじきます。この差額が株式投資への投入原資となります。もし、差額(給料-生活費)がマイナスなら投資はできません。給料の底上げを図るため、スキルアップや副業、転職といった対策を講じなければいけません。

株式にリスクはつきものです。教科書的には長期投資において十分なリターンが期待できるとされていますが、短期的な市場の下落は避けられません。以下ではパターン別に株式市場下落の様相を見たうえで、それでも長期的には株式投資が有効である点を確認したいと思います。
まずは通常の景気変動に伴う相場の下げのケースです。この場合、高値から30%程度が下落の目途となります。下図をご覧下さい。ここで資金は一旦、証券資産内を株式から債券へシフトしますが、景気回復や中央銀行・政府の政策サポートで短期間で株式に回帰します。

次はリーマンショックのような金融ショックによる相場の下げのケースです。高値から50~60%に及ぶ下落となります。この場合、金融システム不安が流動性リスクを高め、資金は金融資産内を株式や債券といった証券資産からキャッシュへシフトします。毀損した金融システムの復興には時間がかかりますが、適切な政策対応が実施されれば相場は5年程度で回復基調に戻ります。

最後は、戦争や恐慌といった一国の存亡に関わる危機による相場の下げのケースです。例えば、1929年の大恐慌時にはNYダウは90%下落したといわれています。そして、NYダウが暴落前の水準を回復したのは25年後のことです。しかし、ここまで経済がダメージを受けると企業の生産活動はストップし、モノ不足による物価高騰でキャッシュを含む金融資産全体が価値を失うことになります。実際、大恐慌時のCPIは1932年10月の▲10.7%を底に、早くも1年半後の1934年3月には+5.6%まで上昇しました。そこは金などの実物資産が価値を持つ世界です。このように、戦争や恐慌のような事態を想定し資金をキャッシュで保有していても、十分なリスクヘッジにはなりません。また、いつ来るか分からない戦争や恐慌を恐れる余り、一切利息を生まない金(ゴールド)に長期間資金を寝かせるというのも現実的ではありません。不動産や美術品といった実物資産への投資も流動性の点で問題があり(売りたいときに直ぐ売れない)、やはり現実的と言えません。したがって、この場合にも有効な戦略は、(消去法的ですが)長期の株式投資ということになりそうです。