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保険

【保】法人保険の節税効果はウソか

一部のユーチューバーやブロガーが、法人保険の節税は全くのウソであると発信しています。2019年のバレンタインショック以降、節税効果を売りにした法人保険のセールスが御法度となっているのは事実ですが、だからといって法人保険の節税=ウソ、とはなりません。そこで、今回は法人保険の節税効果の真偽のほどを確かめてみたいと思います。

まずは、簡単な事例で考えます。ある会社が毎期1000の利益を上げているとしましょう。法人税(実効)税率は30%とします。そうすると、この会社は毎期1000×0.3=300の法人税を納めることになります。次に、第1期において、この会社は(今では存在しませんが)100%損金算入が可能な保険(かつ、解約時に支払済の保険料と同額の保険金が給付されると仮定)に、保険料200で加入したとします。そうすると、保険料の200は損金算入されるので、会社の利益は1000-200=800に圧縮され、法人税は800×0.3=240となります。つまり、第1期では300-240=60の節税効果があったわけです。同様の保険を第4期まで継続し、第5期に解約するものとします。保険を解約すると、会社は支払済の保険料200×4=800の保険金を受取り、利益に計上します。したがって、第5期のこの会社の利益は1000+800=1800です。そして、法人税は1800×0.3=540となります。

ここで、会社が第1期から第5期までに納付する法人税について見てみましょう。この会社が保険に入らなかった場合、法人税は300×5=1500です。(下図上段) 一方、保険に入った場合は、240×4+540=1500となります。(下図下段) 何と、保険に入っても入らなくても、納付した法人税の総額は同じじゃあーりませんか! これが冒頭のユーチューバーたちの主張の根拠です。つまり、「法人保険に入っても法人税は減らず、支払うタイミングを将来に先送りしただけ」と。

確かにゼロ金利の世界では、その通りかもしれません。しかし、これからの金利ある世界では事情が異なります。金利ある世界では、「法人税を支払うタイミングの先送り」は重要な意味を持ちます。もう一度、上図下段をご覧下さい。金利ある世界では、納税を先送ることで手許に残ったキャッシュを、預金等の運用に回すことができます。仮に年利2%の預金で毎期の節税額を第5期まで複利運用したとすると、合計で約12の利息を得ることができます。これが法人税の納税先送りによる利息効果です。そして、利息効果は企業にとって大きなメリットとなります。(キャッシュを借入れ金の返済や運転資金に充てたとしても、同じことが言えます。)

昔から保険以外にも節税商品といわれるものは数多ありました。不動産しかり、レバレッジドリースしかり。古いところでは、適格退職年金などもそうでしたね。なぜ、こんなにも様々な節税商品が利用されてきたのか、考えてみて下さい。それこそ納税の先送りが、企業にとって大きなメリットである何よりの証拠だと思います。もう一度言います。節税商品の本質は納税の先送りです。税金の総額が変わらないことなど、多くの社長さんは先刻承知のうえ。それでも、「利息効果ハ、節税効果デハナイ」と冒頭のユーチューバー氏が言い張るのなら、「おっしゃる通り」と申し上げるほかありません。

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閑話休題

【閑】寄生虫人生

人間は「幸せ」を糧に生きている動物です。そして人間には2つのタイプがあります。自分で「幸せ」を創れるタイプと、自分では「幸せ」を創ることができないタイプ。ちょうど光合成で炭水化物を作れる植物と、葉緑体を持たず自分では炭水化物を作れない植物がいるのと同じです。では、自分で「幸せ」を創れない人間は、どうやって生きていくのでしょうか? 彼らは他人に寄生し、「幸せ」を分けてもらうことで生を繋いでいきます。

どうやら私は、自分で「幸せ」を創れないタイプのようです。もうすぐお盆ですが、私の勤めていた会社にはお盆休みがありませんでした。しかし、私はお盆休みに故郷へ帰省したり、観光地に向かう人たちを見るのが好きでした。なぜか私もハッピーな気分になれたからです。今にして思えば、帰省や旅行に行く人たちから「幸せ」を分けてもらっていたのだと思います。そして、今では嫁さんや娘から「幸せ」を分けてもらっています。嫁さんや娘が毎日を楽しく、思い通りに過ごせる環境を整えるのが、ダンナでありオヤジである私の役目です。

これからも私は寄生虫として生きていくことになりますが、寄生虫の人生にもいい面があります。人は加齢とともに自分で「幸せ」を創り出すことが難しくなっていきますが、寄生虫は高齢者になっても若年者の宿主に寄生すれば、いつまでも上質で瑞々しい「幸せ」を感じることが可能です。こんなことを言うと、若い人から「気持ち悪りぃジジィ」と嫌われそうですが……。

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株式

【株】日経平均下落のわけ

日銀の利上げ? 米景気のハードランディング? 中東情勢の緊迫化? 結局のところ、この方の見立てが一番当たってる気がします。(村越誠の投資資本主義「ボラ売りリバースで令和のVIXショックが発生する)

このブログ記事は米株の下落について書かれていますが、日本株も同様の事象と考えていいでしょう。8月6日の日経新聞がマーケット総合に掲載していましたが、最近の傾向として機関投資家がオプション料稼ぎを目的としたプット売りを出していたとのこと。機関投資家がオプションを売るなんて、以前には考えられなかったことです。また、証券会社も大量のオプションのショートポジションを抱えていた模様。今回、日銀の追加利上げとFRBの9月50bp利下げ観測が海外ファンドの円キャリートレード(円売り日本株買い)の巻き戻しを呼び、それが機関投資家や証券会社の日本株投げ売り、そして個人投資家の信用買いの投げ売りと伝染、これらの投げ売りの連鎖が8月5日の大暴落の原因ではないか、と私は見ています。

暴落前、東京マーケットでは、機関投資家、個人投資家、ファンド、業者ともに先物・オプションのレバレッジでお腹一杯の状態にありました。そのレバレッジが弾け、ミニバルブ崩壊が起こったわけです。しかし、そうだとするとレバレッジの調整がつけば、マーケットは落ち着きを取り戻すと思われます。もちろん、当面はボラタイルな展開が続くでしょう。大地震の後に余震が続くようなものです。そして、円キャリートレーダーが去った後の日本株は、円安による業績のお化粧に頼らない素顔の実力が問われることになります。

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株式

【株】一休さん

まさかの展開です。若干の調整はあって然るべきと思っていましたが……。それにしても驚くのは、日経平均の下げのスピードです。金融ショックでもなく、コロナのような未知の恐怖でもなく、単に米国の景気が予想以上に悪そうという話でしょう? 2022年以降大幅な利上げを行ってきたFRBには、いざとなれば潤沢な利下げ余地があるわけで。また、円高といっても、今年1月1日のドル円は140円台です。もとに戻っただけでしょ。みんな、何をそんなにびびってるのかな。

まあ、裏でイタズラ小僧たちがパニックを煽っていることは想像が付きますが、こいつらの行動をセオリーで理解しようとしても無駄です。理不尽な輩からは距離を置くことが一番。そして、自分が短期投資家でなかったことに感謝しつつ、あとは一休さんになることです。「あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。」

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株式

【株】低成長の日本株投資は儲からない?

山崎元さんの過去のブログ記事:勘違いだらけの「長期投資」(トウシル/楽天証券)を読んでいたら、次のような気になる文章に出くわしました。「投資では、対象となる企業や経済の成長に賭けているのではない。対象が成長しなければ儲からないと考えている投資家が少なくないが、投資のリスクを負担することに対するリターンの源泉は、資産の価格形成にある。」「株式であれば、同じ予想利益に対し、高成長が予想されれば株価が高く形成されるし、成長率が低く予想されれば株価は低く形成されているはずだ。どちらに投資しても、”リスクフリー金利+リスクプレミアム”のリターンが期待できる。」「投資家が論理的に期待すべきなのは、投資対象の成長率ではなく、資産価格形成に含まれるリスクプレミアムなのである。」

これだけでは分かりにくいので、山崎さんの他のブログ記事も参考にしながら、数値例を使ってもう少し分かりやすく説明したいと思います。まず、証券分析の教科書の最初に出てくる、株価の算出式を考えます。ここで、株価(P)を将来の純利益の割引現在価値の合計と考え、割引率(r)、純利益の成長率(g)、予想される1期目の一株利益(E)として、理論株価(P)を求めると、P=E/(rーg)~①、となります。(これは割引配当モデルと言われるものです。算出過程は教科書等でご確認下さい。)尚、割引率(r)はリスクフリー金利(i)と、投資家が求めるリターンであるリスクプレミアム(p)の合計です。r=i+p~② ①式を変形すると、r=E/P+g 。 ②式を代入して、p=E/P+g-i~③、となります。E/PはPERの逆数で益利回りです。それに純利益の成長率(g)を加え、リスクフリー金利(i)を控除したものがリスクプレミアム(p)です。

具体的な数値を当てはめてみましょう。日経平均株価の平均PERは足下で、15倍程度ですので、E/Pは6.7%(1/15×100=6.7)です。利益成長率を仮に5%、リスクフリー金利を0.5%と仮定すると、リスクプレミアムは11.2%となります。次に米国S&P500について、平均PERを20倍とすると、E/Pは5%、利益成長率を10%として、リスクフリー金利を5.5%とすると、リスクプレミアムは9.5%となります。

どうでしょうか。米国株の利益成長率を日本株の倍と仮定しても、米国株のPERとリスクフリー金利の高さから、リスクプレミアムでは日本株の方が優位との計算結果となりました。ただ、これはあくまで理論上の話です。実際にこの通りになるとは限りません。なぜなら、実際の株式市場には資産価格形成のメカニズムを歪める様々なノイズが存在するからです。ただ、山崎さんの「投資家が論理的に期待すべきなのは、投資対象の成長率ではなく、資産価格形成に含まれるリスクプレミアムなのである。」というメッセージは、(利益成長率で米国株に劣る)日本株を愛する多くの日本人投資家にとって、心強い一言になることは間違いありません。

今回のポイントは、利益成長率の高い銘柄は人気が高くPERも高いので、逆に益利回り(PERの逆数)は低くなる。つまり、利益成長率(g)と益利回り(E/P)は、トレードオフの関係にあるということです。gはグロース株的リターン、E/Pはバリュー株的リターンと見れば、ごもっともな話ではあります。尚、今回、為替は出てきませんでした。為替は2国間の通貨の交換比率に過ぎず、長期的な期待収益率はゼロと考えられるからです。

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閑話休題

【閑】急がば回れ~霊峰白山の雪辱

2024年7月27日(土)、私は霊峰白山へ2度目の挑戦をしました。昨年コテンパンにやられた、あの白山です。昨年は準備万端、自信満々で登山に臨んだのですが、スタート直後からバテバテ、コースタイム8時間30分のところ、10時間かけて登頂・下山したのでした。事前に十分トレーニングしたのに、なぜあんなにもバテたのか。まず思い当たるのが、オーバーペースです。私は白山(2,702m)ほどの本格的な山に登るのは30年ぶりでしたが、ついつい若かったころのイメージで登り始めてしまいました。結果は、1時間後に”仮死状態”。そして、もうひとつの理由が飲酒です。昨年は前日に結構な量のお酒を飲み、体の重さを感じながら白山に登りました。(医学的に正しいかどうか知りませんが)、人間は登山中に大量の筋肉老廃物を血中に放出します。しかし、アルコールで腎機能が低下していると、老廃物の無毒化に支障が出るはず。そのため、体内に毒素が長期間滞留し、悪影響が出たのでは? また、脱水症状にもなりやすかったのでは?と、勝手に自己分析しました。

今回は昨年の反省を踏まえ、マイペースの登山に徹しました。しんどさを感じたら、とにかくペースダウン。そして、4ヶ月前からの”準禁酒”。意思の弱い私には完全な禁酒は無理なので、週1日程度に飲酒を限定しました。以前は年間366日?飲んでいたので、これでもかなりの酒量削減です。この2つを武器に、雪辱を果たすべく臨んだ霊峰白山。前回の記録を大幅に短縮する、7時間10分(休憩時間は除く)で登頂・下山できました。急がば回れ!この調子で南アルプスの光岳にも挑戦したいと思います。(7月に予定していた北アルプス薬師岳は天候不順のため断念しました。)

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ライフプラン

【ラ】山崎元さん著「がんになってわかったお金と人生の本質」を読んで

本書は2024年1月に食道癌で逝去された山崎元さんの遺作です。商社、銀行、証券会社と転職を続けた著者の、死の直前まで積み重ねた思索の果実がふんだんに盛り込まれています。私のようなチンピラが大変僭越なのですが、今回は山崎さんの最新作を読んだ感想などをお話させて頂きたいと思います。気付きが多く、とにかく勉強になる本です。是非、多くの方に手に取ってほしいです。

まず、著者は自身の経験に基づき、「がん保険はやっぱり要らなかった」と、がん保険不要論を展開します。著者はステージⅢの食道癌に罹患し、抗がん剤治療を2クール(2週間×2)行ったあと、手術を実施。計40日の入院を強いられます。著者が仕事の関係で個室を選んだため結構な費用が発生しましたが、この特殊要因を除けば自己負担額は約75万円とのこと(健康保険の高額療養費制度を適用)。さらに、著者は東京証券業健康保険組合に入っていたので、同健保の付加給付で月2万円を超える自己負担額が払い戻された結果、最終的に自己負担額は14万円程度に収まります。(尚、付加給付の制度は国民健康保険や協会けんぽにはありませんが、高額療養費の制度は各健康保険に備えられています。)

著者は自己負担額が75万円程度であったことから治療費は貯金で楽に間に合うとして、がん保険の保険料を毎月支払うよりも、貯金なり積立投資で早く何百万円かの蓄えを作ることを考えた方がいいと言います。しかし、著者はここで重要な指摘をします。癌治療で最大のコストは、治療費の他にあるというのです。それは機会費用です。癌治療の期間、著者は多くの仕事を断っており、本来であれば獲得できていた収入を、治療に伴う費用として認識する必要があるということです。これを一般のサラリーマンに当てはめれば、会社を休業したり就業時間を短縮するといったことになると思います。結果として給料の減少に繋がる話です。

余り知られていないかもしれませんが、がん保険が担う機能には「治療費の補填」の他に、治療期間中の「収入減少の補填」があります。がん保険には診断給付金(一時金)や治療給付金等の給付金がありますが、これらは「収入減少の補填」機能も担っています。癌の治療は5年~10年と長期にわたることもあり、その場合、収入の減少は大変な金額となります。私は「収入減少の補填」機能も考慮すれば、がん保険の存在意義は大きいと考えます。(本書の中で、著者が死亡保障の保険として紹介している「所得保障保険」は、正しくは「収入保障保険」という生命保険商品です。それとは別に「就業不能保険」などと商品性の近い保険に、「所得補償保険」という損害保険商品があります。ホント保険ってややこしいですね。)

次に、著者は「守銭奴型FIRE」に疑問あり、として若くして引退できる金融資産形成を目指す人生戦略を批判します。そして、人生にあって「楽しむ能力」が最も大きい貴重な時期に十分なお金を使わないことは「もったいない」と言えるのではないか、と付け加えます。しかし、私は日本におけるFIREの問題点は、そういうことではないと思います。若い方がFIREを目指す理由の多くは、会社に隷属していたら身も心も破壊されるからです。なので、自衛手段としてやむを得ずFIREを選択しているのであって、合理性ある行動だといえます。むしろ問題なのは、未だに人を使い捨てにして平気な日本の企業の方でしょう。

最後に著者は、私の頭をハンマーで殴ってくれました。昔話ですが、バブル崩壊の傷跡も生々しい1991年、証券会社の損失補填問題が発覚します。これはバブル崩壊で証券会社が営業特金(※1)で預かった顧客資産に穴を開け、その損失を違法に補填していた問題です。第三者委員会の調査を通じ、証券各社には行政処分・業務改善命令が下されました。ただ、同様の違法行為を行っていたのは、証券会社だけではありませんでした。営業特金と似た商品が信託銀行にありました。ファンド・トラスト(※2)、通称ファントラと呼ばれるものです。そして、ある関係者が信託銀行がファントラで顧客利益の付け替えをやっていると内部告発したことで、社会党の議員が国会で質問するという事態に発展しました。その頃、私は某信託銀行に勤務していましたが、銀行中が上へ下への大騒ぎとなったことを覚えています。

本書の中で著者があの時の内部告発者であると告白しています。著者は当時、住友信託銀行のファンドマネージャーであったとのこと。しかし、著者の告発にも関わらず、本件は黙殺されてしまいます。銀行が利益の付け替えをやっていたとなれば、社会的批判は証券会社の比ではありません。大蔵省銀行局長と自民党有力政治家の間で握りつぶすことが決められたようです。結果、著者は信託銀行を後にし、外資系運用会社に転職することになります。

あの時の内部告発者はあなたでしたか、山崎さん。この一件が山崎さんのその後の人生に大きな影響を与えたことは想像に難くありません。金融商品の運用の仕組みを分析して落とし穴を発見したり、手数料無料の証券会社のからくりを見破ったりと、山崎さんは個人投資家のために資産運用業界の裏側に潜む悪と対峙してきました。山崎元さんの勇気に敬意を表しつつ、心よりご冥福をお祈りしたいと思います。

(※1)企業が証券会社に余剰資金の運用を一任する信託商品。通常の特金では委託者たる企業が運用指図をするが、営業特金では証券会社が運用指図する点が特徴的。特金は本来実績配当の商品であるが、証券会社は顧客企業に利回りを保証し、損失が生じると補填を行っていた。
(※2)企業が信託銀行に余剰資金の運用を委託する信託商品。顧客は大まかな運用方針を指示するだけで、実際の運用は信託銀行の判断で行う。本来実績配当の商品であるが、営業特金同様、利回り保証や損失補填の存在が疑われた。






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不動産

【不】リスクと不確実性

米国の経済学者、フランク・ナイトは数学的に確率判断が可能なものを「リスク」、数学的に確率判断ができないものを「不確実性」、といって区別しました。そして、企業活動において「リスク」は費用であり、「不確実性」こそが利潤の源泉だと考えました。今日、投資で一般にリスクと言われるものの中には、ナイトのいう「リスク」と「不確実性」が混在しています。

代表的な投資である不動産投資と株式投資について考えてみましょう。
不動産投資は、物件購入から売却までの賃料収入と売却損益、借入れに伴う元本と利息の返済、空室や滞納の発生よる損失、管理費や修繕費、募集広告費等の費用、固定資産税や都市計画税、所得税等の税金、減価償却費といった収入と支出のキャッシュフロー・シミュレーションを叩き台に行います。各支出項目の変動はある程度予測可能であり、ナイトの分類では「リスク」に該当します。不動産投資の本質は、アップサイドの追求よりも、「費用の極小化」によるダウンサイドの抑制にあります。借家法に守られた借家人を相手に、賃料の値上げを交渉するのも限界があります。しかし、空室を埋めるとか、修繕費用を安く抑えるといったコスト面での地道な大家の努力は、パフォーマンス向上に着実に効果を発揮します。(尚、ここでいう不動産投資とは、値上がり益=キャピタルゲインを狙うタイプではなく、賃料=インカムゲインを狙うタイプの投資をいいます。)

一方、株式投資ですが、20年~30年といった長期目線での投資の場合、投資先の企業の業績が将来どうなっているかは、ほとんど予測不可能です。当然、株価の変動も予測不能であり、ナイトの分類では「不確実性」に該当します。(※) 株式投資の本質は、アップサイドを果敢に取りに行く「利潤の極大化」にあります。私は、複数の投資先企業の中から倒産する企業が出ても気にしません。テンバーガーの企業が1社でも出てくれば帳消しにできるからです。長期の株式投資には損益シミュレーションが成立する余地はなく、不確実性の低減策は(時間と銘柄の)分散だけです。株式投資に関しては、膨大な書籍やブログ、ユーチューブ動画等がありますが、いずれも長期投資には役に立ちません。愚直な積み立て投資こそが、唯一の正解となります。
(※)短期では株価の変動は正規分布に従うとの前提を置くことが一般的です。この場合は、株式の変動は「リスク」に該当します。

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保険

【保】医療保険との正しい付き合い方

【グラフ1】は日本人の生涯医療費の発生状況を、年齢層別に記したものです。男女合計ベース平均では、生涯で一人当たり2,700万円の医療費(3割の自己負担分ではなく10割の全体分)がかかりますが、その50%は70歳以降に発生しており、さらに年齢層が上がるにつれ医療費が増加していることが分かります。(医療費が85歳以降で減少に転じるのは、平均寿命を超えたところで死者数が増加するため。)今回は、このあたりの事実を踏まえたうえで、医療保険との正しい付き合い方について考えてみたいと思います。

【グラフ2】は終身平準払いの医療保険について、保険会社に支払われる保険料と保険会社が支払う保険金(給付金)の推移をイメージしたものです。横軸は被保険者の年齢、縦軸は保険料・保険金の金額となっています。保険料は平準払いのため年齢を問わず一定ですが、保険金は被保険者の加齢とともに、特に70歳以降急速に増加しています。ここでは、契約者=被保険者=保険料負担者=保険金受取人、とします。契約者にとって保険料は支出、保険金は収入に該当します。年間収支は、契約者が若年~中年期(ア)においてマイナスが続き、高年期(イ)になってやっとプラスに転じます。

このような特徴から言える医療保険との正しい付き合い方は、以下の通りです。
①(ア)の領域では、なるべく早期に医療保険を解約する。(例えば、会社に入社後の数年間、医療費の負担が厳しい時期に限定して加入。給料が上がったら早々に解約し、以後は健康保険の高額療養費制度等で対応する。)
②(イ)の領域では、医療保険の解約はなるべく避ける。

しかし、実際は多くの若年期の方が、ダラダラと惰性で医療保険を継続しています。そして、逆に高年期の方が、保険料の負担が厳しいからと解約されるケースが多いです。これでは若年~中年期に積み立てた保険料を放棄して保険会社に”寄付”するようなもので、保険会社の思うつぼです。高年期まで頑張って医療保険を継続されてきた方は、何とかそのまま医療保険を掛け続け、人生100年時代・超高齢期にかけて急増する医療費の負担に備えて頂きたいと思います。医療保険が効果を発揮するのは、これからです。

もう一つ注意したいワードがあります。「保障の最新化」です。昔入った医療保険が時間の経過とともに陳腐化し、保障内容が最新の医療とミスマッチになってきたため、既存の契約から最新の医療保険に乗り換えることをいいます。この場合、既存契約は解約となりますので、今まで払ってきた保険料は保険会社に”寄付”し、現在の年齢で再計算した”割高”な保険料で最新の保険に入り直すことになります。これは契約者にとってダブルパンチの痛手です。「保障の最新化」は保険会社がさかんにセールスしてきます。契約者にとって確かにメリットはありますが、それ以上にデメリットを負担することになります。契約にあたっては、慎重な判断を求めたいところです。

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株式

【株】日経平均 VS NYダウ

このチャートは平成バブル前の1983年から2023年までの日経平均とNYダウの推移を重ねたものです。(日経平均は円、NYダウはドル) ご覧の通り、左側半分では両者は大きく乖離した動きとなっており、平成バブルが異常な値動きであったことが分かります。当時、日経平均のPERは、何と60倍を超える水準にありました。また、東京都の山手線内側の土地の価格でアメリカ全土が買えると言われるほど、地価も異常な値上がりをしました。しかし、リーマンショック後の2009年頃から、日経平均とNYダウは歩調を合わせた動きになっています。このことは、平成バブル崩壊後の「失われた20年」で、平成バブルで形成された日本株の異常なバリュエーションが国際標準に収斂していったことを意味しています。(国際標準のPERを15倍とすると、日経平均は60÷15=4、つまり4分の1に下落する必要があったことになります。)

一方、NYダウは2000年以降、たびたび経済ショックに見舞われていますが、平成バブルのような極端な下落とはならず、堅調な上昇を続けています。これが国際標準の株価の動きだとすれば、割高感を払拭した日経平均も今後は極端な下落は避けながら、長期的な上昇カーブを描くことが期待されます。もうひとつ、NYダウのチャートから見えてくるものがあります。それは、1983年当時から1995年頃にかけての株価の上昇です。チャートでは目盛りの関係で確認しにくいですが、この間に株価は約5倍に上昇しています。一般にはIT革命(1995年頃)以降のNYダウ(やナスダック)の好パフォーマンスを喧伝する向きが多いですが、それ以前の期間(※)においてもNYダウはキッチリ上昇しています。 国際標準のポテンシャルからすると、株式は10年~20年の時間があれば、特段の技術革新がなくても5倍程度には上昇するものなのかもしれません。
(※)IT革命前、1980年代から1990年代にかけての米国経済は、決して順調なものではありませんでした。

もちろん、1929年の世界大恐慌クラスの経済ショックが起きたら、多くの企業は倒産し株価はゼロになります。その場合、銀行も連鎖倒産を免れないので、銀行預金も紙屑となる可能性大です。国債や現金通貨の価値も暴落します。安心なのは金(ゴールド)や宝石の類いですが、50年や100年に1度の大恐慌に備えて、全財産を金に投資することが果たして正しい選択でしょうか? 大恐慌が気になる方は、想定される恐慌の発生確率に応じ、資産の一部を金に投資しておけば十分です。そして、当面必要な流動性を確保したら、あとは株式等に投資するのがスマートな個人投資家の姿だと思います。