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不動産

【不】再考、不動産投資

不動産投資というと、株式投資と似たようなものと考える人が多いかもしれません。が、実態は投資というよりも事業です。ですから、本当は他のビジネス、例えば飲食業などと比較すべきです。不動産投資家は、事業者=プロとして不動産事業に関わることが求められます。不動産投資で得られた賃料収入は、不動産所得として事業所得と同じ総合課税の対象となりますし、不動産投資家には株式投資家を守る投資者保護基金のようなセーフティネットは用意されていません。国も不動産投資家を事業者=プロと見ている証拠です。そもそも、銀行が積極的に融資してくれるのも、彼らが不動産投資家を事業者とみなしているからです。株式投資家からすると、ありえへん話です。

このように、プロとしての取り組みが必要な不動産投資ですが、書店には素人向けの解説本が山積みされており、気軽に始められる副業としてサラリーマンに人気があります。一部の解説本は、賃料という安定収入に借入れによるレバレッジをコーティングすることで、ローリスクでハイリターンを手にできるかのような幻想を読者に与えてきました。私は不動産の世界に不用意に足を踏み入れた投資初心者が、これからの金利上昇で損失を被ることを懸念しています。

ところで、従前私はレバレッジを効かせた不動産投資について、超ハイリスク運用との認識を持っていましたが、最近考えを改めました。不動産投資は、やり方によってはリスクを軽減できることを知ったからです。今ではハイレバレッジの不動産投資を、ローリスクは言い過ぎでもミドルリスクくらいなら言ってもいいのでは、と思っています。

不動産投資には6つのリスクがあるといいます。空室リスク、滞納リスク、災害リスク、価格下落リスク、修繕リスク、金利上昇リスクです。しかし、このうち予測不能で事前対応が困難なリスクは災害リスクだけ。他の5つは投資家の経験とスキル、そして外部業者のサポートが有れば、ある程度対応が可能です。例えば、空室が発生しても、迅速に空室を埋めるノウハウを投資家が持っていれば、空室のダメージを軽減できます。設備の老朽化で修繕が必要な場合も、低コストで対応してくれる親密な業者さんがいれば、修繕のダメージを軽減できます。また、複数の物件をタイミングを分散して入れ替えていけば、価格下落や金利上昇等のマーケットリスクにも対応できます。ベテラン投資家は各人が独自のスタイルでリスク対処法を確立し、本来はハイリスクなレバレッジ付き不動産投資をミドルリスク化しているのです。

不動産投資家は、下表のようなCF(キャッシュフロー)シミュレーションを用いて投資の是非を判断します。(下表はサンプルです) 空室リスク、滞納リスク、価格下落リスク、修繕リスク、金利上昇リスクをシミュレーションに織り込んだうえで、イメージするCFが獲得できる目途が立てば物件の購入に進みます。そして、最終的な投資の成否は、物件の運営でいかにリスクを抑え、シミュレーションと実績の乖離を圧縮できるかにかかっています。不動産投資は株式投資と異なり、投資家自らリスクの源にアクセスし、改善を図れる点がメリットであり、また、シミュレーションベースで投資を考えられることから、株式投資よりもリスクは低いと言えそうです。(株式投資で15年間の損益シミュレーションを立てても、毎年の損益のブレが大き過ぎて役に立ちません!) ただし、それは投資家に十分な経験とスキル、そして信頼できる外部業者との連携があっての話となります。


【おまけ1 最近の融資事情】
かぼちゃの馬車事件以降、銀行の不動産融資への態度は硬化しており、区分は別にして一棟物ではフルローンはほぼ不可能な状態です。某銀行では最近、頭金2割以上、年収1200万円以上、金融資産5000万円以上が融資実行のメルクマールになっているとの話もあります。

【おまけ2 素人が見た不動産投資の本質】
今回の論考の中で気付いたことがあります。私は不動産投資の経験がない素人ですが、素人なりに「これが不動産投資の本質では?」というものに思い至りました。実務にあたる不動産投資家の方々にとっては「何を今更」でしょうが、「灯台もと暗し」という言葉もあります。忘れないうち記録に留めておきたいと思います。
「不動産投資はシミュレーションに始まり、シミュレーションに終わる」 この一文から不動産投資の本質が見えてきます。
①シミュレーションが成立する物件を購入する
②リスク削減に注力しシミュレーションからの乖離を極小化する
この2点です。


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株式

【株】今回の下げ相場での投資行動

401K(確定拠出年金)で運用していた日経平均インデックス投信の解約資金が、4月になってようやく私の口座に入金されました。支払い請求の書類を提出したのが3月初ですから、1ヶ月以上かかった計算です。正直、この対応の鈍さにはあきれました。ただ、入金を待っている間に内外株式の雲行きが怪しくなり、相場が下げ基調となったのはラッキーでした。私は押し目を拾うべく、早速買いの手を入れました。上表がその途中経過です。私は今回の下げの目途を日経平均の高値41,000円から▲10%と置き(毎度のように根拠はありません、単なる希望的観測です)、そこに至るまで38,000円割れから買い下がるイメージでした。今回の下げでは、新NISAの成長投資枠を高配当株で埋めたかったので、メイテックHD(9744)とコマツ(6301)を購入しました。また、最近日本株投資を始めたアジアや中東のお金持ちが好みそうな(?)大型優良株のダイキン工業(6367)を、特定口座で購入しました。あと若干購入資金が残っているので、この先日経平均が36,000円に近付けば、さらに買い下がりたいと思います。

もう一つ宿題があります。我が家の円資産のリスク分散のため、米国債を購入する件です。米国ではにわかに金利引き下げ観測が後退し、長期金利が上昇しています。私が目を付けている米国債(利率4.375%、償還2028/8/31)もアンダーパーになっており、買いたい気分が増しています。しかし、一方で残念なのが円安の進行です。4月26日の日銀金融政策決定会合での結果を受け、足下、ドル円は158円台に突っ込みました。米国長期金利が上昇したことで、米国債の購入を煽るユーチューバーも多いですが、外債を購入する際に注意しなければいけないのが為替です。外債投資はほとんど為替投資といっても良いくらいです。

ご参考に、先程の私が目を付けている米国債の利回りが為替によってどれだけ変化するか、下表にて試算してみました。例えば、米国債の購入時の為替が1ドル=155円であった場合、利金と償還金の支払い時の為替が145円だと年間利回りは2.65%に低下します。これが135円まで円高になると、年間利回りは僅か0.97%です。利率(クーポン)が4.375%だと思って購入した米国債が、ちょっと円高になっただけで利回りが大幅に低下することがお分かり頂けると思います。
2つめの表は、ドル円が145円の水準で米国債を購入した場合です。ここでも、為替が135円に円高になると年間利回りは2.53%まで低下します。実際はここから20%税金が引かれるので、手取りベースでは2%です。
米国債の利金と償還金をドルで受取りドルで消費する人はいいのですが、円で受取る必要がある場合、米国債のパフォーマンスは為替に大きく依存することをご認識下さい。外国債券は安全資産ではありません。外債投資はハイリスクな為替への投資です。
で、私はと言いますと、日銀の為替介入でドル円が145円を割れるようなタイミングがあれば、行こうかなと考えています。ですが、4年後に勝てる気は全くしません。

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閑話休題

【閑】ジョブ型雇用が招く近未来の日本

最近ジョブ型雇用という言葉を目にする機会が増えました。ジョブ型雇用とは、人材を採用する際に職務内容(ジョブ)を明確に定義して雇用契約を結び、労働時間ではなく職務や役割で評価する雇用形態をいいます。ジョブ型雇用はもともと欧米で主流(ほぼ100%)の制度ですが、我が国でも注目を集め導入する大手企業が増えています。ジョブ型雇用に対し、従来から日本企業で採用されてきた雇用形態はメンバーシップ型雇用と呼ばれます。メンバーシップ型雇用とは、終身雇用制を前提に新卒で社員を一斉に採用し、業務内容や勤務地を限定せずに契約を結ぶ雇用形態のことです。
ジョブ型雇用では職務を遂行する能力を持った即戦力のプロを、必要に応じ随時採用します。メンバーシップ型雇用では新入社員を一括採用し、研修や異動・配置転換によって時間をかけて戦力化を図ります。(ジョブ型雇用では異動・配置転換はありません) ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の流れをイメージすると、下図のようになります。ジョブ型雇用では人は職務と紐付けされ(下図では人事)、労働者は同一の職務に従事しながら、スペシャリストとして転職を重ねてキャリアアップを図ります。一方、メンバーシップ型雇用では人は会社と紐付けされ(下図ではA社)、同一の会社内部で色々な職務を経験しながら、ゼネラリストとしてキャリアアップを図ります。メンバーシップ型雇用の縦の動きに対し、ジョブ型雇用では横の動きとなります。(こんな感じに社会のあり方が変わっていくとすると、儲かる会社のイメージが湧いてきませんか?)


ジョブ型雇用というと何か目新しい雇用形態のように聞こえますが、むしろ原始的なものです。18世紀に出版されたアダム・スミスの「国富論」に分業による生産性の向上が論じられていますが、ジョブ型雇用の原型はこの「国富論」にあると言われています。我が国においても戦前はジョブ型雇用が一般的で、メンバーシップ型雇用が普及したのは戦後の高度経済成長期のことです。そのため、1947年に施行された労働基準法はジョブ型雇用が立て付けとなっており、雇用時に労使で締結する労働契約に就業場所や従事する職務の内容を絶対的記載事項として明示するよう求めています。(※1)

近年ジョブ型雇用が注目を集めるのには、いくつか理由があります。一つめは、経団連が2020年に公表した「2020年版経営労働政策特別委員会報告」において、日本型雇用システムであるメンバーシップ型雇用のメリットを活かしつつ、適宜ジョブ型雇用を取り入れていくべきと提言していることです。二つめは、日本企業が高スキルのプロ人材を獲得し国際競争力を上げるには、グローバルスタンダードであるジョブ型雇用の迅速な導入が不可欠なことです。三つめは、コロナ禍による在宅勤務やテレワークの普及で、上司や同僚との緊密なコミュニケーションが必要となるメンバーシップ型雇用のミスマッチが目立ってきたことです。そして最後に、「失われた30年」で疲弊した日本企業に定年まで丸抱えで社員の面倒をみる余裕がなくなり、メンバーシップ型雇用の維持が困難になってきたことです。私は最後の理由が一番大きいだろうと見ています。

さて、この先ジョブ型雇用が一般化した場合、日本社会はどう変わるのでしょうか。海外の事例がヒントになります。「50代からの東京アーリーリタイア生活」のブログ主:WATARUさんによれば(WATARUさんは海外勤務が長い)、海外ではあるポジションで人材を募集する場合、会社は正社員と(社外の)個人事業主を同じ土俵で比較して採用を決めるそうです。WATARUさんが参画したプロジェクトでは、約半数がコントラクターと呼ばれる個人事業主だったとのこと。はじき出された正社員は、場合によってはクビです。(※2) このように、ジョブ型雇用の世界では正社員といえども安住の地位にはなく、社外の個人事業主たちと生存競争を繰り広げる不安定な日々を送ることになります。では、正社員の将来は暗いかというと、私は必ずしもそうではないと思います。なぜなら、仕事への満足度調査で、正社員よりもフリーターの方が満足度が高いとの結果がいくつも報告されているからです。処遇面で明らかに不利な立場にあるフリーターが、なぜ正社員よりも仕事への満足度が高いのか。それは恐らくフリーターが会社に隷属せず、自分の意思に従って仕事をしているから。そして、自分で自分の人生をコントロールできている自負があるからだと思います。ジョブ型雇用の導入で会社の指揮命令系統を離れ自主性を取り戻した正社員は、きっと仕事への満足度を向上させることでしょう。

(※1)労働契約法は、一定の条件を満たした場合には就業規則に定める労働条件をもって、労働契約の内容に代えることを認めています。そして就業規則では、就業場所や従事すべき職務の内容の記載が免除されます。つまり、メンバーシップ型雇用は労働契約法のもとに成立していることになります。
(※2)現在、日本では労働契約法の解雇権濫用法理がネックとなって、事業主は自由に社員をクビにすることはできません。解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、その権利を濫用したものとして無効とされます。しかし、今後時代の変遷に伴い、このあたりの解釈も変わっていく可能性はあります。

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ライフプラン

【ラ】人生の目標

FIREを達成した多くの賢人たちが言うように、良き人生とは何にも束縛されず、好きなときに好きなことができることだと思います。人生の最終目標は”自由”だと言っても過言ではないでしょう。しかし、”自由”は簡単には手に入りません。”自由”の前には様々な組織や人が立ちはだかります。そして、そういった邪魔者たちを蹴散らすには権力が必要です。でも、権力を手にできるのは、一握りの運に恵まれた者だけです。では、私たち一般ピープルはどうしたらいいのか。それは、”マネー”を手にすることです。

”マネー”は権力の代わりに、邪魔者たちから自由をつかみ取ってくれます。したがって、人生の最終目標である”自由”を手に入れるための中間目標は、”マネー”となります。では、”マネー”を手にするにはどうしたらいいのか。それは、健康な心と体を維持して仕事に励み、生活費を除いた給料の残りを投資に回す。そして、このプロセスを時間をかけて愚直に繰り返すことです。これが”マネー”を手にするための手段となります。しかし、多くの人は会社から給料をもらったところで「仕事」の後工程を棄権し、「投資」まで進もうとしません。これでは”マネー”を手にすることは叶いません。

もし、あなたが”自由”を手に入れたいと本気で思うのなら、「仕事」の後工程である「投資」まできっちりやり切ることです。

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株式

【株】オルカン一択の世相に物申す

春本番。桜の花は散ってしまいましたが、引き続き、世間はNISA一色、オルカン一色です。初めてもらう給料からオルカンでつみたてNISAスタート、という新入社員の方も多いと思います。そんな大人気のオルカンですが、今回は投資に当たり注意しておきたい点についてお話したいと思います。

MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス投信(通称オルカン)。この投信1本で全世界の株式に分散投資できることが売りとなっています。しかし、オルカンの投資先の6割以上はアメリカで、構成銘柄の上位にも米国企業が多く含まれており、実際オルカンとS&P500は似た動きをします。ですから、全世界の株式へ分散投資したつもりが、開けてみたら米国株への集中投資と変わらない、ということになりかねません。そして1番の問題点は、オルカンは外国株投信であり為替リスクがあるにも関わらず、オルカンを推奨する業者やメディアがあまり言及していない点です。

一部の証券会社は、オルカンと日経平均株価のチャートを並べてオルカンの優位性を訴求していますが、これは近年のオルカンのパフォーマンスが、円安の為替差益で嵩上げされているからです。外国株式の場合、株のリターン・リスクに為替のリターン・リスクが乗っかります。したがって、日本株よりも外国株の方がリターン、リスクとも高くなります。そして、為替の期待リターン、リスクは株式のそれとは性格が異なることに注意すべきです。株式の期待リターンはプラスです。それは株式のリターンの源泉が企業の成長力にあるからです。一方で為替の期待リターンはゼロです。それは、為替は2国間の通貨の交換比率に過ぎず、そこから付加価値は生まれないからです。

では、為替のオルカンへの影響はいかほどでしょうか。簡単な試算で確認してみます。今、為替が1ドル=150円として、150万円でオルカンを10,000ドル購入したとします。20年後、オルカンは買値の10倍、100,000ドルになりました。ここでオルカンを売却し円転するとしたら、収益はいくらになるか。
20年後の為替を、①1ドル=200円、②1ドル=170円、③1ドル=150円、④1ドル=120円、⑤1ドル=100円、⑥1ドル=70円、とします。各ケースの収益は、①100,000ドル×200円-150万円=1850万円、②100,000×170-150万円=1550万円、③100,000×150-150万円=1350万円、④100,000×120-150万円=1050万円、⑤100,000×100-150万円=850万円、⑥100,000×70-150万円=550万円。このように、売却時点の為替の水準で、円ベースのオルカンのパフォーマンスが大きくブレることが分かります。購入時と売却時で為替の水準が不変(③)であれば1350万円であった収益が、売却時に1ドル=100円の円高(⑤)であれば850万円まで減少してしまいます。逆にオルカン売却時に大きく円安に振れていれば、投資家は日本株を大きく上回るリターンを手にすることができます。

下図にオルカンへの株式と為替の影響をまとめました。縦軸が株式のリターン、横軸が為替のリターン。○はリターンがプラスのとき、×はリターンがマイナスのときです。ケース1は株式・為替ともプラスのときです。ケース4は株式・為替ともマイナス。ケース2とケース3は株と為替の片方がプラスでもう片方がマイナスのときです。具体的な市場環境を想定すると、ケース1は株高・円安でオルカンとしてはベストな環境です。逆にケース4は株安・円高で最悪の環境です。ケース2は株高・円高、ケース3は株安・円高となります。株と為替は別々の理屈で動くので、このようにマトリクスで考える必要があります。ちなみに昨今はケース1に該当し、リーマンショック~アベノミクス以前の時期(2008年~2012年)はケース4に該当します。4つある市場環境のうち、たまたま今がベストなケース1であるからこそオルカンの好調があると言え、市場環境が変われば保証の限りではありません。

投資初心者のオルカン購入者が、このような外国株式の特性を理解した上で購入しているか。証券会社や銀行といった業者が、株だけでなく為替のリスクを、分かりやすい言葉で丁寧に説明しているかどうか。そこが問題です。
誤解のないように申し上げておきますが、私はインデックス運用を否定しているわけではありません。運用はオルカン1本で事足りるという、最近の風潮に物申しているのです。すでに保有している円資産とのリスク分散で外貨資産を持ちたいからと、オルカンに集中投資するのであれば問題ありません。しかし、退職後の生活費に充てるためのお金であったり、住宅の購入費であったりと、円資産としての出口が予定されるお金をオルカンに集中投資するのは考えものです。国内株式とのミックスで運用されてはいかがですか?

識者の中には円安は国策なので、この先も円安傾向は続くと主張する向きもありますが、円安が国策などということは決してありません。確かに円安は、輸出企業やインバウンドの恩恵を受けられる国内企業にとってプラスです。が、それは日本企業が外需を取り込んでいるからであり、外国から見れば内需を横取りされたことになります。そのため、行き過ぎた円安は海外とのあつれきを呼び、ときに外交問題に発展します。(円安政策が近隣窮乏化策と呼ばれる所以です。) 古い話ですが、1985年9月22日、G5(日・米ほか先進5ヶ国)は米国の強力な圧力のもと、米国の貿易赤字削減のため円高ドル安誘導を発表しました。有名なプラザ合意です。このとき、発表からわずか1日で為替は1ドル=235円から20円も円高になり、翌1986年7月には150円台まで円高は進行しました。こんな昔話を持ち出したのは、為替市場は極めて政治色の強いマーケットであり、しばしば市場原理で説明の付かない理不尽な動きをするからです。為替に関しては株式以上に思い込み・決め打ちは危険であり、慎むべきです。

最後に、今後、為替が円高に動く可能性について考えてみたいと思います。まずありそうなのは、ナスダックやNYダウ等の米国株の暴落に伴うドル安・円高です。バリュエーション面から見た米国株の割高は、多くの市場関係者が指摘するところです。それから、11月の大統領選でトランプさんが選ばれ、彼が米国の輸出産業保護のため円安を声高に批判するケースです。また、日本発のケースとしては、日銀の金融引締めが時期尚早であり、本邦経済がデフレに後戻りしてしまう場合が考えられます。繰り返しますが、為替は株式以上に予測困難なマーケットです。株式のリスクをとったうえに為替のリスクまでとる必要が本当にあるのか、今一度考えてみて下さい。

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閑話休題

【閑】嘱託おじさん

私は2024年3月末をもって会社を定年退職し、引き続き4月1日から嘱託社員として勤務しています。年収は税金・社会保険料込みで280万円となります。したがって、月収は280万円÷12=23万3千円。ひと月に20日働くとして、日給は23.3万円÷20=11,700円。1日に8時間働くとして、11,700円÷8=1462円。私の時給は1460円となります。大学生の娘のバイト代と変わりませんが、手取りベースでは負けます。そして、私は何事もなかったかのように、今までと同じ職場で同じ仕事を粛々とやっています。

退職の日、嘱託となる私に上司が温かい言葉をかけて下さいました。「今までと変わることなく、志を高く持って職務に当たるように!」「それはあなたではなく私が言うせりふでは?」と思いましたが、黙っていました。
こう見えて、私も社労士の端くれです。長澤運輸事件や名古屋自動車学校事件に関する判例についての認識はあります。でも、ここは大人の対応をすべき場面なのでしょう。あと5年、お世話になるのですから。

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不動産

【不】株式投資家から見た不動産投資

株式投資と不動産投資の比較は当ブログにおいて、過去に何度か行ってきましたが(不動産と株式を比較してみた/不動産とJREIT、そして株式/不動産VS株式、通説と現実のギャップ)、改めて株式投資家から見た不動産投資の特性を考えてみたいと思います。中堅サラリーマンが億円単位の借入れを起こして一棟マンションをバンバン買いまくる時代は過去のものとなり、今や不動産は企業オーナーや地主、高給サラリーマン等の富裕層限定の投資商品となっています。現在、彼らは都心のRCマンションを十億円ロットで買いまくっています。一般ピープルにはとても手の届かない価格帯ですが、島国日本で希少価値の高い都心の物件はインフレの後押しもあり、今後まだまだ上がると見ているのでしょう。
これらの物件を買う人には賃料収入(インカムゲイン)という発想はなく、値上がり益(キャピタルゲイン)だけを考えているはずです。株式投資家から見ると、この投資手法はグロース株(成長株)投資に相当します。グロース株投資では配当は考慮せず(高配当のグロース株など聞いたことがありません)、株価の値上がりをひたすら追求することになります。

では、資金力に乏しい一般ピープルは不動産投資に手を出すことはできないのでしょうか。不動産市場が高値圏にあり、かつ銀行が不動産融資に慎重スタンスな今、私は一般ピープルが無理をして不動産投資を始めるタイミングではないと考えます。不動産アナリストの幸田昌則氏は近著「不動産バブル静かな崩壊」(日本経済新聞出版)の序文で次のように述べ、不動産市場の今後に警鐘を鳴らしています。「足下の実態を見ると、すでに22年の夏頃から大都市圏では流通市場だけでなく、不動産業界内にも住宅・投資物件・土地などの在庫(売れ残り)が、月を追うごとに増加している。業界内の在庫水準は、2008年のリーマンショック時の水準を15年ぶりに超えてしまった。」 幸田氏の言うとおりバブル崩壊とまでは行かなくても、不動産市場に調整が入れば不動産価格が下がって賃料利回りが上がり、一般ピープルにももう少し買いやすい状態となるでしょう。(※)

不動産投資は都心の駅近物件に限ると主張する関係者もいますが、何もそんなピカピカ物件に拘る必要はありません。将来的に賃貸ニーズが期待できる地方都市もあるはずです。そういった地方都市の中古木造一棟もので、コスト控除後キャッシュフロー(ATCF)で採算の合う高利回り物件を購入すれば、物件が値上がりしなくても投資は成り立ちます。中古木造なら価格、コストともRC造・鉄骨造より抑えられるので、一般ピープルにもアクセスしやすいです。株式投資家から見ると、この手の投資手法は配当狙いのバリュー株(割安株)投資に相当します。私は一般ピープルが目指すべき不動産投資は、このバリュー株投資タイプだと思います。ただ問題なのは、今の市場環境では採算が合う価格帯の物件が見つからないこと。銀行から融資を引きにくいこと。そして、中古なだけに物件の保全状況の目利きが問われることです。
株の世界では「休むも相場」という格言があります。今は無理をせず、物件購入に向けた頭金の準備と、目利きの「目」を養うときです。

(※)飯田グループHD<3291> は4月8日大引け後に業績修正を発表しました。24年3月期の連結最終利益を従来予想の700億円→310億円(前の期は755億円)に55.7%下方修正し、減益率が7.4%減→59.0%減に拡大する見通しです。これは、同社が余剰在庫処分のため、販売価格の調整により早期販売を行ったためです。

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株式

【株】債券という商品

債券という商品は、私たち個人投資家には普段あまり馴染みがありません。しかし、確定拠出年金(DC)で利用するバランス型投信や、会社で加入する確定給付企業年金(DB)では必須の投資対象となります。そこで、今回は債券について、まとめてみたいと思います。債券の特性は預金や株式と比較するとはっきり分かるので、まずは預金と比較してみましょう。

両者に共通しているのは、どちらも元本保証の安全資産だという点です。満期まで持っていれば、ちゃんと元本が返ってきます。(ただし、債券の発行体が倒産したら元本は返ってきません。) それから、固定型と変動型の金利(クーポン)がある点も共通しています。(以下では固定型の債券を前提とします。) 一方、異なるのは、預金は売買できないのに債券は売買できる点です。債券は小切手や手形と同じ有価証券であり、主に証券会社の店頭で売買が可能です。また、預金は満期までの期間が最長でも10年となりますが、債券は償還まで40年の超長期債もあります。(永久債といって満期のない債券もありますが、ここまでくると債券というより株式に近い商品となります。)

次に、株式と比較してみます。どちらも売買できるという点では共通していますが、株式に元本保証はなく満期もありません。債券の金利(クーポン)は固定ですが、株式の配当は企業の業績によって変動します。また、債券と株式では逆の値動きをするという特徴があります。例えば、景気が悪化すると債券価格は上昇するケースが多い反面、株式価格は下落するケースが多いです。(両者は常に逆の動きをするわけではありません。)

世の機関投資家は、株式と逆の動きをする債券の特性を利用するため、債券に投資をします。(※) 債券を持っていれば株式が下落しても、損失の一部を債券の上昇で相殺できるからです。そういう意味で、債券は機関投資家にとって株価下落に備えた保険といえます。(反面、株価が上昇すれば債券価格は下落し損失が発生します。この損失が保険料=コストになります。) ここで、毎年5%以上のリターンを目指している年金基金があったとします。この基金が株式に100%投資した場合(ポート①)、期待リターンが7%、リスクは15%とします。そして、株式と債券に分散投資した場合(ポート②)は、期待リターンが5%、リスクは10%とします。はたして年金基金はどちらのポートフォリオを選ぶでしょうか? もし、この基金が5%以上のリターンを安定的に上げたいと考えるのであれば、きっとポート②を選択するでしょう。
(※)債券は金利商品としての性格もありますが、現状では金利が低すぎて金利商品としては魅力がありません。

このように、機関投資家にとってリスク抑制ツールとして有益な債券ですが、私たち長期個人投資家にとっても同じように有益と言えるのでしょうか。結論から言いますと、私は個人投資家にとって債券は無用の長物だと思います。なぜなら、個人投資家は、債券よりもはるかに強力で低コストのリスク抑制ツールを持っているからです。それは時間です。個人投資家は他人の資産を預かって運用しているわけではないので、1年毎にリターンを確定する必要はありません。また、コストを払って年度リターンのブレを抑える必要もありません。リターンが大きく落ち込む年があっても、それは評価上の損失に過ぎません。長期の時間軸の中でやがて株価は上昇トレンドに回帰し、評価損は解消され累積リターンはプラスに転じることでしょう。極論すれば、私は長期個人投資家はリターンだけを見て投資すれば十分と考えます。それでもリスクが気になるという方は、資産の一部を債券でなくキャッシュ(預金)で保有すべきです。

【おまけ】債権という商品
債券と間違えやすい商品に債権があります。日本語ではどちらも「サイケン」と発音し区別がつきませんが、英語では債券はBond、債権はLoanとなり、金利系商品という以外は別ものです。債券は「発行体(国や地公体、企業など)が資金調達するために発行する有価証券」であるのに対し、債権は「個人や法人が契約や法律に基づいて他者に対し債務の履行(例えば金銭の支払い)を請求できる権利」を言います。何となく商品性も似てますが、法的性格は全く別の商品です。投資家を自負する方は混同しないようにしましょう。





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株式

【株】インフレと株高の関係

3月19日に日銀は賃金の上昇を伴う2%の物価安定目標の実現が見通せる状況になったとして、マイナス金利政策を解除しました。事前にはマイナス金利解除により為替が円高に転じるとの観測もありましたが、3月27日には一時1ドル=152円近辺まで円安が進行しました。慌てた財務省は日銀・金融庁と3者会合を開いて介入をちらつかせながら、必死で市場を牽制しました。一方、円安を見た株式市場は、再度41,000円トライの様相です。ここもとの株高の根底には、日本経済のデフレ脱却→インフレ転換期待があると言われています。でも、インフレになればモノの値段が上がって国民の生活は苦しくなるはずなのに、なぜ株は上がるのでしょう? 今回は、この点について考えてみたいと思います。

今、黒字企業A社と赤字企業B社があるとします。直近決算ではA社が売上100・売上原価80で粗利が20、B社は売上60・売上原価80で粗利が▲20とします。A社、B社とも、今期は原材料費が10%上がったので、製品価格を10%値上げしました。(尚、両社とも製品価格の値上げに伴う売上数量の減少はないものとします。) この場合、A社、B社の今期決算はどうなるでしょうか。
A社の売上は100×1.1=110、売上原価は80×1.1=88、で粗利は110-88=22となり前期比+2の増益です。B社の売上は60×1.1=66、売上原価は80×1.1=88、で粗利は66ー88=▲22で前期比▲2の減益です。このように同じ10%の原材料費の上昇でも、黒字企業には増益要因として、赤字企業には減益要因として効いてくることが分かります。また、原材料費の上昇を製品価格に転嫁できない黒字企業や、製品価格に転嫁できても売上数量の減少を招いてしまう黒字企業にとっても、原材料費の上昇は減益要因となります。

このように、インフレは競争力のある黒字企業にとっては利益を伸ばすチャンスとなる反面、競争力のない企業、赤字企業にとっては業績が悪化するきっかけとなります。マクロ的な視点で見ると、インフレは企業の優勝劣敗を明確化し、ゾンビ企業を淘汰することで、経済の効率性・生産性をアップします。
海外投資家は、東証が主導する企業経営改革に加え、インフレによる日本企業のパフォーマンス向上に期待し、日本株を買っているものと思われます。
逆に、デフレはぬるま湯の中で競争力のない企業や赤字企業を温存し、経済のパフォーマンスを低下させます。デフレ下の日本で、海外投資家が日本株を売り続けたのは当然のことです。

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株式

【株】私の個別株投資遍歴

今日は私の個別株の投資遍歴についてお話します。はたして、私の運用力はいかほどか。日経平均株価に勝っているのか。ちょっと恥ずかしいですが、全部見ていただきましょう。
私が初めて株式を購入したのは、1997年10月のJR東海株の第一次売り出しのとき。売り出し価格は忘れてしまいましたが、今でも保有しています。その後、1990年代は短期の売り買いを繰り返していましたが、損失を出した記憶しかありません。(当時の記録は残っていません。) 1998年の金融恐慌の際は、額面(50円)を割り込んだ長銀株をスケベ買いしました。私はまさか天下の長銀が潰れることはないだろうと高をくくっていましたが、残念ながら潰れてしまいました。おかげで私の長銀株は紙クズです。

2000年代に入り長銀ショックの傷も癒えたころ、私は短期の利ざや稼ぎから長期目線の株式投資に方向転換しました。2003年8月のマキタに始る個別株の投資遍歴は下表のとおりです。

まず目に付くのが、2007年8月から2020年10月まで、購入日にブランクがあることです。この時期、私が勤めていた某銀行で株式投資が許可制となったため、個別株の購入を自粛したためです。(私は2019年9月に銀行を退職しました) 2008年のリーマンショックから日経平均のザラ場7,000円割れを経て、2012年のアベノミクス相場の開始まで、日本株の千載一遇の買い場が続きますが、この間、私は相場に参加していません。まさに痛恨の極みです。個人投資家として失格です。個別株はだめでも投信は買うことができたので、日経平均のインデックス投信でも買っておけばよかったのです。

私が今まで購入した銘柄の中で、会社の業績やバリュエーションを分析して買った銘柄は1社もありません。(そもそも、私にそんな能力はありませんし) なんとなく新聞で目に付いたとか、地元の会社だから応援しようとか、そんな動機で買っています。もともとマキタは高配当の地味な会社でしたが、いつの間にか海外生産比率をアップして高成長企業に様変わりしていました。それから、HOYA、村田製作所と買い進めるにつれ、ポートフォリオのグロース色が濃くなり配当利回りが下がってきたので、2020年の投資再開時にはバリュー系の高配当株を買おうと考えていました。そこで購入したのが、オリックス、東京海上、三菱商事、JT、アイカ工業です。また、このとき、実験的にJREITを2銘柄購入しました。ヘルスケア&メディカル投資法人と大和ハウスリート投資法人です。(その後、国内金利の上昇による価格下落リスクが気になったので、大和ハウスリート投資法人は売却しました。) 他に、タカラレーベン・インフラ投資法人ほかインフラファンド3銘柄にも投資しましたが、2022年10月にタカラレーベン・インフラ投資法人が公開買い付けに伴い上場廃止となるのに合わせ、全銘柄を売却しました。(マーケットの縮小による流動性低下で、インフラファンドは長期保有に向かないと考えました。)
2022年2月以降は、FRBの利上げで大きく下落したナスダックの影響で低迷していたグロース銘柄の中から、信越化学とリクルートを買いました。住友金属鉱山、カネカを買ったのは単なる思いつきです。また、値動きの鈍かった帝人、岡谷電機産業、尾張精機、アイチコーポレーションの4銘柄を損切りし、別の銘柄に入れ替えました。(私は基本的に損切りはしませんが、より魅力的な銘柄を買う原資に充当するために売却することはあります。)

以上、ざっくり私の個別株の投資遍歴をご覧いただきましたが、上表で青く網掛けしている銘柄は、購入時から2024年3月21日までの騰落率が日経平均に負けているものです。勝敗の星取りでいくと9勝6敗となり、私が日経平均に勝ったように見えますが、この表に載っていない損切り銘柄があるので、個別株の配当を加えたトータル損益でも日経平均に勝てていないよう思います。(アバウトな話ですいません。正確な計算は勘弁して下さい。) 
私の個別株の拙い投資遍歴から言えるのは、手間をかけて個別株に投資するよりも、インデックス投信に投資する方が楽に良好な結果を出せるということです。それから、個別株はインデックス投信よりもはるかにリスクが高く、心臓によくありません。一例として、マキタのチャートを付けておきます。(出処:yahooファイナンス) 2021年9月にコロナ禍による好業績への期待から、7,050円の最高値を付けましたが、コロナの落ち着きとともに株価は下げ足を早め、2022年11月に2,589円の安値を付けました。僅か1年余りで3分の2近くの下落です! 私は都合の悪いことは忘れてしまう性分なので平気でしたが、普通の人は短期間に株価が3分の1になったら精神的にきついと思います。でも、インデックス投信なら、何十年に1度のリーマンショック級の経済ショックでも来ない限り、株価が3分の1になることはまずありません。