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不動産

【不】もし10億円あったら

最近あるFIRE系ブログを見ていたら、「もし10億円あったらどんな運用をするか?」という興味深い記事を目にしました。私が10億円なんて大金を手にする可能性は未来永劫0%ですが、たまにはそんな妄想の世界に心を遊ばせてみるのも悪くありません。

FIRE界隈でよく語られるのが、1億円の資産を4%で運用できれば年間400万円の収益を稼げるので、働かなくても生活ができるという話です。その場合、4%の運用は、高配当の株式や投資信託で実現するという設定が多いようです。今なら、為替リスクの分散と高金利が得られる米国債に投資する手もありかと思います。これが、10億円となると、年間の収益は4000万円となります。都心一等地のタワマンに住んで、真っ赤なフェラーリに乗って、週末はクルーザーで東京湾パーティー……。そんな夢のような生活が現実のものとなります。トレビアーン! すいません。ちょっと興奮し過ぎました。

妄想の世界から現実に戻ります。さて、この10億円。はたして、使い切っていいものでしょうか? もし子供がいたならば、子供に資産を残したいという人もいるでしょう。資産を次世代に承継するかしないかで、運用の方向性は大きく変わってきます。次世代への承継を考えた場合、資産運用は資産を増やすという単純なゲームから、資産を増やしつつ同時にインフレや相続のダメージから資産を守るという複雑なゲームへと変貌します。そして、資産規模が大きくなるにつれ、後者の色彩が濃くなります。

野村総研のリポート「日本の富裕層の特殊性」(野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 2023年)によると、日本の保有資産上位1%の総資産平均は約4億円だそうですが、このうち77%が不動産とのことです。資産規模がある程度以上になると、資産運用の目的はインフレ対策と相続対策が主となり、結果、お金が不動産に流れます。富裕層は運用収益(賃料収入)を狙って不動産投資を行うのではなく、インフレに負けない不動産価格の上昇、あるいは、相続税評価額の圧縮を目的に不動産に投資します。

冒頭のブログ主殿は、10億円の投資対象として不動産を候補に上げていましたが、私は今は一般ピープルが資産増額ゲームとして不動産に手を出すタイミングではないと考えています。なぜなら、不動産価格の上昇によって、足下の利回り水準が低すぎるからです。現在、首都圏の築浅収益物件の表面利回りは、せいぜい4%程度だと思います。ここから、客付けコストや運用経費、管理費、固都税等を差っ引くと、実質利回りは3%程度でしょう。全額キャッシュを投入し、手間暇かけてこの利回りなら、JREITや高配当株の方がよほどましです。

従来は借入れによるレバレッジで利回りを膨張させ、キャッシュ・オン・キャッシュ(CCR)ベースで高利回りを実現するスキームが可能でした。しかし、昨今、金融機関の不動産投資案件への融資スタンスは硬化しています。新築/築浅区分を除き、一般ピープルが借り入れによる不動産投資を行うのは、事実上不可能な状況です。
もし10億円あって単純な資産増額ゲームを行うのなら、日本株と米国株の分散投資が流動性の面からも一番いいように思います。

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株式

【株】円安悪玉論

神田暴威の為替介入により一旦は円高に向かったドル円相場ですが、足下では再度160円台に突入、37年ぶりの円安水準となっています。円安は日本経済にとってプラスなのか、マイナスなのか、意見が分かれるところですが、最近は円安がインフレを助長するとの理由から、円安悪玉論が優勢な勢いです。私は為替の素人ですので、いずれが正しいのか判断する資格も能力もありません。ただ、長年、株式と債券を通じて為替を見てきた者として、今後のドル円の望ましい方向性について考えをまとめたいと思います。

上に1971年以降のドル円のチャートを掲げましたが、2012年のアベノミクス開始までの期間、固定相場制当時の1ドル=360円からの円安修正・円高進行の流れであったことが分かります。途中で円安に転じる場面もありますが、(1985年のプラザ合意を除き)経済ショックや地政学リスクの高まりによって、ことごとく円高に引き戻されています。

変動相場制の世界では、通常、経済ショックに陥った国は、自国通貨安による輸出拡大によって経済の回復を図ります。しかし、我が国の場合、チャートでご覧のとおり、平成バブル崩壊から、アジア通貨危機(※)、リーマンショックと、経済ショックのたびに急激な円高に見舞われてきました。円高に振れた理由はいくつか考えられます。日本企業や投資家が海外資産を国内に引き揚げたためとか、円キャリー取引の巻き戻しとか、欧米通貨への不安心理の高まりによる円買いとか。でも、正直、理由はどうでもいいです。円安であるべきときに円高であったこと。そして、それが日本経済にとって致命傷となったこと。ここが問題なのです。2008年のリーマンショック以降、超円高で日本の製造業が急速に国際競争力を失う一方、韓国のサムスンや台湾のTSMC等が自国通貨安を武器に急速に力を付けていきました。経済ショックに加えての円高。この二重苦が、今日の日本経済の停滞を招いた元凶です。
(※)このとき、日本は山一証券、拓銀、長銀、日債銀と続く金融機関破綻による金融危機により、亡国の一歩手前まで追い込まれました。韓国は財政破綻し、IMFの管理下に置かれました。

しかし、ドル円のトレンドは変わりました。足下では米国の利下げ時期が取り沙汰されていますが、いまだに円安トレンドに転換の兆しはありません。私は、日本企業はこの千載一遇のチャンスを逃すべきではないと考えます。円高に対応するため大手企業の多くが海外展開を進めた結果、いまさら円安と言われてもメリットは薄いとの意見もあります。でも、中小企業を含めたオールジャパンで見れば、まだまだ円安メリットは大きいはず。今こそ、韓国や台湾企業に奪われた、半導体を初めとする工業製品のシェアを挽回するチャンスです。

結局のところ、介入によって円安を止めようとしても、基礎的な経済条件に変化がなければ効果は長続きしません。円安悪玉論をヒステリックに叫ぶのではなく、円安による輸出競争力の強化を通じて日本経済の潜在成長力を高め、結果として円高を呼び込むという中長期目線での取り組みが必要なのではないでしょうか。


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年金

【年】厚生年金のパフォーマンス

以前、投資家目線で考える公的年金で厚生年金と国民年金の投資利回りについて考えましたが、2024年の年金改正を見据え、改めて厚生年金(※1)のパフォーマンスについて考えてみたいと思います。2024年改正では国民年金(基礎年金)の加入期間が40年から45年に延長される見込みであり、また先々、国民年金の第3号被保険者や厚生年金の配偶者加給年金は廃止される可能性が高いです。そこで、今回はこのあたりの事情も織り込んでいきます。 
(※1)以下では老齢厚生年金に限定しています。障害/遺族厚生年金には言及しません。

まず、厚生年金の給付額(年額)ですが、ザックリ、「年収累計×0.55%」で計算できます。正確には「平均標準報酬額×5.481/1000×被保険者期間の月数」となりますが、興味のある方はご自身でネット等でご確認下さい。今、20歳から65歳までの45年間会社に勤務し、入社から退職までの平均年収が400万円(税金・社会保険料の控除前ベース)のA氏を想定します。そこで、A氏の厚生年金の額を計算してみると、400万円×45年×0.55%=99万円、となります。これとは別にA氏には国民年金(基礎年金)が支給されます。

基礎年金は、「81万円×加入年数/40年」で計算できます。国民年金の加入期間が45年に延長となると、81万円×45年/40年=91万円、の基礎年金を受け取れる計算です。したがって、A氏は厚生年金と基礎年金を合わせて年間190万円(=99万円+91万円)を、65歳から終身にわたって受取ることになります。ポイントは、厚生年金の金額を計算する際の年収累計が、税金・社会保険料控除前の金額である点です。憶えておいて下さい。

次に、厚生年金の保険料についてです。厚生年金の保険料率は18.3%ですが、これを社員と会社が折半して負担します。ですので、年収400万円のA氏が負担する保険料の金額は、400万円×18.3%÷2=36.6万円(年額)となります。尚、この金額は、全額社会保険料控除の対象です。そのため、税金の戻りを考慮した実質的な保険料負担は、36.6万円×(1-0.15)=31万円(※2)、となります。 
(※2)A氏の所得税を5%、住民税を10%と仮定。

では、毎年31万円ずつ資金を拠出して45年間運用し、その後、仮に65歳から85歳までの20年間にわたって毎年190万円(計3,800万円)を取り崩す場合、45年間の運用(複利)利回りは如何ほどか? 減債基金係数という数字を使って計算すると、約4%となります。当然、85歳より長生きすれば、利回りは上がっていきます。どうですか。4%という数字、私はかなりいけてると思います。なにせ、ほぼノーリスクですから。日本株の期待リターンが5%程度であることと比較しても、結構魅力的です。これだけのパフォーマンスが可能なのは、厚生年金の保険料の半分を会社が負担しているからです。

労働者にとって厚生年金に加入することの意味は、国家権力を援用して資本家に保険料の半額を強制的に負担させることにあります。会社員は是非この権利を行使したいもの。厚生年金は人生100年時代を乗り切るうえで、必須の資産形成ツールです。(平均年収や勤務年数によって厚生年金の利回りは変動します。平均年収400万円、45年勤務以外のケースでの利回りを知りたい方は、お手数ですが管理人までお問い合せ下さい。) 尚、投資家目線で考える公的年金では国民年金の加入期間を40年、扶養配偶者有り、運用利回りは単利、の前提で利回り計算しているため、今回の結果とは相違があることをお断りします。

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閑話休題

【閑】お札とお札

私は毎朝、ある女性行政書士のブログを訪問するのが日課となっています。それは、私がいつか行政書士の試験にチャレンジしたいと思っていることもありますが、彼女のちょっと斜に構えた、そしてちょっと皮肉めいたドライな語り口が無性に好きだからです。昨日の朝もブログを訪問し、いつものように最新の記事を読み始めたのですが、何ともいえない違和感を感じました。記事はこんな書き出しで始ります。「そういえば、お札を新しいものに替えていなかった。外出したついでに神社に寄って、お札を新しいものに替えよう。」 私はてっきり、お札(さつ)を新札に交換する話かと思いました。テレビで諭吉から栄一さんにチェンジするというニュースをやってましたから。(※) でも、それなら行き先は銀行のはず。なんで神社なの? 確かに神社ならお賽銭のお札はいっぱいありそうだけど、旧札を新札に両替してくれるなんて聞いたことないし……。これが私の感じた違和感の正体です。そして、私の鈍い脳みそが、お札=おふだ、であると認識するまで10分かかりました。
(※)新札の発行は7月3日です。

でも、言い訳するわけじゃありませんが、お札(さつ)とお札(ふだ)、この二つをフリガナなしで並べられたら、正直、区別つきませんて。悔しいのでググってみたら、私と同じようなコメントがいっぱい出てきました。中には、最中(もなか)と最中(さいちゅう)も区別できないぞ、との意見もありましたが、こちらは前後の文脈から判断できそうです。

お札(さつ)とお札(ふだ)の話に戻ります。この二つが同じ文字なのは、もともとの由来が同じだからだそうです。(ネット記事の受け売りですが。) 現代社会では、モノやサービスの代金はお札(さつ)で「支払い」ますが、これは「お祓い」に由来する言葉とのこと。その昔、神社では人の罪やケガレのお祓いをヌサという紙(または麻・木綿)を使って行ったあとで、領収書兼お守りとして依頼人にお札(ふだ)を渡していました。そして、このヌサが現在のお札(さつ)に発展したと考えられています。このように、お札(さつ)もお札(ふだ)も、人の罪やケガレを祓うことに関係したものであり、言ってみれば双子のような関係だったのです。今ではお札(おさつ)は、人間の「金銭欲」や「支配欲」といったケガレの支払いに充てられています。お金持ちはおのれのケガレを落とすため、必死で稼いだお金を必死で使っているわけです。そう思うと、意外にお金持ちも辛いかもしれませんね。

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株式

【株】あかん、買ってもうた

わたくし、いつぞやは「為替が145円になったら米国債を買いたい」などと戯言を申しておりましたが、いつまでたっても一向に円高になる気配はございません。そうこうしているうち、ソフトバンクグループ(SBG)がクーポン3%の円建て社債を発行したのを見て、わたくし、為替リスクを取ってクーポン4%の米国債を買うのがバカバカしくなってきちゃいました。でも、SBG債は完売御礼のようですので、今からでは入手不可能です。そこで、仕方ないから高配当株を買うことにしたんです。そりゃ、わたくしにも、足元の株価水準が高いことくらい分かります。なので、相場が深押しするタイミングを待って、買い出動するつもりでございました。昨日までは……。

「三つ子の魂百まで」とはよく言ったものでございます。我慢ができないという子供の頃からのわたくしの性格は変わりません。結局、相場の下げを待ちきれず、今日、買っちゃいました。8593三菱HCキャピタル。日経平均39,000円どこで。あーあ、やっちまった。
明日はメジャーSQに、日銀金融政策決定会合の結果発表。大ケガにならないことを祈るのみでございます。

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株式

【株】メジャーSQの前に

6月10日に日経平均株価は前日比+354円の39,038円と、久しぶりに39,000円台で引けました。株価上昇の特段の材料がないにも関わらずです。日経新聞は本日(6月11日)朝刊で、157円台への円安を見て海外短期筋が株価指数先物へ買いを入れたと解説していますが、何故に今買う?との疑問は解けません。さらに海外時間に日経平均先物は39,200円まで上昇しています。
この不可解な上げについて、やはり今週末のメジャーSQを抜きには語れません。これまでもメジャーSQの前後でオプション・先物の売り方と買い方の思惑が交錯し、相場が乱高下する場面がたびたびありました。

長期個人投資家としては、ここで変に強気になって相場に付いていくことは慎み、むしろ相場の急落に備え下値で買い指しを入れるくらいで丁度いいと思います。

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年金

【年】2024年、公的年金はどう変わる?

2024年は5年に1度の財政検証(※1)の年であり、公的年金(厚生年金と国民年金)にとって重要な一年となります。2004年のマクロ経済スライド(※2)の導入以降、公的年金の保険料は一定の水準(厚生年金:18.3%、国民年金:16,900円)に固定されていますが、一方、年金額は調整(減額)が続く結果、特に国民年金(基礎年金)が将来的に大きく落ち込む見込みとなっています。そこで、今回の財政検証では、国民年金(基礎年金)の大幅な減少を抑えるための方策を、国民の納得を得られる形で打ち出せるかがポイントとなります。厚生労働省は財政検証において、次の5項目のオプション試算(※3)を行う予定です。
①被用者保険の適用拡大
②国民年金の45年化
③国民年金と厚生年金の調整期間の一致
④在職老齢年金の廃止
⑤標準報酬月額の上限引き上げ
では以下、①~⑤について順に見ていきましょう。
(※1)公的年金の長期にわたる財政の健全性をチェックするために行う検証のことで、社会・経済の変化を踏まえながら原則5年ごとに実施される。
(※2)少子高齢化が進行しても財源の範囲内で給付を賄えるよう、財源に合わせて給付の水準を自動調整(減額)する仕組み。
(※3)財政検証に加えて行われる、年金制度の課題の検討に役立てるための検証作業。オプション試算の内容に沿って、公的年金の見直しが行われる。

①被用者保険の適用拡大
被用者保険とは会社員や公務員が加入する年金のことで、つまりは厚生年金のことです。2020年の年金制度改正法により、短時間労働者に係る被用者保険の適用(人数)要件が、2022年10月から101人以上へ、2024年からは51人以上へと拡大されてきました。また、個人事業所の適用業種についても、2022年10月から弁護士・税理士等の士業にも拡大されています。今回、これら人数要件の拡大を一層進めようというものです。場合によっては、人数規模を問わず全事業所が加入対象となったり、短時間労働者の勤務時間週20時間以上、標準報酬月額88,000円以上という加入要件が撤廃される可能性もあります。要件の緩和・撤廃によって、被保険者数の増加⇒保険料収入の増大により、年金財政の健全化促進を図る狙いがあります。

②国民年金の45年化
現在、自営業者やフリーランス等は国民年金に20歳から60歳まで加入し、保険料を40年間払うことになっています。これを20歳から65歳まで加入し保険料を45年間払うことに変更し、年金額の増額を図るものです。国民年金の保険料(月額)は令和6年価格で16,980円なので、支払い期間が5年延長すると保険料は累計で、16,980円×12ヶ月×5年=1,018,800円、と約100万円増えることになります。(ただし、国民年金保険料は社会保険料控除の対象なので、所得税+住民税の税率が30%の人で実質負担増は70万円ほどです。) 他方、受け取れる国民年金(基礎年金)額は令和6年価格で816,000円ですが、保険料納付期間の延長により12.5%(45年/40年=1.125)増の918,000円となります。約10万円の増額です。メディア等では保険料負担の100万円増ばかりクローズアップされていますが、年金の受取り額が増える点にも注目すべきです。5年分の保険料の実質増加額を70万円、1年分の国民年金の実質増加額(税・社会保険料控除後)を9万円とすると、70万円÷9万円=約8年で元が取れる計算です。決して損な話ではないと思います。

③国民年金と厚生年金の給付調整期間の一致
マクロ経済スライドによる給付水準の調整は、国民年金と厚生年金がそれぞれの勘定で財政均衡するまで続きます。国民年金は厚生年金に比べ財政状況が悪いため調整期間が長期化(20年以上)し、結果、国民年金(基礎年金)の将来の給付水準は厚生年金に比べ相当低いものとなります。2019年財政検証において、厚生年金の給付水準は2047年に向け実質ベースで約2割の減少見込みでしたが、国民年金(基礎年金)では約3割の減少見込みとなっています。そこで今回、国民年金と厚生年金で別々に財政の均衡を目指すことを止め、国民年金と厚生年金を一体で財政の均衡を目指す形に改めようというものです。これにより、国民年金(基礎年金)の調整期間は10年以上短縮され、現状の見通しよりも高い水準で給付が均衡します。一方、厚生年金の調整期間は長期化し、現状の見通しよりも低い水準で給付が均衡することとなります。

④在職老齢年金の廃止
在職老齢年金(在老)とは、働きながら厚生年金を受給している人が、厚生年金の月額(基本月額)とボーナスを含む年収の月額相当額(総報酬月額相当額)との合計で50万円を超えた場合、超えた額の1/2に相当する厚生年金を支給停止する仕組みのことです。(※4) (国民年金は支給停止の対象となりません。)この仕組みは、高齢者の就労意欲を削ぐと以前から批判されており、見直しが求められていました。また、政府は受給期間を遅らせることで年金額を増額する「繰り下げ受給」を推奨していますが、在老で支給停止された部分は繰り下げの対象外です。これは「繰り下げ受給」の増額効果を減退させるものであり、政府の方針に逆行しています。私は在老は今回、全面的に撤廃されるべきと考えます。
(※4)支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額ー50万円)×1/2

⑤標準報酬月額の上限引き上げ
標準報酬月額とは、厚生年金保険料の額を計算する際の元となる給料(保険料額=標準報酬月額×保険料率)のことで、被保険者(会社員や公務員)の4月~6月の給料の平均額から決定されます。標準報酬月額の決定にあたっては、厚生年金の全被保険者の標準報酬月額の平均の2倍を上限(現行65万円)とするルールがあります。今回、この上限を引き上げようというものです。政府は、上限に抵触している高収入の会社員に現行の上限を超える高額な保険料を負担させれば、年金の財源を増やすことができます。高収入の会社員も年金額が増えるので、ウィン・ウィンとなります。ただし、保険料の半分を負担する企業側の反発が予想されます。

以上、2024年の財政検証において見直しが予想される5項目について見てきましたが、今後①~③を中心に具体化に向けた検討が進められると思います。

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株式

【株】ソフトバンクグループ社債について

5月31日、ソフトバンクグループ(SBG)は個人を対象に、利率3.03%の7年債(2031/6/13償還)5,500億円の発行を決定しました。引受け証券の各社とも、売れ行きは好調のようです。当債券は日本格付研究所(JCR)からシングルAの格付けを取得しました。また先頃、米国格付け会社のS&Pグローバルは、SBGの長期発行体格付けをダブルBプラスに1ノッチ引き上げています。今回はSBG第63回無担保社債の発行条件が適正か否か、簡単な方法で確認してみたいと思います。具体的には、①SBG既発債の流通利回りと比較する、②同じ格付けの他社債券の利回りと比較する、の方法でチェックします。

まず①ですが、日本証券業協会の「公社債店頭売買参考統計値表」を使います。これは、日本証券業協会が会員の証券各社からの報告に基づき、公社債の気配値を日次で公表しているものです。この表で5月31日のSBGの既発債の流通利回りを確認すると、2031/4/25償還の第62回債の(平均)利回りは2.995%、2031/3/14償還の第59回債の(平均)利回りは2.982%となっています。したがって、第63回債の利回り3.03%はほぼ妥当であるといえます。

次に②ですが、ここでは国内格付けJCRのAではなく、海外格付けS&PのBB+を基準に見ていきます。米国ハイ・イールド債指数のBB格債インデックスを見ると、5月31日時点のスプレッド(米国国債への上乗せ金利)は2.22%となっています。(出所:野村アセットマネジメント/週間市場情報米国~米国ハイ・イールド債市場~) 5月31日の2031/6/20償還の日本国債(超長期国債第128回債、129回債)の利回りを「公社債店頭売買参考統計値表」で確認すると、0.755%と0.759%となっています。これに、BB格債スプレッドの2.22%を加算すると2.975%と2.979%となります。やはり第63回債の利回り3.03%は妥当といえそうです。当債券を購入された個人投資家の皆さんの眼力に感服です。

ここで、SBG社債のリスクについて考えてみます。通常、債券のリスクというと、金利が頭に浮かびます。しかし、今回、個人投資家の皆さんは、償還まで持切りを前提に購入されていると思います。そのため、金利リスクよりも、大量の社債を発行しているSBGの信用リスクの方が気になるのではないでしょうか。実際、SBGの信用リスクが顕在化するような場面では、SBG社債を市場で売却することはほぼ不可能と思われます。(売れたとしても価格の大幅なディスカウントを求められるでしょう。)そのときは、SBGと心中する覚悟が必要です。

現在、ソフトバンク株の配当利回りは4.4%程度ですが、ボラティリティの高い株式は怖いけど、社債なら投資してもいいという個人投資家の方は多いと推察します。かねて私は、リスクレベルが株式と国債の中間をいく資産があればいいと思っていました。一見、JREITが当てはまりそうですが、当ブログで指摘してきたようにJREITは株式なみにリスクの高い資産です。そういう意味では、今回のSBG社債のようなハイ・イールド債こそ、適役だと思います。政府の資産運用立国の方針のもと、ブラックストーン等の海外運用会社と連携した国内証券会社が、プライベート・エクイティや私募不動産、私募インフラ投資といったプライベートアセットを販売する動きが強まっています。しかし、私はこれらの資産よりも、透明性の高いハイ・イールド債市場の育成を急ぐべきだと考えます。

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閑話休題

【閑】海の中の槍ヶ岳

海と山と」では海と山が通じているというお話をしましたが、今回はその続きです。まずは、下の写真↓と上の写真↑を見比べて下さい。ちなみに上の写真↑は槍ヶ岳です。

荒ぶる海から突き出た、槍の穂先のような岩の塊。何じゃこりゃ?と思われたことでしょう。これは東京のはるか南約650キロ、鳥島の南約76キロにある高さ100mの孀婦岩(ソーフガンまたはソーフイワ)といわれる奇岩です。(偶然の一致というべきか、槍の肩から槍ヶ岳山頂まで、いわゆる「槍の穂先」の標高差も100mです。) 2018年秋に放送されたNHKスペシャル「秘境探検 東京ロストワールド孀婦岩」を見て知ってるという人もいるかもしれません。

写真を見ると単独の岩が突き出ているように見えますが、実は水深200mほどのところに平らな台地状の山があり、その山は水深2,500mの深海から立ち上がっているのです。(ケーキにロウソクが付き刺さっている様子を想像して下さい。)つまり、標高2,800mのアルプス級の高山の先端100mが海から突き出ているわけです。孀婦岩は安全岩という硬い岩石でできていることが学術調査で分かっていますが、今のような波の浸食を受け続けていくと、数百年から数千年で消えてなくなると推測されています。

以前は、孀婦岩への不定期航路を持つ「スターマリンⅢ号」という大型高速遊漁船があり、ダイビングショップによる孀婦岩ツアーが開催されたこともありますが、その後、乗客減少により海外へ移転したようです。現在は、下田から孀婦岩まで行く船をチャーターできるとの情報もありますが、詳細は不明です。私は来年、槍ヶ岳に登りたいと考えていますが、孀婦岩にはダイビングはおろか近付くことさえままなりません。
(※)古い本ですが孀婦岩については「東京都・豆南諸島まるごと探検」(山下和秀著 三五館)に詳しい。

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保険

【保】新社会人にお薦めしたい保険

昔は新人が職場に配属になると生保のおばちゃまがどこからともなく現れ、気が付いたときには保険に入らされていたものです。今はどこの会社もコンプラが厳しくなり、生保の営業担当者が職場に乱入することはなくなりましたが、私のような古いタイプの人間にとってはどこか寂しくもあります。今回は新社会人の皆さんに、保険屋のオヤジではなく善良な第三者として、お薦めの保険をご紹介したいと思います。

その前に、なんで私たちは保険に入るのか、そもそもの理由について考えてみます。皆さんはこれからの長い人生の中で、ときに思いもよらないトラブルに遭遇することがあるでしょう。他人に損害を与えてしまったら、あなたが土下座して謝っても相手は許してくれないかもしれません。そんなとき、どうやってピンチを脱出すればいいのか。一番手っ取り早く確実なのは、お金による解決です。交通事故でヒトをはねてしまった。火事で家が燃えてしまった。大病を患い仕事ができなくなった。そんな万一のアクシデント(保険事故といいます)に備え、お金の準備をするための仕組みが保険です。お金を貯めるには預金や投資信託といった金融商品もありますが、必要なお金が積み上がるまで長い時間がかかります。その点、保険であれば契約したその瞬間に、何千万から何億ものお金の準備が完了します。次の瞬間、保険事故に見舞われても、所定の保険金を受取ることができます。すごいと思いませんか? これが私たちが保険に入る理由です。

では次にどんな保険に入るべきか、どういう基準で入ればいいのか、考えてみます。保険には国が運営する公的保険と、保険会社が販売する民間保険があります。公的保険は日本国民は全員強制加入なので、入るor入らないを検討すべきは民間保険についてとなります。我が国の公的保険、具体的には健康保険(国民健康保険)と厚生年金(国民年金)ですが、いずれも充実した良い制度です。ですので、新社会人の皆さんは、公的保険の保障が不十分だと思う領域にしぼって民間保険に入ればいいのです。(※1)
(※1)自動車事故には自賠責保険という強制加入の保険がありますが保険金額が不十分なので、ドライバーは別途、民間の自動車保険に入る必要があります。また、火災に備える公的保険はないので、マイホームを建てたら民間の火災保険に加入する必要があります。

それでは、保険事故別に公的保険と民間保険を見比べながら、民間保険への加入の必要性を考えてみましょう。まずは、定期保険です。これは被保険者が死亡(高度障害)したときに、保険金が支払われるものです。対応する公的保険は、厚生年金(国民年金)の遺族年金となります。夫が死亡したときに、妻に18歳未満の子がいる場合、国民年金から遺族基礎年金が支払われます。(子のない妻には遺族基礎年金は支給されないので要注意です。) 年金額は妻(母)が約78万円、18歳未満の子一人につき約22万円(第三子以降については一人あたり約7万円)が支給されます。加えて、厚生年金からザックリ「夫の月給×300ヶ月×5.5/1000×3/4」で計算される金額が遺族厚生年金として支給されます。(※2・3) 例えば、夫の月給が30万円の場合、30万円×300×5.5/1000×3/4=37万円、となります。したがって、夫死亡、妻(母)+子一人のケースでは、遺族基礎年金と遺族厚生年金を合わせて78万円+22万円+37万円=137万円が、子が18歳になるまで毎年支給されることになります。

ここで、夫死亡後に妻(母)と子供で年間いくら生活費が必要かを想定し、遺族年金だけでは不十分な金額について定期保険でカバーするようにします。年間300万円が必要ならば、300万円ー137万円=163万円の不足です。そして、子供が中学校に入学するまで仮に5年間として、必要となる815万円(=163万円×5年)をカバーするため、死亡保険金が1,000万円の定期保険に加入するイメージです。子供が中学校に入学した後は、妻(母)が仕事に就いて家計を支えることが前提です。私は、定期保険は独身者には不要で、結婚して子供ができたらゆっくり考えればいいと思います。
(※2)夫の勤続期間が25年(300ヶ月)を超える時は、実際の勤続月数で計算。また、月給は正確には平均標準報酬(月)額を使用する。
(※3)遺族厚生年金は子のない30歳未満の妻は5年間のみ受給できる。子のない夫は55歳以上の場合に限り受給できるが、60歳まで支給停止となる。ただし、遺族基礎年金を同時に受給できる場合は遺族厚生年金は支給停止されず、55歳から受給可能。

次に医療保険とがん保険です。医療保険は入院または手術が必要な病気・ケガ全般が保障の対象となるのに対し、がん保険はがんのみが保障の対象です。これらに対応する公的保険は、健康保険の療養の給付となります。会社員が病気やケガで病院にかかると、窓口で医療費の3割の自己負担を請求されます。ただ、自己負担が一定額以上になると、高額療養費制度によって健康保険から一部払戻しを受けることができます。これにより、実際の医療費の自己負担は通常、月額8万円~10万円程度に収まります。(※4・5) したがって、いざというとき10万円を用意できる人は、医療保険やがん保険に入る必要はありません。新入社員の皆さんは、お金の余裕ができるまでの間、医療保険やがん保険に加入するということでいいと思います。
(※4)高額療養費の自己負担限度額=80,100円+(医療費ー267,000円)×1%。よって、医療費が1,000万円の場合でも自己負担は20万円弱。尚、正確には高額療養費の自己負担限度額は被保険者の所得水準によって異なる。
(※5)健康保険組合では、任意給付として高額療養費の上乗せ制度を設けているところがある。任意給付があると自己負担の上限が2万円程度に抑えられるので、事前に会社の健康保険組合に確認しておきたい。

最後は就業不能保険です。就業不能保険は、病気やケガの療養のため長期の休業が必要となり、給料が減額ないし無給となった場合に給付金が支給される保険です。対応する公的保険は、健康保険の傷病手当金となります。傷病手当金は、被保険者が病気やケガの療養のため仕事に就けない場合に、連続した休業4日目から給料の日額の2/3(正確には標準報酬月額の12ヶ月平均÷30×2/3)が、最大1年6ヶ月支給されます。皆さんが給料日額の2/3では生活できないとか、支給期間が1年半では不安だと思うのであれば、就業不能保険に入ることを検討してもいいと思います。ひとつ、就業不能保険の問題点を言うと、メンタル系の疾患が支給対象とならないことです。(尚、ライフネット生命の就業不能保険では、所定の精神疾患の場合、一時金が支給されます。)そこで、GLTD(団体長期障害所得補償保険)をご紹介したいと思います。これは就業不能保険と似ていますが、就業不能保険が生命保険なのに対し、GLTDは損害保険です。また、GLTDは1年更新の短期保険で、会社が契約者となって従業員のためにかけるグループ保険です。ですので、皆さんの会社がGLTDを導入していなければ、加入することはできません。私がGLTDを推す理由ですが、それは補償(GLTDは生保でなく損保なので保障ではなく補償となります)の充実と、保険料の割安さです。GLTDは認知症やメンタル疾患等の精神障害も対象(填補期間は最長2年まで)となり、充実した補償を受けられます。また、保険料は22歳男女とも就業不能保険の半分程度と割安に設定されています。(ただし、GLTDの保険料は毎年更新となるので、50歳以降で逆転の見込み。) 私は、長期休業による収入減少に対する公的保険の保障は不十分と考えています。そのため、新入社員の皆さんには、就業不能保険またはGLTDの加入を最優先にお薦めします。皆さんの会社がGLTDを導入しているのなら、迷わず加入しましょう。