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【保】医療保険との正しい付き合い方

【グラフ1】は日本人の生涯医療費の発生状況を、年齢層別に記したものです。男女合計ベース平均では、生涯で一人当たり2,700万円の医療費(3割の自己負担分ではなく10割の全体分)がかかりますが、その50%は70歳以降に発生しており、さらに年齢層が上がるにつれ医療費が増加していることが分かります。(医療費が85歳以降で減少に転じるのは、平均寿命を超えたところで死者数が増加するため。)今回は、このあたりの事実を踏まえたうえで、医療保険との正しい付き合い方について考えてみたいと思います。

【グラフ2】は終身平準払いの医療保険について、保険会社に支払われる保険料と保険会社が支払う保険金(給付金)の推移をイメージしたものです。横軸は被保険者の年齢、縦軸は保険料・保険金の金額となっています。保険料は平準払いのため年齢を問わず一定ですが、保険金は被保険者の加齢とともに、特に70歳以降急速に増加しています。ここでは、契約者=被保険者=保険料負担者=保険金受取人、とします。契約者にとって保険料は支出、保険金は収入に該当します。年間収支は、契約者が若年~中年期(ア)においてマイナスが続き、高年期(イ)になってやっとプラスに転じます。

このような特徴から言える医療保険との正しい付き合い方は、以下の通りです。
①(ア)の領域では、なるべく早期に医療保険を解約する。(例えば、会社に入社後の数年間、医療費の負担が厳しい時期に限定して加入。給料が上がったら早々に解約し、以後は健康保険の高額療養費制度等で対応する。)
②(イ)の領域では、医療保険の解約はなるべく避ける。

しかし、実際は多くの若年期の方が、ダラダラと惰性で医療保険を継続しています。そして、逆に高年期の方が、保険料の負担が厳しいからと解約されるケースが多いです。これでは若年~中年期に積み立てた保険料を放棄して保険会社に”寄付”するようなもので、保険会社の思うつぼです。高年期まで頑張って医療保険を継続されてきた方は、何とかそのまま医療保険を掛け続け、人生100年時代・超高齢期にかけて急増する医療費の負担に備えて頂きたいと思います。医療保険が効果を発揮するのは、これからです。

もう一つ注意したいワードがあります。「保障の最新化」です。昔入った医療保険が時間の経過とともに陳腐化し、保障内容が最新の医療とミスマッチになってきたため、既存の契約から最新の医療保険に乗り換えることをいいます。この場合、既存契約は解約となりますので、今まで払ってきた保険料は保険会社に”寄付”し、現在の年齢で再計算した”割高”な保険料で最新の保険に入り直すことになります。これは契約者にとってダブルパンチの痛手です。「保障の最新化」は保険会社がさかんにセールスしてきます。契約者にとって確かにメリットはありますが、それ以上にデメリットを負担することになります。契約にあたっては、慎重な判断を求めたいところです。

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【保】生命保険買取サービス

2024年7月11日にマネックスグループ(株)は、子会社のマネックスライフセトルメント(株)が生命保険買取サービスを提供開始した、とプレスリリースしました。同社はこのサービスを通じ、「がん患者の経済的な悩みの解決を支援しQOLの向上を目指す」、としています。私は最初この報道を目にしたとき、てっきり、がん保険の買取サービスが始ったのだと思いました。私が働いている保険代理店は、いわゆる第三分野のがん保険と医療保険をメインに取り扱っており、がん保険の買取ができたらお客さんに喜んでもらえます。一方で、掛け捨てのがん保険の買取価格なんてどうやって計算するんだろうと、疑問に思いました。そこで、プレスリリースの資料や同社のHP等を見ているうちに、買取サービスの対象は死亡保険(終身保険だけ? 定期保険は対象外?)のみで、対象となる被保険者もステージⅢかⅣで5年生存確率が50%以下のがん罹患者に限定されることが分かってきました。

同社はサービス提供の背景を、「これまで、がんに罹患された方が生命保険を継続することが難しくなった場合は、生命保険を解約するしか選択肢はありませんでした。そこで、当社では生命保険契約を解約返戻金よりも高い金額で買い取ることにより、がん患者の皆様がより有利な金額で保険を手放すことができるよう、本サービスの提供を開始しました。」と説明しています。
がんの治療には保険適用外の先進医療が効果を発揮する場合がありますが、医療費の負担が厳しい方は泣く泣く治療を断念せざるを得ません。そんなとき、生命保険を買い取ってもらうことができれば、治療が可能となることもあるでしょう。標準治療でやれることは全てやり切り、なお僅かな可能性に賭けて先進医療に命を託すがん患者。ただ、買取価格は患者が生き残る可能性が低ければ低いほど上がるのです。何とも皮肉な仕組みです。

死亡保険には、ふつう追加の保険料は不要で、「リビングニーズ特約」という特約をつけることができます。これは被保険者が余命6ヶ月と診断されたとき、死亡保険金の一部または全額を生前に受け取れるものです。生前に受取ったお金の使途に制限はありませんし、税金も一切かかりません。(ただし、使い残した分は相続税の課税対象となります。) そこで一見、リビングニーズ特約に入っていれば、生命保険の買取は不要と思われます。しかし、余命6ヶ月を宣告されるまでの状況になく、治療による寛解・延命の余地がある場合は、生命保険買取サービスを利用するニーズが生じます。尚、買取サービスで受け取ったお金には、一時所得として所得税が課税される点に注意が必要です。

結局、このサービスの本質ですが、①治療費や生活費が不足するがん患者(及び家族)に生命保険の買取を通じ流動性を提供する、②解約返戻金<買取価格<死亡保険金の関係を利用し患者・買取会社の双方がメリットを享受する、の2点だと思います。(※) しかし、患者死亡後に保険金が受け取れなくなる家族にとっては微妙な部分もあります。その点については、保険買取契約締結の前に、家族などの主要な関係者に同意書の提出を求めることで対応するようです。
最後に、このサービスは生命保険買取を謳っており、保険契約の売買のように見えますが、現状日本では保険会社の同意なしに契約者の変更はできません。一方、受取人の変更は通知のみでできる旨法律で定められており(商法675条1項)、同サービスでは患者から買取会社への受取人の変更で対応するとしています。(尚、簡易生命保険では保険者の同意なく契約者の変更が可能です。)

(※)買取会社は患者の死亡後、保険金受取人として死亡保険金を受取ります。つまり、「死亡保険金-買取代金」が同社の利益となります。死なない人はいないので、買取会社は低リスクで利益を獲得することができます。保険買取によるキャッシュアウトと、死亡保険金受取りによるキャッシュインのタイムラグがビジネス上のリスクといえますが、キャッシュインが先行する企業年金の買取ができるようになると、安定したビジネスモデルとなるでしょう。













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【保】保険から投資へ

第一生命経済研究所は6月27日付けのEconomic Indicators資金循環統計(2024年1-3月期)の中で、「1-3月期の家計からの投資信託受益証券へのフローは3.5兆円のプラス。……現預金のフローは▲9.2兆円であり、一見すると現預金から投資信託へ資金がシフトしたようにみえるが、これは12月のボーナスが年始以降に支出されるなどの季節性によるところが大きい。むしろ目立つのは投資信託への流入拡大に対応して生命保険フローのマイナスが拡大している点。……家計は、「貯蓄から投資へ」というよりは「保険から投資へ」資金を動かしている。」と分析しています。
(チャート出所:第一生命経済研究所6月27日付けEconomic Indicators)

新聞や雑誌、ネット等は新NISA、オルカン一色であり、私は政府の意向どおり「貯蓄から投資へ」の流れが進行しているものと思い込んでいました。実際は「保険から投資へ」であったと知り、保険屋のオヤジとして大ショックです。ただ一方で、前職・前々職で銀行や証券会社を経験してきた身としては、「さもありなん」の思いもあります。

当ブログでもたびたびお話してきましたが、保険は万一のリスクに備え、低コストで資金を確保できる非常に優れた商品です。ただ、保険における低コストとは、保険事故の発生確率が低いタイプの保険商品に関する、高いレバレッジ効果(※)のことをいいます。そのため、発生確率の高い病気やケガ、介護、長寿といった事象を保険事故とする保険商品(医療保険、介護保険、年金保険等)は該当しません。
(※)「万一の場合に支払われる保険金÷払い込まれた保険料」のこと。保険料に比べ保険金が大きいほど高レバレッジ、低コストとなります。掛け捨て型の定期(死亡)保険や自動車保険、火災保険等の損害保険が該当します。

また、一般的なコストとして保険会社に支払う報酬についても考慮する必要があります。保険商品には医療専門職による被保険者の健康状態のチェック等、他の金融商品にはない業務領域が存在するため、保険商品の報酬は他の金融商品に比べ割高となります。終身保険や養老保険、学資保険等の貯蓄型といわれる(資産運用を兼ねた)保険商品は、(純粋な運用商品である)預貯金や投資信託よりも高い報酬を負担しなければなりません。

このあたりの事情は従来から専門家には認識されていましたが、今ではSNS等での情報発信により一般の方々も知るところとなりました。充実した公的な健康保険制度があるので、民間の医療保険やがん保険には無理に入らなくてもいいとか。運用と保障を兼ねた貯蓄型の保険はやめて、運用は投信、保障は掛け捨て型の保険と分けて入ろうとか。若い世代を中心に、スマートな保険商品との付き合い方が広まっているように感じます。「保険から投資へ」。保険屋のオヤジとしては憂慮すべき事態ですが、一国民としては歓迎すべきところなのかもしれません。

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【保】新社会人にお薦めしたい保険

昔は新人が職場に配属になると生保のおばちゃまがどこからともなく現れ、気が付いたときには保険に入らされていたものです。今はどこの会社もコンプラが厳しくなり、生保の営業担当者が職場に乱入することはなくなりましたが、私のような古いタイプの人間にとってはどこか寂しくもあります。今回は新社会人の皆さんに、保険屋のオヤジではなく善良な第三者として、お薦めの保険をご紹介したいと思います。

その前に、なんで私たちは保険に入るのか、そもそもの理由について考えてみます。皆さんはこれからの長い人生の中で、ときに思いもよらないトラブルに遭遇することがあるでしょう。他人に損害を与えてしまったら、あなたが土下座して謝っても相手は許してくれないかもしれません。そんなとき、どうやってピンチを脱出すればいいのか。一番手っ取り早く確実なのは、お金による解決です。交通事故でヒトをはねてしまった。火事で家が燃えてしまった。大病を患い仕事ができなくなった。そんな万一のアクシデント(保険事故といいます)に備え、お金の準備をするための仕組みが保険です。お金を貯めるには預金や投資信託といった金融商品もありますが、必要なお金が積み上がるまで長い時間がかかります。その点、保険であれば契約したその瞬間に、何千万から何億ものお金の準備が完了します。次の瞬間、保険事故に見舞われても、所定の保険金を受取ることができます。すごいと思いませんか? これが私たちが保険に入る理由です。

では次にどんな保険に入るべきか、どういう基準で入ればいいのか、考えてみます。保険には国が運営する公的保険と、保険会社が販売する民間保険があります。公的保険は日本国民は全員強制加入なので、入るor入らないを検討すべきは民間保険についてとなります。我が国の公的保険、具体的には健康保険(国民健康保険)と厚生年金(国民年金)ですが、いずれも充実した良い制度です。ですので、新社会人の皆さんは、公的保険の保障が不十分だと思う領域にしぼって民間保険に入ればいいのです。(※1)
(※1)自動車事故には自賠責保険という強制加入の保険がありますが保険金額が不十分なので、ドライバーは別途、民間の自動車保険に入る必要があります。また、火災に備える公的保険はないので、マイホームを建てたら民間の火災保険に加入する必要があります。

それでは、保険事故別に公的保険と民間保険を見比べながら、民間保険への加入の必要性を考えてみましょう。まずは、定期保険です。これは被保険者が死亡(高度障害)したときに、保険金が支払われるものです。対応する公的保険は、厚生年金(国民年金)の遺族年金となります。夫が死亡したときに、妻に18歳未満の子がいる場合、国民年金から遺族基礎年金が支払われます。(子のない妻には遺族基礎年金は支給されないので要注意です。) 年金額は妻(母)が約78万円、18歳未満の子一人につき約22万円(第三子以降については一人あたり約7万円)が支給されます。加えて、厚生年金からザックリ「夫の月給×300ヶ月×5.5/1000×3/4」で計算される金額が遺族厚生年金として支給されます。(※2・3) 例えば、夫の月給が30万円の場合、30万円×300×5.5/1000×3/4=37万円、となります。したがって、夫死亡、妻(母)+子一人のケースでは、遺族基礎年金と遺族厚生年金を合わせて78万円+22万円+37万円=137万円が、子が18歳になるまで毎年支給されることになります。

ここで、夫死亡後に妻(母)と子供で年間いくら生活費が必要かを想定し、遺族年金だけでは不十分な金額について定期保険でカバーするようにします。年間300万円が必要ならば、300万円ー137万円=163万円の不足です。そして、子供が中学校に入学するまで仮に5年間として、必要となる815万円(=163万円×5年)をカバーするため、死亡保険金が1,000万円の定期保険に加入するイメージです。子供が中学校に入学した後は、妻(母)が仕事に就いて家計を支えることが前提です。私は、定期保険は独身者には不要で、結婚して子供ができたらゆっくり考えればいいと思います。
(※2)夫の勤続期間が25年(300ヶ月)を超える時は、実際の勤続月数で計算。また、月給は正確には平均標準報酬(月)額を使用する。
(※3)遺族厚生年金は子のない30歳未満の妻は5年間のみ受給できる。子のない夫は55歳以上の場合に限り受給できるが、60歳まで支給停止となる。ただし、遺族基礎年金を同時に受給できる場合は遺族厚生年金は支給停止されず、55歳から受給可能。

次に医療保険とがん保険です。医療保険は入院または手術が必要な病気・ケガ全般が保障の対象となるのに対し、がん保険はがんのみが保障の対象です。これらに対応する公的保険は、健康保険の療養の給付となります。会社員が病気やケガで病院にかかると、窓口で医療費の3割の自己負担を請求されます。ただ、自己負担が一定額以上になると、高額療養費制度によって健康保険から一部払戻しを受けることができます。これにより、実際の医療費の自己負担は通常、月額8万円~10万円程度に収まります。(※4・5) したがって、いざというとき10万円を用意できる人は、医療保険やがん保険に入る必要はありません。新入社員の皆さんは、お金の余裕ができるまでの間、医療保険やがん保険に加入するということでいいと思います。
(※4)高額療養費の自己負担限度額=80,100円+(医療費ー267,000円)×1%。よって、医療費が1,000万円の場合でも自己負担は20万円弱。尚、正確には高額療養費の自己負担限度額は被保険者の所得水準によって異なる。
(※5)健康保険組合では、任意給付として高額療養費の上乗せ制度を設けているところがある。任意給付があると自己負担の上限が2万円程度に抑えられるので、事前に会社の健康保険組合に確認しておきたい。

最後は就業不能保険です。就業不能保険は、病気やケガの療養のため長期の休業が必要となり、給料が減額ないし無給となった場合に給付金が支給される保険です。対応する公的保険は、健康保険の傷病手当金となります。傷病手当金は、被保険者が病気やケガの療養のため仕事に就けない場合に、連続した休業4日目から給料の日額の2/3(正確には標準報酬月額の12ヶ月平均÷30×2/3)が、最大1年6ヶ月支給されます。皆さんが給料日額の2/3では生活できないとか、支給期間が1年半では不安だと思うのであれば、就業不能保険に入ることを検討してもいいと思います。ひとつ、就業不能保険の問題点を言うと、メンタル系の疾患が支給対象とならないことです。(尚、ライフネット生命の就業不能保険では、所定の精神疾患の場合、一時金が支給されます。)そこで、GLTD(団体長期障害所得補償保険)をご紹介したいと思います。これは就業不能保険と似ていますが、就業不能保険が生命保険なのに対し、GLTDは損害保険です。また、GLTDは1年更新の短期保険で、会社が契約者となって従業員のためにかけるグループ保険です。ですので、皆さんの会社がGLTDを導入していなければ、加入することはできません。私がGLTDを推す理由ですが、それは補償(GLTDは生保でなく損保なので保障ではなく補償となります)の充実と、保険料の割安さです。GLTDは認知症やメンタル疾患等の精神障害も対象(填補期間は最長2年まで)となり、充実した補償を受けられます。また、保険料は22歳男女とも就業不能保険の半分程度と割安に設定されています。(ただし、GLTDの保険料は毎年更新となるので、50歳以降で逆転の見込み。) 私は、長期休業による収入減少に対する公的保険の保障は不十分と考えています。そのため、新入社員の皆さんには、就業不能保険またはGLTDの加入を最優先にお薦めします。皆さんの会社がGLTDを導入しているのなら、迷わず加入しましょう。

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【保】がん保険不要論

楽天証券経済研究所客員研究員で経済評論家の山崎元さんが1月1日お亡くなりになりました。山崎さんは「”やってはいけない”資産運用」などの書籍やユーチューブを通じ、個人投資家向けに分かりやすい言葉で資産運用の基本の啓蒙に努められました。65歳という早すぎる死に、心よりお悔やみ申し上げます。
山崎さんはがんに罹患後、がんの治療費の大半を公的医療(健康保険)からの給付で賄うことができたご自身の経験から、がん保険不要論を強く主張されていました。健康保険の高額療養費と、山崎さんが加入されていた健康保険組合の任意給付で、実質的な自己負担は月額2万円程度であったとのことです。

こういう話を聞くと、日本には立派な公的医療制度があるので、わざわざ個人で民間のがん保険に入る必要はないと思ってしまいます。しかし、実際には日本人の約4割の人ががん保険(がん特約を含む)に加入しています。(生命保険文化センター「生活保障に関する調査」/2022年度)これはなぜでしょうか。理由のひとつは、今現在十分な公的医療が受けられても、先々今の水準の給付を受けられる保証はないことです。つまり、公的医療制度の将来不安です。ふたつめは、がん保険はがんの治療費をカバ-するだけのものではないことです。がんに罹患すると、長期に亘って抗がん剤や放射線の治療が必要となるケースがあります。治療のダメージでフルタイムの就業が困難になったり、休業せざるをえなくなったりと、収入の減少は避けられません。その際、がん保険に入っていれば、収入の減少をカバーすることができます。そして、もうひとつ。日本人にはリスクを過大に評価するリスク過敏症(あるいは心配症)とも言うべき性癖があります。がんに罹っても治療費は健康保険で賄えるから大丈夫と言っても、本当にそうか?想定以上に治療費がかかったらどうしてくれるんだ!と多くの日本人は尽きることのない不安に悩まされます。そして、不安を和らげる精神安定剤として、がん保険が必要とされるわけです。

さて、ここからは頭の体操です。目下、政府は新NISAやiDeCoといった税制優遇措置により、国民の2,000兆円に及ぶ金融資産を株式や投資信託に誘導しようと躍起になっていますが、足元でNISA口座を開設したのは国民の20%程度です。業を煮やした政府が法改正して、国民に年収の一定額(例えば年収の2割)の株式を保有するよう義務付けたと仮定します。このとき、何が起こるでしょうか。長期で保有していれば株式は利益を生むはずと政府がいくら説明しても、その言葉を信用する国民はきっと少数です。そして、株式が下落したときの損失を補償する”株式保険”(実態はただの円株プットオプション)を保険会社が発売したならば、多くの国民が購入することでしょう。このとき、株式の下落による損失を”株式保険”でカバーできても、トータル損益は保険料相当だけ確実にマイナスとなります。株式は長期的には上昇していくという政府の説明は正しいのです。それでも確率的には小さな株式下落リスクを過大に評価して、日本人は”株式保険”の購入という非合理的な行動に出るのです。これはがんのリスクに過剰に反応し、本来は不要であるはずのがん保険を購入する日本人の行動パターンと相似形です。

山崎元さんが主張された「がん保険不要論」は、ほぼ正しいと思います。しかし、人間は必ずしも理屈通りに動くものではありません。人間の行動原理の非合理性によって、がん保険は今後も支持され続けるでしょう。

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【保】日帰り入院と通院

知っているつもりでも、改めて聞かれると返答に詰まるなんてことありませんか? 「日帰り入院」と「通院」の違いも、分かっていそうで意外に分かっていないことの一つです。
入院か通院かは、医療機関が発行する領収書の「入院料等」の欄に、診療報酬の点数の記載があるかどうかで確認できます。(記載があれば入院、なければ通院) 入院施設のある医療機関で医師が入院の必要性を認め、病院に入院させて医療行為を行った場合に、医療機関は入院基本料等の診療報酬を算定することができ、患者が受取る領収書の「入院料等」の欄に点数が記載されます。患者を入院させる施設がある医療機関は、病院(20人以上の入院設備を備える施設)と、一部の診療所(クリニック、医院等)です。なお、これらの医療機関でも単なる覚醒や休養等は対象外です。また、入院施設のない診療所における外来用ベットでの治療も対象外で、入院とは認められません。

私が入院と通院の違いに拘るのには理由があります。それは、医療保険は入院(または手術)がトリガーとなって、給付が発生する仕組みになっているからです。医療保険に通院保障が付いている場合も、入院する前後の通院や、がんの治療目的など特定の通院に支払事由を限定した保障が多く、一般的な通院のみでは保障が受けられません。(一部の特約を除きます。)

また、最近では白内障や緑内障等の眼科手術、鼠径部ヘルニア根治手術、痔核根治手術、大腸や胃のポリープ手術など、日帰りで手術できるケースが増えています。ただ、日帰り手術には入院扱いとなるものと、外来(通院)扱いとなるものがあるので、領収書での確認が必須です。入院を伴う手術と、入院を伴わない手術では、医療保険の保障内容が変わってきます。例えば、入院を伴う手術では手術給付金を支払い、外来手術では手術給付金を支払わないタイプや、入院・通院とも手術給付金を支払うものの、外来手術では給付額が少ないタイプなどがあります。

入院が短期化している昨今、現在発売されている医療保険は日帰り入院から保障するものがほとんどです。しかし、一部の医療保険には免責期間が設けられているので注意が必要です。例えば、「継続して5日以上入院したとき、1日目から支払い対象」といった具合です。
いざ、入院するとなったときに慌てることのないよう、皆さんが加入している医療保険の支払事由と免責事由をパンフレットや約款で事前に確認されることをお薦めします。

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【保】共済と保険

最近ある方から共済と保険の違いは何かと、質問を受けました。どちらも掛金(保険料)を払って、将来のリスクに備える点では同じです。運営主体が農協や生協、全労済等の非営利団体か保険会社かといった点や、共済は保険に比べ給付に制限がつくことが多い反面、掛金が低額である点等に違いがあります。また、共済には運営主体の決算で剰余金が発生した場合、契約者に割戻金が支払われるという特有の制度もあります。
それでは、共済と保険の商品性を具体的に比較していきたいと思います。ここで全商品を取り上げる余裕はないので、共済を代表して全労済が契約引受団体となっている「こくみん共済」の「医療保障タイプ」にご登場いただきましょう。保障内容は下表の通りです。

まず目に付くのが、掛金が加入時の年齢・性別に関わらず2,300円と一定であることです。(医療保険では、保険料は加入年齢が低いほど、また男性より女性の方が安くなります。) それから、各種共済金の給付額が、60歳以降5歳ごとに引き下げられています。

次に、某生保の医療保険を見てみます。保障内容は「医療保障タイプ」に近いものにしています。

上記医療保険の場合、先進医療給付金の最高限度が2,000万円になっているほかは、概ね「医療保障タイプ」の保障内容を下回っています。死亡・重度障害保障はありませんし、通院給付金は入院や手術、放射線治療に伴う通院に限定されており、「医療保障タイプ」の通院共済金よりも給付要件が厳しくなっています。(ただし、通院共済金は病気による通院は給付対象外です。) 医療保険の入院給付金は日額5,000円・支給限度120日で、「医療保障タイプ」の日額10,000円・支給限度180日を下回ります。

このように、上表の医療保険は保障内容が一見「医療保障タイプ」よりも劣っているのに、保険料は「医療保障タイプ」よりも高くなっています。これはどういうことでしょうか? 保険の運営主体が保険会社という営利団体だということもありますが、医療保険が終身で保障を約束している影響が大きいです。つまり、「医療保障タイプ」は病気になる確率がアップする60歳以降の保障が大きく切り下がり、「掛捨て」となる可能性が高いのに対し、医療保険は終身保障のため「元を取れる」可能性があり、その分だけ保険料が高く設定されているわけです。

掛捨ての安い掛金を選ぶか、終身保障の高い保険料を選ぶか、個人の好みの問題です。ただ、「時間を買う」医療保険の原則からいうと、共済を選ぶ方が合理的です。つまり、貯蓄が十分な金額になるまでの期間は医療費の負担を低額の共済で凌ぎ、十分な貯蓄ができたら共済は解約する。高齢期の医療費は公的医療と貯蓄で対応する。これがスマートな共済/保険との付き合い方です。しかし、お守りとして、また、財布代わりに使いたい人には保険の方が向いているかもしれません。

最後に、共済の割戻金について触れます。県民共済愛知県生協のパンフレットによると、令和3年の割戻率の実績について、こども型で掛金の13.89%、総合保障型・入院保障型、医療特約で36.71%、熟年型・熟年入院型、塾年医療特約で28.46%とのことです。相当に魅力的な数字です。低額な共済の掛金の実質的な負担が、さらに低下するという話です。共済、恐るべし!

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【保】保障最新化の罠

医学の進歩に伴い、医療の現場は日々変化しています。10年前は常識であったことが現在においては非常識、といったことが頻繁に起きます。例えば、がんの治療は、10数年前であったら手術の後、入院した状態で放射線や抗がん剤の治療を行っていました。自ずと入院は長期化します。しかし、今では余程大きな手術の後でも2週間程で退院し、通院しながら外来で放射線や抗がん剤治療を受けることが一般的です。
医療保険やがん保険の保障は、その時々の医療の実態に合わせ最適な状態に設計されます。したがって、保険の保障も医学の進歩に伴い時間の経過とともに陳腐化し、使いものにならなくなります。2週間で病院を追い出されるのに、がん保険に長期の入院保障は不要です。

保険会社や代理店は、実態に合わなくなった古い医療保険やがん保険の保障見直し(保障最新化)を盛んに契約者に訴えます。役に立たなくなった保障内容を放置したら、いざというときに契約者からクレームが出ることは避けられません。保険会社や代理店は契約者(被保険者)の利益を守り、さらには契約者(被保険者)の命を守るため、必死になって古い保険契約の最新化を訴えているのです。でも……、それだけでしょうか?

保険は若いときに加入した方がお得と、昔からいいます。確かに、終身払いの保険の場合、20歳で加入した方が40歳で加入するよりも保険料の月額は安くなります。なぜ安くなるか。その理由ですが、若いときに加入した方が保険料を払う期間が長くなるからというだけではありません。病気になって保険金が支払われる可能性が高いのは、当然高齢者です。若年者は病気になる可能性は低く、保険金が支払われることもほとんどありません。つまり、保険会社にとって、高齢者はリスクが高く、若年者はリスクが低いということです。そのため、若いときに加入するほど保険料は安く設定されます。そして、若年者が払った保険料は自身の保険金として還元されることはなく、そのほとんどが掛け捨てとなり高齢者の保険金に充当されます。

ただ、これは不当ということではありません。安い保険料で加入した若年者も、やがては高齢者となります。病気がちとなり、通院だの入院だの手術だのと、頻繁に保険金の支払いを受けるようになります。つまり、若年期に掛けた保険料は、高齢期に元を取る仕組みになっているわけです。しかし、これは当初の契約を終身で継続した場合の話であって、途中で見直しを行った場合には該当しないことに注意が必要です。保険の見直しとは旧契約を解約し新しい契約に入り直すことですが、保険料も見直し時点の年齢で再計算されます。つまり、保険契約を見直すとは、若いときから掛けてきた保険料を高齢期に取り戻す権利を放棄し、年齢に見合った高いリスクを織り込んで再計算された割高な保険料に乗り換えることを意味します。
保険会社にしてみれば、若年者が高齢期に差し掛かった後は割安な保険料で保険金を支払わなければならず、逆ザヤとなります。そして、この逆ザヤは解消すべき経営課題となりましょう。

保障の陳腐化を避け、いざというときに役に立つ保険の質を維持するためには、定期的な保障の見直し、保障の最新化が欠かせません。保険会社や代理店のこの言葉に偽りはありません。しかし、保障の最新化によって失われる契約者の利益があることも憶えておいてほしいと思います。

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【保】自動車保険に関する不都合な事実

マイカーを持つほとんどの人が入っている自動車保険。数多の保険の中で最も身近なものといっていいでしょう。そんな自動車保険ですが、多くの人が知らない不都合な事実があります。いざというとき、知っていると知らないとでは大違い。今回は自動車保険に関する驚きの事実をご紹介します。(幻冬舎「交通事故保険金のカラクリ」山下江著を参考にしました。)

【事実1】過失割合0%の被害者は加害者側の保険会社と自分で示談交渉しなければならない!
皆さんは交通事故に遭っても自動車保険に入っていれば保険会社が対応してくれる、そう思っていませんか? でも、信号停止中に後ろから追突されたり、相手がセンターラインを越えてきたため正面衝突した場合のように被害者の過失が全くない事故(過失割合0%)では、被害者側の保険会社は動いてくれず被害者自ら加害者側の保険会社と示談交渉しなければなりません。そんな馬鹿なと思われるでしょう。しかし、自動車保険は加害者が支払うべき被害者の治療費や慰謝料を保険会社が肩代わりするものです。被害者の過失が0ならば被害者には支払うべき費用などはありませんから、そもそも保険会社の出番はないということです。
本当に加害者側の保険会社との交渉を自分一人でやらないといけないのか。そうでなくても事故のダメージで弱っているときに、考えただけで憂鬱になります。そんなとき頼りになるのが、弁護士費用特約です。これは自動車保険に特約として付加するもので、最大300万円までの弁護士費用が補償されます。また、保険会社に弁護士の紹介を依頼することもできます。そうすれば以後の保険会社との交渉は弁護士が担うことになり、被害者の負担は大幅に軽減されます。弁護士費用特約の保険料は年間2,000円~4,000円程度と高額ではないので、私はこの特約への加入を強くお薦めしたいです。

【事実2】交通事故の慰謝料には2つの基準がある!
皆さんが交通事故に遭い過失割合が0%であった場合、自ら加害者側の保険会社と示談交渉することになるわけですが、慰謝料は被害者のケガの程度(等級)に応じ予め決まっています。その基準が二つあるという話です。(※)【表1】ご参照
一つは任意保険基準といい、営利企業である民間の保険会社が決めるものです。保険会社にとってはなるべく慰謝料を払わない方が会社の利益となるので、任意保険基準は意図的に慰謝料の金額を抑えたものになっています。もう一つは弁護士基準(裁判基準)といわれるもので、過去の判例によって妥当性を認められています。(公)日弁連交通事故相談センター東京支部により編集・発行されている「損害賠償額算定基準」にまとめられ、毎年更新されています。ここで問題なのは、加害者側の保険会社が任意保険基準をたてに、被害者にとって不利な慰謝料をゴリ押ししてくる場合があることです。被害者の多くは慰謝料の基準が二つあることなど知りませんし、知っていたとしても百選錬磨の保険会社の交渉人の前では赤子同然、不利と知りながらも任意保険基準の慰謝料を受け入れてしまうでしょう。
そこで再び弁護士の登場です。交渉に弁護士が介入することで、被害者にとって有利な弁護士基準での決着が期待できます。また、保険会社も裁判は避けたいので、早期に被害者の主張を応諾し示談を求めてくる可能性が高いです。

【事実3】ドライバーの1割から2割が自動車保険に加入していない!
にわかには信じられない話ですが、任意自動車保険・共済に加入している人の割合は9割弱。中には8割程度の都道府県もあるということです。街中を走っている車の5台から10台に1台は無保険車ということです。しかし、任意保険に入っていない人とは、一体どんな連中なんでしょうか。自分の運転技術に絶対の自信があり、事故を起こさないと確信している人? そうであれば、まだマシです。私は、事故の加害者になっても「無い袖は振れない」と開き直る「ならず者」だと思います。
加害者が任意保険に加入していなければ、被害者は自賠責保険の僅かな慰謝料を手にするだけで後は泣き寝入りとなってしまいます。そのような悲劇を避けるため、自動車保険には人身傷害補償特約があります。この特約に入っておくと、被害者自身や同乗者が死傷した場合、治療費や休業損害等を加害者との示談を待たずに受取ることができます。ならず者から身を守るために保険料の負担は増えますが、人身傷害補償特約の付保を検討してみてはいかがですか。

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【保】がん保険を考える

「医療保険を考える」では、医療保険に入る意味を「時間を買う」ことにあるとご説明しました。それでは、がん保険の場合はどうでしょうか。まずは、多くの病気の中でなぜ「がん」だけが単独の保険商品となっているのか、その点から考えてみたいと思います。がんの特徴として、その死亡率の高さがあります。また、長期間に及ぶ治療と激しい副作用。そして、再発リスク。これらがん固有の特性に対応するためがんに特化した保険が生まれ、これまで支持されて来たと考えられます。

もっとも最近では医療の進歩により、がんの死亡率は低下傾向にあります。年齢要因を調整した「がん年齢調整死亡率」は1995年の10万人あたり226人をピークに、2020年は148人まで低下しています。(国立研究開発法人/国立がん研究センター調査) また治療法の変容により、がん治療は入院から通院で行うものへと変わってきています。平成8年から平成29年の20年間で、がん患者の平均入院日数は46日から17日まで短縮しています。そして通院での受療が増加しています。(厚生労働省患者調査) 背景には、腹腔鏡・胸腔鏡手術やロボット支援手術(ダビンチ・Hinotori等)の普及による患者の負担軽減(手術での傷が小さくなった)があります。従前は、放射線治療や抗がん剤治療を入院で行っていましたが、今では通院で行うことが主流となっています。

がんが再発した場合は治療による根治が困難なケースがあり、その場合はがんの進行を抑える、または痛みを和らげることが治療の目標となります。慢性病のような感覚で、がんという病との気長な付き合いが始ります。放射線や抗がん剤、ホルモン剤等の治療を組み合わせた集学的治療を受けることになりますが、長期間の治療は高額療養費を持ってしても家計に大きな負担となります。さらに厄介なのは、抗がん剤等の副作用による体力の低下で就業が困難となり、収入が減少ないし絶たれるリスクがあることです。

このように、がん保険は医療保険と違い入院・手術の保障だけでは不十分で、長期の通院と治療、さらには療養期間中の就業不能をカバーする総合的な保障が求められます。確かに、がん保険は保険事故をがんに限定しているため、医療保険に比べ給付を受けられる可能性は低いです。しかし、その分医療保険に比べレバレッジが高く、保険を活用するメリットは大きいと言えます。