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【保】医療保険を考える

先日、高齢者のお客様から医療保険を解約したいとのお電話を頂きました。私が一通り解約のお手続きを説明したあとで、「ところでお金はいくら返ってくるのか」とのご質問です。このお客様の医療保険には終身特約は付いていなかったので、「お客様のご契約では解約返戻金はございません。」と回答したところ、「そんな話は聞いていない。金返せ!」との展開になったのであります。保険関係者なら、あるあるの話だと共感頂けると思いますが、貯蓄型の保険と掛け捨ての保険の区別が付いていない方は大勢いらっしゃいます。これはまず保険会社や代理店が対応すべき問題ですが、中学校・高等学校でも金融リテラシー教育の一環として、きっちり学生諸君に教育をお願いしたいところです。

個人が保険を利用する意味は、保険に加入する前に考えたいことでお話しましたが、私は主に次の3つであると考えています。①レバレッジを活用し少額の負担で巨額の損失(復旧費用、損害賠償等)に備える、②「保険は四角」の機能を活用し時間を買う、③税制メリット(相続税の非課税枠、所得控除)を活用し税金の負担を軽減する。保険に加入する際は、これら3つのうち何を利用しようとしているのか、目的を明確化することが大切だと思います。

さて、ここで皆さんに質問です。医療保険は上の①から③のどれに当てはまるでしょうか? 22歳の男性が入院給付金日額5,000円(手術給付金5万円)の終身医療保険に加入した場合、保険料は1,200円前後です。入院給付金の1回あたりの上限は60日ですが、近頃の入院は2週間がせいぜいです。だとすると、5,000円×14日=7万円。その間に手術が1回あったとして、計12万円あたりが給付金の想定額となります。この12万円を保険料で割ってみます。120,000円÷1,200円=100ヶ月。100÷12=8年4ヶ月です。つまり8年半以上保険料を払うと①のレバレッジは1を切り、意味をなさなくなります。また③ですが、医療保険は保険料控除の対象です。年間1,200円×12ヶ月=14,400円の保険料で所得控除も14,400円。所得税率20%の方で2,880円の税金の戻りです。1回の飲み代に足りるかどうか。ということで、医療保険最大のメリットは②です。医療保険を契約し保険料1,200円を納付すれば、翌日に病気で入院しても日額5,000円の入院給付金と5万円の手術給付金を受け取れます。手許の資金が乏しくても入院費を心配する必要はありません。「保険は四角」と言われる所以です。このように本来医療保険は、医療費の資金的余裕がない方が蓄えのできるまで、つなぎの期間利用するものです。医療保険はレバレッジが期待できない以上、長い期間入るものではありません。蓄えができれば早々に解約し、以後は貯蓄を取崩して医療費に充てることが経済合理的です。

しかし、世間は経済合理的に動く人ばかりではありません。医療保険をお守り代わりに買われる方もいらっしゃいます。そして、そういう方に限って医療保険を解約する段になり「金返せ!」などとおっしゃいます。願いが叶わなかったとしても、神様に「金返せ」とは誰も言わないと思うのですが……。
ケチな保険屋のぼやきでした。