カテゴリー
株式

【株】金融政策変更の思惑

事前予想を下回る6月CPI・PPIの発表を受け、米国ではインフレの鎮静化がはっきりしてきました。市場関係者は、次回FOMC(7月25日26日)での利上げが最後となるとの見立てでほぼ一致しています。一方、日本では5月期の毎月勤労統計調査で、名目賃金の伸びが事前予想を上回りました。そんな中、7月7日に日経新聞と共同通信で報じられた内田日銀副総裁のインタビュー記事が、金融政策変更の思惑を呼んでいます。内田氏はインタビューで「(金融政策の変更は)金融仲介機能や市場機能に配慮しつつ、いかにうまく金融緩和を継続するかという観点からバランスをとって判断していきたい」と述べています。この「バランス」の一語が金融政策変更を示唆すると、市場関係者は受け止めたようです。

変更の思惑を呼んでいる金融政策とは、いうまでもなくYCC(イールドカーブ・コントロール)のことです。昨年12月20日に、日銀は長期金利の変動幅を従来の±0.25%から±0.5%に拡大するYCCの変更を発表しました。このとき市場関係者の多くは金融緩和縮小を予想していなかったため、日銀はだまし討ちをしたと批判されました。一足先に金融政策の変更を行っているFRBは、丁寧に市場と対話しながら金利の引き上げを行っており、市場関係者が重視する金融政策の透明性が担保されています。それに比べ日銀は配慮が足りないというわけです。
しかし、これはYCCの宿命です。事前にYCCの変更を市場に察知されたなら、投機筋に国債の空売りを仕掛けられ、YCCの変更は意味を失います。YCCの変更は市場のサプライズがなければ失敗に終わるのです。YCCの採用を一度は検討したFRBが採用を見送った理由が、この出口戦略の困難さです。

金融政策の変更を巡り、市場関係者が嫌う「霧」が今、日本のマーケットに立ちこめています。インフレの鎮静化による長期金利の低下から、米国ではグロース株を中心に株価の上昇が続いていますが、日経平均株価は一時の勢いを失っています。背景には、このマーケットの「霧」の存在があります。次回の日銀金融政策決定会合は7月27日28日です。それまで金融政策変更の思惑に振らされる日々が続くでしょう。
私は植田日銀総裁が日銀プロパーでなく、経済学者出身である点がポイントではないかと考えます。確かにCPIは日銀が目標に掲げる前年比2%を上回る状態が続いており、YCCを変更する環境は整いつつあります。しかし、早すぎる金融引締めは、バブル崩壊後長らく日本経済を苦しめてきたデフレを根絶する芽を摘んでしまう恐れがあります。日本と米国では、そもそも置かれた環境が異なります。植田総裁はインフレ抑制よりもデフレ退治を優先するのではないでしょうか。
いずれにしろ、長期金利が急騰するようなことがあれば、日銀は積極的な国債の買い入れで金利を抑え込みに入るはずで、過度な悲観は不要だと思います。