よく新聞やテレビで「先物は将来の価格を予測して売買する」という解説を目にしますが、いつも違和感を感じます。先物を売買する投資家も、現物を売買する投資家も、視線の先は同じはずだからです。どうも、先物の「先」の字の印象が強すぎて、先物=将来の価格、現物=現在の価格と、妙な理解をしている人が多いようです。今回は、このあたりの誤解を解きほぐしたいと思います。
まず現物と先物の違いですが、ここのところが分からないから、冒頭のようなトンチンカンな解説になるのだと思います。現物と先物の違い。それは、決済日の違いです。これだけです! 現物取引は、約定(株式の銘柄、価格、数量、売り買いの別、を決定すること)と、決済(株式とお金を交換すること)を同じタイミングで行います。(実際には約定日の2営業日後が決済日) 一方、先物取引は、約定と決済を異なるタイミングで行います。先物では限月(3月、6月、9月、12月)ごとに決済日が決められており、その日までに未決済の建玉を一斉に決済します。(SQと言われる集中決済日は3、6、9、12月の第二金曜日)
この現物と先物の決済日のズレが、現物と先物の価格差になります。現物を持っていれば配当金を受け取ることができますが、先物には配当はありません。そのため、配当金の差(厳密には配当と短期金利の差:キャリーとかベーシスと言います)だけ、現物に対し先物が安くなります。そして、決済日に理論上は先物と現物の価格は等しくなります。尚、投資家は集中決済日(SQ)まで待たずとも反対売買をすることで、好きなタイミングで決済することができます。
日経平均先物の理論価格=日経平均(現物)の価格×{1+(短期金利-配当利回り)×SQまでの日数÷365}
このように現物取引と先物取引の違いは、約定日と決算日が同じか違うかだけのことです。投資家が現物を売買するときと先物を売買するときの判断材料は、全く同じです。現物取引では今日明日の相場動向を予測し、先物取引では将来の相場動向を予測するといった解説がいかにおかしいか、お分かりいただけたでしょうか。前場で先物を買って後場で売ることも可能です。このとき、投資家は1日の相場に賭けて先物を売買しているわけです。
次に、先物の意義について考えてみましょう。先物取引を導入することは鉄道に例えると、単線を複線化することに似ています。現物取引のみの場合、買いだけ、売りだけのようにどちらか一方しか行えませんが、先物取引があれば「現物の買い」と「先物の売り」のように、買いと売りを同時並行で行えます。これが先物の存在意義です。
株主優待が魅力的であなたがずっと保有したいと考えている銘柄があるとします。そこへ思わぬ好材料が出て株式相場が爆騰しました。あなたなら、どうしますか。株主優待は諦め、この株を売却するか。株の保有を優先し、売却のチャンスをやり過ごすか。現物取引のみの場合は、この2択しかありません。でも先物取引があれば、現物の保有を継続しながら、先物を売り建てることができます。株主優待とキャピタルゲインの両方を手にできるのです。
また、あなたが買いたいと思ってる銘柄があるとします。しかし、ボーナス支給日まで購入資金がありません。今、相場はちょうどいい感じに安値圏にあり、ボーナスまで待っていたら相場が上がってしまうかもしれません。こんな時も先物取引があれば、便利です。先に先物を買い建てておき、ボーナスが出たら先物を売って現物株に乗り換えるのです。(先物取引では少額の証拠金を証券取引所に差し入れれば売買が可能です。)
このように先物を使うことで、現物だけでは叶わない様々な投資家のニーズに対応することができます。