皆さんは目から鱗が落ちた経験はありますか。最近、私はある本を読んでいて、目から鱗が落ちました。この言葉の意味は、「何かがきっかけとなって、急に物事の実態がよく見えるようになること」ですが、せっかくなので語源も調べてみることにしました。当初、私は中国の故事か何かだろうと思ったのですが、何と、新約聖書の使途列伝九でパウロがイエスの教えに目覚める瞬間の出来事に由来しているそうです。これを知って私は一人で興奮してしまったのですが、皆さんはご存知でしたか?
それにしても、パウロの目から落ちた鱗は、さぞ大きな鱗だったでしょうね。それから、パウロは人魚か半魚人だったのでしょうか。
私が何について目から鱗が落ちたのか、話を続けます。日本の労働生産性が先進国で最低であることは広く知られていますが、バブル期まではトップレベルであったことを知る人は少ないです。なぜかバブル崩壊後の1990年代に入り、日本の労働生産性は急低下してしまったのです。
労働生産性は、国内総生産(GDP)を就業者数で割って算出し、労働者1人あたりの産出量を表します。
なぜ、日本の労働生産性が先進国の中で飛び抜けて低いのか。よくある説明として、日本の企業は残業時間が長いとか、年功賃金であるとか、ITの導入が遅れているとか言われますが、私は予て疑問に思っていました。なぜなら、それらの日本企業の特徴はバブル前後で変わっていないのに、それを労働生産性が急低下した原因だというのは無理があるからです。
そんな私の疑問に明快に答えてくれた本が、岩田規久男さん(前日銀副総裁)の「なぜデフレを放置してはいけないか」(PHP新書)です。この本には、デパートの店員と売上高の例が出てきます。景気が悪化すると、来店客は減ります。店員は暇を持て余しますが、店員の労働時間は変わらず売上だけが減少します。逆に、景気が良くなると来店客は増加し、店員は繁忙となって売上は増加します。しかし、デパートは定時に閉まるので、店員の労働時間は変わりません。売上が増加したのはデパートがITを導入したからでも、店員の接客技術が上がったからでもありません。単に、景気が良くなったからです。
これと逆の現象が、バブル後にデフレ下の日本で起きたということです。なぜ、日本の労働生産性が1990年代に入り急低下したのか。なぜ、日本だけが突出して労働生産性が低いのか。その答えは、いずれもデフレです。日本がデフレに陥ったのは1990年代に入ってからです。そして、第二次世界大戦後、デフレになった国は世界で日本だけです。
ポストコロナにおいて、先進諸国はインフレに見舞われることになります。それは日本も例外ではありません。しかし、他の国々では経済を蝕む忌まわしいインフレも、我が国にとってはデフレを退治してくれる救世主かもしれません。