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保険

【保】保障最新化の罠

医学の進歩に伴い、医療の現場は日々変化しています。10年前は常識であったことが現在においては非常識、といったことが頻繁に起きます。例えば、がんの治療は、10数年前であったら手術の後、入院した状態で放射線や抗がん剤の治療を行っていました。自ずと入院は長期化します。しかし、今では余程大きな手術の後でも2週間程で退院し、通院しながら外来で放射線や抗がん剤治療を受けることが一般的です。
医療保険やがん保険の保障は、その時々の医療の実態に合わせ最適な状態に設計されます。したがって、保険の保障も医学の進歩に伴い時間の経過とともに陳腐化し、使いものにならなくなります。2週間で病院を追い出されるのに、がん保険に長期の入院保障は不要です。

保険会社や代理店は、実態に合わなくなった古い医療保険やがん保険の保障見直し(保障最新化)を盛んに契約者に訴えます。役に立たなくなった保障内容を放置したら、いざというときに契約者からクレームが出ることは避けられません。保険会社や代理店は契約者(被保険者)の利益を守り、さらには契約者(被保険者)の命を守るため、必死になって古い保険契約の最新化を訴えているのです。でも……、それだけでしょうか?

保険は若いときに加入した方がお得と、昔からいいます。確かに、終身払いの保険の場合、20歳で加入した方が40歳で加入するよりも保険料の月額は安くなります。なぜ安くなるか。その理由ですが、若いときに加入した方が保険料を払う期間が長くなるからというだけではありません。病気になって保険金が支払われる可能性が高いのは、当然高齢者です。若年者は病気になる可能性は低く、保険金が支払われることもほとんどありません。つまり、保険会社にとって、高齢者はリスクが高く、若年者はリスクが低いということです。そのため、若いときに加入するほど保険料は安く設定されます。そして、若年者が払った保険料は自身の保険金として還元されることはなく、そのほとんどが掛け捨てとなり高齢者の保険金に充当されます。

ただ、これは不当ということではありません。安い保険料で加入した若年者も、やがては高齢者となります。病気がちとなり、通院だの入院だの手術だのと、頻繁に保険金の支払いを受けるようになります。つまり、若年期に掛けた保険料は、高齢期に元を取る仕組みになっているわけです。しかし、これは当初の契約を終身で継続した場合の話であって、途中で見直しを行った場合には該当しないことに注意が必要です。保険の見直しとは旧契約を解約し新しい契約に入り直すことですが、保険料も見直し時点の年齢で再計算されます。つまり、保険契約を見直すとは、若いときから掛けてきた保険料を高齢期に取り戻す権利を放棄し、年齢に見合った高いリスクを織り込んで再計算された割高な保険料に乗り換えることを意味します。
保険会社にしてみれば、若年者が高齢期に差し掛かった後は割安な保険料で保険金を支払わなければならず、逆ザヤとなります。そして、この逆ザヤは解消すべき経営課題となりましょう。

保障の陳腐化を避け、いざというときに役に立つ保険の質を維持するためには、定期的な保障の見直し、保障の最新化が欠かせません。保険会社や代理店のこの言葉に偽りはありません。しかし、保障の最新化によって失われる契約者の利益があることも憶えておいてほしいと思います。

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不動産

【不】10年で資産を倍にするには

10年で資産を倍にする。言うのは簡単ですが、いざ実行しようとしたら大変です。今回は株式や不動産を使って、はたして10年で資産を倍にできるかどうか、頭の体操をしてみたいと思います。

まず、株式です。一般に株式投資では複利効果を活用して資産を増やします。ご存じの方も多いと思いますが、「72の法則」というものがあります。これは資産が倍になる年数と利回りをかけると72になるという法則です。例えば、利回りが6%なら、だいたい12年で資産が倍になります。(6×12=72) 今回は10年で資産を倍にしたいので、必要な利回りは7.2%となります。皆さん、どうお感じでしょうか。私には7.2%の運用を10年も続ける自信はありません。また、過去の相場から考えると、10年の間に20%程度の相場下落を1回、10%程度の下落を1回は想定しておく必要があると思います。その場合、残りの8年間で必要な利回りは13.6%まで跳ね上がります。(※)
(※) 1×(1-0.2)×(1-0.1)×(1+0.136)^8=1.997
やはり、10年で資産を倍にするのは相当に難易度の高い宿題です。 
また、10年後に資産をキャッシュ化する場合、株式の売却に伴い(NISA等の非課税枠が使えない場合)20%の所得税を覚悟しなければいけません。

次に、不動産です。一般に不動産投資では借り入れによるレバレッジ効果を活用して資産を増やします。今、手元に5,000万円あるとします。これを頭金に銀行から5,000万円を借入れ(金利:0.5%変動、借入れ期間:10年)、1億円の中古一棟賃貸マンションを購入するとします。この場合、毎年の返済額(元利均等返済)は515万円です。(ご参照:高精度計算サイト) したがって、515万円÷1億円=5.15%以上の(実質ベース)賃貸利回りがあれば、10年後にローンを完済し資産倍増を達成することができます。ただ、賃貸経営には固都税を始め、FR・AD等の客付け費用、修繕費・火災保険やリフォーム代等の運用経費等、諸々のコストがかかってきます。そのため、実質ベースで5%となると、都心でも表面利回りベースで8%は必要と思われます。しかし、今どき地方の築古物件やワケあり物件を除いて、そんな高利回り物件にお目にかかることはまずありません。また、賃料の下落や空室・滞納の発生、借入れ金利の上昇(変動金利ローンの場合)等のリスクも考慮する必要があります。やはり不動産の場合も、10年で資産を倍にするのは至難の技のようです。
なお、賃料収入には不動産所得として所得税がかかってきます。また、10年後にキャッシュ化のため投資物件を売却する場合、市場環境によっては売却損が発生する可能性もあります。

今回、株式投資と不動産投資に、「10年後の資産倍増」という同じ目標を掲げてみました。両者を同じ目標の下で比較すると、投資手法の違いや特徴が良く見えてきます。株式投資は、いかに資産を増やしていくかという、足し算的な方法論。一方、不動産投資は、いかに諸々のコストを抑えローンの返済計画を無難に回していくかという、ある意味引き算的な方法論と言えます。そして、両者に共通しているのが、出口のリスクです。株式投資も不動産投資も、投資対象のキャッシュ化が終わって初めて投資の総括と結果の判断が可能となります。


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ライフプラン

【ラ】相続は難しい

相続は難しい、といつも思います。そこで、何でこんなに難しいのか考えてみました。たどりついた答えは、「相続は文脈によって意味合いが変わるから」です。相続関連の同一のワードであっても、それが遺言や遺産分割のような法律に係わる文脈で使われるのか、相続税の節税対策のような税金に係わる文脈で使われるのかによって、意味合いが異なってきます。そして、文脈が不明なまま相続の話をすると、聞き手は話し手の意図を理解できず混乱することになります。弁護士や司法書士を訪問する相談者は法律の問題で悩んでいるでしょうし、税理士を訪問する相談者は税金の問題で悩んでいるものと推測できます。しかし、FPの場合は相談者が抱える問題が何なのか様々なケースが想定され、予断は禁物です。相談者の意図を当初の段階で確認しておかないと、誤った情報を相談者に提供することになりかねません。十分に注意したいものです。
それでは、相続に関連するワードの解釈が文脈によっていかに変わるか、実例をいくつか見ていただきたいと思います。

まずは、「相続財産」です。遺産分割の対象となる財産のことですが、例えば、被相続人が被保険者となっている「死亡保険金」は、民法上は「相続財産」に該当せず、遺産分割の対象にもなりません。保険金受取人の固有の財産とされるからです。また、原則、遺留分(※1-a)の対象にもなりません。(※2) しかし、税法上は「死亡保険金」を「みなし相続財産」として「相続財産」に含め、相続税の計算をします。被相続人の死亡に伴い支給される「死亡退職金」も同様で、民法上は「相続財産」に該当しませんが、税法上は「みなし相続残産」として相続税が課税されます。
さらにややこしいのが、「遺族年金」です。厚生年金や国民年金等公的年金の「遺族年金」は、受給権者の固有の財産として民法上も税法上も「相続財産」に該当しません。しかし、企業年金のうち確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(DC)の「遺族年金」は、死亡退職金に準じて相続税の対象となります。同じ企業年金でも厚生年金基金の「遺族年金」は、公的年金に準じ相続税は課税されません。

次は、「遺産分割の期限」です。民法上はいつまでに遺産分割を終えなければいけないか、特に「期限」は設けられていません。しかし、民法の改正で2023年4月より特別受益(※1-b)や寄与分(※1-c)の主張をする場合に限り、相続開始後10年以内に遺産分割を終える必要が生じました。また、不動産登記法の改正で2024年4月より、相続が発生し不動産の所有権を取得したことを知ったときから3年以内に、不動産の登記を名義変更することが義務付けられました。
税法上は、相続が発生したことを知った日から10ヶ月以内に申告し、相続税を納税しなければいけません。10ヶ月以内に遺産分割協議がまとまらない場合、配偶者控除や小規模宅地の特例等の相続税軽減措置は使えません。ただ、相続税申告時に「3年以内の分割見込書」を提出すれば、遺産分割が成立した時点で更正請求を行うことで、遡って特例の適用を受けて納め過ぎた税金の還付を受けることができます。

最後は、「持ち戻し」についてです。民法での「持ち戻し」とは、生前に被相続人から特別受益を受けた人がいる場合、その特別受益を相続財産に加えて遺産分割を行うことをいいます。これにより相続人間の公平を図ることができます。特別受益に時効という概念はありませんので、どれだけ古い贈与であっても、特別受益として「持ち戻し」の対象とすることができます。ただし、遺留分を計算する際の特別受益については、10年以内と期限が設定されています。
また、税法での「持ち戻し」とは、相続発生の直前に行われた生前贈与はその効果が否認され、贈与された財産を相続財産に加えて相続税を計算する制度をいいます。2023年度税制大綱では、「持ち戻し」の対象が従来の相続開始前3年分から7年分に延長されることとされました。(2024年度の贈与から適用。経過措置あり。)

(※1)ここで、用語を整理しておきます。
(a)遺留分:遺贈や生前贈与などに対抗して主張できる、自己の最低限の相続分のこと。
(b)特別受益:遺贈や生前贈与で被相続人から特別な利益を得た人が相続人の中にいた場合の、その相続人が得た利益のこと。被相続人から贈与された住宅取得資金や結婚資金等が該当。遺産分割の際、その相続人の持ち分から控除します。
(c)寄与分:介護等によって被相続人の財産の維持や増加に貢献した人が相続人の中にいた場合の、その相続人が与えた利益相当のこと。遺産分割の際、貢献に応じてその相続人の持ち分に加算にします。
(※2)最高裁の判決では生命保険金について、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて持戻しの対象となると解する」とされています。つまり、保険金受取人の受取る死亡保険金が他の相続人とのバランスを大きく崩すほど多額な場合には、保険金受取人が遺留分侵害額請求の対象となりうるということです。

【おまけ】
もうひとつ悩ましいのが、民事信託(家族信託)と相続の関係です。信託財産は民法上「相続財産」ではないとされており、税法上も信託受益権を「みなし相続財産」として取り扱う旨、規定されています。(「みなし相続財産」として課税されるということです。)そのため、第一受益者に続く第二受益者が信託契約に設定されていれば、第一受益者に相続が発生しても信託受益権は遺産分割の対象とならず、信託契約に従って第二受益者に直接承継されます。ただし、第二受益者が設定されていない場合は、他の相続資産と一緒に遺産分割の対象となります。

次に、信託受益権が遺留分侵害額請求の対象になるかです。かつては死亡保険金と同様、「みなし相続財産」であるから遺留分の請求対象とはならない、とする説が有力でした。しかし、現在では受益者の死亡で移転した信託受益権は遺留分の請求対象となるとする説が有力です。民事信託の信託受益権は、原則、遺産分割の対象とならない点では死亡保険金と同様ですが、遺留分の対象となる点で死亡保険金と異なる点に注意が必要です。

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株式

【株】平成バブルと停滞の30年

まずは、下のチャートをご覧下さい。「Trading view」から拝借してきた1950年以降の日経平均のチャートです。まず目につくのが、平成バブルの際だった山の高さと谷の深さです。ITバブル、リーマンショック、コロナショックでの相場下落が可愛く見えます。それから1980年代半ばを境に、まるで別の商品になったかのように日経平均の値動きが活発になっています。これはどういうことでしょうか。

平成バブルというと決まってジュリアナ東京でお立ち台に立って踊る、超ミニスカートのお姉様方が連想されますが、当時を生きた人間の一人として、日々の生活が豊かになったとか、給料がものすごく上がったという実感は乏しかったように記憶しています。確かに、証券会社の若手社員がボーナスで200万円もらったとか、噂には聞いていましたが、一部業種を除く大方の日本人にとってバブルの恩恵は縁遠かったということでしょう。景気の高揚感ない中での資産価格の上昇。これが平成バブルの特徴かもしれません。従来であれば、景気変動にシンクロする形で株式相場も変動していたものが、2度のオイルショック以降の本邦経済の低成長化により実体経済から乖離した株式市場が、糸の切れた凧みたく独自の力学で動くようになったのが1980年代半ばではないかと考えます。そんな地合のところへ、当局により内需拡大・円高回避を企図した大量のマネーが供給されました。低成長化した本邦経済はもはやマネーを需要せず、行き場を失ったマネーは株式・不動産市場に流れ込んで、閉じた空間の中を高速回転しながら資産価格を非合理的な水準へと押し上げたのです。

平成バブルが形成される過程では景気の高揚感はなく、目立った物価の上昇もありませんでした。実体経済と資産市場の乖離。これが平成バブル形成期の特徴だったわけです。しかし、バブル崩壊後、停滞の30年で起こったことは、皮肉にも資産市場と実体経済の連鎖です。資産市場の暴落による金融機関・事業会社のバランスシートの悪化が実体経済の信用収縮に繋がり、デフレスパイラルに巻き込まれた本邦経済は悪化の一途を辿りました。1997年~98年の金融危機から2003年のりそな銀行公的資金投入までの数年間、我が国はまさに亡国の危機に瀕していたと言っても過言ではありません。ひとつ間違えば、隣国のようにIMFの管理下に置かれていた可能性すらあったのです。

足下の株高をバブルという意見もありますが、上のチャートでリーマンショックによる暴落以降の株価の足取りと、平成バブル形成期の株価の足取りを比較してみて下さい。今回の株高が、何度も立ち止まり、地べたを踏み固めながら慎重に上昇してきている様子が分かると思います。当然短期的な調整はあるでしょう。しかし、それをいたずらにバブル、バブルと煽る姿勢には疑問を感じます。そういう方々には、バブル崩壊が日本国民に如何に甚大な犠牲を強いてきたか、今一度、思い起こして頂きたいものです。

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閑話休題

【閑】オレ流シニアライフの過ごし方

3月31日、会社の先輩が65歳で定年退職されました。当面仕事はせず、ソロキャンプでもしながらゆっくりするそうで、羨ましい限りです。私が働いている会社は某M社の関係会社ですが、私はM社を役職定年の55歳で退職し、今の会社に転籍しました。給料はM社時代の4掛けにダウンです。4割引きではありません。4掛け、6割引きです。これが60歳になると嘱託として再雇用され、給料はさらに半分になります。M社の実に2割です。ここまでくると、高校生のバイトと大差ありません。正直、痺れます。
私は今のところ体に異常はなく、仕事に対する熱意もそれなりにあります。しかし、60歳以降もバイト並の給料で目標に追われるハードな日々を過ごすとなると、いつまでモチベーションを維持できるか自信はありません。私はあと1年で60歳ですが、何とか緊張感と熱意を持って65歳までの5年間を過ごしたいと考えています。(※)

私が60歳になるとM社の企業年金と、細々と積み立ててきた個人年金の支給が始ります。これに株式の配当を足せば、どうにか我が家の家計は回りそうです。なので、私が稼ぐ「バイト代」は私が自由に使っても問題はありません。(まだ配偶者の了解はもらっていませんが……) といっても、貧乏家庭に育ち、贅沢=悪との教育を受けてきた私には、生活費以上の浪費はできそうにありません。そうなると、残るお金の使い道は、投資くらいなものです。
タイミングよく2024年には新NISAが始まり、成長投資枠で累計1,200万円まで個別株の投資が可能となります。時給1,200円でも5年間働けば、それなりの投資原資を貯めることができます。株券が紙くずになるのは覚悟のうえで、ハイリスク・ハイリターンな成長株投資で思いっきりキャピタルゲインを狙う。そんな緊張感に満ちたシニアライフも悪くはないでしょう。ただ、これは到底投資とは呼べないものです。決して皆さんにお薦めはしません。

(※)会社員の社会保険メリット
つべこべ言わず、とっとと会社を辞めてバイトしろとのご意見もあるでしょう。私がそうしないのは、会社員には以下のような社会保険のメリットがあるからです。
1.私はM社の健康保険に加入していますが、被扶養者の妻も自己負担なしでM社の健保に加入しています。私がバイトになると、国民健康保険に夫婦で個別に加入することになり、保険料の支払いが倍増します。
2.M社健保には高額療養費の付加給付制度があり、医療費の自己負担(月額)の上限を2万円に抑えることができます。国保には付加給付制度はなく自己負担が8~9万円以上となることもあります。
3.健保には休業時に給料の2/3を補填してくれる傷病手当金制度がありますが、国保にはありません。
4.バイト並の年収200万円でも会社で5年間働けば、65歳からの厚生年金を5.5万円(年額)増額できます。
5.私が60歳で会社を退職すると勤続期間は37年(私は23歳でM社に入社しました)となり、満額の国民年金(78万円)は受給できません。ですが、63歳まで継続雇用となれば3年分増額でき(5.9万円)、満額の国民年金を受給できます。
6.私が65歳まで継続雇用となった場合、5歳年下の妻は国民年金の第三号被保険者として保険料の自己負担なしに満額の国民年金を受給できます。しかし、私が60歳でバイト生活となると、妻は第一号被保険者として16,500円(月額)の保険料を5年間支払わなければなりません。
7.私が60歳以降の給料を60歳時の61%以下に引き下げられた場合、雇用保険から給料の15%相当を給付金として受取ることができます。

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株式

【株】身も蓋もない話

フーテンの寅さんではありませんが、「それを言っちゃあ、お終いよ」という話を、身も蓋もない話といいます。今回は、そんなお話をしたいと思います。

投資業界では色々な人たちが働いています。投信を組成する投信会社であれば、運用を担当するファンドマネージャーや証券会社にオーダーを発注する担当者。投信を販売する証券会社には、企業業績を分析するアナリストや経済動向を予測するエコノミスト、営業担当者や事務担当者。投信の資産を管理する信託銀行にも資金決済や運用報告書を作成するスタッフ等がいます。また、最近ではお薦めの個別株銘柄や投資戦略を語るユーチューバーのような人もいます。このように、実に大勢の方々が投資業界に従事されているわけです。
そこへ「どうせ10年先、20年先のことなんて分かりっこない。長期投資には企業業績の分析も景気予測も不要。低廉なインデックスファンドを機械的に定時定額で買っていけばいい。」などと言う輩(私のような者のことですが……)がいたら、投資業界にとって大迷惑です。そのため、「お金をかければきっと上手くいく。勉強すればきっと上手くいく。情報があればきっと……。」という幻想とともに、業界の存亡をかけて短期投資洗脳工作がテレビやインターネットを通じ日々行われることとなります。そう、まるでどこかの新興宗教のように。

住宅業界も似たようなものです。住宅業界にはハウスメーカー、建設会社をはじめ、建材会社、住宅設備会社、家具メーカー、電力会社、ガス会社、通信会社、家電メーカー等等、投資業界を遙かに上回る裾野の広さで多くの人々が関わっています。そのため、国は長らく雇用確保・産業育成のための国策として、「新築・持ち家」信仰を国民の間に流布し、国民を洗脳してきました。新築住宅は需要を顧みることなく過剰供給され続け、中古住宅の流通市場は整備されることはありませんでした。これこそ、昨今の空き家大量発生問題の元凶です。

情報過多時代の今こそ、他言に惑わされず、物事の本質を見極める冷めた目を持ちたいものです。

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株式

【株】シン・株式投資論

最近、2021年12月に初版が発行されて以来ロングセラーを続ける「サイコロジー・オブ・マネー」(モーガン・ハウセル著、ダイヤモンド社)を読み返しました。実によくできた本だと、改めて感じました。長期投資家を目指す人は、この1冊を読み込めばそれで十分と思わせる内容です。ただ、この本は読みやすさを優先した結果、細かく章分けされ論旨の全体像が見えにくいきらいがあります。そこで、以下では私の独断となりますが、本書の俯瞰図の提示にトライしてみたいと思います。

1.株式投資の目的
株式投資の目的は、経済的自立を手に入れることです。経済的自立とは、あなたやあなたの家族が、好きなときに好きなことをできること、をいいます。ただ、そのためには、それなりの資産が必要です。そして、資産を築くための手段が株式投資となります。私たちは株式投資を通じ、複利のパワーを借りて大きなリターンを得ることが期待できます。リターンの源泉となるのは、①時間、②マネー、③リスク、の3つです。
株式投資をするうえで重要なこと。それは、あなたが市場から退場することなく、できる限り長い期間にわたってマネーを投資し続けること(①と②)と、リスクを毛嫌いせず受け入れることです(③)。リスクを取らずにリターンを得ようとするのは、代金を払わずに商品を手にする泥棒と同じです。

2.リスクへの対応
リスクにはミクロのリスクとマクロのリスクがあります。
(1)ミクロのリスク
ミクロのリスクとは、投資先の企業の業績が悪化したり、倒産したりすることです。ミクロのリスクは事前に予測することは困難で、避けることはできません。
JPモルガン・アセット・マネジメントが1980年から2014年までの「ラッセル3000インデックス」のリターンの分布を分析し公表しています。この期間中、ラッセル3000の全構成銘柄の4割が70%以上値下がりし、回復することはありませんでした。実質的に、このインデックス全体のリターンの全てはダントツに優れた業績を上げた、わずか7%の構成銘柄から得られていたのです。驚くべき結果ですが、これが事実であり、投資とは所詮そんなものだということです。
ミクロのリスクへの対応。それは「複数の銘柄への分散投資」です。

(2)マクロのリスク
マクロのリスクとは、不況、自然災害、パンデミック、戦争等による経済システムの毀損、そして株式市場の下落です。マクロのリスクも事前の予測は困難であり、避けることはできません。
過去170年間、米国にどれだけの不幸な出来事が訪れたか、ご存じですか。大きな戦争が9度あり、130万人の米国人が亡くなりました。創業された企業の99.9%が倒産しました。大統領が4人暗殺されました。スペインかぜの大流行で1年間に67.5万人の米国人が亡くなりました。株価が1/3に暴落したことが少なくとも12回ありました。インフレ率が7%を越えた年が通算20回ありました。しかし、この170年間で米国人の生活水準は20倍になっています。不幸な出来事があっても経済は、そして市場はやがて回復する。これが事実です。
マクロのリスクへの対応。それは、過度にリスクを恐れない、「賢明な楽観主義者たること」です。
しかしながら、不幸な出来事による市場のダメージは、長期間続くこともあります。1929年の大恐慌のあと、株価が暴落前の水準を回復したのは25年後のことです。1970年代にはインフレやオイルショック等による株価低迷が、10年以上にわたって続きました。こういった長期間に及ぶダメージに耐え株式投資を継続するには、バッファーとなる預金が必要です。マクロのリスクへの二つ目の対応として、「十分な預金の保有」を上げます。

ここまでの本書の内容をたたき台として、株式投資の流れをイメージ化したものが【図1】です。あくまで私流ですので、本書の趣旨に沿えていない可能性もあります。ご容赦下さい。

長期投資家は、月々の給料をまず生活費に充当します。次に、株式市場が下落した際のバッファーとなる預金に充当します。そして、最後に残った余裕資金を株式に投資する流れとなります。株式市場はミクロ、マクロ様々な要因で、短期間に上下動を繰り返します。投資を開始した当初は、市場の下落で投資資産の時価評価が元本を割り込むこともあるでしょう。 しかし、ここで注目して頂きたいのは、レバレッジをかけない限り(信用取引や先物・オプション取引をしない)、時価評価はマイナスとはならないことです。(A) 時間の経過とともに含み益が増えていき、市場が下落しても元本を割り込むことはなくなります。(B)  そして、投資を長期間継続することで複利のパワーが顕在化し、投資資産は当初の想定を大きく上回る水準に到達します。(C)

本書には著者の主張をサポートする幾つもの興味深いエピソードが盛り込まれています。詳細は是非、皆さんに本書を手に取ってご確認頂きたいのですが、最後に驚くべきエピソードをひとつご紹介させて頂きます。

投資会社のホライゾン・リサーチは、「技能」でも「運」でもない、美術商が成功するための三番目の要素について説明しています。私たち株式投資家にとっても参考になるものです。
「優れた美術商は、膨大な量の美術品を投資対象として購入する」と同社は書いています。「多くの美術品を長期間保有すると、その一部が優れた作品であることが判明する。その結果、ごく一部の高リターンな美術品によりコレクション全体が黒字になる。これが成功する美術商のビジネスモデルなのである。」
優れた美術商は、インデックスファンドのような仕組みでビジネスをしているのです。まず、めぼしい作品があれば根こそぎ買います。気に入ったアーティストの作品を集中的に購入するのではなく、様々なアーティストの作品をポートフォリオとしてまとめて購入します。そして、そのうちの数点が高く評価される日をじっと待ちます。それが全てです。
一生をかけて手に入れた作品の99%は、価値のないものかもしれません。しかし、残りの1%がピカソのような芸術家の作品であるなら、全ての失敗を帳消しにできます。ほとんどが間違いでも、トータルで見れば大正解だったことになるのです。実はビジネスや金融・投資など、世の中の多くのことがこの仕組みで動いているのです。

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閑話休題

【閑】日本人よ、いつになったらマスクを外すんだい

最近、街中でマスクを外している人の姿が、チラホラ目に付くようになりました。とはいえ、そういう人はまだ少数。そのため、私はどうしても彼ら彼女らの顔に目が行ってしまいます。そして、あることに気付きました。マスクを外している女性たちが皆、お綺麗なんです。

3月、世は卒業式シーズン。卒業式にマスクをして出席するか、外して出席するか。アナウンサーが学生さんにインタビューするシーンを、最近テレビでよく見かけます。マスクを外した顔を友達に見られるのが恥ずかしいからと、たいていの学生さんはマスクをして卒業式に出席すると回答します。私はテレビを見ながら、街中ですれ違ったマスクを外した女性たちを思いました。彼女らはマスクを外した顔を他人に見られるのが恥ずかしくはないのだろうか? 確かに、あのルックスにマスクは邪魔でしかないですよね。

そのとき、日本人がマスクを外す時期について、私の脳裏に一つのイメージが浮かんできました。政府が何と言おうと、日本では当面マスクを付けて日常生活を送る人がほとんどでしょう。しかし、ルックスに自信を持つ一部の女性たちは、既にマスクを外し始めているようです。今後、この動きはSNS等を通じて拡散し、「脱マスク=おしゃれ」といったプラスイメージが若者に定着するでしょう。そして、次に流行に敏感な女性たち。そして、それを見た男性たちが脱マスクに動く、というシナリオです。

見映えをことのほか気にする日本人は「マスク着用=ダサイ」となったとき、自らマスクを外すのではないでしょうか。

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株式

【株】株主への手紙

日本経済新聞は2月27日の朝刊でウォーレン・バフェット氏が25日、恒例の「株主への手紙」を公表したと報じました。その内容に関しては既に関係者が色々なところで取上げており、今更私が下手くそな講釈を垂れるまでもないと思います。そこで、以下では日経の記事の中から、私たちが志向する長期投資の理念に通じるバフェットのコメントや考え方をご紹介したいと思います。

1.「恐怖が市場を支配する情勢は投資家の友」
金融市場が動揺した2022年、バフェット率いる投資会社バークシャー・ハザウェイはリーマンショックの2008年に匹敵する投資に動きました。2022年通期の株式投資額と事業投資額の合計は785億ドルに及びます。恐怖相場は優良企業を割安に買える「友」と、バフェットは言います。

2.「目先の経済や相場の予想は役に立たないに等しい」
バフェットは景気予測めいたことはしません。ただ、米国経済のしなやかさ、懐の深さには絶大な信頼を置いています。今回の手紙にも「私たちは米国の追い風を頼りにしており、時折その風が弱まることはあっても推進力は常に戻ってくる」と記しています。

3.「花が咲けば雑草は枯れ行く。長い目で見れば一握りの勝者が素晴らしい働きをするようになる」
悲観の雨で土がぬかるんだ今こそ、種まきの時期かもしれません。賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶといいますが、80年に及ぶバフェットの投資経験は彼にとっては経験でも私たち個人投資家にとっては歴史そのものです。

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株式

【株】胆力を身に付ける

以前、個人投資家が長期投資を行うには胆力が必要というお話をしました。(胆力) では、どうやったら胆力を身に付けることができるのでしょうか。もちろん、人それぞれで正解などありませんが、一つの考え方をご紹介します。
結論から先に言いますと、資産の含み益を作ること。これが胆力を身に付ける近道だと思います。投資する資産に含み益があれば、相場が下落してもクッションとなるので、精神的なダメージは軽くて済みます。資産の評価額(時価)が倍になれば、相場が50%下落しても、まだ50%の含み益があるので安心です。また押し目買いのチャンスと見れば、相場の下落はむしろ大歓迎。竹田翁の「上がってよし、下がってよしの株価かな」の境地です。(私が株式投資を薦める理由③) 相場下落への精神的な抵抗力を、人は「胆力」と呼びます。

ただ、問題があります。それは含み益を作るにも相応の時間が必要なことです。当然その間に何度も相場は下がり、損失が発生するでしょう。その度に損切りを繰り返していたら、含み益を作ることは到底不可能です。では、損失からくる心の痛みをどう遣り過ごせばいいのか。そんなとき頼りになるのが、配当や株主優待といったインカムゲインたちです。年3%強の配当があれば、3年で10%の損失をリカバーできます。
短期的なキャピタルロスをインカムゲインで薄めながら、長期的な株価上昇(キャピタルゲイン)を狙う。これが胆力の源泉となる含み益を作る戦略です。ただここまでのお話は、短期的には上下動を繰り返す株価も長期的には上昇トレンドを描くというストーリーにご賛同頂くことが前提となります。

この戦略を具体的に言いますと、①高配当株投資でインカムゲインを享受しつつ成長株投資で長期的にキャピタルゲインを狙う、または②高配当高β株投資で短期的なインカムゲインと長期的なキャピタルゲインを狙う(高配当株の分散投資)、となります。注意頂きたいのは、これらがポートフォリオ戦略だということです。複数の銘柄に投資をしますが、全ての銘柄で含み益を作る必要はありません。一部の銘柄で大きく含み益を作ったら、残りの多数は含み損。それで構いません。気が付けばポートフォリオ全体で投資額の2倍の評価額となっている。これが理想的な姿です。