カテゴリー
株式

【株】金融経済教育の前にすべきこと

iDeCoに新NISAと、我が国の投資インフラの整備は着々と進んでいます。これで1,100兆円に及ぶ家計の預貯金が株式や投資信託に流れれば政府の目論見通りとなるのですが、現実はそう甘くないようです。そこで、政府は資産所得倍増プランに向けた7本柱の中で、iDeCoやNISAの改革・拡充と合わせて金融経済教育の充実を掲げ、国民の投資マインドの向上を図る考えです。

金融経済教育についてですが、金融広報中央委員会が作成した「金融リテラシーとライフデザイン」というモデル教育資料があります。その中の「資産形成」のパートで「株式や投資信託などの投資運用商品は元本割れの可能性があります(投資は自己責任です)が、ちょっとした工夫で、元本割れの可能性を軽減することが期待できます。」と、投資商品のリスク対応につき軽いタッチで説明しています。そして、その後で複利の効果から長期・積立・分散投資のメリットへとつなげるお決まりの展開となっています。
ポイントをおさえ良くできた資料ではありますが、私はこの資料を読んだ投資経験のない方が、投資にチャレンジしようという気持ちになるとはとても思えませんでした。

もし、あなたが横断歩道で信号待ちをしているときに、知らない男から「3日後に返すから1万円貸してほしい」といきなり言われたら、あなたは1万円を貸しますか? 貸すわけないですよね。でも、相手が会社の信頼できる同僚だったらどうでしょう。「まあ1万円くいらなら貸してもいいか」と思うかもしれません。あるいは、知らない男が数十万円はしそうなロレックスの腕時計をしており、「ロレックスを預けるから1万円貸してほしい」と言ったならば1万円を貸しても問題ないでしょう。
あなたが他人に1万円を貸すというリスクある行為を取ってもいいと考えるのは、相手に信用があったり担保を取ることができる場合です。同じように投資商品に元本割れの危険性があったら、「投資しても大丈夫」と思える信用や担保がない限り、国民は預貯金を取り崩して投資に回すことはありません。もっとも、投資で発生した損失を税金で補填することは御法度なので、国がすべきは「投資しても大丈夫」という信用=安心感を国民が持てるような環境整備かと思います。

米国では国民の多くが株式や投資信託に積極的に投資を行っていますが、それは米国民が(意識しているか無意識かは別として)、長期的に①資本主義のシステムで米国経済が成長すること、②経済成長を通じて米国企業が投資家に利益をもたらすこと、に関して強い信頼を置いているからだと思います。
翻って日本の場合はどうか。バブル崩壊以降30年、デフレと少子高齢化の影響で日本経済は(名目ベースで)マイナス~ゼロ成長を続けてきました。その結果、国民の経済成長への信用は霧散してしまいました。この状態でリスク資産への投資を呼びかけても、国民が聞く耳を持たないのは当然です。
しかし、足下では商品やサービスの価格が上昇したり、31年ぶりとなる高水準の賃上げが行われたりと、デフレからインフレへの転換の兆しがようやく見え始めています。この先、マイルドなインフレが定着すれば、長期にわたって名目ベースでプラスの経済成長が期待できます。

政府は金融理論の理屈をこねくり回す前に、マイルドなインフレの定着と金融・財政政策のバックアップで、日本経済をプラス成長の軌道に乗せるグランドデザインを国民の前に提示すること。そして、理解と共感を得られるまで、国民に熱意を持って繰り返し繰り返し語りかけていくこと。その地道な努力の先に、政府が目指す資産運用立国の実現があると思います。

カテゴリー
閑話休題

【閑】我が家の昭和的エコシステム

我が家には嫁さんと娘が一人ずついます。対外的には家族ということになっていますが、実態は「家族」というプロジェクトを共同経営する「パートナー」という方が近いと思います。各人にはそれぞれミッションが与えられており、堅実な遂行が求められます。

「オヤジ」である私は、会社で仕事をしてお金を稼いでくることがミッションです。嫁さんはオヤジが稼いだお金を使って家事や育児をし、家計を回すことがミッションです。娘は嫁さんの作ったご飯をモリモリ食べて、学校へ行ったり、友達と遊んだりと、元気いっぱい毎日を過ごします。そして、仕事のストレスや上司のパワハラで弱ったオヤジに元気を注入し、消耗したオヤジのヤル気を再生することがミッションとなります。私は毎朝出社前に娘と握手することで、彼女から元気をもらっていました。

「家族」プロジェクトの目的は、このエコシステムの下で各人が健康で自由な毎日を送ることです。法に触れたり他人に迷惑をかけない限り、誰からも干渉されず、好きなときに、好きなことをする。これこそ最高の幸せだと、私たち「家族」プロジェクトは考えます。

カテゴリー
株式

【株】株式市場の季節性

10年以上も前の話ですが、三菱UFJ信託銀行の調査情報2012年3月号に「資産リターンの季節性と投資戦略」というユニークなレポートが掲載されました。今回は、このレポートのサマリーをご紹介したいと思います。

株式などの資産リターンの季節性を調べると、投資家は上半期(冬~春)にリスクを追求し、下半期(夏~秋)にリスクを回避する傾向があるそうです。この季節性の発生原因は、夜の長さの変化による季節性感情障害にあると筆者は見ています。そして、この季節性に着目することで、パフォーマンスを向上できる可能性があることが示されます。

バブル崩壊後の1990年1月から2009年12月の日本株のリターンを検証すると、1~6月と7~12月の期間に分けた場合、上半期がプラスリターン、下半期がマイナスリターンと極端な差が生じていることが分かります。なぜ、このようなリターン格差が生じるのか。1~6月と7~12月の2つの期間で最も異なるものは何か。それは夜の長さだと筆者は言います。冬至から夏至に至る期間と夏至から冬至に至る期間に、この2つの期間はぴったり一致しているからです。人間が秋から冬にかけて精神的に不調となる季節性感情障害(SAD)や冬季うつ(winter blue)といった病気が知られていますが、発症のきっかけとして夜の長さが関係していると言われています。

Kamstra et alは2003年の論文「冬季うつ:SAD株式市場サイクル」で夜の長さと株式市場リターンの季節性に関係があることを発見し、それをSAD効果と名付けました。また、Kamstra et alは2011年の論文「季節性に対応した資産配分:投資信託資金流入量からの証拠」で、直接SAD患者のデータから株式市場のリターンの季節性を検証しています。この論文において、秋に株式投信からMMFや債券投信に資金が移動し、春には再び株式投信に戻ること、そしてこの資金フローにSAD発生/回復変数が強く関係することを明らかにしました。
秋が来て日が短くなることが投資家のSAD発生を誘発し、SADは抑うつを招き、抑うつは投資家をリスク回避に誘う。SADのような季節性抑うつ症状は(程度の差はあれ)多くの人に現れるので株式市場はその影響を免れないと、この仮説は考えます。

レポートでは最後に資産リターンの季節性を利用した投資戦略が紹介されます。スイッチング戦略と筆者が呼ぶもので、リスク資産に高いリターンが期待できる上半期はリスク資産で運用し、リスク資産のリターンがマイナスになる可能性の高い下半期は安全資産にシフトするという単純な手法です。レポートではこの投資戦略の有効性も検証されています。
ほったらかし投資をモットーとする私の立場でスイッチング戦略はお薦めするものではありませんが、複数の投資戦略を組み合わせて市場に臨んでいる投資家の方にはアイデアとして面白いかもと思い、今回紹介させていただいた次第です。

カテゴリー
ライフプラン

【ラ】相続放棄の積極的活用術

日本FP協会の「FPジャーナル10月号」の誌上講座/相続・事業承継設計に、「債務免除だけでない相続の放棄の活用」と題した記事が掲載されています。大変興味深い内容であり、また恥ずかしながら個人的に全く認識のなかった内容でしたので、ここでFP以外の皆さんとも共有したいと思います。
相続の放棄は、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を一切承継しないための方法です。ですから、通常はプラスの財産よりもマイナスの財産(つまり借金=債務)の方が大きい場合に、選択されることが多いと思われます。しかし、それ以外の目的にも、相続の放棄が役に立つ場合があるという話です。

①次順位の人へ相続させたい場合
相続順位を進めたい場合、相続の放棄が効果的です。例えば、父(既に死亡)、母、長男(独身)、次男の4人家族を想定します。父の財産を相続した長男が死亡した場合、子のない長男の相続人は母になります。財産は親(父)→子(長男)→親(母)と世代を行ったり来たりし、母の死後再び子(次男)に戻ってきます。世代往復のたびに税金が発生します。そこで、母が相続放棄をすれば次順位の次男が相続人となり、長男から直に次男に財産を承継することができます。ただし、次男が相続すると相続税の2割加算の対象となることに注意が必要です。

②生前贈与を受けた人が争続を避けたい場合
相続人が特別受益にあたる生前贈与を受けた場合、相続財産に特別受益を加えて(持ち戻して)遺産分割協議を行います。協議の際、生前贈与が他の相続人にバレて、争続に発展する恐れがあります。この場合、相続の発生と同時に相続を放棄すれば遺産分割協議の当事者でなくなるので、生前贈与の事実を他の相続人に知られることなく、争続を回避できる可能性があります。また、相続の放棄をした者が被相続人から遺贈によって財産を取得しなければ、相続直前の贈与であっても持戻しによる課税対象とならない利点もあります。

③遺留分侵害額請求をされたくない場合
遺留分を算定するための財産は、相続人に対する相続開始前10年以内の特別受益にあたる贈与と、相続人以外の者に対する相続開始前1年以内の贈与が含まれます。相続の放棄をした者は相続人以外の者となるので、相続開始の1年以上前に贈与を受けた分については遺留分の算定対象からはずれるので、遺留分侵害額請求を受ける恐れがなくなります。

④その他の注意点
被相続人が保険料負担者=被保険者である保険契約において、死亡保険金は相続財産とならない(保険金受取人固有の財産となる)ので、相続を放棄した者でも受取ることができます。なお、死亡保険金の相続税非課税枠(500万円×法定相続人数)を算出する際の相続人数には相続を放棄した者も含めますが、相続を放棄した者が受取った死亡保険金には非課税の適用はありません。
また、被相続人が被保険者=保険金受取人である入院給付金や手術給付金で未払いのものは本来の相続財産となるので、相続の放棄をする者は決して受取ってはいけません。誤って受取ってしまうと、単純承認したものと見做され相続の放棄ができなくなってしまいます。
ほかに、厚生年金や国民年金の遺族年金や未支給年金についても相続財産に該当しないため、相続を放棄した者も普通に受給することができます。

カテゴリー
株式

【株】上がってよし、下がってよしの株価かな

これは愛知県のお菓子メーカー、竹田製菓(株)の創業者(故)竹田和平氏の言葉です。日本のウォーレン・バフェットと言われた竹田氏と並べるのもおこがましいのですが、今の私の心境にぴったりです。

DC年金の悩ましい問題」で触れましたが、私は来年3月で今加入している企業型確定拠出年金(DC)を脱退します。それに伴い、DCで積み立ててきた資産(約400万円)を受取ることになりますが、私はそのお金を新NISAへ移換して個別株で運用することを考えています。私は、いつも1銘柄100万円単位で購入することが多いので、今回は4銘柄の株を買うことになります。どの会社の株を買おうか、今からわくわくしています。本当は年金の足しにすべく高配当株を買いたいのですが、足下ではちょっと割高かなと思ったりしています。それから、私は基本的に逆張り系なので、売り込まれているグロース株にも目が行きます。また、高年期に差しかかってからなぜか急に地元愛に目覚めた私は、地元名古屋の企業を応援したい気持ちもあります。

しかし、まずは株の購入資金を作ることが先決です。現在、私のDC資産は日経平均インデックス投信で運用していますが、これを3月末までに売却しないと個別株の購入はできません。教科書通りにいけば、時間分散して機械的に売っていけばいい話ですが、私の悪い癖でヤマっ気が出てきてしまいました。年末年始まで引っ張って、日経平均が吹いたところで一気に売ってやろうと考えています。当てがはずれて年度末まで相場がダラダラ下がるようなら、3月にDC加入者の資格を喪失した後もDCに留まり、運用指図者として引き続き資産売却のチャンスを狙うのもありかなと思います。(日頃、買い一辺倒で売りはほとんどやらないので、勝手が分かりません。どなたか教えて下さい。)

私は「日経平均インデックス投信を高値で売ったあと、個別株が下がったところを拾いたい。」 そんな虫のいいことを考えています。今の私の気持ちは、「上がったら、下がってよしの株価かな」でした。すいません、冒頭のコメント訂正します。

カテゴリー
株式

【株】投資のポイント

このブログを開始したのが2021年11月。早いもので約2年が経過しました。当初、テーマを株式投資にしぼって記事をアップしていくつもりでしたが、それでは早々にネタ切れになると考え、不動産、保険、年金と対象を広げました。それでも最近はネタ切れ気味で記事の更新が遅れており、この場でお詫び申し上げます。
今回は当ブログでの考察を振り返って、今の私が各種投資商品のポイントと考えている事柄について、短くお話させていただきます。

1.株式
・超長期の時間軸で、企業の成長からリターンを得る投資。
・難しいことは考えず、お金に余裕のあるときに気に入った銘柄に投資して、後はほったらかしでいい。
・損切りは不要。とにかく投資を継続することが大事。
・不確実性が高いので、勉強したり情報収集しても、ほとんど役に立たない。
・謙虚な気持ちで相場と向き合い、相場に勝とうと思わないこと。
2.不動産
・中期の時間軸で、賃料と金利のさやを抜く(投資というよりも)事業。事業主として汗をかく覚悟が必要。
・プロの世界につき、入念な準備をしてからでないと極めて危険。
・出口まで考慮した保守的な損益シミュレーションで十分なキャッシュフローを狙えることが必要条件。
3.保険
・「保険金/保険料」のレバレッジ効果を活用して効率的にリスクに備える商品。預金ではないので元をとるという発想はない。
4.年金
厚生年金や国民年金等の終身年金は、長寿リスクに備える商品。預金ではないので元をとるという発想はない。


カテゴリー
年金

【年】DC年金の悩ましい問題

私は今年60歳で正社員を退職し、来年度から嘱託社員として今の会社(R社)で継続雇用となる予定です。健康保険にも引き続き加入します。ですから、てっきり今加入している企業型確定拠出年金(DC)にも引き続き加入できるものと考えていました。ところが、会社のDC年金規約をパラパラとめくっていたら、嘱託社員は加入者とならないと書いてありました。念のため運営管理会社のコールセンターに問い合わせましたが、間違いないとのこと。そんなわけで、私はいきなり次の3択を迫られることとなったのです。

①DCから脱退し、積み立ててきた資産を一時金(または年金)で受取る。
②運用指図者としてDCに留まり、掛金の拠出はせず積立資産の運用だけ行う。
③DCの積立資産をiDeCoに移換し、iDeCoで掛金の拠出と積立資産の運用を行う。

どれを選択するか決めるためには、個別にメリット・デメリットを比較する必要があります。まず①ですが、DCの資産を受取ると、一時金なら退職所得、年金なら雑所得として課税されます。ですが、受取ったあとの資産の使い道は自由です。何で運用しようと制限はありません。次に②ですが、今まで会社が負担していた手数料(私の会社では393円/月)は自己負担となりますし、掛金を拠出することができなくなります。③の場合も自己負担の手数料が発生します。また、運用商品が一部の投信に限定され、個別株の運用はできません。しかし、掛金は所得控除の対象となるので、節税効果が期待できます。DCの加入期間とiDeCoの加入期間は通算されるので、DCに10年以上加入していればiDeCoに資産移換しても必要なときに資産を引き出すことができます。

さあ、どうしたものか? 悩ましい問題です。一晩考えて私が出した答えは、①と③の折衷案です。DCの積立資産は一時金で受取り、新NISAへ移換します。新NISAでは非課税の個別株投資を楽しみたいと思います。また、所得控除を受けるため、iDeCoに加入して毎月の給料から掛金を拠出します。iDeCoではエマージング株式のインデックス投信でも運用しようかと考えています。私のように企業年金に加入できない会社員の場合、iDeCoに最大23,000円/月まで掛金を払うことができるので、年間で23,000円×12ヶ月=276,000円 276,000×20%=5万5千円程度の節税ができます。(所得税10%、住民税10%の場合)


最後に、DC資産を一時金で受取る場合に注意すべき退職所得の控除額計算の特例についてお話します。
会社から退職金を受取ったあと何年か経過してDC資産を一時金で受取る場合、退職からDC資産受取りまでの期間が19年以内ですと退職所得控除の調整が必要となります。
私は1987年4月にM社に入社し2019年9月に退職、同10月に退職金を受取りました。また、M社のDCには2008年4月に加入し、2019年10月にM社の関係会社であるR社のDCに資産移換しました。そして、2024年4月にR社DCの資産を一時金で受取る予定です。ここで、M社退職金を受取った2019年10月から、R社DC一時金を受取る2024年4月までの期間が問題となります。その間4年と6ヶ月で19年以内ですので、調整が行われます。
本来であればDC一時金にかかる退職所得の控除期間はDC加入期間である2008年4月~2024年3月の16年となるはずですが、ここでは、M社退職金とDC一時金の重複期間を除いた2019年10月~2024年3月の5年(端数切上げ)となってしまいます。退職所得控除は40万円×5年=200万円、となります。(本来なら、40万円×16年=640万円)

ところで、先ほどお話したように私がDCに加入したのは2008年4月です。そう、リーマンショック(2008年9月15日にリーマンブラザーズ破綻)の直前です。運用開始早々に大変痛い目に遭いましたが、毎月1万円(2019年10月より1万2千円)ずつ愚直に日本株インデクッス投信を買い続けてきたお陰で、掛金合計196万円に対し時価資産額は415万円ほどになっています。複利とドルコスト平均法の威力を実感しています。
この415万円から退職所得控除200万円を引き、2分の1をかけた約108万円が退職所得となります。そして、これに所得税5%、住民税10%をかけた約16万円がDC一時金にかかる税金です。16万円÷415万円=4%の手数料と考えると、安くはありません。ちなみに、運用指図者としてDCに居座っても、DC一時金にかかる退職所得控除の枠は拡大しません。掛け金を拠出しない運用指図者であった期間は、退職所得控除の対象としてカウントしないルールとなっているからです。

カテゴリー
株式

【株】オルタナ投資の新たな展開

2023年9月12日の日経新聞朝刊は、第1面で「KKR、SBIと新会社」「プロ向け投信、個人販売」と報じました。記事では、「KKRはプライベートエクイティ(PE=未公開株)や不動産などへの投資を手がける世界大手だ。こうした分野はオルタナティブ投資と呼ばれ、一般に上場株や債券などよりも高い利回りが期待できる。」 「第1弾はプライベートデットと呼ぶ、企業に融資したり、債券を購入したりするファンドになるようだ。」「最低投資額は300万~500万円程度に抑え、購入後は四半期や月単位で現金化できるようにする方向だ。」としています。

従来オルタナティブ投資というと、ジョージ・ソロスに代表されるグローバルマクロやCTA、ロングショート等の投資手法を指すことが多かったと思いますが、記事で語られているのは伝統的資産とされる株式や債券以外の投資商品群を指します。さらに、これらは上場していない、いわゆる私募(プライベート)であることが特徴です。

日本でも私募不動産やプライベートエクイティ/デット、私募インフラといったオルタナ商品は、以前から年金基金や機関投資家が投資をしています。これらの商品に共通するのは、流動性に制約があることです。売りたいと思っても、予め決められたタイミングでないと売れません。極端な場合、償還まで売却不可なんていう商品もあります。では年金基金等は、そんな使い勝手の悪い商品になぜ投資するのでしょうか。それは、これらの商品は取引所に上場していないので、時価評価されないからです。基本的に購入時の価格のままバランスシートに載せられます。つまり、年金基金等は、投資商品の時価下落(キャピタルロス)による企業決算への影響を気にすることなく、配当や利息といったインカムゲインを享受することができるわけです。もっとも、投資の世界にフリーランチはありません。平時は評価損を計上する必要はないものの、経済危機等の有事には減損によって一気に損失が表面化するリスクがあります。私募商品は決して元本保証の銀行預金ではありません。

では、私たち個人投資家にとって、これらオルタナ商品は検討に値するのでしょうか。結論からいいますと、決算を意識する必要のない個人投資家には私募のメリットは薄く、むしろ低流動性のデメリットの方が大きいと思います。また、冒頭の記事では、KKRは通常億円単位の最低投資額を300万~500万円に、現金化のタイミングも四半期や月単位にと、条件面でかなり譲歩しているように見受けられます。通常このようなケースでは、機関投資家向けの同様の商品より著しくリターンが劣後する恐れがあるので注意が必要です。
個人的には、これらの商品は新築RC一棟マンションをキャッシュで購入するような超富裕層にこそ相応しいもので、サラリーマン投資家が無理に300万円を捻出して投資するような代物ではないと思います。

カテゴリー
株式

【株】労働者の武器

そごう・西武労働組合は31日、予定通りストライキを実施しました。大手百貨店のストは約60年ぶりとのことですが、昔は鉄道やバス、航空会社等が毎年のように行っていました。ちなみに、国内のストのピークは第1次オイルショック時の1974年で、件数にして51,975件、累計参加者は約362万人だったそうです。

日本国憲法28条では労使間の対等な交渉を促進するため、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他団体行動をする権利は、これを保障する。」と規定し、労働組合法等で具現化する立付けとなっています。ストライキは「団体行動をする権利」のひとつですが、他にもビラを配ったり集会や演説といった情宣行動を行うことも正当な争議行為として労働者に認められています。
私たち労働者は自身の労働力を労働市場で資本家に売り、対価として賃金を得ることで日々の生計費を賄っています。ただ、生産手段を持たない労働者一人一人の力は弱く、労働市場で資本家と対等に交渉することは難しいです。そのため、憲法では労働者が団結し(労働組合を結成し)、団体交渉や団体行動する権利を保障することで、労働者が資本家と対等に交渉できるよう基盤を整えています。
団結権・団体交渉権・団体行動権(労働3権)は、労働者が資本家に対して賃上げ等の要求を実現するために認められた強力な武器です。

他にも労働者の武器はあります。それは株主になって株主総会に出席し発言することです。たとえ1単位株しか保有しない泡沫株主であっても、株主総会では一人の株主として大株主と同じ土俵で発言することができます。大勢の株主の前で経営者に問題提起し、色々な要求をぶつけることが可能です。

この武器を使って経営者から奇跡的な勝利を勝ち取った事例があります。2018年に世間を騒がした「かぼちゃの馬車」事件です。この事件では女性用シェアハウスに投資した多くのサラリーマン大家さんが巨額の損失を被り、スルガ銀行からの借入れが返済不能となりました。大家さんたちには自己破産しか残された道はありませんでした。そんなとき、一人の弁護士が立ち上がります。彼は大家さんたちの被害者団体を組織し、皆でスルガ銀行東京支店の前でデモを行ったり、スルガ銀行の株を買って株主総会に乗り込みスルガ銀行の不当を訴えました。これらの活動で追い詰められたスルガ銀行は、ついに大家さんたちの債権全額放棄に応じたのでした。

株式投資には資産形成装置としての重要な機能がありますが、他にも株主として総会に出席し発言することでメッセージを直接経営者に伝えるという機能があります。この点は見過ごされがちですが、重要なポイントだと思います。中学・高校の先生方には、金融リテラシー教育で生徒さんたちに是非お伝えいただきたいです。

カテゴリー
株式

【株】金融リテラシー教育

2023年8月18日の日経新聞「大機小機」に「本来の金融リテラシーはどこに」と題したコラムが掲載されました。金融庁の肝いりで行われている金融リテラシー教育について、辛口のコメントが続いています。

「金融リテラシーという用語が好きでない。…… 単純に「金銭感覚を磨こう」でいいではないか。」「そもそも株式の短期投資と長期投資の差異がきちんと説明されていない。」「短期投資と長期投資の区別があいまいなのは、業者を含めた関係者が、本当の意味での長期投資の素人だからではないのか。」「本当の意味での金融リテラシーが必要なのは、個人ではなく、業者をはじめとする多くの関係者ではないだろか。」

よくぞ言ってくれた! 思わず私は膝をたたきました。業者や関係者が長期投資の素人だという指摘は、私も全く同感です。ただ、中には長期投資が何たるかを知りながら、短期投資を投資の本道かのように偽る業者も少なくないと思います。ほったらかしの長期投資は彼らの商売のネタになりにくいからです。

長期投資の本質はニック・マジューリ氏の著書にあるように3語で表現できます。”JUST KEEP BUYING” 運悪く投資したタイミングが史上最高値であっても、期間分散を行うことでタイミングのリスクを薄めることは可能です。長期投資で大切なことは相場に参加し続けること、それだけです。相場観を入れて売買を行うことはしません。相場が下がっても損切りは不要です。株式相場が長期的に右肩上がりに上がってゆくことは歴史が証明しています。(ここで、「バブル崩壊後の日経平均はそうなってないじゃないか」とツッコミを入れたい方には是非、”JUST KEEP BUYING”を手に取っていただきたいです。) あるべき金融リテラシー教育とは、”JUST KEEP BUYING”の意味を、学生さんたちに腹落ちしてもらうことだと思いますが、いかがでしょう。