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株式

【株】胆力を身に付ける

以前、個人投資家が長期投資を行うには胆力が必要というお話をしました。(胆力) では、どうやったら胆力を身に付けることができるのでしょうか。もちろん、人それぞれで正解などありませんが、一つの考え方をご紹介します。
結論から先に言いますと、資産の含み益を作ること。これが胆力を身に付ける近道だと思います。投資する資産に含み益があれば、相場が下落してもクッションとなるので、精神的なダメージは軽くて済みます。資産の評価額(時価)が倍になれば、相場が50%下落しても、まだ50%の含み益があるので安心です。また押し目買いのチャンスと見れば、相場の下落はむしろ大歓迎。竹田翁の「上がってよし、下がってよしの株価かな」の境地です。(私が株式投資を薦める理由③) 相場下落への精神的な抵抗力を、人は「胆力」と呼びます。

ただ、問題があります。それは含み益を作るにも相応の時間が必要なことです。当然その間に何度も相場は下がり、損失が発生するでしょう。その度に損切りを繰り返していたら、含み益を作ることは到底不可能です。では、損失からくる心の痛みをどう遣り過ごせばいいのか。そんなとき頼りになるのが、配当や株主優待といったインカムゲインたちです。年3%強の配当があれば、3年で10%の損失をリカバーできます。
短期的なキャピタルロスをインカムゲインで薄めながら、長期的な株価上昇(キャピタルゲイン)を狙う。これが胆力の源泉となる含み益を作る戦略です。ただここまでのお話は、短期的には上下動を繰り返す株価も長期的には上昇トレンドを描くというストーリーにご賛同頂くことが前提となります。

この戦略を具体的に言いますと、①高配当株投資でインカムゲインを享受しつつ成長株投資で長期的にキャピタルゲインを狙う、または②高配当高β株投資で短期的なインカムゲインと長期的なキャピタルゲインを狙う(高配当株の分散投資)、となります。注意頂きたいのは、これらがポートフォリオ戦略だということです。複数の銘柄に投資をしますが、全ての銘柄で含み益を作る必要はありません。一部の銘柄で大きく含み益を作ったら、残りの多数は含み損。それで構いません。気が付けばポートフォリオ全体で投資額の2倍の評価額となっている。これが理想的な姿です。

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閑話休題

【閑】最強の哺乳類ラーテル

地上で最も強い動物は何でしょう。ライオン? ゾウ? クマ? そんな大物たちに混じって最強といわれる子型犬ほどの動物がいます。その名はラーテル。体長70cm、体重10kgくらいの、ハチミツが大好きなイタチ科の哺乳類です。そんなおとなしそうなラーテルが、なぜ最強といわれるのでしょうか。それはラーテルがいくつもの武器を持っているからです。一つ目は分厚く固い毛皮と伸縮自在で柔軟な体。二つ目は毒蛇の神経毒への耐性。三つ目はスカンクなみに強烈なオナラ。四つ目は鋭いカギ爪。そして五つ目が攻撃的でズル賢い性格です。
ライオンはラーテルを捕まえても、牙や爪でラーテルの背中の毛皮を突き通すことはできず、体を反転させたラーテルに逆に鼻を噛み付かれてしまいます。また、ラーテルはコブラに噛まれても1~2時間気を失うだけで神経毒を無毒化し、コブラを探し出して食べてしまいます。

上の写真の左二つがラーテル、右がイタチです。どうです。とても同じ仲間だとは思えませんね。ラーテルはまるで市販車をWRC用に改造した500馬力のモンスターマシンのようです。

私たち個人投資家も、機関投資家やヘッジファンドといったプロ投資家に負けない武器を持っています。長い投資時間軸とリスク許容力です。個人投資家はプロ投資家の攻撃を無尽のリスク許容力で凌ぎつつ、含み損を長期の時間軸の中で無毒化することができます。私たち個人投資家は、自らの武器の威力を理解することが勝利への第一歩となります。

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保険

【保】自動車保険に関する不都合な事実

マイカーを持つほとんどの人が入っている自動車保険。数多の保険の中で最も身近なものといっていいでしょう。そんな自動車保険ですが、多くの人が知らない不都合な事実があります。いざというとき、知っていると知らないとでは大違い。今回は自動車保険に関する驚きの事実をご紹介します。(幻冬舎「交通事故保険金のカラクリ」山下江著を参考にしました。)

【事実1】過失割合0%の被害者は加害者側の保険会社と自分で示談交渉しなければならない!
皆さんは交通事故に遭っても自動車保険に入っていれば保険会社が対応してくれる、そう思っていませんか? でも、信号停止中に後ろから追突されたり、相手がセンターラインを越えてきたため正面衝突した場合のように被害者の過失が全くない事故(過失割合0%)では、被害者側の保険会社は動いてくれず被害者自ら加害者側の保険会社と示談交渉しなければなりません。そんな馬鹿なと思われるでしょう。しかし、自動車保険は加害者が支払うべき被害者の治療費や慰謝料を保険会社が肩代わりするものです。被害者の過失が0ならば被害者には支払うべき費用などはありませんから、そもそも保険会社の出番はないということです。
本当に加害者側の保険会社との交渉を自分一人でやらないといけないのか。そうでなくても事故のダメージで弱っているときに、考えただけで憂鬱になります。そんなとき頼りになるのが、弁護士費用特約です。これは自動車保険に特約として付加するもので、最大300万円までの弁護士費用が補償されます。また、保険会社に弁護士の紹介を依頼することもできます。そうすれば以後の保険会社との交渉は弁護士が担うことになり、被害者の負担は大幅に軽減されます。弁護士費用特約の保険料は年間2,000円~4,000円程度と高額ではないので、私はこの特約への加入を強くお薦めしたいです。

【事実2】交通事故の慰謝料には2つの基準がある!
皆さんが交通事故に遭い過失割合が0%であった場合、自ら加害者側の保険会社と示談交渉することになるわけですが、慰謝料は被害者のケガの程度(等級)に応じ予め決まっています。その基準が二つあるという話です。(※)【表1】ご参照
一つは任意保険基準といい、営利企業である民間の保険会社が決めるものです。保険会社にとってはなるべく慰謝料を払わない方が会社の利益となるので、任意保険基準は意図的に慰謝料の金額を抑えたものになっています。もう一つは弁護士基準(裁判基準)といわれるもので、過去の判例によって妥当性を認められています。(公)日弁連交通事故相談センター東京支部により編集・発行されている「損害賠償額算定基準」にまとめられ、毎年更新されています。ここで問題なのは、加害者側の保険会社が任意保険基準をたてに、被害者にとって不利な慰謝料をゴリ押ししてくる場合があることです。被害者の多くは慰謝料の基準が二つあることなど知りませんし、知っていたとしても百選錬磨の保険会社の交渉人の前では赤子同然、不利と知りながらも任意保険基準の慰謝料を受け入れてしまうでしょう。
そこで再び弁護士の登場です。交渉に弁護士が介入することで、被害者にとって有利な弁護士基準での決着が期待できます。また、保険会社も裁判は避けたいので、早期に被害者の主張を応諾し示談を求めてくる可能性が高いです。

【事実3】ドライバーの1割から2割が自動車保険に加入していない!
にわかには信じられない話ですが、任意自動車保険・共済に加入している人の割合は9割弱。中には8割程度の都道府県もあるということです。街中を走っている車の5台から10台に1台は無保険車ということです。しかし、任意保険に入っていない人とは、一体どんな連中なんでしょうか。自分の運転技術に絶対の自信があり、事故を起こさないと確信している人? そうであれば、まだマシです。私は、事故の加害者になっても「無い袖は振れない」と開き直る「ならず者」だと思います。
加害者が任意保険に加入していなければ、被害者は自賠責保険の僅かな慰謝料を手にするだけで後は泣き寝入りとなってしまいます。そのような悲劇を避けるため、自動車保険には人身傷害補償特約があります。この特約に入っておくと、被害者自身や同乗者が死傷した場合、治療費や休業損害等を加害者との示談を待たずに受取ることができます。ならず者から身を守るために保険料の負担は増えますが、人身傷害補償特約の付保を検討してみてはいかがですか。

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株式

【株】ヘッジファンドは神を目指す

2023年1月24日の日本経済新聞の夕刊に「存在感増すオルタナ投資」と題する記事が掲載されました。ここでは米ヘッジファンド運用会社大手のシタデルが、2022年の1年間に160億ドル(約2兆円)と業界最大の収益を上げたことを報じています。ただ、私は収益の金額以上にそこで紹介されているシタデルの運用手法に驚かされました。同社は小売企業のPOSデータや衛生画像を使った位置情報、SNSの投稿などをデータ化し、投資先企業の業績や投資商品の相場見通しに生かしているというのです。また、同社は近年、地球温暖化の加速で世界各地で洪水や干ばつなどの気候変動が起こっていることを踏まえ、博士号を持つ気象学者が率いるチームを編成して気候関連のビッグデータから商品先物の先行きの予測などに活用しているとのこと。運用の世界もここまで来たか、との思いがします。

以前、短期投資というもので世界有数のヘッジファンド:ルネサンス・テクノロジーズを取上げました。彼らの投資手法は、超高性能コンピューターの力を借りて相場の動きをミクロの時間軸に分解します。そして、その一瞬の時空間に出現するアノマリーを見出し、統計的有意性が確認されたなら超高速回転のアルゴリズム取引を仕掛けるというものでした。電子顕微鏡で相場に蠢く微生物を見つけるイメージです。
一方、シタデルはオルタナティブデータを高性能のコンピューターで解析し、鳥の目で世界各国の公的機関よりも早く社会や環境の今を認識することができます。まさに、ハッブル望遠鏡で宇宙の彼方を観測するイメージです。でもこんな話を知ってしまうと、雇用統計やCPIといった景気指標に市場関係者が一喜一憂する姿が茶番に見えます。

シタデルもルネサンス・テクノロジーズも超高性能コンピューターという武器を手に神の領域に分け入り、獲物を狩り立てます。私たち個人投資家にできるのは彼らに近付かないこと。同じ土俵で戦わないことです。自分の身は自分で守るしかありません。

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不動産

【不】不動産VS株式、通説と現実のギャップ

不動産VS株式と書きましたが、不動産投資と株式投資は決して相反するものではなく、補完し合うものです。それぞれの長所を活かし上手に使い分けることで、全体の運用効率を高めることができます。しかし、世の中に流布する不動産投資と株式投資の通説には現実と乖離したものが多く、それらを鵜呑みにすると思わぬ怪我をする危険性があります。そこで、今回は①リスクとリターン、②投資の手間、③投資の期間、の3点について不動産投資と株式投資の通説と現実とのギャップについて確認したいと思います。

①リスクとリターン
不動産投資の解説本を読んでいると、「株式はリスクが高く損失を被る可能性がありますが、不動産は安定的に収益を上げることができるので安心です」といった説明を目にすることがあります。株式=ハイリスク、不動産=ローリスク、という位置づけです。ところで、運用を少しでもかじったことのある人にとって、リスクとリターンが比例することは常識です。(正確にはリスクとリターンは比例しませんが、リスクが高ければリターンも高い、リターンが低ければリスクも低い、ローリスク・ハイリターンはありえない、という運用の基本を言っています。) では、不動産のリスクとリターンの水準は如何ほどでしょうか。一般に不動産投資に際しては多額の借入れを行います。少し前までは自己資金ゼロのオーバーローンと言われる融資も、一部銀行を中心に盛んに行われていました。この場合のリターンを計算してみましょう。仮に物件価格1000万円で年間賃料40万円のワンルームマンションがあったとします。CCR(キャッシュ・オン・キャッシュ・リターン)は賃料÷自己資金=40万円÷0円=∞、となります。えっ?リターンは無限大? これは21世紀の錬金術でしょうか。リターンが無限大ということは、リスクも無限大ということです。
不動産投資は当初の計画通りにキャッシュが回っている間は安定的に収益を上げることができます。しかし、金利の上昇や空室の増加、多額の修繕費の発生等のハプニングにより計画に狂いが生じるとローンの返済が滞り、最悪の場合、自己破産・一家離散の危機に直面します。多額の借入れに依存した不動産投資は安定運用とはかけ離れた、超ハイリスク・超ハイリターンの世界です。不動産投資の(デフォルト)リスクを抑えるには、厚めの自己資金を投入しレバレッジ比率を下げるしか手はありません。そして、レバレッジ比率が下がればミドルリスク・ミドルリターンの運用が可能です。

②投資の手間
株式投資は相場の動きを24時間チェックする必要があり、気が休まる暇がない。それに比べ不動産投資はほったらかしでいいので、気が楽です。こんな説明も不動産投資の解説本で目にします。でも、「ほったらかし」は本来、長期の株式投資に相応しい言葉です。内外株式のインデックスファンドを定時定額で買い付けていけば、相場観も企業業績の分析も不要。ほったらかしで何の問題もありません。逆に不動産投資こそ手間をかける必要があります。投資といいますが、不動産投資は本来不動産賃貸業と呼ぶべきもの。不動産投資家は事業主として、自らの手で経営に参画する気概と覚悟が必要です。賃料の回収、物件のメンテ、空室の募集等事業主としての仕事は山ほどあります。賃貸管理を業者にアウトソースすることは可能ですが、それは収益の低下を意味します。また、賃料保証を謳ったサブリースの問題点はここでお話するまでもないでしょう。管理を業者に委託する場合も丸投げは避け、定期的に物件に足を運び自分の目で管理の状況をチェックする等、手間を惜しむべきではありません。

③投資の期間
不動産投資は将来の年金や生命保険の代わりになります。またローンを払い終わったあとは資産として残ります。こんなセールストークを不動産会社の営業マンから聞いた方は多いでしょう。でも、ローンを払い終わった35年後、貴方の目の前にあるマンションの姿を想像してみて下さい。現在新築の物件でも築35年の築古となります。築10年なら築45年もの。そんな超築古マンションに資産価値はありません。下手したら幽霊マンション化して負動産になっているかもしれません。何でこんなことになるのでしょうか? それは不動産が現物投資だからです。不動産は野菜や魚と同じで、時間の経過とともに腐っていく運命にあります。ですから不動産投資は時間との勝負です。中期目線での投資となります。営業マンの言う通り35年も物件を抱えていたら大変なことになります。不動産投資は投資開始の時点で、ちゃんと出口を意識しておくことが肝要です。出口のない不動産投資はありません。劣化する前に物件は売却し、別の物件を購入する。これの繰り返しです。5年~10年程度の中期での入れ替え売買(5年内に売却すると短期譲渡所得として税金が高くなります)が、不動産投資の基本的なリズムです。
一方、株式投資は長期目線での投資が好ましいです。不動産投資に比べ不確定要素の多い株式投資では、短期~中期目線では需給や市場参加者の思惑といったノイズの影響が大きく、収益が安定しません。長期目線で投資に取り組むことで、投資先企業の成長と安定した収益を得やすくなります。

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年金

【年】公的年金の現状と今後

突然ですが、厚生年金や国民年金(2つまとめて公的年金といいます)が確定拠出型の年金だといったら、あなたは信じますか? もともと公的年金は、加入期間や支払った保険料に応じて受取る年金額が決まる確定給付型の年金でした。しかし、2004年の年金改革で保険料を現役世代が負担可能な水準に固定し(※1)、決められた保険料の範囲内で給付額を調整する(=減額するという意)マクロ経済スライドという仕組みが導入された結果、公的年金は確定拠出型の年金に変身したのです。今や年金問題の核心は、「どう破綻を回避するか」から「どう年金額の大幅な低下を食い止めるか」に変わっています。
(※1)保険料の固定:厚生年金の保険料率を18.3%(労使折半)、国民年金の保険料額を16,900円に固定すること。

2019年の年金財政検証では、いくつかのケースにわけてマクロ経済スライドによる年金額の将来推計が示されました。その中で、女性と高齢者の就業を促進し、年率0.4%程度(実質)の経済成長を維持できれば年金財政が長期的に安定するとされるケースⅢ(人口:中位)でみると、モデル年金の所得代替率(※2)は次のように低下する見込みです。
 基礎年金2人分:36.4%→26.2%
 報酬比例部分 :25.3%→24.6%
ここで、国民年金加入者(基礎年金のみ)は約28%、厚生年金加入者(基礎年金+報酬比例部分)は約18%所得代替率が低下します。つまり、国民年金の加入者の方が厚生年金の加入者よりも将来の年金額の目減りが大きくなっています。これは、マクロ経済スライドによる年金の調整が基礎年金と報酬比例部分で別々に行うこととなっており、報酬比例部分に比べ財政状況の悪い基礎年金の方が長期間に亘って年金の調整が続くからです。
(※2)所得代替率:現役男子の平均手取り収入額(ボーナス込み)に対するモデル世帯の年金額の比率のこと
(参考:マクロ経済スライドと公的年金の将来

国民年金加入者の大幅な年金の減額を避けるため厚労省が2020年12月に公表した改革案の1つが、「マクロ経済スライドの調整期間の一致」です。これは、基礎年金と報酬比例部分で別々に行っている調整をやめ、公的年金一体で財政が健全化するまで調整を続けるルールに変更するものです。これにより基礎年金の調整期間は現行よりも短期化し、年金の減額幅は圧縮されます。一方、報酬比例部分の調整期間は長期化し、年金の減額幅は拡大します。

2つ目の改革案が「基礎年金の45年化」です。国民年金の保険料納付期間を現行の40年から45年に延長し、満額の基礎年金額を増額する(1.125倍)ものです。ただ、単純に基礎年金を増額すると、基礎年金財源の半額を賄う国庫負担も増加してしまうので、財政難の昨今、一筋縄ではいかない話です。そこで考えられるのが、1つ目の改革案との合わせ技です。これだと国庫負担の増加を抑えつつ、国民年金加入者の年金額の大幅な減額も避けることができます。そして犠牲になるのは、いつものように会社勤めの厚生年金加入者です。
(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構 特別講義資料「公的年金の現状と課題」を参考にさせて頂きました。)

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株式

【株】霧は晴れたか

2023年が始まり10日がたちました。年始恒例の市場関係者による相場予測では、2023年前半は金融引締めの影響で欧米の景気が悪化し株価は下落する、そんな見立てが多いようです。ところで、市場関係者が最も忌み嫌うものは何でしょうか?それは、相場に立ちこめる霧。つまり市場の不透明感です。市況が悪くても見通しさえつけば、投資家はそれなりに受け身が取れるもの。本当に困るのは、市場の先が見通せないときです。

私たちはここ数年の間に、コロナによるパンデミックやロシアのウクライナ侵攻、そして米国でのインフレ発生と急激な利上げ、と立て続けに異常事態に遭遇してきました。未知のウィルスによる人類滅亡、核戦争の勃発、高インフレによる日常生活の崩壊、といった最悪のシナリオも想定されました。一時、世界は見通しのきかない深い霧に閉ざされたのです。しかし、株式市場は霧の中を彷徨ながらも、何とか無事今に至っています。

私は深い霧を凌いだ株式市場のしぶとさ、打たれ強さに驚きを禁じ得ません。冒頭で金融引締めの影響で景気が悪化し株価が下落するとの市場関係者の見立てをご紹介しましたが、景気悪化は金融引締めの当然の帰結です。FRBの金融政策の工程表に沿ったものであり、もはやそこに不透明感はありません。また、景気悪化が行き過ぎた場合は、FRBには潤沢な金融緩和の余力があります。
市場関係者の見立て通り2023年前半に株式市場が下落する場面があれば、私は目をつぶってでも押し目を拾うべきだと考えます。

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保険

【保】がん保険を考える

「医療保険を考える」では、医療保険に入る意味を「時間を買う」ことにあるとご説明しました。それでは、がん保険の場合はどうでしょうか。まずは、多くの病気の中でなぜ「がん」だけが単独の保険商品となっているのか、その点から考えてみたいと思います。がんの特徴として、その死亡率の高さがあります。また、長期間に及ぶ治療と激しい副作用。そして、再発リスク。これらがん固有の特性に対応するためがんに特化した保険が生まれ、これまで支持されて来たと考えられます。

もっとも最近では医療の進歩により、がんの死亡率は低下傾向にあります。年齢要因を調整した「がん年齢調整死亡率」は1995年の10万人あたり226人をピークに、2020年は148人まで低下しています。(国立研究開発法人/国立がん研究センター調査) また治療法の変容により、がん治療は入院から通院で行うものへと変わってきています。平成8年から平成29年の20年間で、がん患者の平均入院日数は46日から17日まで短縮しています。そして通院での受療が増加しています。(厚生労働省患者調査) 背景には、腹腔鏡・胸腔鏡手術やロボット支援手術(ダビンチ・Hinotori等)の普及による患者の負担軽減(手術での傷が小さくなった)があります。従前は、放射線治療や抗がん剤治療を入院で行っていましたが、今では通院で行うことが主流となっています。

がんが再発した場合は治療による根治が困難なケースがあり、その場合はがんの進行を抑える、または痛みを和らげることが治療の目標となります。慢性病のような感覚で、がんという病との気長な付き合いが始ります。放射線や抗がん剤、ホルモン剤等の治療を組み合わせた集学的治療を受けることになりますが、長期間の治療は高額療養費を持ってしても家計に大きな負担となります。さらに厄介なのは、抗がん剤等の副作用による体力の低下で就業が困難となり、収入が減少ないし絶たれるリスクがあることです。

このように、がん保険は医療保険と違い入院・手術の保障だけでは不十分で、長期の通院と治療、さらには療養期間中の就業不能をカバーする総合的な保障が求められます。確かに、がん保険は保険事故をがんに限定しているため、医療保険に比べ給付を受けられる可能性は低いです。しかし、その分医療保険に比べレバレッジが高く、保険を活用するメリットは大きいと言えます。

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株式

【株】長期投資を始めるにあたって

個人が株の長期投資を始めるにあたって、必要なものは何でしょうか? 私は相場変動に動じない「鈍い」メンタルと、投資資金だと思います。ここで強いメンタルと言うとハードルが上がってしまいますが、「鈍い」メンタルなら誰でも身につけられそうです。私が言う鈍いメンタルとは、相場の動きにブレない強い心ではなく、相場に無頓着で無関心で無神経でいる心のことです。

投信会社のフィデリティが2003年~2013年の10年間のパフォーマンスを顧客属性別に調査したところ、No.1は死人、No.2は口座を持っていることを忘れていた人、との結果になったという有名な話があります。運用実績のNo.1は金融関係者でなければ、大学教授でも、経営コンサルタントでもない。死人ですから売買を行うこともなく、最高に鈍いメンタルでもって10年間静かに相場と向き合っていたことでしょう。口座を持っていることを忘れていた人も、似たような状況であったと思います。
Set and forget. 買ったら、あとは死んだふり。私は個人の長期投資にはこれが負担が少なく、効率的にリターンを上げる方法だと考えています。代表的な銘柄を業種と時間を分散して複数購入しておけば、そのうちの1~2銘柄が長期の時間軸の中で大化けしてくれるでしょう。そうすれば、その他の銘柄の中に紙くずになる会社があったとしても、資産全体で納得のゆくパフォーマンスを達成できるはずです。相場が下がることを極度に恐れる必要はありません。(参照:私が株式投資を薦める理由②

次に投資資金の問題です。投資で成果を上げるには、十分な資金の投入が必要です。先程、相場が下がることを恐れる必要はないと申しましたが、短期的に相場が下がった場合に生活に支障が出ないことが前提です。生涯にわたって最低限の生活費を賄えるだけのキャッシュフローを確保する必要があります。(参照:現実的なFIREの手法について) そのため、まずは企業の正社員となって厚生年金に加入することが必要条件となります。厚生年金に加入すれば、国家権力によって会社に保険料の半分を拠出させることができます。後は会社にぶら下がっていれば終身で支給される厚生年金の資産が勝手に積み上がり、知らない間に老後のキャッシュフローが確保できます。次に年金が支給されるまでの間、日常生活を維持するため最低限必要な生活費を算出し、給料との差額をはじきます。この差額が株式投資への投入原資となります。もし、差額(給料-生活費)がマイナスなら投資はできません。給料の底上げを図るため、スキルアップや副業、転職といった対策を講じなければいけません。

株式にリスクはつきものです。教科書的には長期投資において十分なリターンが期待できるとされていますが、短期的な市場の下落は避けられません。以下ではパターン別に株式市場下落の様相を見たうえで、それでも長期的には株式投資が有効である点を確認したいと思います。
まずは通常の景気変動に伴う相場の下げのケースです。この場合、高値から30%程度が下落の目途となります。下図をご覧下さい。ここで資金は一旦、証券資産内を株式から債券へシフトしますが、景気回復や中央銀行・政府の政策サポートで短期間で株式に回帰します。

次はリーマンショックのような金融ショックによる相場の下げのケースです。高値から50~60%に及ぶ下落となります。この場合、金融システム不安が流動性リスクを高め、資金は金融資産内を株式や債券といった証券資産からキャッシュへシフトします。毀損した金融システムの復興には時間がかかりますが、適切な政策対応が実施されれば相場は5年程度で回復基調に戻ります。

最後は、戦争や恐慌といった一国の存亡に関わる危機による相場の下げのケースです。例えば、1929年の大恐慌時にはNYダウは90%下落したといわれています。そして、NYダウが暴落前の水準を回復したのは25年後のことです。しかし、ここまで経済がダメージを受けると企業の生産活動はストップし、モノ不足による物価高騰でキャッシュを含む金融資産全体が価値を失うことになります。実際、大恐慌時のCPIは1932年10月の▲10.7%を底に、早くも1年半後の1934年3月には+5.6%まで上昇しました。そこは金などの実物資産が価値を持つ世界です。このように、戦争や恐慌のような事態を想定し資金をキャッシュで保有していても、十分なリスクヘッジにはなりません。また、いつ来るか分からない戦争や恐慌を恐れる余り、一切利息を生まない金(ゴールド)に長期間資金を寝かせるというのも現実的ではありません。不動産や美術品といった実物資産への投資も流動性の点で問題があり(売りたいときに直ぐ売れない)、やはり現実的と言えません。したがって、この場合にも有効な戦略は、(消去法的ですが)長期の株式投資ということになりそうです。

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株式

【株】高配当株の分散投資

FIREを実現し、高配当株やREITの配当で生活費をカバーしている方も多いようです。インカムゲインを狙うなら不動産投資という手もありますが、私もやはり高配当株でFIREを目指そうとするでしょう。(残念ながら、アーリー・リタイアといえる年齢はとっくに過ぎてしまいましたが……) ただ、ちょっと気になるのは、彼らが選択した高配当株の銘柄にしばしば業種の偏りが見られることです。具体的にいうと、メガバンクや損保、リース等の金融株や商社株、通信株等です。

高配当株も株の仲間ですから、当然マーケットの影響を強く受けます。そこで、マーケットの影響ができるだけ小さくなるように、業種を分散して高配当株に投資する。これが私のお薦めです。例えば、金利。金利が上昇したときに儲かる業種と、金利が低下したときに儲かる業種を合わせ技で購入する。あるいは、原油。原油価格が上がったときに儲かる業種と、原油価格が下落したときに儲かる業種。また、為替が円安になったときに儲かる業種と、円高になったときに儲かる業種。

もうひとつ上げるなら、ベータ(β)値に注目して銘柄分散する方法もあります。β値は個別銘柄の東証株価指数(TOPIX)との連動性のことです。β=1の銘柄であれば、TOPIXが10上がれば、(過去のデータから)その銘柄も10上がることが期待されます。β=0.5の銘柄なら5だけ上がる。β=1.5の銘柄なら15上がることが期待されます。逆にTOPIXが10下がっても、β=0.5の銘柄なら5しか下がりません。(個別銘柄が必ずβ値通りに動くわけではありませんので、念の為。)
高配当株で人気のある銘柄のβ値をみると、日本特殊陶業:1.36、オリックス:1.28、AGC:1.26、MUFG:1.18、三菱商事:1.09、武田薬品:1.08、東京海上日動:0.72、日本たばこ:0.66、日本郵政:0.57、こんな感じです。尚、ベータ値はロイターニュースで「国内株式」をクリック→「株価検索」で銘柄名を入力→「指標」をクリックするとベータ値が掲載された画面に飛ぶので、そこで入手できます。

β値の小さい高配当株を集めれば、TOPIXとの連動性の低い保守的なポートフォリオが出来上がります。TOPIXが急落する局面でも、キャピタルロスをある程度抑えることが期待できます。逆に、TOPIXの底値圏でβ値の高い高配当株に投資すれば、インカムゲインに加え株価の反転によるキャピタルゲインも狙えます。