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株式

【株】やっぱり相場は分からない

米国のインフレもようやく鎮静化の兆しを見せ、12月のFOMCでは利上げペースの減速が見込まれています。米国10年債利回りは4%の大台を割り込み、3%台後半で落ち着きどころを探っているようです。長期金利の低下により、売り込まれていたグロース株も値を戻しつつあります。

これでほっと一息、と言いたいところですが、何ともお尻がムズ痒いのは私だけでしょうか。コロナ禍による空前の金融緩和の後、9ヶ月で400bpというこれまた空前の金融引締めによって、これまでNYダウは一時20%強、日経平均も15%程度下げましたが、足下ではいずれも安値から2/3戻しを達成しています。果たして、これで今回の調整局面は終わりと見て良いのか。基本ロングオンリーの私にとっては相場が回復してくれるに越したことはないのですが、残尿感と言いますか、何とも下げ切った感がないんですよね。やっぱり、相場は分かりません。このまま年末ラリーに突入し、2023年「卯は跳ねる」になれば万々歳ですが……。

そこで、今回はこれまでのコロナ相場から、来年に向けて教訓をまとめておきたいと思います。このまま相場が回復トレンドに入ったとすると、コロナ禍の株式市場の調整はことのほか軽く、回復は早かったことになります。その理由ですが、一つにはコロナ禍は人々の生命や日常生活にとって大きな脅威となったものの、金融システムにはほとんどダメージを与えなかったことが上げられると思います。また、コロナ禍に対する政策が、各国で早期に合意され発動されたことも大きかったです。
因みに、過去の経済ショック時の米国株(S&P500)の下落率を見ますと、1987年のブラックマンデーで34%、2000年のITバブルで49%、2008年のリーマンショックで57%となっています。

一国の金融システムが大きく毀損すると、信用不安の連鎖は瞬く間に世界中に広がります。金融システムの回復には公的資金の投入が不可欠ですが、そのための政策合意は容易でなく(高額所得者のウォール街関係者を税金で助けるのか?とか、国民の間で感情論が先行し理性的な議論が困難)、発動まで時間がかかります。結果、株式市場の下落率は大きくなり、相場回復に長期の時間を要することになります。

今後の懸念材料ですが、ズバリ、①が②に転じることだと思います。具体的には、ドル高、米金利高で新興国のドル建て債務が増大し財政が破綻、世界的な金融システム不安に繋がるシナリオです。2023年がそうならないことを祈ります。

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株式

【株】個人投資家がプロに勝てるわけ

内外の株式市場ではボラタイルな日々が続いています。11月10日発表の米CPIは想定外に弱い内容となり、これを見た米国10年債利回りは一気に30bpも低下、NYダウは1200ドルの急騰を演じ、ドル円は140円台に突入し6円の急落となりました。市場関係者の間では、これで株式相場のトレンドも転換するという声もちらほら出ていますが、正直、私はそこまで楽観的になれません。
ところで、そんな各市場のドタバタ劇を尻目に、冷めた眼差しで相場を見つめる方たちがいます。長期個人投資家の皆さんです。なぜ彼らはこの状況に冷静でいられるのか。それは、彼らには勝利の方程式が見えているからです。そこで、今回は長期個人投資家の勝利の方程式について考えたいと思います。

突然ですが、今競技場でAチームとBチームが試合をしようとしているとします。ただ、この試合はちょっと変わっていて、異種格闘技のようなものだと思って下さい。プロのサッカーチームであるAチームと、アマチュアのラグビー同好会Bチームが一つのボールを巡って試合をします。AチームはBチームのゴールにボールを蹴り込めば1点獲得。BチームはAチーム側のゴールラインを超えてトライすれば1点獲得です。さあ、この試合、一体どちらのチームが勝つでしょうか。

Aチームはプロのサッカーチームですから、選手個々の身体能力やテクニックは超一流です。チームとしての完成度もアマチュアとは比較になりません。Aチームの勝利は戦う前から決まったようなものです。でも、ちょっと待って下さい。この試合はサッカーとラグビーの異種格闘技でした。Bチームは確かに弱小のアマチュア同好会かもしれませんが、彼らはラグビーのルールに従って試合を進めます。足だけでなく手を使います。ドリブルで突進する相手選手をタックルで倒しても構いません。Aチームは2.44m×7.32mの相手ゴールにシュートを決める必要がありますが、Bチームは幅70mのAチームゴールラインを超えてトライすればOKです。こう考えると、Bチームの方が有利かもという気もしてきます。ここでアマチュアがプロに勝てるかもと思えるのは、ラグビーの方がサッカーよりもルールが緩やかだからです。

同じことが株式投資においても言えます。証券取引所は競技場に相当します。個々の株式銘柄はボールです。そしてボールを巡ってプロの投資家や証券会社、個人投資家が入り乱れて異種格闘技を繰り広げます。プロ投資家や証券会社は厳しい規制のもとで売買を行います。また、プロ投資家や証券会社の投資の時間軸は長くて1年。中には1日というケースもあります。それに比べ個人投資家を縛る規制は緩やかで、投資の時間軸も数年から数十年と余裕があります。このように、プロ投資家や証券会社と長期個人投資家では、適用されるルールが大きく異なっています。

プロ投資家が短期的な材料に振り回され、相場で投げ踏み(損失覚悟の投げ売りと買い戻し)を繰り返す様を長期個人投資家が呆れた表情で見つめる。これが冒頭のシーンです。
長期個人投資家の勝利の方程式。それは、長期個人投資家に許された「緩やかなルール」と「長期の時間軸」を最大限活用して相場に臨むことです。プロ投資家は高金利で株価が低迷するハイテク株を購入することは困難です。需給サイクルのボトムにある(と思われる)半導体株も然り。しかし、長期個人投資家はこれら安値圏にある優良株を「ごっつぁんです!」と有り難く購入することができます。これが長期個人投資家の勝利の方程式です。

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株式

【株】5年前と5年後

またまた今月も雇用統計やCPIといった米国のイベント・経済指標に一喜一憂する展開となっています。それに今月は中間選挙もありますしね。しかし、こんな時こそ目線を遠くにやって、長い時間軸で相場と向き合いたいものです。昨日(2022.11.8)の日経平均の引け値は27,872円でした。では、5年前、2017.11.8の日経平均の引け値はどのくらいか覚えていますか? 22,913円でした。この5年間に日経平均は4,959円上昇したことになります。利回り(複利)に直すと、年利4%です。2017年からの5年間にはいくつもの悪材料がありました。2018年には米中貿易摩擦、2020年はコロナショック、そして2022年はロシアのウクライナ侵攻と主要先進国でのインフレの発生。それでも、日経平均は長期期待リターン(5%)なみのパフォーマンスを実現したことになります。

では、次は5年後の日経平均の姿を想像してみましょう。平坦ではなかった過去5年と同等のリターンを想定することは決して楽観的ではないと思うので、2027.11.8までの5年間も年利4%で日経平均が上昇するとしましょう。すると、2022.11.8の引け値27,872円×(1+4%)^5=33,910円、となりますが、どうでしょうか。5年後の日経平均は、固めに見て34,000円。好材料が乗っかれば、35,000円超もあり。個人的にはこんな感じかなと思いますが、如何でしょう?

ちなみに10年前、2012.11.8の日経平均の引け値はというと、8,837円でした。アベノミクスが始る前、民主党政権下で日本国経済がもがき苦しんでいたときです。この10年間の日経平均のパフォーマンスは、実に年利12%! 株式のパワーの凄まじさが分かります。

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保険

【保】覚えておきたい医療保険の○○日ルール

通常、医療保険やがん保険には、その間は給付金の支給が免責される(給付金が支払われない)○○日ルールが設定されています。そのあたりの事情をよく理解しないで契約すると、いざというときに保険が使えず大変なことになります。そこで、今回は医療保険やがん保険の代表的な○○日ルールをご紹介し、保険事故に備えたいと思います。

1.90日ルール
がん保険には加入後90日は保障がきかない「待ち期間」という期間が設定されています。この待ち期間内にがんと診断されても給付金は支払われず、契約は無効になります。では、なぜがん保険には待ち期間が設定されているのでしょうか?それは、がんは自覚症状がなくても発病している可能性があるからです。(自覚症状がなければ告知義務違反になりません。)がん保険に加入した直後にがんが見つかっても保障されないことは、是非覚えておきましょう。そして、がん保険に加入後90日間は、がん検診や人間ドックを受診しないことです。(笑) なお、最近は入院給付金や手術給付金、通院給付金等に待ち期間が設定されていない商品もありますが、がん診断時の一時金(診断給付金)はありませんので注意が必要です。

2.60日ルール
60日ルールが適用されるのは、三大疾病保障のうち心筋梗塞と脳卒中です。医療保険(特約)では、給付金の支払い条件として以下のようなルールが設定されているケースがあります。(がんについては1.の90日ルールが適用されます。)
①保険開始以後に急性心筋梗塞を発病し、初めて医師の診断を受けた日からその日を含めて60日以上、労働の制限を必要とする常態が継続したと、医師によって診断されたとき。
②保険開始以後に脳卒中を発病し、初めて医師の診断を受けた日からその日を含めて60日以上、言語障害、運動失調、麻痺等の他覚的な神経学的後遺症が継続したと、医師によって診断されたとき。
つまり、心筋梗塞や脳卒中を発症しただけでは給付金は支給されないのです。心筋梗塞では60日以上の労働制限、脳卒中では60日以上の後遺症。これが給付金支給の条件となります。
もっとも、最近は「急性心筋梗塞または脳卒中の治療を直接の目的として、手術または入院したとき」のように、60日ルールを適用しない商品もあります。

3.180日ルール
一般に、同一の傷病を原因とする入院で退院から次の入院までの間が180日以内の場合は、1回の入院とみなされます。例えば、最初に40日間入院した後で退院し、20日間自宅療養、その後再び同じ病気で25日入院した場合は、2回の入院でも1回の入院とみなされ、1回・65日間の入院とカウントされます。しかし、保障される期間は1入院支払限度日数の60日分のみとなり、残りの5日分は給付対象外となります。(1入院支払限度日数が60日の場合) なお、商品によっては異なる傷病が原因の入院であっても180日ルールが適用され、1回の入院とみなされるケースがありますので、契約に際しては必ず確認が必要です。また、同一の手術を2回以上受けた場合、その手術が一連の手術(※1)であるときは、同一手術期間(※2)内に受けた一連の手術のうち最も高額の手術についてだけ給付金が支払われるというルールもありますので、重ねて注意が必要です。
(※1)医療診療報酬点数表または歯科診療報酬点数表で、一連の治療過程に連続して受けた場合でも、手術料は1回のみ算定される手術
(※2)一連の手術で最初に手術を受けた日からその日を含めて60日間。(商品によって60日以外の場合もあり)

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閑話休題

【閑】サムシングとレイラ

私は学生の頃から海外のポップスが好きで、60年代から80年代の曲をよく聴いていました。中でも、ビートルズのSomethingとLong and Winding Roadが大好きです。
Somethingといえばジョージ・ハリソンの名曲で、ビートルズの数多あるヒット曲の中でもYesterdayに次いでカバーされることの多い曲です。この曲は好きな女性に寄せる切ない恋心を歌った美しいバラードです。私はこの曲を聴くと、「人を好きになるのに理由はいらない。なんとなく(something)でいいんだよ。」と、ジョージに諭されているような気持ちになります。

もう1曲、皆さんにご紹介したい曲があります。イギリスの3大ギタリスト(※)の1人エリック・クラプトンの最高傑作Laylaです。この曲は恋人への熱き想いを印象的なギターのリフに乗せて聴くものにぶつける、激しいロックナンバーです。
(※)他の2人はジミー・ペイジとジェフ・ベックです。

ところで、SomethingとLayla、静と動。この対照的な2曲が同じ女性について書かれたものだと言ったら、皆さんは信じますか? その女性はパティ・ボイドといって、ジョージ・ハリソンの奥さんだった人です。Somethingはジョージとパティが幸せな時間を過ごしていた頃に書かれた作品です。一方、Laylaはクラプトンが親友ジョージの奥さんに抱いた、叶わぬ想いを歌った作品です。そりゃあ、激しい曲にもなりますよね。ただ、最終的にはクラプトンの執念が実り、パティはジョージと離婚しクラプトンと結婚することになります。

このような背景を知ったうえで2つの曲を聞き比べると、また違った光景が見えてくるかもしれません。
それにしても、パティ・ボイドはよほど魅力的な女性だったようで、ジョージとクラプトン以外にも彼女に想いを寄せる複数のミュージシャンがいました。ビートルズのジョン・レノンとローリング・ストーンズのミック・ジャガーです。先の2人を含め、いずれもロック史に名を残す偉大なレジェンド達です。本当にすごい女性がいたものです。

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株式

【株】拙者、リスク屋と申します

最近、私は人前で自己紹介をするとき、個人投資家とは言わずにリスク屋と名乗るようにしています。私がやっているのは他人のリスクを引き受ける代わりに報酬(リターン)をいただく単純作業であり、相場の予測や企業の分析などは一切しません(できません)。とても投資と呼べる代物ではないからです。

ところで、米国の雇用統計やCPI、そしてFOMCとイベントのたびに一喜一憂、上下に揺さぶられる日々が続いていますが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。一昨日の9月米CPIは事前予想をまたもや上回る結果となり、発表直後に株価は大幅下落。しかし直ぐに切り返し、終わってみればNYダウは前日比800ドル超の大幅高となりました。「なんじゃこりゃ?」って感じですね。

ここでちょっと気が早いですが2022年を振り返ってみましょう。今年は内外株とも年初に高値を付けた後、ずっと下げ基調を辿っています。1月初の高値から10月13日の安値までNYダウで▼22%、ナスダックに至っては▼36%の下落です。なぜか日経平均は▼13%の下落に留まっていますが、ベテラン勢の中にはリーマンショックを思い出すという方もいらっしゃるでしょう。

相場に悲観が満ちあふれたらリスク屋の出番です。今年は相場の下げに合わせ、段階的に買い下がってきました。買いの対象は、金利上昇下で売り込まれたグロース株です。日経平均でいうと29,000円近辺で少し、27,000円台前半でもう少し購入し、最後、予算の残金で26,000円割れの水準で買いたかったのですが、買えないまま相場が上がってしまいました。我ながら、ほんと下手クソだと思います。リスク屋の技量なんて、所詮こんなもんです。後は雨乞いの踊りでも踊って、相場が30,000円の大台を駆け上がるのを気長に待ちます。

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不動産

【不】インフラとJREITのパフォーマンス総括

早いもので今年も残すところあと3ヶ月足らず。会計年度でいうと半分が終わったところです。2022年度前半はロシアのウクライナ侵攻や欧米でのインフレ加速と金利の大幅引上げにより、株式相場に逆風が吹き荒れました。日経平均株価は3月末の27,821円から9月末は25,937円と、7%弱のマイナスです。金利上昇下の株安とあっては、資金を債券に移すこともできません。そんな中、相場を見渡すときっちりプラス収益を上げている商品もあります。例えば、インフラファンドです。将来的には不安材料もあるインフラファンドですが、インフレ・金利上昇下での短期的な資金逃避先としては有望かもしれません。
今回はインフラファンド及びJREITの代表ファンドの2022年度上半期のパフォーマンスを総括するとともに、日本株の投資資金の逃避先としての有効性を検証してみたいと思います。

まず、インフラファンドですが、東証に上場している6ファンド全てが5%~6%の高い分配金利回りを実現しています。(日本再生可能エネルギー・インフラ投資法人は8月22日に上場廃止になっているため、対象から除いています。)さらに、3月末~9月末の基準価格騰落率では、全6ファンドがプラスです。ただ、9月28日にタカラレーベンがタカラレーベン・インフラ投資法人のTOBを発表したことで他のインフラファンドも連れ高となり、9月末のパフォーマンスが底上げされた可能性があります。そこで念のため3月末~9月28日の基準価格騰落率で見ても、6ファンド中5ファンドがほぼプラスとなっています。このように、2022年度上半期において日経平均株価が下落する中、インフラファンドの一群は極めて安定したパフォーマンスを実現しました。

しかし、中長期的にはインフラファンドは幾つかの課題を抱えています。まず、固定価格買取制度(FIT制度)の終了です。2022年4月以降、段階的に市場価格連動制度(FIP制度)に移行することとなっており、今後は従来のような安定的なパフォーマンスを維持することは困難になるものと思われます。それから、市場規模の縮小です。2022年度上期中に2件のTOB(日本再生可能エネルギーインフラ投資法人、タカラレーベン・インフラ投資法人)が発表されましたが、この調子でTOBが続くと数年で上場インフラファンドはなくなってしまいます。インフラファンドが中長期的に存続するには、FIP制度の元でもある程度安定したパフォーマンスを実現するとともに、投資対象を太陽光から洋上風力等その他の再生可能エネルギーに拡大し、ファンド規模の拡大を図ることが必要です。

次に、JREITの代表的なファンドの2022年度上半期のパフォーマンスを見ていきましょう。6ファンド中ジャパンホテルリート投資法人を除く5ファンドが、3%~4%の分配金利回りを達成しています。インフラファンドほどではないものの、魅力的な水準のインカムを提供しています。しかし、3月末~9末の基準価格騰落率では、日本ビルファンド投資法人(オフィスビル)と日本プロロジスリート投資法人(物流施設)が▲10%前後の大きなマイナスとなる一方、ジャパンホテルリート投資法人は15%超のプラスと銘柄間格差が大きくなっています。
JREITの価格変動リスクは株式と同等かそれ以上のレベルです。したがって、JREITは投資資金の短期的な逃避先としてではなく、株式との分散によるリスク低減効果を狙って投資すべき対象と考えた方が良さそうです。


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株式

【株】実質金利と物価連動債

9月27日の日経新聞に「米実質金利上げ、余波拡大」と題した記事が掲載されました。米国国債の名目金利から期待インフレ率を引いた実質金利の上昇が、市場を大きく揺らしているとのこと。株式やREITだけでなく、安全資産とされる金やインフレ耐性の高い物価連動債からも資金流出を招いていると報じています。そこで、今回は名目金利と実質金利の違い、そして実質金利と物価連動債の関係について考えてみたいと思います。

まず名目金利ですが、名目金利とは私たちが普通に日常生活で目にする金利のことです。銀行預金の金利、住宅ローンの金利、国債の利回り、日銀の政策金利、いずれも名目金利です。これに対し、実質金利とは名目金利から期待インフレ率(※)を控除したものです。
ここで注意が必要なのは、名目金利は私たちの目で直接見ることができるのに対し、実質金利は私たちの目には直接は見えないことです。では、どうやって見えるようにするかですが、家計や企業にアンケートを取ったり、固定利付国債と物価連動国債の利回り差から期待インフレ率を算出し、名目金利から差し引くことで見える化を図ります。
(※)市場参加者が予想する将来の物価上昇率のこと

ところで、金利とはそもそも何でしょうか。お金は持っているだけでは何の役にも立ちません。お金は使って初めて役に立つものですし、モノやサービスを消費する満足感を味わうこともできます。しかし、お金を他人に貸した場合は、返済されるまでの間はお金を使うことはできません。お金を貸した人はモノやサービスの消費を我慢しなければいけません。そこでお金の借り手は、貸し手に消費の我慢をお願いする代わりに、貸し手に金利を払うわけです。そうです。お金の借り手から貸し手に払われる我慢料、これが金利の正体です(諸説ありますが……)。ところで、返済までの間にモノやサービスの値段(物価)が上がってしまったらどうでしょうか。例えば、借り手から貸し手に金利が5%払われたとして、お金の返済を待つ間に貸し手が買いたかった家電の値段が4%上がっていたら。貸し手にしたら、我慢料として5%の金利をもらっても納得できないのではないでしょうか。実際には我慢料の価値は、5%-4%=1%しかないからです。この1%の金利、これが実質金利と言われるものです。このように、金利が与える影響を考えるときは、表面上の金利(名目金利)だけを見ていては不十分で、物価上昇の影響を除いた実質金利で見る必要があります。

次に、実質金利と物価連動債の関係を考えたいと思います。以前、公式から見える株価変動のメカニズムで割引配当モデルをご紹介しました。
P=D÷(rーg) ここで、:株価、:配当、:株主資本コスト、:配当成長率、です。以下ではこの式の債券版を考えます。物価連動債はインフレの守り神でご紹介しましたが、クーポンが一定で元本が物価の変動に合わせ調整される債券です。つまり、利払い金額が物価変動率に合わせ増減します。そこで、割引配当モデルのをクーポン:を名目金利:iを物価変動率:、に置き換えると、
P⇔C÷(iーk) となり物価連動債の価格と名目金利、物価変動率の関係式ができます。ただし、これは物価連動債の価格算出式ではないので、両辺をイコールで結べません。
この式から見えてくるのは。①名目金利:iが上昇すれば価格Pは下落、②物価:が上昇すれば価格Pは上昇、③実質金利:iーkが上昇すれば価格Pは下落、という関係です。

冒頭の日経新聞の記事は、(iーk)↑⇒P↓の関係に言及したものです。このような現象が生じるのは、市場参加者がFRBの金融引締めが当面続く(i↑)一方、景気は後退局面に入り物価が下落に向かう(k↓)と見ているからです。つまり、市場参加者はFRBの金融引締めによる景気のオーバーキルを懸念しているわけです。
ただ、以上のお話は米国に関するもので、我が国では様相は大きく異なります。日銀がマイナス金利政策を転換する兆しは未だに見えてきませんが、各種商品価格は緩やかな上昇基調にあります。そのため、日本では物価連動国債ファンドは、下表の通り依然好調なパフォーマンスを続けています。

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保険

【保】それでも買いますか

最近ドル建ての一時払終身保険が売れているそうです。20年経てば(ドル建てで)元本が倍になるとか、損益分岐点が1ドル=70円だとかが売りのようです。この商品は当然ですが、保険といいながら実態は運用商品です。皆さんはこの商品、買いますか?

まず、当商品のセールス文句を検証しましょう。足下では米国20年国債の利回りは3.5~3.7%程度で推移しています。仮りに20年間3.5%で複利運用したとすると、元本100ドルは20年後には100×(1+0.035)^20=199となります。ですから当商品のセールス文句である「20年で元本2倍」は、米国20年国債の利回り3.5%を前提とすれば十分可能と言えます。
次に「損益分岐点1ドル=70円」の検証です。今、足下の為替水準1ドル=145円で100ドルの保険を買ったとします。20年後には倍の200ドルになる計算です。では、このとき、円は何ドルまでの円高なら耐えられるでしょうか。簡単な計算をします。購入時の円建ての保険の評価額は100ドル×145円=14,500円です。20年後のドル円水準を1ドル=A円とすると、20年後の円建ての保険の評価額は200ドル×A円です。ここで購入時と20年後の保険評価額がイコールとなるドル円の水準が円の損益分岐点となります。
14,500円=200A円 ∴A=73円 よって「損益分岐点1ドル=70円」のセールス文句も概ね妥当と言えます。

今、ドル建て一時払い終身保険を買おうと思った貴方、ちょっと、待って下さい。1ドル=70円が損益分岐点ということは、そこまで円高が進んだら20年間の収益はゼロということです。そして、そこまで円高にならずとも、1ドル=145円からいくらか円高になったときの利回りがどれほどか、確認する必要があります。仮に20年後の為替水準が1ドル=130円だったとしましょう。そうすると当初元本の14,500円が20年後には200ドル×130円=26,000円になる計算です。この間の複利利回りは次のように計算できます。(26,000/14,500)^(1/20)-1=0.03  つまり3%です。同様に20年後に1ドル=120円なら2.6%、110円なら2.1%、100円なら1.6%です。このように現下の歴史的円安水準でドル建ての運用を始めた場合、高金利のメリットはその後の円高による為替の差損で減殺される可能性があるということです。

私なら、ドル建て一時払い終身保険ではなく、米国20年国債のストリップス債(※)を購入するでしょう。足下では残存期間22年の米国ストリップス債の利回りは3.6%程度です。なぜ、私は保険でなく米国債を買うのか。まず信用リスクの問題です。保険を購入した場合、私たちは保険会社の信用リスクを引き受けることになります。保険会社が破綻したら約束された収益は失われます。それに対し、米国債の場合、米国が破綻するリスクはほぼゼロです。それから流動性の違いです。保険を中途解約した場合、元本は大きく毀損し当初元本の何分の一しか回収できません。米国債は証券取引所に上場しているので、ストリップス債は短期間で売却が可能です。また今後、金利が低下局面に入ったら債券価格が上昇するので、中途売却することで売却益が期待できます。現下の円安が一層進んだら為替差益も期待できます。さらには、コストの違いです。保険は高コストの商品ですが、米国ストリップス債は証券会社によっては口座管理手数料は無料、為替手数料は片道25銭と非常に低コストです。
このように、米国ストリップス債は収益性でドル建て一時払い終身保険と同等でありながら、信用リスクと流動性、そしてコストにおいて大変有利な商品です。
足下の米国金利高を収益チャンスと考える個人投資家の皆さん。一度投資を検討されてはいかがでしょう。
(※)ストリップス債~利付債の元本部分とクーポン(利子)部分を切り離し、それぞれゼロクーポン債(割引債)として販売される債券のこと。

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ライフプラン

【ラ】現実的なFIREの手法について

世のFIRE本に登場するのは、多くが高給サラリーマンだったりアベノミクス相場に上手く乗った投資家だったりと、私たち一般ピープルの参考になりにくいケースが多いように思います。そこで、今回は現実的な年収や資産運用を前提とした、一般ピープルが再現可能なFIREプランを検討してみたいと思います。

まず、【図1】をご覧下さい。これは一組の男女が22歳から45歳まで正社員として働きながら、給料の一部を投資に回し45歳でFIREを実現。その後、積み立てた資産を45歳から年金支給開始年齢の70歳まで取崩しつつ、70歳以降は公的年金によって終身にわたり生計を維持していく様子を表したものです。
計算の前提ですが、年収については手取りベースで男性300万円、女性200万円、税・社会保険料控除前ベースで男性400万円、女性250万円とします。【表1】をご覧下さい。年齢別(控除前ベース)年収の中位値を記しています。【図1】で22歳から45歳までの(控除前ベース)平均年収を、男性400万円、女性250万円とすることが現実的であると納得いただけると思います。

男性と女性は30歳でカップルとなり、以後、家計を共有するものとします。その場合、家計年収は手取りで500万円ですが、うち300万円(月額25万円)を生活費に回し、残りの200万円を投資に回すとします。30歳から45歳までの15年間で毎年200万円を積み立て年利3%で運用したとすると、FIRE時に運用資産は3,720万円まで拡大します。
 年間積立額×3%15年の年金終価計数=総積立額 → 200万円×18.599=3,720万円
次に、この積立金を引き続き3%で運用しながら45歳から70歳までの25年間で均等に取り崩すと、年間取崩額は212万円となります。
 総積立額×3%25年の資本回収計数=年間取崩額 → 3,720万円×0.057=212万円
最後に、70歳から受取る公的年金(国民年金、厚生年金)について概算します。まず、国民年金ですが、20歳から60歳までの40年間フルに加入し保険料を支払った場合に満額の78万円がもらえます。本事例では20歳から22歳までの2年間は国民年金に未加入だったとします。また、FIRE後、45歳から60歳までは自己負担で国民年金保険料を支払うものとします。
 国民年金=78万円×38年÷40年=74万円
厚生年金は正社員時代の税・社会保険料控除前の年収累計に0.55%をかけて算出します。(概算値)
 厚生年金(男性)=400万円×23年×0.55%=51万円
 厚生年金(女性)=250万円×23年×0.55%=32万円

したがって、家計の公的年金の合計額は、74万円×2+51万円+32万円=231万円
さらに70歳まで支給を繰り下げると、 231万円×1.42=328万円、となります。ここから、介護保険料や国民健康保険料が控除されますので、手取りベースでは300万円とします。
これでカップル成立後の30歳から45歳の間と、70歳以降(終身)の期間は年間300万円程度の生活費を確保できることになります。45歳から70歳までの25年間は年間100万円の不足が生じますが、二人でアルバイトやパート、投資等でやり繰りするものとします。

この事例のポイントは、①正社員として厚生年金に加入し老後終身の生活保障を確保する、②カップルとなることで家計を共有し一人あたりの生活費を削減する、③年平均3%の運用を行う、の3点です。このうち、①については2022年10月から社員101人以上(2024年10月からは51人以上)の会社で2ヶ月を超える雇用の見込みがある方は厚生年金に加入することが義務付けられるので、実現のハードルはかなり下がります。②については、FIREの目的を共有できる相手であれば、同性でも構いません。また2人より3人、3人より4人……、のグループの方が効果は大です。とにかく、家計の共有により一人あたりの生活費を削減することが目的です。③については、日本株でも米国株でもいいですがインデックス投信をドルコスト平均法で買っておけば、年平均3%程度の利回りは十分期待できると思います。

問題は月額25万円、年間300万円で生活が成り立つかです。住宅費や子供の教育費を考えると、到底予算は足らないでしょう。足りたとしても、コスト削減最優先の日々に疲れ果ててしまうかもしれません。もし25万円生活が無理なら【図1】のモデルを出発点として、生活が成り立つ水準まで給与や運用で年収アップを図る必要があります。【表2】に年齢別の年間消費支出の全国平均を記していますが、全年齢層で年間支出は300万円を上回っています。

現実的なFIREを考えると、正社員になることは絶対条件です。正社員になれば厚生年金や健康保険の保険料の半額を事業主に負担させることができます。私たち労働者は、正社員としてこの特権を行使しない手はありません。もう一度【図1】をご覧下さい。20歳~45歳時の300万円から70歳以降の300万円に向かって矢印が伸びています。これは20歳~45歳の間の正社員としての年収が、自動的に70歳以降の厚生年金額に反映される様を表しています。私たちは自分で年金の積み立てを行う必要はなく、国が給料の天引き分と事業主の拠出分を合わせて年金の積み立てを行ってくれるのです。
経済的条件に恵まれない一般ピープルがFIREを実現するには、厚生年金の仕組みを知り、そして使い倒すことが必要です。