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保険

【保】注意すべき税務上のポイント

生命保険の取り扱いについては、税務面を初め注意を要する事項がたくさんあります。私は税理士ではありませんので、あくまで一般論としての情報提供となりますが、生命保険の税務上のポイントにつきお話したいと思います。

1.入院給付金
被保険者=被相続人が一定の入院期間を経て死亡した場合、死亡保険金だけでなく入院給付金(場合によっては手術給付金や通院給付金等)が支給されることになります。しかし、この2つの給付金は税務上の取り扱いが異なるので注意が必要です。入院給付金の受取人が被相続人の場合、入院給付金は相続財産として遺産分割の対象になりますが、(みなし相続財産として非課税枠が設けられている死亡保険金と違い、)入院給付金には相続税の非課税枠の適用はありませんので要注意です。
入院給付金の受取人が被相続人以外の場合は、相続税の課税対象とはなりません。入院給付金は死亡に起因して支給されるものではなく、入院によって支払われる受取人固有の財産だからです。尚、身体の傷害に伴い支払われる給付金は所得税の課税対象となりませんので、入院給付金に所得税は課税されません。

2.医療保険の契約者変更
子供が学生の間は親が医療保険の契約者として保険料を払い、子供が社会人になったタイミングで子供に契約者を変更することがあります。ここで疑問に思うのは、それまで親が払ってきた保険料について、税金の問題は生じないかということです。税務署に贈与と見なされるリスクが心配です。結論から言いますと、契約者変更の時点では贈与税はかかりません。医療保険の権利だけを持っていても受取る給付金の額が決まっておらず、課税の仕様がないからです。
しかし、その後契約を解約して解約返戻金や満期保険金を受取った時点で、所得税が課税されることになります。また、解約返戻金等のうち親が負担した保険料に起因する部分については贈与税が課税されます。尚、解約返戻金や満期保険金のない掛捨てタイプの医療保険では、契約者変更しても税金はかかりません。

3.リビングニーズ特約
医師から余命6ヶ月の宣告を受けた場合に、契約している死亡保険金の全部(上限3,000万円)又は一部を生前に受取ることができる特約をリビングニーズ特約といいます。特約といっても追加の保険料は不要のため、多くの方が利用されています。リビングニーズ特約を利用して受取った生前給付金は、非課税所得に該当するため、所得税はかかりません。そのため、余命宣告を受けた方の家族は、「お父さんが保険料を払ったんだから、好きなだけお金を使っていいのよ」と、保険金の全額を引き出すこともあります。しかし、余命宣告を受けた方が海外旅行に行ったり、フランス料理を食べたりと、お金を使うにも限度があります。結局、大半のお金が未使用のまま相続財産となります。ここで注意したいのは、リビングニーズ特約はあくまで生前給付のため死亡保険金とは見なされないことです。法定相続人×500万円の相続税の非課税枠は適用されません。リビングニーズ特約の給付金は、使用可能な金額を請求し使い残しのないようにしたいものです。

4.代償分割
代償分割とは、不動産等の分割しにくい資産を相続した場合に有効な遺産分割方法です。複数の相続人のうち、特定の相続人がその遺産を相続する代わりに、他の相続人に対し一定の代償資産(例えば現金)を交付します。被相続人の自宅に同居していた相続人が住み続ける場合や、事業などに利用する事業用不動産を相続する場合などに多く利用されます。
代償分割に使う現金を用意する器として、終身保険が使われます。相続人が兄弟2人のケースで(父親は既に死亡)、母親が兄には自宅(評価額2,000万円)、弟には定期預金1,000万円を相続させたいと考えているとしましょう。しかし、このままでは弟が兄に対し不公平だとして、遺産分割に納得しない可能性があります。その場合、最悪、兄は自宅の売却を迫られるかもしれません。
そこで、母親は別途、自身を契約者=被保険者、兄を受取人とする終身保険に1,000万円加入しました。母親の相続が発生すると、死亡保険金1,000万円が兄に支払われます。これは相続財産ではなく兄固有の財産です。そして、兄はこの1,000万円を代償金として弟に交付すれば、兄弟とも均等な資産を受取ることができます。
では、次のようなケースはどうでしょう。兄に3,000万円の死亡保険金、弟に1,000万円の定期預金が配分され、兄が保険金のうちの1,000万円を弟に交付するケースです。先のケースと同じように見えますが、注意が必要です。死亡保険金は相続財産でないため、2番目のケースでは兄は相続財産を受取っていないことになります。遺産分割の対象でない兄から弟に交付された1,000万円は相続財産の代償金とはみなされず、単なる贈与として課税されますので要注意です。 

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不動産

【不】不動産投資家を待ち受けるアリ地獄

まず、以下の事例をご覧下さい。

これは不動産コンサルタントの中元崇さんが、著書「不動産投資と資産管理法人戦略」(プラチナ出版)で取り上げている事例です。中元さんが投資家から相談を受けた実例がもとになっているそうですが、気軽に巨額な借入れを行ったサラリーマン投資家が破綻に至る典型例と思い、紹介させていただきます。

ひと目見て、キャッシュフローがマイナスになっている点が気になります。それでも不動産会社の営業マンは、「節税効果が得られます」とか「将来年金の代わりになります」とかセールストークを繰り出すでしょうが、キャッシュフローがマイナスになるものを投資とは呼びません。

貴方はこの投資用ワンルームマンションを購入したとしましょう。10年後、貴方は給料から不動産投資のマイナスを補填することに耐えきれなくなり、マンションを売却することにしました。10年後の残債は2,629万円。45年返済のため、なかなか元金は減りません。問題は売却価格ですが、甘く見て2,000万円がいいところでしょう。これだと債務超過の状態であり、差額の629万円を一括で返済しない限り売却は不可能です。しかし、25万円の負担が厳しいのに、629万円の返済ができるわけがありません。貴方はマイナス運用の世界から逃れられず、自己破産の道を選びました。これが不動産投資家を待ち受けるアリ地獄のリアルです。

ところで、何でこんな悲惨な結果になったのでしょうか。まず借入れの比率が高過ぎます。オーバーローンのため45年ローンでも毎年の返済が多くキャッシュフローがマイナスになってしまっています。それから、3,000万円のマンション購入価格が割高です。割高な購入価格が災いし、売却時にキャピタルロスが発生してしまいます。

悲惨な結果を招かないために、不動産投資の大原則である収益還元法をご紹介します。不動産価格の理論値の算出法です。簡単なので、是非覚えておいていただきたいと思います。。
 不動産価格=ネット賃料(年額)÷キャップレート
仮に都内新築ワンルームマンションのキャップレートが4%であったとすると、賃料96万円÷0.04=2,400万円となります。つまり、貴方は600万円も割高な水準でマンションを買ったことになります。
他にも、想定賃料(月額8万円)が近隣の相場と比較して適正かどうか、近隣でのワンルームマンションの賃貸ニーズは見込めるのか等、事前のチェックが不可欠です。できる限りの情報は、自分の手と足を使って収集しましょう。


一度不動産投資家がアリ地獄にはまると、抜け出ることはほとんど不可能です。投資用マンションの購入を決める前に立ち止まり、今回ご紹介した収益還元法を使って購入価格の適正さを再度ご確認下さい。




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株式

【株】それでも売りますか

よく投資の秘訣はと聞かれ、「安く買って高く売ること」と涼しげに答える専門家の方がいます。その通りにできれば話は簡単なのですが、なかなかそうはいきません。それだけでなく、長期投資家は売った瞬間から「無限のループ」に入り込むという難題を抱えることになります。
長期投資家の運用原資となるキャッシュは毎月給与等から補填されるため、放っておくとどんどん累積していきます。そのためキャッシュは随時投資に回す必要があります。つまり、長期投資家は買い続ける運命にあるわけです。したがって、売りを入れたら、その瞬間から次の買いのタイミングを考えないといけません。そして、買ったらさらにその先の売りのタイミングを……と、売りを続ける限り投資家は永遠の悩みに取り憑かれることになります。この「売り」→「買い」→「売り」→……の連鎖を、私は無限のループと呼んでいます。でも、売った時点よりも相場が上がってしまったときなど、売値以上の価格で株を買い直すのは精神的に辛いモノ。また、思惑通りに相場が下がったとしても、(NISA/iDeCo以外は)利益の20%を毎回税金に持って行かれます。そんなことをするくらいなら、いっそのこと、長期の個人投資家は安く買うことだけを考えていればいいと私は思います。もっとも、最安値で買うことは無理なので、高く買わない=安く買う、程度の意味です。これは、「長期投資家の戦略はB/Sを使って稼ぐことにある」という私の基本的な考えによるものです。(B/Sを使って稼げ
(※)B/S:貸借対照表のこと

買いっぱなしでは実現益が取れないという方。プラスアルファの給料を株式投資で稼ごうと考えている方は、正直、止めた方がいいと思います。株式投資に費やすお金と時間と労力は、労働に充てるほうが賢明です。それでもやるという方は、日計り商い(デイトレード)に徹していただきたい。恐らく、大半の方は余りの勝率の低さに嫌気がさし、大怪我をする前にさっさと相場から退場されるでしょう。一部の才ある方は、是非、短期投資家の道を極めていただきたいと思います。

10%程度の値下がりで損切りするような投資は、最初からやらない方がいいです。私たち長期投資家にとっては、株が10%下がってからが本番です。長期投資家に基本的に損切りは不要。あるとすれば損切りで実現損を出し、配当収入とぶつけて税負担を抑えるときくらいでしょう。

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不動産

【不】不動産とJREIT、そして株式

現物不動産とJREIT。どちらも不動産に投資するという意味では同じですが、内容に関しては大きな違いがあります。現物不動産(以下、不動産)の代わりにJREITに投資しようとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、その前に両者の違いを抑えていただきたいと思います。【図1】に不動産とJREITの主な違いをまとめてみました。

まず、投資方法の違いから行きましょう。不動産投資は投資と名の付くものの、実態は不動産賃貸管理業です。投資家自身が物件の購入者となり、物件の管理を行います。業者に業務の一部をアウトソースすることもできますが、極力、投資家が事業主として積極的に業務に関与することがコスト削減・収益力アップの秘訣です。一方、JREITの運用は投資法人(実際は投資法人が委托する運用会社)が行います。投資家は投資法人が発行する投資証券を口数に応じ購入する形をとります。JREITは不動産投資よりも証券投資に近い商品です。所得への課税方法も、株式投信と同様です。
また流動性・価格透明性ですが、現物不動産はJREITに大きく劣ります。しかし、これは逆手にとれば大きなメリットとなります。他の投資家に先行してホットな川上情報を不動産業者から入手できれば、割安な水準で物件を仕込み、競争力のある条件でビジネスを展開できるからです。

次は、価格変動リスクについてです。JREITは東証に上場しており、時価は株式と同様に絶えず変動しています。JREITの年率ベースでの標準偏差(価格変動リスク)は20%を超えることもあり。東証株価指数(TOPIX)に匹敵するレベルです。しかし、国内株式との相関係数は0.5%強で、先進国債並みの水準です。また、β値(※)についても0.3~0.4程度の銘柄が多くあります。
(※)β値~TOPIXに対する個別株銘柄の感応度
こう見てくると、JREITは現物不動産の代替としてではなく、むしろ株式のポートフォリオの中でリスク分散の観点で投資する方が向いているように思います。
現物不動産の価格に関して、土地については公示価格や路線価等、建物については固定資産税評価額が一応の目安になるものの、正確な時価は鑑定評価でも取らない限り把握できません。そのため、不動産投資家は日頃、価格変動リスクを気にすることは余りないと思いますが、不動産に価格変動リスクがないわけではありません。水面下に隠れて見えないだけで、物件を売却するときに表面化します。その際慌てないよう、金利動向や近隣物件の取引事例に目を光らせていただきたいと思います。

最後に、JREITの高利回りに着目した投資には要注意というお話をします。JREITは利益の90%超を分配金に充てれば、法人税がかからない仕組みになっています。JREITの4%の高利回りは、この非課税措置によるものです。しかし、利益の90%を分配するということは、内部留保はほとんどできないということです。そのため、新たに物件を取得する場合は、基本的に増資に頼ることになります。そして、増資をすれば利益が希薄化し、JREITの価格はその分下落します。つまり、JREITの高利回りは、増資による価格下落とトレードオフの関係にあるということです。また、JREITの分配金は法人税を免除されているため、投資家は配当控除を受けることはできません。
株式の場合、企業は税引き後利益の一部を内部留保として蓄えます。そのため、設備投資には内部留保を取り崩して充当することができます。内部留保の充当であれば利益の希薄化は生じませんので、株価の下落もありません。また、配当に関しては、投資家は総合課税を選択することで配当控除を受けることもできます。


ここで私が申し上げたいのは、株式と同等の価格変動リスク、及び増資による価格下落リスクがあるJREITに4%の利回りを狙って投資するよりも、4%の高配当株に投資した方が合理的なんじゃないかということ。そして、JREITは株式とのリスク分散を狙って投資すべき対象だろうということです。
JREITという商品は株式と同様に、また、ときとして株式以上に価格変動します。そんなJREITは、不動産や債券の代替としてのインカム投資には無理があることを改めてご指摘したいと思います。

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株式

【株】長期投資の本質

今回は長期投資の本質について考えたいと思います。長期投資の考察は次の式から始まります。
P=EPS×PER(※)
ここで、Pは株価、EPSは一株利益、PERは株価収益率です。この式はとても簡単に導けます。
P=EPS×P/EPS  尚、P/EPSは以後PERと呼ぶことにします。(P/EPS=PER)
以上、ただの数式の読み替えです。なんとも簡単な式ですが、これが重要な式なんです。

EPSは「当期純利益÷発行済株式総数」で計算され、株主が1株持っていた場合に1年間に受け取れる利益(配当+値上がり益)のことです。そして、EPSは会社の業績に連動します。次に、PERですが、これは株主が投資した資金を何年で回収できると予想(期待)するか、その年数を意味します。ここで注意が必要なのは、EPSは企業利益という実績値であるのに対し、PERは株主=投資家の心理状態を表す期待値である点です。PERは投資家の気分次第で不規則に変化します。例えば、A社株に対し10年間で資金を回収しようと想定していた投資家が、翌日になって20年先までに回収できればいいと考えを変更した場合、EPSが不変であれば株価は2倍になる計算です。このように、PERは株式に対する投資家の人気のバロメーターと言えます。人気の高い会社の株ほどPERは高くなります。
短期的な株価の変動をランダムウォーク(千鳥足)というのも、気まぐれなPERのせいです。

ここで、EPSとPERの特徴について考えてみましょう。まず、EPSですが、EPSは企業の業績に連動しています。先々のEPSを予測することは、企業業績を予測することと同じです。1年、2年先といった短期の企業業績の予測は可能かもしれませんが、10年、20年先といった長期の企業業績の予測は不可能です。私たち長期投資家は、EPSの予測は無理とのスタンスで株式投資に臨む方が賢明です。ただ、ひとつ言えるのは、良い会社の業績はどんどん良くなり、悪い会社の業績はどんどん悪くなる傾向があるということです。つまり、EPSのリスクは発散型です。それでは、具体的にどう対応すればいいのか。答えは、銘柄・業種の分散投資です。複数社に分散投資し、うち何社かは業績悪化で株価が低迷し、さらに何社かは倒産するかもしれない。でも、1~2社は良好な業績で株価も上昇するだろう。そんなアバウトな前提で分散投資するのです。
例えば、5社の株式に1万円ずつ投資するとしましょう。5年後、1社の株価は5倍になり、他の2社は業績低迷により株価は半分、残りの2社は倒産して株価はゼロになったとします。こんな悲惨なケースは珍しいです。では、全体資産の金額はどう変化したでしょうか。1社は株価が5倍で5万円、2社は株価が半分で5千円×2=1万円、2社は株価0円で、計6万円です。そう、こんなひどいケースでも、5万円はちゃんと6万円になりました。長期投資においては、株価が投入金額の10倍以上になることは珍しくありません。また、0円以下に値下がりすることもありません。このようにEPSの発散型変動リスクは、損益の非対称性を活用した銘柄・業種分散投資により希薄化することが期待できます。

次に、PERの特徴についてです。先程、PERは株主が投資した資金を何年で回収できると予想するか、その年数のことだと言いました。PERは株主=投資家の期待値で心理的な変数です。何の具体的根拠もなく投資家の思惑だけでPERは上昇し、下落します。しかし、短期的には不規則に上下動するPERも、中長期的には一定のレンジに収まることが知られています。つまり、PERのリスクは収束型です。日経平均株価であれば、PER=15倍程度がレンジの中央値となります。そこで、PERの収束型変動リスクは、時間分散投資(ドルコスト平均法)によって低減を図ることが期待できます。

長期(分散)投資の本質は、①長期の時間軸で複利効果のメリットを最大限享受しつつ、②銘柄・業種分散投資でEPSの変動リスクと、③時間分散投資でPERの変動リスクの低減を図ること、にあります。

<付録>
ときどき、長期投資のリスクが高いか低いかで議論している人を見かけます。これは、一方が(EPSの)リスクは長期の方が高いと主張し、もう一方は(PERの)リスクは長期の方が低いと主張しているわけです。両者は異なる論点に立って議論していることに気づいていません。双方の主張はそれぞれ正しく、この議論は永遠に平行線を辿ります。
私たちは長期投資におけるEPSの高リスクを、銘柄・業種分散投資を行うことで希薄化することを目指しています。

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年金

【年】確定拠出年金の優位性

2001年10月の確定拠出年金法施行以降、確定拠出年金(DC)の加入者は着実に増加し、2021年3月末時点では企業型と個人型(iDeCo)を合わせたDCの加入者数は941万人と、確定給付企業年金(DB)の加入者数933万人を初めて上回りました。
DCと聞くと、「会社は運用のリスクを従業員に押しつけるのか。けしからん!」という怒りの声が聞こえてきそうですが、実はDCにはDBにはない優れた点がいくつかあります。今回は、そんなDCの優位性についてお話したいと思います。

皆さん、確定給付ってどんな意味だと思いますか?給付が確定しているのだから、会社から受取る年金や一時金の額が予め決まっている制度だと思っていませんか。その理解が100%正解かというと、怪しいです。本来、DB(Defined Benefit)は「確定給付」というより「給付建て」という方が正しいです。日本語の訳がちょっと変なんです。因みに、DC(Defined Contribution)も「確定拠出」より「掛金建て」が正しいです。
そこでDBですが、給付の額が約束されるとの理解は、ときに裏切られます。会社は要件(※)を満たせば、現役の社員の給付を比較的容易に引き下げる(給付減額)ことができるからです。(OB、年金受給権者に関しては、給付減額のハードルは非常に高いです。参照:生保予定利率引き下げと給付減額)
(※)DB給付減額の要件(現役社員の将来給付額の引き下げ)
①会社の経営状況の悪化により給付の減額がやむを得ないなどの一定の場合。
②加入者の1/3以上で組織する労働組合があるときは当該労働組合の同意、及び加入者の2/3以上の同意を得ていること。

私は、経営状況が悪化したからといって給付を減額できる制度を「確定給付」と呼ぶのはミスリードのもとだと思います。またDBに関しては、懲戒処分等で退職した社員について、本来受け取れる年金・一時金を減額して払うことも一般に行われています。
これに対しDCの場合、会社から従業員の口座に振り込まれた掛金は、その時点で従業員のものとなります。会社の経営が悪化しようが倒産しようが、従業員の給付を減額することは許されません。従業員が懲戒解雇となっても、満額の給付を受取ることができます。(これはメリットとは言えないかもしれませんが。)

次に運用の観点から見ていきましょう。年金は長期の制度ですから、年金資産の運用も長期の視点で考えるべきです。しかし実際にはDBの運用は、1年という短期の時間軸で、また多くの会社では目標リターン2.0%~2.5%という低水準で行われています。なぜかというと、会社は年度ごとにDBの運用実績を決算に反映させる必要があるからです。目標リターン(予定利率)が2%の会社でDBの運用実績が-3%の場合、年金資産の5%に相当する金額を損失として決算に計上することになります。(会社によっては複数年で分割計上します)いくら本業が黒字でもDBの運用がマイナスだと、会社決算は赤字に転落する可能性があるのです。それを回避するため、DBを採用する会社は1年という短期で、目標リターンが2%程度の保守的な運用を行うわけです。しかし、このような短期目線でリスク抑制的な運用では、十分なリターンは期待できません。せっかくの長期運用のメリットが死んでしまいます。

これに対し、DCには会社の決算は関係ありません。掛金が従業員の口座に入金された瞬間に会社との縁は切れ、後は従業員のものです。1年という時間に縛られることなく、リスク資産への投資により年金本来の長期運用のメリットを享受することができます。運用結果次第ですが、DBから受け取るよりも多額の年金・一時金を手にすることも可能です。少なくとも、年金のあるべき運用を実現できるという点で、DCはDBよりも優れています。

今後、2022年10月には企業型DC加入者のiDeCo加入要件が緩和され、企業型DC加入者は原則としてiDeCoにも加入できるようになります。(マッチング拠出選択者は除きます) また、2024年12月からは、多くのDB加入者の企業型DC/iDeCoの拠出限度額が引き上げられます。
リスクを愛する個人投資家の皆さん。この機会にDC掛金の増額を検討されてはいかがでしょう。

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株式

【株】日銀VSヘッジファンド、今再び

最近、日銀のイールドカーブコントロール(YCC)に対し、内外で見直しの圧力が高まっています。背景には、YCCによる低金利が円安を呼び、そして円安が輸入物価を押し上げて人々の生活を脅かしているとの批判があります。また、少し前まで日本と同じようにマイナス金利下にあった海外の中央銀行が、今や雪崩をうって金利引き上げモードに移るという外部環境の変化があります。日銀が国内世論や外部環境の圧力をどう凌ぐか、あるいは金融政策の変更に追い込まれるのか、予断を許しません。

インフレ圧力を受け主要先進国が軒並み金融引き締めに入る中、日本だけが金融緩和を継続することは困難であるとして、複数の海外ヘッジファンドが日本国債先物の売りや円金利スワップのペイ(払い)ポジションを積み上げているようです。ところで、海外ヘッジファンドが日銀に挑むのは今回が初めてではありません。


私が円債のディーラーをやっていた1990年代半ば、10年もの日本国債の利回りは4%~5%の水準でした。その後、バブル崩壊による株価下落・地価下落やデフレ経済への転落で長期金利は低下の一途を辿り、ついにはマイナス金利に突入しました。その間、政府も手をこまねいていたわけではありません。再三にわたり総合経済対策を打ってきました。しかし、景気は上向きに転じることなく、赤字国債増発により政府債務だけがいたずらに増大していきました。
そんな日本国経済の状況を見て違和感を感じたヘッジファンドの一つに、ジョージ・ソロス率いるクォンタムファンドがありました。マーケットの原理からすれば、増発された日本国債は供給超過で価格は下落(金利は上昇)するはずです。しかし、実際には日本国債利回りは低下の一途を辿っている。そこをソロスは収益チャンスと捉え、割高な日本国債に空売りを仕掛けました。
百選錬磨のジョージ・ソロスでしたが、この時は日銀に軍配があがりました、それだけ金利低下圧力が強かったというわけです。もっとも、当の日銀もその後のデフレ経済、マイナス金利を予測していたかは疑問ですが。

クォンタムファンドには、イギリス中銀(イングランド銀行/BOE)と闘って勝った輝かしい実績があります。1992年のことです。イギリスは欧州為替メカニズム(ERM)に加盟しており、ポンドが一定のレンジ内に収まるよう為替管理をする必要がありました。しかし、当時イギリス経済は不況下にあり、中央銀行は金利を引き下げ景気を刺激すべき状況でした。金利が低下すれば、ポンド安となります。BOEは本来であれば「金利引き下げ→ポンド安→景気回復」とすべきところ、ポンド安を回避するため無理やり為替介入し、外貨売りポンド買いを継続しました。そこをクォンタムファンドは見逃しませんでした。大量のポンド売りを外国為替市場で仕掛けたのです。BOEはクォンタムファンドのポンド売り圧力に耐えきれずポンド買いを断念、結局イギリスはERM離脱に追い込まれました。因みに、この1件でクォンタムファンドは15億ドルもの収益を上げたと言われています。

目下、日銀はYCCという制度を死守するため、金利上昇圧力を強引に抑え込みに行っています。マーケット原理に反している点で、BOEの事例と同じです。ただ、BOEのケースではポンド買いの原資が外貨であり量的限界があったわけですが、日銀のケースは国債を買う原資が円キャッシュで日銀が輪転機を回せば理論上は制限がない点で異なります。

日銀VSヘッジファンドの第2ラウンド。今回はどちらに軍配が上がるのでしょうか。

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閑話休題

【閑】心にしみる言葉

「苦しいときは、私の背中を見て」
2008年、北京オリンピック。準決勝でアメリカに敗れた「なでしこジャパン」は史上初のメダルをかけて3位決定戦に挑みました。相手は世界ランキング2位の強豪ドイツです。日本は高さとパワーを誇るドイツに序盤から攻め込まれ、後半24分に点を取られてしまいます。絶対絶命のピンチ。しかし、キャプテンの澤穂希選手は試合前、チームメイトに「苦しいときは、私の背中を見て」と伝えていました。その言葉通り澤選手は諦めることなくボールを追い続け、チームメイトたちも澤選手の背中を見て必死にボールに食らいつきました。
結局、メダルには手が届きませんでしたが、最後までグランドを走り続けた「なでしこジャパン」の姿に世界中のファンが拍手を送ったのです。
そして、この1戦が2011年FIFA女子ワールドカップドイツ大会での「なでしこジャパン」の優勝に繋がっていきました。
この一言が言える経営者、リーダーが果たして日本の会社に何人いるでしょうか。

「死にたいときには下を見ろ。俺がいる。」
「絶対悲観主義」(講談社+α新書)で経営学者の楠木建さんが紹介しているのですが、波瀾万丈の人生を歩み人生の底辺を見続けた「全裸監督」村西徹監督の言葉です。
きれい事ではない真実が持つ言葉の優しさと力強さを感じます。

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閑話休題

【閑】ヘタレの趣味

私の趣味は山登りとスキューバダイビングです。この二つは20代で始め、アラカンの今に至るまで細々と続けています。なぜ山登りを始めたかですが、ひとつには父の影響があると思います。父は高山植物や渓流釣りが好きで、私は小さい頃からよく父に連れられ近くの山へ行っていました。

私は物心ついたとき既にデブで、そのせいか駆けっこをはじめ運動がとてもとても苦手でした。私の通っていた小学校は、運動会で全校生徒に駆けっこの予選と決勝を戦わせ、ご丁寧に優勝から最下位まで順位を付けていました。私は午前中に行われる予選で最下位となったうえ、予選の最下位を集めた午後の決勝?において再び最下位となりました。私はこの「キング of 最下位」のタイトルを、小1から小6までの6年間守り抜きました。不動のチャンピオンだったのです。
今思うと、年端の行かぬ子供に随分と残酷な真似をしてくれたものです。おかげで今でも街角で小学校の運動会に出くわすと、不意に胃液が込み上げてきます。こんな生来の運動オンチにできるスポーツといえば、山登りくらいなものでした。これが私が山登りを始めたもう一つの理由です。

今では山ガールなる言葉もあり、山登りにはオシャレでポジティブなイメージがありますが、私が20代の頃は山登り=3K(キツイ、キケン、キタナイ)と言われ、若い女性から忌み嫌われたものです。ヘタレな私にも人並みにモテたいとの欲望はあったので、私はまわりに自分が山ヤであることを封印しました。
バブル華やかなりし当時、女性に人気のスポーツと言えば、テニス、スキー、ゴルフ。運動オンチな私には、どれもハードルが高すぎます。しかし、そんな私にもできそうで、かつ女性受けしそうなスポーツが一つだけありました。スキューバダイビングです。当時、原田知世さん主演の映画「彼女が水着に着替えたら」が流行っていました。映画の中で原田知世さんはダイバーを演じています。映画を見た私はこれだと思い、ダイビングショップへ直行しました。
残念ながらダイビングを通じて彼女をつくることはできませんでしたが、ダイビングは今でも私の渇いた心をリフレッシュしてくれる大事な趣味です。

最近、65歳の定年退職後を見据え、社会人の山の会に入りました。上は75歳から下は35歳まで。58歳の私がちょうど平均年齢です。有り難いことに先輩会員の方が頻繁に山に誘ってくださるので、今は月に2回ほど山に登っています。山の会というのは先鋭化によるマウントの取り合いが起こりがちなのですが、私が登るのは標高2000m程度の中難易度の山までとし、安全第一で行きたいと考えています。
ダイビングもコロナの影響でこの3年ほどご無沙汰ですが、この夏は月2ペースで海に通うつもりです。ショップによると、太平洋側では潮流の変化で紀伊半島のコンデションは余りよくなく、逆に伊豆半島が透明度抜群でグッドコンデションとのこと。これも気候変動の影響でしょうか。
当面、山に海にと資金負担が嵩みますが、ほったらかし投資の株たちがプレゼントしてくれた配当で何とか帳尻が合いそうです。

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閑話休題

【閑】日本を覆う元本保証のベール

5月5日、岸田首相はロンドンで投資家を前に講演を行いました。その中で、Invest in Kishidaのフレーズで日本経済の変革をアピールしています。講演で岸田首相は、NISAの拡充や預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設などを通じ、「資産所得倍増プラン」を進めたいとしています。日本の家計金融資産は約2,000兆円ですが、そのほとんどが現預金に滞留しており株式等は1割程度と、米国の4割や欧州の2割と比べ極端に低い水準です。

この日本人の現金・預金好き、リスク資産嫌いな傾向は、平成バブルの崩壊とそれに伴うデフレ経済が原因との説明をよく耳にしますが、私はバブルに始まった話ではないと考えています。ずっと前から私たち日本人は、「元本保証は善、リスクは悪」と上の世代に教え込まれてきました。
思えば、日本企業の特徴とされる終身雇用・年功賃金も、日本人の元本保証至上主義を反映したものと見ることができます。誰でも勤続年数に応じ昇給し、余程のミスをしない限り減給されることはありません。そして、定年退職時には高額の退職金が支給されます。固定の利息を受取りながら、満期時にはキッチリ元本が償還される預金とそっくりな構造です。

しかし、今後広まると思われるジョブ型雇用では正社員は派遣社員化し、給料は職務の内容に応じ市場の影響を強く受けた形で決定されます。同じジョブに留まる限り、昇級はありません。また、従来のメンバーシップ型の会社では、会社の責任において社員教育を行ってきましたが、ジョブ型の会社では自己啓発が原則です。自身の責任において職務能力を高め続けなければ、雇用の継続は望めません。
退職金に関しても、従来は会社が確定給付型の企業年金で運用を行い、退職後の年金・一時金の受取額を保証してくれていましたが、昨今主流の確定拠出年金では従業員が自己責任で運用を行わなければなりません。そして、運用の結果次第で退職後の年金・一時金の受取額に大きな差が生じます。
このように、労働者が万事会社任せで済んだ時代は終わり、今後は自分の頭で考え行動することが求められるでしょう。元本保証の世界はもう存在しません。

私は、コロナ禍やウクライナ侵攻がなかったとしても、少子高齢化や人生100年時代の到来による社会保障費の増加等により、我が国がインフレに突入するのは時間の問題であったと思います。米国のように2桁に迫るインフレにはならないまでも、日銀が政策目標に掲げる年率2%程度のマイルドなインフレが続く可能性は高いです。
インフレ下において厄介なのは、人はモノの値段が上がることは容易に認識できますが、その裏側でおカネの価値が下落していることは認識しにくいことです。(※)

現預金の価値は時間の経過とともに目減りしていきます。そして、預金を引き出し現金とモノを交換するときになって初めて価値の下落を実感することになります。預金は元本の実質的な価値は保証してくれません。インフレ下では現預金もリスク資産です。
インフレの時代において私たち日本人は、元本保証のベールに覆われた静的な世界を離れ、リスクを身近な友人として付き合っていく動的な世界の住人となるのです。