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ライフプラン

【ラ】FIREの問題点とFP的対策①

若年期に会社員生活を終えるFIREの最大の問題点は、老後の生活費の原資となる年金への悪影響です。FIRE後は国民年金に加入することになりますが、厚生年金と比較すると65歳以降受給できる年金額が大きく減少しますし、障害者になった場合や死亡した場合の保障も大幅に劣化します。他にも、健康保険を脱退し国民健康保険に加入することで、保険料は全額自己負担(健康保険は労使折半)となりますし、休職時の傷病手当金も支給されません。また、失業時の雇用保険の給付(基本手当)もなくなります。
このようにFIREすることは、会社からの自由と引き換えに、セーフティネットを失うことを意味します。

以下では敢えてFIREせず、人生100年時代を細く長く安心に送るためのモデルプランを検討してみます。まず手始めに、公的年金を活用した終身年金を設計していきます。この年金により生涯を通じた月収25万円(税込み)生活が可能となります。これを、必要最低限の生活設計の意味で、ミニマムライフプラン(MLP)と呼ぶことにします。

【MLPの前提条件】
・生涯を通じ税込み25万円を必要最低限の生活費(月額)とします。(年間300万円)
・本業となる会社に22歳で入社、60歳で定年退職。その後、70歳まで嘱託として継
 続雇用。
・同じ年の妻(専業主婦)と28歳で結婚。
・各年齢での収入は以下の通り。
(1)22歳~60歳:月収25万円、年収300万円で本業に従事。60歳で本業は定年退職。
(2)60歳~65歳:年収200万円で嘱託として継続雇用。
(3)65歳~70歳:年収100万円で嘱託として継続雇用。

65歳時に受給できる老齢厚生年金(老厚)、及び老齢基礎年金(老基)は、
・老厚=(300万円×38年+200万円×5年)×0.55%=68万円。老基=78万円(※)
これを70歳まで繰り下げると、(68万円+78万円)×1.42=207万円、となります。
また、65歳から70歳の再雇用による年金増加分が、100万円×5年×0.55%=3万円
よって、207万円+3万円=210万円。妻の老基(32年間加入)を70歳まで繰り下げると、78万円×32年/40年×1.42=89万円となります。
結果、世帯合算では210万円+89万円=299万円。ほぼ300万円の年金(年額)を70歳から終身(世帯主が生きてる限り)受給することができます。
(※)老厚の一部として支給される経過的加算を老基にカウントしています。

ここで強調したいのは、22歳から70歳の間に前提条件(1)~(3)の年収300万円~100万円で会社勤めをすれば、老後資金は国の方で準備のうえ年間300万円の年金として70歳から終身支給してくれることです。無理して運用で老後資金を作る必要はありません。例えば、70歳から100歳までの30年間に受け取る年金は300万円×30年=9000万円です。これを運用で準備しようと思ったら大変です。ちなみに、厚生年金の保険料は給料の約9.2%ですが、MLPの例でいくと22歳から70歳までに国に支払う保険料は、(300万円×38年+200万円×5年+100万円×5年)×9.2%=1180万円です。
1180万円が9000万円になるとしたら、結構なパフォーマンスです。

尚、60歳~70歳の生活費が合計で1500万円不足するので、この足らずについてはiDeCo等で別途補う必要があります。例えば、毎月1.5万円を年利3%で38年間運用すると、1240万円になります。差額は退職金等で補えば、1500万円を確保できる計算です。

上記MLPは70歳までの継続雇用でモデルを設計してみました。嘱託期間を含め70歳まで会社員生活を続ければ、高額な年収や無理な運用利回りを前提としなくても、公的年金をフル活用することで最低限の生活設計が可能です。
セーフティネットで守られ、細く長く安定した生活を送ることができます。

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株式

【株】私の株式投資法~買値にこだわったほったらかし投資~

私は老後の生活費や医療・介護の費用に充当するため、細々とヘタレな投資を続けています。ロングポジションのみで、基本的に売りはしません。唯一のこだわりは”高値をつかまないこと”です。私には特別なノウハウやテクニックはありません。情報分析力もありません。そんなヘタレで面倒くさがりな私でもできるラクチン投資法が、ほったらかし投資です。

【銘柄選択】個別企業の分析は不要。誰でも知っている業種別代表企業を買うだけ。
効率的市場仮説というものがあります。賛否両論ありますが、私はセミストロング型の効率的市場仮説を支持しています。これは「公開された情報は、瞬時にその企業の株価に反映される」という説です。私はこの説を「素人が投資する分には個別企業の分析は不要で、プロのアナリストの分析結果が織り込まれた株価を見て判断すれば十分」と、勝手に解釈しています。
私は銘柄選択に関しては個別企業の分析はせず(そもそも分析する能力がありません)、誰でも知っている業種別の代表企業に狙いを定め、以下の①か②のタイミングで機械的に買うだけです。

【タイミング①】FRBの金融緩和で買い
私は以下の基準で、長期の買いのタイミングを計っています。ポイントは、FRBの金融政策です。米国の景気が悪化し、FRBが金融政策の舵を緩和の方向に切り始めるタイミングが、買いのチャンスです。世界経済は米ドルを通じてつながっており、そのマネーをコントロールするのがFRBです。FRBは世界の中央銀行といえます。FRBが金融を緩和しマネーを市場に供給することで、流動性相場がスタートします。景気の悪化はしばらく続き、株価の低迷も長引くのが一般的ですが、そんな不透明な空気に紛れ、そろりと買い出動するのです。
米国は2022年中の利上げが予想されていますので、金融緩和はまだまだ先になりそうです。

【タイミング②】日経平均株価が20%下落したら買い
私は中期の買いのタイミングを、以下の基準で図ります。日経平均が高値から20%下落したら、狙いを付けていた銘柄を機械的に買います。相場観は入れません。ただ、下落途中の相場には手を出さないようにしています。いわゆる「落ちるナイフには手を出すな」です。相場が底値をコツンと確認してから動いても、十分間に合います。二番底に向けもう一段下がるリスクはありますが、それでも30%下落したあたりで下げ止まるでしょう。
20%の下落は数年に1度の大バーゲンです。もっと頻度を上げて買いたい場合は、10%~15%下落のタイミングで買っていきます。

相場急落の恐怖は投資を何年経験しても克服できませんが、相場急落に備えてキャッシュをプールし買い向かう準備があれば、多少は落ち着いて相場に対峙できるかもしれません。(「上がって良し、下がって良しの株価かな」)
しかし相場の達人の目には、それも無駄な悪あがきに映るようです。彼らは鋼の意思でもって、フルインベストメントで相場に臨めとおっしゃいます。例えば、フィデリティ投信マゼランファンドの伝説のファンドマネージャー、ピーター・リンチはこんな言葉を残しています。
「投資家が暴落に備えることで失われる資金は、暴落で失われる資金よりもはるかに大きい」

厳しいー!

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株式

【株】胆力

株式投資は山登りのようなもの。山登りに知識や技術は必要ですが、それ以前に、ザックを背負って1000mの標高差を上り下りする体力が必要です。体力のない人は容易に遭難します。

株式投資も同様に、知識や技術以前に、相場の上げ下げにひるまない胆力が必要です。

株で失敗する人は、相場の上げ下げに狼狽し、感情に流され高値をつかみ、安値を叩きます。

株で成功する人は、相場の上げ下げに一喜一憂せず、己を殺して下値を拾い、相場の回復を待ちます。

下値を拾ったあとも、相場は下がるでしょう。そんなときは、下っ腹に力を入れ、奥歯をぐっと噛んで、じっと耐えます。

やがて、相場は大底をつけ、上げに転じます。

まず身に付けるべきは、胆力です。

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株式

【株】私の株式投資法~長期・分散~

「搾取のシステム」、「損益の非対称性」、「時間」。この3つの武器を活用することが、長期の株式投資で勝ち切るための鉄則だと思います。私が株式投資をする際に気を付けていることは、以下の3点です。

(1)当たり前ですが、実際に株式に投資すること。机上でいくら投資したつもりになっても、道は開けません。短期的には上下にブレる株価も、長期的には「搾取のシステム」により上昇していくはずです。

(2)長期投資。長期の時間軸で株式に投資することで、「損益の非対称性」を生かし資産の拡大を図ります。

(3)分散投資。搾取のシステムが上手く機能せず業績が低迷する会社も、中にはあります。不芳企業に投資してしまうリスクを低減し、大勝ちする企業に遭遇する確率を高めるため、複数銘柄によるポートフォリオ運用が効果的です。

ルールを理解したうえでゲームに参加することが大事です。しつこいようですが、長期の株式投資は勝率ではなく、トータルスコアを競うゲームです。下値で買ったら後は死んだふり。ほったらかしでいいと思います。短期の時間軸での株式投資は、プロ投資家と同じ土俵でゼロサムゲームを戦うものです。勝者の数だけ敗者が生まれます。一方、長期の時間軸での株式投資は、仲間と一緒にプラスサムゲームを楽しむものです。みんなが勝者になれる可能性があります。

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株式

【株】株式相場のリアル

株式投資を始める前に思い出していただきたいのは、株式は必ず下落するということです。下落時にどのくらいの値幅で下がるのか、そして、どのくらいの日数で回復するのか。下落と回復のイメージを腹に落とし、自分が耐えられるかどうか、自問してみしょう。耐えられそうにないなら、株には近づかない方が賢明です。株は下がるものと胆に命じたうえで、相場に臨みましょう。
それでは、【表1】と【グラフ1】で、平成バブル以降の日経平均株価の動きを振り返ります。昔から相場の下値の目途として「半値八掛け二割引き」と言いますが、数式にすると、1/2×0.8×(1-0.2)=0.32となり、概ね高値の2/3押し、▲68%の水準です。

【表1】の過去3回の大幅下落局面(1~2:平成バブル崩壊、7~8:ITバブル崩壊、9~10:リーマンショック)でも、高値の2/3下落の水準で下げ止まっています。また、その他の下落局面では、30%~40%程度で下げ止まっています。乱暴に言いますと、平成バブル以降の日経平均は、高値の1/3下落のケースと、リーマンショック級の大暴落で2/3下落のケースに分けられます。そして、1/3下落の場合は2~3年、2/3下落の場合は4~7年程度で(平成バブルの水準はいまだ回復していませんが)ほぼ従前の水準を回復しています。この1/3、2/3という下値の目途は記憶しておいて損はないと思います。
ちなみに、信用取引をする場合に証券会社に担保を差し入れますが、1部上場企業の株式の担保掛目は70%です。証券会社は、30%の株価下落をバッファーとして見込んでいるわけです。

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ライフプラン

【ラ】FIRE ちょっと待った!

最近FIREという言葉をよく耳にします。投資で生活費を確保し、早期に会社から独立することだそうです。生活費の25倍の資産をもって年利4%で回せば、生活費を捻出できるとのこと。1年間の生活費が400万円ならば、1億円の運用資産が必要になる計算です。ただ、このFIREという言葉にどこか危うさを感じるのは、私だけでしょうか。若者が自立を目指すことは悪いことではありません。私のような社畜人生を送ってほしくもないです。しかし、FIREは実現可能性においてハードルが高く、また、早期リタイアと引き換えに失うものがあることに留意すべきでです。

【FIREで懸念される点】
1.資産運用の目標利回り4%の達成困難と、それに伴う過剰なリスクテイク
2.年金・医療等セーフティネットの水準低下と生活コストの上昇
3.社会との関係性低下によるメンタルへの悪影響
4.定職を持たないことによる社会的信用の低下など

そこで、今回は最初にリタイアありきではなく、会社員生活を続けながら無理なく自立に向かうセミリタイア式の方法について検討します。

マーケティングをかじったことにある方はご存知かと思いますが、ボストン・コンサルティンググループが開発したPPM(Product Portforio Management)という分析ツールがあります。これは、企業が自社の事業や製品を、「花形:Star」「金のなる木:Cash Cow」「問題児:Problem Child」「負け犬:Dog」の4タイプに分類し、資源の効率的な配分を検討するためのものです。以下では、このツールを個人に応用することで、会社からの自立を目標とした場合の効率的なリソースの配分について考えます。

【グラフ1】では縦軸に仕事の働きがい、横軸に収入の多さをとります。そして、本業、副業、投資を、働きがいと収入の水準によって配置していきます。本業はある程度の収入を得られるものの働きがいは低い、副業は低収入だがやりたいことをやっているので働きがいは高いとします。投資は働きがい、収入の水準とも中位レベルと想定し配置しています。

結論を先に言うと、本業はできる限り継続した方がベターです。本業で一定の収入を安定的に確保できれば、その他の領域(副業、投資)で思い切ったリスクをとれるからです。会社には最初から働きがいを期待せず、安定的な収入を確保するための「金のなる木」と割り切って使い倒すのです。
副業は働きがい優先です。当面は収入の水準は期待しません。(「問題児」) 副業の高収入化には試行錯誤と時間が必要です。しかし、そんなとき本業の収入があれば安心です。会社は貴方が副業で成功するまで見守ってくれるスポンサーです。

本業から得た収入の一定割合は投資に回すことします。株式投資でも不動産投資でも、投資は他人に稼いでもらう行為です。貴方の会社の業績が悪化し本業での収入が減少しても、他人の稼ぎには無関係です。本業のリスクヘッジになります。
このように本業+投資の収入で副業を支えながら、その間に副業をブラッシュアップし、副業の高収入化(「花形」)を目指します。そして、投資+副業の収入で生活設計が可能となったら自立のときです。

仕事は【図1】のような本業・副業・投資で構成されるポートフォリオとして捉えます。(このポートフォリオをSCaPと呼ぶことにします。) そして、本業+投資を支えに副業の高収入化を目指します。狙い通り高収入化が実現した段階で、会社からの自立が可能となります。ただ、一気に会社との縁を切るのではなく、様子を見ながら本業の比率を徐々に引き下げていくイメージです。また、自立後も投資だけで生活費を稼ぐのではなく、副業との合わせ技でいくところがポイントです。私は、人間はたえず社会と接続していることが必要と考えます。投資だけで生きていく仙人のような生活は、どこかで無理が生じるのではないでしょうか。
SCaPでは会社員生活を続ける限り、厚生年金、健康保険、雇用保険といったセーフティネットで守られます。また、自立の後の生活も、投資1本ではなく副業と組み合わせることで、無理に4%の高い運用目標を負う必要はなくなります。さらに、副業を通じた社会との関係性も維持できます。
私はSCaPな生き方が、これからのスタンダードになっていくような気がします。

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年金

【年】投資家目線で考える公的年金

公的年金とは、国が所管している個人事業主や主婦、学生向けの国民年金(基礎年金)と、サラリーマンや公務員向けの厚生年金のことです。年金は支給される条件によって、3つのタイプに分かれます。1つ目は老齢年金といって65歳になったら支給が開始される年金です。2つ目は障害年金といって、病気やケガで一定レベルの障害を負った場合に支給される年金です。役所に障害1級から3級(国民年金は2級まで)の認定をしてもらう必要があります。3つ目は遺族年金です。これは年金の加入者や受給者が亡くなった場合に、遺族に支給される年金です。今回は、その中で老齢基礎年金と老齢厚生年金について、ザックリと仕組みをご説明し、投資商品としての価値を検証してみます。
なお、国民年金も厚生年金も終身年金であり、本人が生存している限り年金が支給されます。

老齢基礎年金(以下、老基)は以下の式で、個人単位で年金額(年額)を計算します。
 老基=78万円×加入月数/480ヶ月
加入月数は、20歳から60歳までの40年(480ヶ月)のうち保険料を払った月数です。個人事業主等が払う保険料は毎月17,000円程度です。(サラリーマン等は厚生年金保険料と一緒に基礎年金保険料を会社経由で払います。保険料は給料の18.3%を労使折半で負担します。)
以下の事例は、20歳から60歳の40年間保険料を払い、65歳から85歳までの20年間老基を受給するケースです。この場合、支払う保険料の合計額は、1.7万円×480月=816万円、支給される年金の合計額は78万円×20年=1,560万円、です。保険料に対する年間利回り:X%を以下のように簡易計算しますと、2.3%となります。
 816×(1+40X)=1,560     X=0.023
年金の支給が65歳から80歳までの15年間のケースでは、年金の合計額は78万円×15年=1,170万円、です。この場合の利回りは、1.1%となります。
老基を投資商品として見た場合、85歳まで生きることを前提にすると、2.3%の利回りは民間の個人年金保険と比較しても十分有利な水準だと思います。

次に、老齢厚生年金(老厚)を見ていきましょう。老厚は以下の式で世帯単位で年金額(年額)を計算します。老厚は入社から退職までの年収累計に0.55%をかけて計算します。
 老厚=年収累計×0.55%
例として、夫は20歳から60歳まで平均年収400万円で40年間会社に勤務。同じ年齢の妻(専業主婦)とは20歳で結婚、現在ともに65歳。妻は国民年金に35年間加入していたとします。(妻の老基は、78万円×35/40=68万円)
この場合、老厚は、400万円×40年×0.55%=88万円、となります。
また、老基は世帯で78万円+68万円=146万円。合計で234万円です。
世帯に65歳~85歳の20年間に支給される年金額は、234万円×20年=4,680万円です。厚生年金の保険料は年収の約9.2%(18.3%の半分)ですから、40年間に支払う保険料の合計額は、400万円×9.2%×40年=1,472万円、です。先程と同様に保険料に対する利回りを計算すると、5.4%となります。
年金の支給が65歳から80歳のケースでは、年金の支給額は234万円×15年=3,510万円、です。利回りは3.5%、となります。
このように、85歳まで生きることを前提とすると、老厚(+老基)の利回り5.4%はリスク性商品と比較しても遜色のない水準であり、魅力的な投資商品と言えます。

ところで、公的年金はなぜこれだけの利回りを出すことができるのでしょうか?それは、厚生年金は事業主が社員と同額の保険料を負担しており、また、国民年金は税金が補填されているからです。これは国の制度だからできることで、民間の個人年金には真似ができません。
また、厚生年金、国民年金とも終身年金です。終身年金は尽きることのない永遠の泉のようなもの。人生100年時代には欠かせないアイテムです。これらの優遇制度を利用しない手はありません。

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不動産

【不】持ち家と賃貸

持家(分譲)と賃貸、どっちがお得か?今回はこの永遠のテーマについて考えてみましょう。
(※)以下では比較しやすいように分譲マンションと賃貸マンションを例にお話を進めます。 
皆さんの中にも不動産業者の次のようなトークに誘われて、賃貸マンションから分譲マンションに住み替えた方がいるかもしれませんね。「分譲マンションは家賃並みのローンで住めますし、将来、資産として自分のものになります。賃貸マンションは高い家賃を払っても資産として何も残りませんから、今すぐ分譲に住み替えた方が絶対お得です!」
では、頭の整理から始めましょう。この問題の本質は、売買と賃貸という異なる契約形態でのコスト比較にあります。契約形態以外の条件は同じでないと、公正な評価はできません。持家か賃貸かの話になると住宅市場・賃貸市場で実際に観察されたデータを引用し、分譲マンションのローン返済額と賃貸マンションの賃料を比較したりしますが、これはダメです。
分譲マンションと賃貸マンションでは、立地や床面積は同じでも、一般に建物のグレードが異なります。グレードの異なる2つの物件を比較しても意味がありません。同一物件(グレード)において、分譲契約と賃貸契約での契約形態の違いによるコストの差異のみを比較すべきです。カローラのリース料とレクサスのローン返済額の大小を比較しても意味のないことと同じです。

同一物件で分譲と賃貸のコスト比較なんてできるのかと思われるかもしれませんが、以下のようなケースなら可能です。皆さんの友人や会社の同僚で、新居を手にしたとたん転勤を命じられた可哀そうな人はいませんか?そういう人は、泣く泣く新居を賃貸に出すことになります。その際、この友人・同僚は賃料をどういう基準で決めるか、想像してみてください。
まず、月々のローン返済額以上であることが最低条件でしょう。また、税金等の固定費の一部も賃料に含めたいところです。さらに、賃貸人としての利益や空室・滞納リスクも賃料に上乗せしたいと考えるかもしれません。(業者が賃貸人の場合は、当然そうなります)そうすると、賃料は以下のような式で決定されると思われます。
賃料=ローン返済額+固定費の一部+賃貸人の利益+リスクプレミアム=ローン返済額+α (α=固定費の一部+賃貸人の利益+リスクプレミアムとします)……①
となります。従いまして、賃料>ローン返済額、が成立します。


【結論1】同一グレードのコスト比較では、賃貸より分譲(持家)の方がお得


結局、先の不動産業者の営業トークが正しかったことになります。
細かい理屈は抜きに、そもそも論で片付けることもできます。分譲(持家)の場合のプレイヤーは建設会社と買い主の2人ですが、賃貸の場合は、建設会社、買い主=賃貸人、賃借人の3人、場合によってはさらに転借人が加わり4人となります。プレイヤーが増えるほど人件費とマージンが上乗せされますから、当然に【結論1】が正しいことになります。
さらには、賃料を月々のローン返済額以上に設定しようとする①式に問題があります。分譲物件のオーナーはローン返済後に物件を売却することで、返済額を一部回収することができます。ですから、賃料はローン返済額から将来の売却見込み額を控除した金額を起点に算出されるべきです。そういう意味で、①式をベースに決定した賃料は割高と言えます。

では、分譲(持家)の方がお得だとして、世の中にこれだけ賃貸物件が存在するのはなぜでしょうか。それは、グレードにこだわらなければ、賃貸物件は分譲物件よりも低価格で居住することが可能だからでしょう。
さらに、コスト以外にも賃貸が選ばれる理由があります。それは次のような賃貸メリットがあるからです。
・会社が賃貸住宅に住む社員に家賃補助を行っており、賃料負担が軽減される
・住宅ローンの返済リスクを負わない
・持家は経年劣化するが、賃貸は住み替えを行うことで新築に近い状態を維持できる
・賃貸はライフステージに合った間取りの物件に機動的に住み替えできる
・管理費、修繕積立金、税金等維持費が不要
・夫婦いずれかが一人っ子で親の自宅を相続する予定の場合、賃貸住宅に居住していれば相続税で優遇措置を受けられる(家なき子特例)
・地震等の天災で建物が被災しても問題ない

一方、分譲(持家)にも以下のようなメリットがあります。
・物件のオーナーとして満足感を得られ、リフォーム等も自由にできる
・資産として将来売却したときに売却収入が期待できる
・住宅ローン控除や住まい給付金、贈与税の非課税制度等、税制優遇措置がある
・他人に賃貸することで賃料を得ることができる

以上により私の最終的な結論は次の通りです。人々は分譲(持家)と賃貸を、コストだけでなく定性的な観点を加味し、総合的に判断している。


【結論2】人の好み、環境等によって賃貸の方がお得な場合もあり、一概に持家がお得とはいえない


えっ、結論になってない。これは失礼致しました。


 


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株式

【株】私が株式投資を薦める理由③

皆さんはプロ投資家というと、どんな人を想像しますか。一般的には、信託銀行や生損保、ヘッジファンド等の機関投資家を言います。これらプロ投資家は、巨額の資金、優れた頭脳、最先端の投資インフラ等を装備して相場に臨みます。まるで、最新兵器に身を包んだソルジャーです。それに比べ私たち個人投資家は、竹槍を持って一揆に向かう戦国時代の百姓のようです。最新兵器と竹槍、果たして勝負になるんでしょうか?

実は、なるんです。なぜなら、個人投資家はプロ投資家にはない秘密兵器を持っているからです。それは、ズバリ「時間」です。個人投資家は(信用や先物取引を除いて)好きなときに売り買いできます。いくら損しようが自己責任。無理にロスカットする必要はない。勝つまで待てばいい。投資に好きなだけ時間をかけられることが、強い武器になります。株式投資において複利効果を最大限発揮するには、たっぷりの時間が必要だったことを思い出してください。

プロ投資家はそうはいきません。プロ投資家は他人のお金を預かって運用しており、一定の期間(通常は1年)で結果を出すことが求められます。良くも悪くも1年が勝負です。期間内の損益確定のため、意に反して損切りを迫られるファンドマネージャーも少なくありません。プロ投資家は、株式投資において利益を上げるために必要な十分な「時間」を与えられていないのです。

また、プロ投資家は自身の投資行動を、顧客に理由を示して説明することが求められます。売買の理由が「相場観だから」は許されません。しかし、”Buy the rumor,sell the fact”の格言にあるように、相場変動の理由が明らかになった時点で売買しても、タイミングを逸している可能性が大です。このように、プロ投資家にはプロゆえの弱みがあるのです。

それに比べ、私たち個人投資家は自由です。アマチュアであるメリットを最大限活かせば、強大なプロ投資家にも立ち向かうことができます。そのためには、長期の時間軸で複利効果の有効性を最大限活用することが必要です。短期の時間軸での投資はプロ投資家と同じ土俵に立つことになり、十分な知識と経験、そして運がないと危険です。
個人投資家は十分な時間を投資に投入することができます。これが私が株式投資をお薦めする第3の理由です。

最後に日本のウォーレン・バフェットと言われた竹田製菓(株)創業者:竹田和平氏の金言をご紹介します。「上がってよし、下がってよしの株価かな」 私はこの言葉に個人投資家のあるべき姿が凝縮されていると思います。

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株式

【株】私が株式投資を薦める理由②

資産運用における複利のパワーは皆さんご存知のことと思います。複利のパワーは利回りがプラスのケースで説明されることが多いですが、実は利回りがマイナスのケースでも大きな効果を発揮します。【表1】はスタート時点で評価額100であったものが上段は毎年10%ずつ増加、下段は毎年10%ずつ減少した場合の10年後、20年後、30年後の評価額を表しています。【表1】をグラフ化したものが【グラフ1】です。+10%の場合、評価額は100→110→121→133→146→161…と変化し、増加幅は10→11→12→13→15…と拡大していきます。そして、29年~30年の1年間には159も増加しています。このように評価額の増加幅は、時間の経過とともに加速度的に拡大していきます。次に、-10%の場合を見ます。評価額は100→90→81→73→66→59…と変化し、減少幅は10→9→8→7→7…と縮小していきます。29年~30年の1年間では1しか減少していません。評価額の減少幅は、時間の経過とともにどんどん縮小していきます。このプラス利回りとマイナス利回りでの評価額の非対称的な動きは、複利の効果によるものです。

【グラフ1】では+10%の場合、評価額の曲線は右肩上がりにそそり立つ一方、-10%の場合は下限0に限りなく接近していきます。評価額のアップサイドは無限、ダウンサイドは有限です。この上昇時と下落時の「損益の非対称性」、つまり相場が上がるほどに収益の拡大スピードは加速し、相場が下がるほど損失の拡大スピードは減速する。私たちは株式のこの性質を上手く利用することで、高い確率で勝利を手にすることができるのです。そして勝利の確率は、投資の時間軸が長いほど高くなります。

では、この「損益の非対称性」の効果を具体例で見ていきましょう。今100円ずつA社~J社の10社の株式に投資するものとします。5年後、A社株は5倍(500円)、B社株は2倍(200円)になったとします。C社株、D社株、E社株は変わらず100円だとすると、A社株~E社株の合計は、500+200+100×3=1000円です。F社株~J社株がすべて紙屑(0円)になっても当初資産額(1000円)を割らないことになります。もっとも、10社中5社が倒産する可能性はまずないですから、今度はF社株は0円、G社株とH社株は50円、I社株とJ社株は70円だったすると、10社の評価額の合計は、1000+50×2+70×2=1240円です。5年間の運用結果は年率4.4%(1000円→1240円)となります。2勝5敗3分でも、トータル損益は十分なプラスです。このように個々の勝負では負け越しでも、トータルで勝利できるのが株式投資の強みであり、強みの源泉が「損益の非対称性」となります。複数の銘柄に投資した場合、一部の銘柄が大きく上昇すれば他の多数の銘柄が下落しても、ポートフォリオ全体ではプラスを確保できるということです。実際、長期投資ではプラスの複利効果によって、株価が5倍、10倍…となることは珍しくありません。

ウォーレン・バフェットは自身の投資会社バークシャー・ハサウェイの2013年の株主総会でこう言ったそうです。「私は生涯で400~500の銘柄を所有しましたが、そのうちの10銘柄でほぼ全ての利益を得てきたんです。」

長期の株式投資は勝率を競うゲームではなく、トータルスコアを競うゲームであることがご理解いただけると思います。1対0、2対1の僅差の勝ちを積み上げるのではなく、1勝5敗でいいからその1勝を15対3で大勝するイメージ、これが長期投資の戦い方です。そして、長期の時間軸で損益の非対称性を最大限活かし切ることで、株式投資の勝利の確率を高めることが可能です。これが、私が株式投資をお薦めする第2の理由です。