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株式

【株】実質金利と物価連動債

9月27日の日経新聞に「米実質金利上げ、余波拡大」と題した記事が掲載されました。米国国債の名目金利から期待インフレ率を引いた実質金利の上昇が、市場を大きく揺らしているとのこと。株式やREITだけでなく、安全資産とされる金やインフレ耐性の高い物価連動債からも資金流出を招いていると報じています。そこで、今回は名目金利と実質金利の違い、そして実質金利と物価連動債の関係について考えてみたいと思います。

まず名目金利ですが、名目金利とは私たちが普通に日常生活で目にする金利のことです。銀行預金の金利、住宅ローンの金利、国債の利回り、日銀の政策金利、いずれも名目金利です。これに対し、実質金利とは名目金利から期待インフレ率(※)を控除したものです。
ここで注意が必要なのは、名目金利は私たちの目で直接見ることができるのに対し、実質金利は私たちの目には直接は見えないことです。では、どうやって見えるようにするかですが、家計や企業にアンケートを取ったり、固定利付国債と物価連動国債の利回り差から期待インフレ率を算出し、名目金利から差し引くことで見える化を図ります。
(※)市場参加者が予想する将来の物価上昇率のこと

ところで、金利とはそもそも何でしょうか。お金は持っているだけでは何の役にも立ちません。お金は使って初めて役に立つものですし、モノやサービスを消費する満足感を味わうこともできます。しかし、お金を他人に貸した場合は、返済されるまでの間はお金を使うことはできません。お金を貸した人はモノやサービスの消費を我慢しなければいけません。そこでお金の借り手は、貸し手に消費の我慢をお願いする代わりに、貸し手に金利を払うわけです。そうです。お金の借り手から貸し手に払われる我慢料、これが金利の正体です(諸説ありますが……)。ところで、返済までの間にモノやサービスの値段(物価)が上がってしまったらどうでしょうか。例えば、借り手から貸し手に金利が5%払われたとして、お金の返済を待つ間に貸し手が買いたかった家電の値段が4%上がっていたら。貸し手にしたら、我慢料として5%の金利をもらっても納得できないのではないでしょうか。実際には我慢料の価値は、5%-4%=1%しかないからです。この1%の金利、これが実質金利と言われるものです。このように、金利が与える影響を考えるときは、表面上の金利(名目金利)だけを見ていては不十分で、物価上昇の影響を除いた実質金利で見る必要があります。

次に、実質金利と物価連動債の関係を考えたいと思います。以前、公式から見える株価変動のメカニズムで割引配当モデルをご紹介しました。
P=D÷(rーg) ここで、:株価、:配当、:株主資本コスト、:配当成長率、です。以下ではこの式の債券版を考えます。物価連動債はインフレの守り神でご紹介しましたが、クーポンが一定で元本が物価の変動に合わせ調整される債券です。つまり、利払い金額が物価変動率に合わせ増減します。そこで、割引配当モデルのをクーポン:を名目金利:iを物価変動率:、に置き換えると、
P⇔C÷(iーk) となり物価連動債の価格と名目金利、物価変動率の関係式ができます。ただし、これは物価連動債の価格算出式ではないので、両辺をイコールで結べません。
この式から見えてくるのは。①名目金利:iが上昇すれば価格Pは下落、②物価:が上昇すれば価格Pは上昇、③実質金利:iーkが上昇すれば価格Pは下落、という関係です。

冒頭の日経新聞の記事は、(iーk)↑⇒P↓の関係に言及したものです。このような現象が生じるのは、市場参加者がFRBの金融引締めが当面続く(i↑)一方、景気は後退局面に入り物価が下落に向かう(k↓)と見ているからです。つまり、市場参加者はFRBの金融引締めによる景気のオーバーキルを懸念しているわけです。
ただ、以上のお話は米国に関するもので、我が国では様相は大きく異なります。日銀がマイナス金利政策を転換する兆しは未だに見えてきませんが、各種商品価格は緩やかな上昇基調にあります。そのため、日本では物価連動国債ファンドは、下表の通り依然好調なパフォーマンスを続けています。

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保険

【保】それでも買いますか

最近ドル建ての一時払終身保険が売れているそうです。20年経てば(ドル建てで)元本が倍になるとか、損益分岐点が1ドル=70円だとかが売りのようです。この商品は当然ですが、保険といいながら実態は運用商品です。皆さんはこの商品、買いますか?

まず、当商品のセールス文句を検証しましょう。足下では米国20年国債の利回りは3.5~3.7%程度で推移しています。仮りに20年間3.5%で複利運用したとすると、元本100ドルは20年後には100×(1+0.035)^20=199となります。ですから当商品のセールス文句である「20年で元本2倍」は、米国20年国債の利回り3.5%を前提とすれば十分可能と言えます。
次に「損益分岐点1ドル=70円」の検証です。今、足下の為替水準1ドル=145円で100ドルの保険を買ったとします。20年後には倍の200ドルになる計算です。では、このとき、円は何ドルまでの円高なら耐えられるでしょうか。簡単な計算をします。購入時の円建ての保険の評価額は100ドル×145円=14,500円です。20年後のドル円水準を1ドル=A円とすると、20年後の円建ての保険の評価額は200ドル×A円です。ここで購入時と20年後の保険評価額がイコールとなるドル円の水準が円の損益分岐点となります。
14,500円=200A円 ∴A=73円 よって「損益分岐点1ドル=70円」のセールス文句も概ね妥当と言えます。

今、ドル建て一時払い終身保険を買おうと思った貴方、ちょっと、待って下さい。1ドル=70円が損益分岐点ということは、そこまで円高が進んだら20年間の収益はゼロということです。そして、そこまで円高にならずとも、1ドル=145円からいくらか円高になったときの利回りがどれほどか、確認する必要があります。仮に20年後の為替水準が1ドル=130円だったとしましょう。そうすると当初元本の14,500円が20年後には200ドル×130円=26,000円になる計算です。この間の複利利回りは次のように計算できます。(26,000/14,500)^(1/20)-1=0.03  つまり3%です。同様に20年後に1ドル=120円なら2.6%、110円なら2.1%、100円なら1.6%です。このように現下の歴史的円安水準でドル建ての運用を始めた場合、高金利のメリットはその後の円高による為替の差損で減殺される可能性があるということです。

私なら、ドル建て一時払い終身保険ではなく、米国20年国債のストリップス債(※)を購入するでしょう。足下では残存期間22年の米国ストリップス債の利回りは3.6%程度です。なぜ、私は保険でなく米国債を買うのか。まず信用リスクの問題です。保険を購入した場合、私たちは保険会社の信用リスクを引き受けることになります。保険会社が破綻したら約束された収益は失われます。それに対し、米国債の場合、米国が破綻するリスクはほぼゼロです。それから流動性の違いです。保険を中途解約した場合、元本は大きく毀損し当初元本の何分の一しか回収できません。米国債は証券取引所に上場しているので、ストリップス債は短期間で売却が可能です。また今後、金利が低下局面に入ったら債券価格が上昇するので、中途売却することで売却益が期待できます。現下の円安が一層進んだら為替差益も期待できます。さらには、コストの違いです。保険は高コストの商品ですが、米国ストリップス債は証券会社によっては口座管理手数料は無料、為替手数料は片道25銭と非常に低コストです。
このように、米国ストリップス債は収益性でドル建て一時払い終身保険と同等でありながら、信用リスクと流動性、そしてコストにおいて大変有利な商品です。
足下の米国金利高を収益チャンスと考える個人投資家の皆さん。一度投資を検討されてはいかがでしょう。
(※)ストリップス債~利付債の元本部分とクーポン(利子)部分を切り離し、それぞれゼロクーポン債(割引債)として販売される債券のこと。

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ライフプラン

【ラ】現実的なFIREの手法について

世のFIRE本に登場するのは、多くが高給サラリーマンだったりアベノミクス相場に上手く乗った投資家だったりと、私たち一般ピープルの参考になりにくいケースが多いように思います。そこで、今回は現実的な年収や資産運用を前提とした、一般ピープルが再現可能なFIREプランを検討してみたいと思います。

まず、【図1】をご覧下さい。これは一組の男女が22歳から45歳まで正社員として働きながら、給料の一部を投資に回し45歳でFIREを実現。その後、積み立てた資産を45歳から年金支給開始年齢の70歳まで取崩しつつ、70歳以降は公的年金によって終身にわたり生計を維持していく様子を表したものです。
計算の前提ですが、年収については手取りベースで男性300万円、女性200万円、税・社会保険料控除前ベースで男性400万円、女性250万円とします。【表1】をご覧下さい。年齢別(控除前ベース)年収の中位値を記しています。【図1】で22歳から45歳までの(控除前ベース)平均年収を、男性400万円、女性250万円とすることが現実的であると納得いただけると思います。

男性と女性は30歳でカップルとなり、以後、家計を共有するものとします。その場合、家計年収は手取りで500万円ですが、うち300万円(月額25万円)を生活費に回し、残りの200万円を投資に回すとします。30歳から45歳までの15年間で毎年200万円を積み立て年利3%で運用したとすると、FIRE時に運用資産は3,720万円まで拡大します。
 年間積立額×3%15年の年金終価計数=総積立額 → 200万円×18.599=3,720万円
次に、この積立金を引き続き3%で運用しながら45歳から70歳までの25年間で均等に取り崩すと、年間取崩額は212万円となります。
 総積立額×3%25年の資本回収計数=年間取崩額 → 3,720万円×0.057=212万円
最後に、70歳から受取る公的年金(国民年金、厚生年金)について概算します。まず、国民年金ですが、20歳から60歳までの40年間フルに加入し保険料を支払った場合に満額の78万円がもらえます。本事例では20歳から22歳までの2年間は国民年金に未加入だったとします。また、FIRE後、45歳から60歳までは自己負担で国民年金保険料を支払うものとします。
 国民年金=78万円×38年÷40年=74万円
厚生年金は正社員時代の税・社会保険料控除前の年収累計に0.55%をかけて算出します。(概算値)
 厚生年金(男性)=400万円×23年×0.55%=51万円
 厚生年金(女性)=250万円×23年×0.55%=32万円

したがって、家計の公的年金の合計額は、74万円×2+51万円+32万円=231万円
さらに70歳まで支給を繰り下げると、 231万円×1.42=328万円、となります。ここから、介護保険料や国民健康保険料が控除されますので、手取りベースでは300万円とします。
これでカップル成立後の30歳から45歳の間と、70歳以降(終身)の期間は年間300万円程度の生活費を確保できることになります。45歳から70歳までの25年間は年間100万円の不足が生じますが、二人でアルバイトやパート、投資等でやり繰りするものとします。

この事例のポイントは、①正社員として厚生年金に加入し老後終身の生活保障を確保する、②カップルとなることで家計を共有し一人あたりの生活費を削減する、③年平均3%の運用を行う、の3点です。このうち、①については2022年10月から社員101人以上(2024年10月からは51人以上)の会社で2ヶ月を超える雇用の見込みがある方は厚生年金に加入することが義務付けられるので、実現のハードルはかなり下がります。②については、FIREの目的を共有できる相手であれば、同性でも構いません。また2人より3人、3人より4人……、のグループの方が効果は大です。とにかく、家計の共有により一人あたりの生活費を削減することが目的です。③については、日本株でも米国株でもいいですがインデックス投信をドルコスト平均法で買っておけば、年平均3%程度の利回りは十分期待できると思います。

問題は月額25万円、年間300万円で生活が成り立つかです。住宅費や子供の教育費を考えると、到底予算は足らないでしょう。足りたとしても、コスト削減最優先の日々に疲れ果ててしまうかもしれません。もし25万円生活が無理なら【図1】のモデルを出発点として、生活が成り立つ水準まで給与や運用で年収アップを図る必要があります。【表2】に年齢別の年間消費支出の全国平均を記していますが、全年齢層で年間支出は300万円を上回っています。

現実的なFIREを考えると、正社員になることは絶対条件です。正社員になれば厚生年金や健康保険の保険料の半額を事業主に負担させることができます。私たち労働者は、正社員としてこの特権を行使しない手はありません。もう一度【図1】をご覧下さい。20歳~45歳時の300万円から70歳以降の300万円に向かって矢印が伸びています。これは20歳~45歳の間の正社員としての年収が、自動的に70歳以降の厚生年金額に反映される様を表しています。私たちは自分で年金の積み立てを行う必要はなく、国が給料の天引き分と事業主の拠出分を合わせて年金の積み立てを行ってくれるのです。
経済的条件に恵まれない一般ピープルがFIREを実現するには、厚生年金の仕組みを知り、そして使い倒すことが必要です。

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ライフプラン

【ラ】一部相続人への遺産分割の非通知について

相続が発生したときに関係が疎遠な相続人(例えばAさん)がいたりすると、Aさんには相続発生の事実を知らせず内々で遺産分割の手続きを進めようとなりがちです。では、最後までAさんに隠し通すことは可能なのでしょうか。また問題はないのでしょうか。以下で、ケース別に確認してみたいと思います。

まず、遺言がないケースです。遺言がない場合、預金の名義変更や不動産の相続登記等の手続きに遺産分割協議書の提出を求められますが、同協議書には相続人全員の直筆の署名と実印の押印が必要です。そのため、一部の相続人に内緒で遺産分割手続きを進めることは不可能です。

次に、公正証書遺言以外の遺言(自筆証書遺言や秘密証書遺言)があるケースです。この場合、遺言書の開封前に家庭裁判所による遺言書の検認(※1)を受ける必要があります。検認に先立って、家裁は相続人全員に宛てて「検認期日」の連絡を入れます。一部相続人に内緒にしようと思っても、ここでバレてしまいます。

最後に、公正証書遺言があるケースです。この場合、遺言に遺言執行者(※2)の記載がある場合と、ない場合に分かれます。遺言執行者の記載がある場合、民法第1007条2項の規定により、遺言執行者は就職後にその旨を全ての相続人に通知することが義務付けられています。そして、ここでいう通知義務は就職の事実を知らせるだけでは不十分で、遺言書の内容まで知らせるべきと考えられています。従って、このケースでも、一部相続人に内緒にすることはできません。
では、公正証書遺言に遺言執行者の記載をしなければ、一部相続人に内緒で遺産分割手続きを進めることができるのでしょうか。残念ながら、それも難しそうです。遺言執行者の記載のない遺言の場合、金融機関によっては名義変更の手続きに応じないところがあるようです。また、通知されなかった相続人から、遺留分侵害額請求を提訴される可能性もあります。従って、後々のトラブルを回避するためにも、相続人全員に公平に遺産分割の内容を通知することが望ましいと思われます。
(※1)検認:相続人に対し遺言の存在とその内容を知らせるとともに、遺言の形状、加除訂正の状態、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続き。尚、遺言の有効・無効を判断するものではないので注意が必要。
(※2)遺言執行者:遺言の内容を正確に実現させるために必要な手続きを行う人のこと。遺言執行者は各相続人の代表として、遺言の内容を実現するため様々な手続きを行う権限を有している。

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保険

【保】注意すべき税務上のポイント

生命保険の取り扱いについては、税務面を初め注意を要する事項がたくさんあります。私は税理士ではありませんので、あくまで一般論としての情報提供となりますが、生命保険の税務上のポイントにつきお話したいと思います。

1.入院給付金
被保険者=被相続人が一定の入院期間を経て死亡した場合、死亡保険金だけでなく入院給付金(場合によっては手術給付金や通院給付金等)が支給されることになります。しかし、この2つの給付金は税務上の取り扱いが異なるので注意が必要です。入院給付金の受取人が被相続人の場合、入院給付金は相続財産として遺産分割の対象になりますが、(みなし相続財産として非課税枠が設けられている死亡保険金と違い、)入院給付金には相続税の非課税枠の適用はありませんので要注意です。
入院給付金の受取人が被相続人以外の場合は、相続税の課税対象とはなりません。入院給付金は死亡に起因して支給されるものではなく、入院によって支払われる受取人固有の財産だからです。尚、身体の傷害に伴い支払われる給付金は所得税の課税対象となりませんので、入院給付金に所得税は課税されません。

2.医療保険の契約者変更
子供が学生の間は親が医療保険の契約者として保険料を払い、子供が社会人になったタイミングで子供に契約者を変更することがあります。ここで疑問に思うのは、それまで親が払ってきた保険料について、税金の問題は生じないかということです。税務署に贈与と見なされるリスクが心配です。結論から言いますと、契約者変更の時点では贈与税はかかりません。医療保険の権利だけを持っていても受取る給付金の額が決まっておらず、課税の仕様がないからです。
しかし、その後契約を解約して解約返戻金や満期保険金を受取った時点で、所得税が課税されることになります。また、解約返戻金等のうち親が負担した保険料に起因する部分については贈与税が課税されます。尚、解約返戻金や満期保険金のない掛捨てタイプの医療保険では、契約者変更しても税金はかかりません。

3.リビングニーズ特約
医師から余命6ヶ月の宣告を受けた場合に、契約している死亡保険金の全部(上限3,000万円)又は一部を生前に受取ることができる特約をリビングニーズ特約といいます。特約といっても追加の保険料は不要のため、多くの方が利用されています。リビングニーズ特約を利用して受取った生前給付金は、非課税所得に該当するため、所得税はかかりません。そのため、余命宣告を受けた方の家族は、「お父さんが保険料を払ったんだから、好きなだけお金を使っていいのよ」と、保険金の全額を引き出すこともあります。しかし、余命宣告を受けた方が海外旅行に行ったり、フランス料理を食べたりと、お金を使うにも限度があります。結局、大半のお金が未使用のまま相続財産となります。ここで注意したいのは、リビングニーズ特約はあくまで生前給付のため死亡保険金とは見なされないことです。法定相続人×500万円の相続税の非課税枠は適用されません。リビングニーズ特約の給付金は、使用可能な金額を請求し使い残しのないようにしたいものです。

4.代償分割
代償分割とは、不動産等の分割しにくい資産を相続した場合に有効な遺産分割方法です。複数の相続人のうち、特定の相続人がその遺産を相続する代わりに、他の相続人に対し一定の代償資産(例えば現金)を交付します。被相続人の自宅に同居していた相続人が住み続ける場合や、事業などに利用する事業用不動産を相続する場合などに多く利用されます。
代償分割に使う現金を用意する器として、終身保険が使われます。相続人が兄弟2人のケースで(父親は既に死亡)、母親が兄には自宅(評価額2,000万円)、弟には定期預金1,000万円を相続させたいと考えているとしましょう。しかし、このままでは弟が兄に対し不公平だとして、遺産分割に納得しない可能性があります。その場合、最悪、兄は自宅の売却を迫られるかもしれません。
そこで、母親は別途、自身を契約者=被保険者、兄を受取人とする終身保険に1,000万円加入しました。母親の相続が発生すると、死亡保険金1,000万円が兄に支払われます。これは相続財産ではなく兄固有の財産です。そして、兄はこの1,000万円を代償金として弟に交付すれば、兄弟とも均等な資産を受取ることができます。
では、次のようなケースはどうでしょう。兄に3,000万円の死亡保険金、弟に1,000万円の定期預金が配分され、兄が保険金のうちの1,000万円を弟に交付するケースです。先のケースと同じように見えますが、注意が必要です。死亡保険金は相続財産でないため、2番目のケースでは兄は相続財産を受取っていないことになります。遺産分割の対象でない兄から弟に交付された1,000万円は相続財産の代償金とはみなされず、単なる贈与として課税されますので要注意です。 

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不動産

【不】不動産投資家を待ち受けるアリ地獄

まず、以下の事例をご覧下さい。

これは不動産コンサルタントの中元崇さんが、著書「不動産投資と資産管理法人戦略」(プラチナ出版)で取り上げている事例です。中元さんが投資家から相談を受けた実例がもとになっているそうですが、気軽に巨額な借入れを行ったサラリーマン投資家が破綻に至る典型例と思い、紹介させていただきます。

ひと目見て、キャッシュフローがマイナスになっている点が気になります。それでも不動産会社の営業マンは、「節税効果が得られます」とか「将来年金の代わりになります」とかセールストークを繰り出すでしょうが、キャッシュフローがマイナスになるものを投資とは呼びません。

貴方はこの投資用ワンルームマンションを購入したとしましょう。10年後、貴方は給料から不動産投資のマイナスを補填することに耐えきれなくなり、マンションを売却することにしました。10年後の残債は2,629万円。45年返済のため、なかなか元金は減りません。問題は売却価格ですが、甘く見て2,000万円がいいところでしょう。これだと債務超過の状態であり、差額の629万円を一括で返済しない限り売却は不可能です。しかし、25万円の負担が厳しいのに、629万円の返済ができるわけがありません。貴方はマイナス運用の世界から逃れられず、自己破産の道を選びました。これが不動産投資家を待ち受けるアリ地獄のリアルです。

ところで、何でこんな悲惨な結果になったのでしょうか。まず借入れの比率が高過ぎます。オーバーローンのため45年ローンでも毎年の返済が多くキャッシュフローがマイナスになってしまっています。それから、3,000万円のマンション購入価格が割高です。割高な購入価格が災いし、売却時にキャピタルロスが発生してしまいます。

悲惨な結果を招かないために、不動産投資の大原則である収益還元法をご紹介します。不動産価格の理論値の算出法です。簡単なので、是非覚えておいていただきたいと思います。。
 不動産価格=ネット賃料(年額)÷キャップレート
仮に都内新築ワンルームマンションのキャップレートが4%であったとすると、賃料96万円÷0.04=2,400万円となります。つまり、貴方は600万円も割高な水準でマンションを買ったことになります。
他にも、想定賃料(月額8万円)が近隣の相場と比較して適正かどうか、近隣でのワンルームマンションの賃貸ニーズは見込めるのか等、事前のチェックが不可欠です。できる限りの情報は、自分の手と足を使って収集しましょう。


一度不動産投資家がアリ地獄にはまると、抜け出ることはほとんど不可能です。投資用マンションの購入を決める前に立ち止まり、今回ご紹介した収益還元法を使って購入価格の適正さを再度ご確認下さい。




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株式

【株】それでも売りますか

よく投資の秘訣はと聞かれ、「安く買って高く売ること」と涼しげに答える専門家の方がいます。その通りにできれば話は簡単なのですが、なかなかそうはいきません。それだけでなく、長期投資家は売った瞬間から「無限のループ」に入り込むという難題を抱えることになります。
長期投資家の運用原資となるキャッシュは毎月給与等から補填されるため、放っておくとどんどん累積していきます。そのためキャッシュは随時投資に回す必要があります。つまり、長期投資家は買い続ける運命にあるわけです。したがって、売りを入れたら、その瞬間から次の買いのタイミングを考えないといけません。そして、買ったらさらにその先の売りのタイミングを……と、売りを続ける限り投資家は永遠の悩みに取り憑かれることになります。この「売り」→「買い」→「売り」→……の連鎖を、私は無限のループと呼んでいます。でも、売った時点よりも相場が上がってしまったときなど、売値以上の価格で株を買い直すのは精神的に辛いモノ。また、思惑通りに相場が下がったとしても、(NISA/iDeCo以外は)利益の20%を毎回税金に持って行かれます。そんなことをするくらいなら、いっそのこと、長期の個人投資家は安く買うことだけを考えていればいいと私は思います。もっとも、最安値で買うことは無理なので、高く買わない=安く買う、程度の意味です。これは、「長期投資家の戦略はB/Sを使って稼ぐことにある」という私の基本的な考えによるものです。(B/Sを使って稼げ
(※)B/S:貸借対照表のこと

買いっぱなしでは実現益が取れないという方。プラスアルファの給料を株式投資で稼ごうと考えている方は、正直、止めた方がいいと思います。株式投資に費やすお金と時間と労力は、労働に充てるほうが賢明です。それでもやるという方は、日計り商い(デイトレード)に徹していただきたい。恐らく、大半の方は余りの勝率の低さに嫌気がさし、大怪我をする前にさっさと相場から退場されるでしょう。一部の才ある方は、是非、短期投資家の道を極めていただきたいと思います。

10%程度の値下がりで損切りするような投資は、最初からやらない方がいいです。私たち長期投資家にとっては、株が10%下がってからが本番です。長期投資家に基本的に損切りは不要。あるとすれば損切りで実現損を出し、配当収入とぶつけて税負担を抑えるときくらいでしょう。

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不動産

【不】不動産とJREIT、そして株式

現物不動産とJREIT。どちらも不動産に投資するという意味では同じですが、内容に関しては大きな違いがあります。現物不動産(以下、不動産)の代わりにJREITに投資しようとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、その前に両者の違いを抑えていただきたいと思います。【図1】に不動産とJREITの主な違いをまとめてみました。

まず、投資方法の違いから行きましょう。不動産投資は投資と名の付くものの、実態は不動産賃貸管理業です。投資家自身が物件の購入者となり、物件の管理を行います。業者に業務の一部をアウトソースすることもできますが、極力、投資家が事業主として積極的に業務に関与することがコスト削減・収益力アップの秘訣です。一方、JREITの運用は投資法人(実際は投資法人が委托する運用会社)が行います。投資家は投資法人が発行する投資証券を口数に応じ購入する形をとります。JREITは不動産投資よりも証券投資に近い商品です。所得への課税方法も、株式投信と同様です。
また流動性・価格透明性ですが、現物不動産はJREITに大きく劣ります。しかし、これは逆手にとれば大きなメリットとなります。他の投資家に先行してホットな川上情報を不動産業者から入手できれば、割安な水準で物件を仕込み、競争力のある条件でビジネスを展開できるからです。

次は、価格変動リスクについてです。JREITは東証に上場しており、時価は株式と同様に絶えず変動しています。JREITの年率ベースでの標準偏差(価格変動リスク)は20%を超えることもあり。東証株価指数(TOPIX)に匹敵するレベルです。しかし、国内株式との相関係数は0.5%強で、先進国債並みの水準です。また、β値(※)についても0.3~0.4程度の銘柄が多くあります。
(※)β値~TOPIXに対する個別株銘柄の感応度
こう見てくると、JREITは現物不動産の代替としてではなく、むしろ株式のポートフォリオの中でリスク分散の観点で投資する方が向いているように思います。
現物不動産の価格に関して、土地については公示価格や路線価等、建物については固定資産税評価額が一応の目安になるものの、正確な時価は鑑定評価でも取らない限り把握できません。そのため、不動産投資家は日頃、価格変動リスクを気にすることは余りないと思いますが、不動産に価格変動リスクがないわけではありません。水面下に隠れて見えないだけで、物件を売却するときに表面化します。その際慌てないよう、金利動向や近隣物件の取引事例に目を光らせていただきたいと思います。

最後に、JREITの高利回りに着目した投資には要注意というお話をします。JREITは利益の90%超を分配金に充てれば、法人税がかからない仕組みになっています。JREITの4%の高利回りは、この非課税措置によるものです。しかし、利益の90%を分配するということは、内部留保はほとんどできないということです。そのため、新たに物件を取得する場合は、基本的に増資に頼ることになります。そして、増資をすれば利益が希薄化し、JREITの価格はその分下落します。つまり、JREITの高利回りは、増資による価格下落とトレードオフの関係にあるということです。また、JREITの分配金は法人税を免除されているため、投資家は配当控除を受けることはできません。
株式の場合、企業は税引き後利益の一部を内部留保として蓄えます。そのため、設備投資には内部留保を取り崩して充当することができます。内部留保の充当であれば利益の希薄化は生じませんので、株価の下落もありません。また、配当に関しては、投資家は総合課税を選択することで配当控除を受けることもできます。


ここで私が申し上げたいのは、株式と同等の価格変動リスク、及び増資による価格下落リスクがあるJREITに4%の利回りを狙って投資するよりも、4%の高配当株に投資した方が合理的なんじゃないかということ。そして、JREITは株式とのリスク分散を狙って投資すべき対象だろうということです。
JREITという商品は株式と同様に、また、ときとして株式以上に価格変動します。そんなJREITは、不動産や債券の代替としてのインカム投資には無理があることを改めてご指摘したいと思います。

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株式

【株】長期投資の本質

今回は長期投資の本質について考えたいと思います。長期投資の考察は次の式から始まります。
P=EPS×PER(※)
ここで、Pは株価、EPSは一株利益、PERは株価収益率です。この式はとても簡単に導けます。
P=EPS×P/EPS  尚、P/EPSは以後PERと呼ぶことにします。(P/EPS=PER)
以上、ただの数式の読み替えです。なんとも簡単な式ですが、これが重要な式なんです。

EPSは「当期純利益÷発行済株式総数」で計算され、株主が1株持っていた場合に1年間に受け取れる利益(配当+値上がり益)のことです。そして、EPSは会社の業績に連動します。次に、PERですが、これは株主が投資した資金を何年で回収できると予想(期待)するか、その年数を意味します。ここで注意が必要なのは、EPSは企業利益という実績値であるのに対し、PERは株主=投資家の心理状態を表す期待値である点です。PERは投資家の気分次第で不規則に変化します。例えば、A社株に対し10年間で資金を回収しようと想定していた投資家が、翌日になって20年先までに回収できればいいと考えを変更した場合、EPSが不変であれば株価は2倍になる計算です。このように、PERは株式に対する投資家の人気のバロメーターと言えます。人気の高い会社の株ほどPERは高くなります。
短期的な株価の変動をランダムウォーク(千鳥足)というのも、気まぐれなPERのせいです。

ここで、EPSとPERの特徴について考えてみましょう。まず、EPSですが、EPSは企業の業績に連動しています。先々のEPSを予測することは、企業業績を予測することと同じです。1年、2年先といった短期の企業業績の予測は可能かもしれませんが、10年、20年先といった長期の企業業績の予測は不可能です。私たち長期投資家は、EPSの予測は無理とのスタンスで株式投資に臨む方が賢明です。ただ、ひとつ言えるのは、良い会社の業績はどんどん良くなり、悪い会社の業績はどんどん悪くなる傾向があるということです。つまり、EPSのリスクは発散型です。それでは、具体的にどう対応すればいいのか。答えは、銘柄・業種の分散投資です。複数社に分散投資し、うち何社かは業績悪化で株価が低迷し、さらに何社かは倒産するかもしれない。でも、1~2社は良好な業績で株価も上昇するだろう。そんなアバウトな前提で分散投資するのです。
例えば、5社の株式に1万円ずつ投資するとしましょう。5年後、1社の株価は5倍になり、他の2社は業績低迷により株価は半分、残りの2社は倒産して株価はゼロになったとします。こんな悲惨なケースは珍しいです。では、全体資産の金額はどう変化したでしょうか。1社は株価が5倍で5万円、2社は株価が半分で5千円×2=1万円、2社は株価0円で、計6万円です。そう、こんなひどいケースでも、5万円はちゃんと6万円になりました。長期投資においては、株価が投入金額の10倍以上になることは珍しくありません。また、0円以下に値下がりすることもありません。このようにEPSの発散型変動リスクは、損益の非対称性を活用した銘柄・業種分散投資により希薄化することが期待できます。

次に、PERの特徴についてです。先程、PERは株主が投資した資金を何年で回収できると予想するか、その年数のことだと言いました。PERは株主=投資家の期待値で心理的な変数です。何の具体的根拠もなく投資家の思惑だけでPERは上昇し、下落します。しかし、短期的には不規則に上下動するPERも、中長期的には一定のレンジに収まることが知られています。つまり、PERのリスクは収束型です。日経平均株価であれば、PER=15倍程度がレンジの中央値となります。そこで、PERの収束型変動リスクは、時間分散投資(ドルコスト平均法)によって低減を図ることが期待できます。

長期(分散)投資の本質は、①長期の時間軸で複利効果のメリットを最大限享受しつつ、②銘柄・業種分散投資でEPSの変動リスクと、③時間分散投資でPERの変動リスクの低減を図ること、にあります。

<付録>
ときどき、長期投資のリスクが高いか低いかで議論している人を見かけます。これは、一方が(EPSの)リスクは長期の方が高いと主張し、もう一方は(PERの)リスクは長期の方が低いと主張しているわけです。両者は異なる論点に立って議論していることに気づいていません。双方の主張はそれぞれ正しく、この議論は永遠に平行線を辿ります。
私たちは長期投資におけるEPSの高リスクを、銘柄・業種分散投資を行うことで希薄化することを目指しています。

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年金

【年】確定拠出年金の優位性

2001年10月の確定拠出年金法施行以降、確定拠出年金(DC)の加入者は着実に増加し、2021年3月末時点では企業型と個人型(iDeCo)を合わせたDCの加入者数は941万人と、確定給付企業年金(DB)の加入者数933万人を初めて上回りました。
DCと聞くと、「会社は運用のリスクを従業員に押しつけるのか。けしからん!」という怒りの声が聞こえてきそうですが、実はDCにはDBにはない優れた点がいくつかあります。今回は、そんなDCの優位性についてお話したいと思います。

皆さん、確定給付ってどんな意味だと思いますか?給付が確定しているのだから、会社から受取る年金や一時金の額が予め決まっている制度だと思っていませんか。その理解が100%正解かというと、怪しいです。本来、DB(Defined Benefit)は「確定給付」というより「給付建て」という方が正しいです。日本語の訳がちょっと変なんです。因みに、DC(Defined Contribution)も「確定拠出」より「掛金建て」が正しいです。
そこでDBですが、給付の額が約束されるとの理解は、ときに裏切られます。会社は要件(※)を満たせば、現役の社員の給付を比較的容易に引き下げる(給付減額)ことができるからです。(OB、年金受給権者に関しては、給付減額のハードルは非常に高いです。参照:生保予定利率引き下げと給付減額)
(※)DB給付減額の要件(現役社員の将来給付額の引き下げ)
①会社の経営状況の悪化により給付の減額がやむを得ないなどの一定の場合。
②加入者の1/3以上で組織する労働組合があるときは当該労働組合の同意、及び加入者の2/3以上の同意を得ていること。

私は、経営状況が悪化したからといって給付を減額できる制度を「確定給付」と呼ぶのはミスリードのもとだと思います。またDBに関しては、懲戒処分等で退職した社員について、本来受け取れる年金・一時金を減額して払うことも一般に行われています。
これに対しDCの場合、会社から従業員の口座に振り込まれた掛金は、その時点で従業員のものとなります。会社の経営が悪化しようが倒産しようが、従業員の給付を減額することは許されません。従業員が懲戒解雇となっても、満額の給付を受取ることができます。(これはメリットとは言えないかもしれませんが。)

次に運用の観点から見ていきましょう。年金は長期の制度ですから、年金資産の運用も長期の視点で考えるべきです。しかし実際にはDBの運用は、1年という短期の時間軸で、また多くの会社では目標リターン2.0%~2.5%という低水準で行われています。なぜかというと、会社は年度ごとにDBの運用実績を決算に反映させる必要があるからです。目標リターン(予定利率)が2%の会社でDBの運用実績が-3%の場合、年金資産の5%に相当する金額を損失として決算に計上することになります。(会社によっては複数年で分割計上します)いくら本業が黒字でもDBの運用がマイナスだと、会社決算は赤字に転落する可能性があるのです。それを回避するため、DBを採用する会社は1年という短期で、目標リターンが2%程度の保守的な運用を行うわけです。しかし、このような短期目線でリスク抑制的な運用では、十分なリターンは期待できません。せっかくの長期運用のメリットが死んでしまいます。

これに対し、DCには会社の決算は関係ありません。掛金が従業員の口座に入金された瞬間に会社との縁は切れ、後は従業員のものです。1年という時間に縛られることなく、リスク資産への投資により年金本来の長期運用のメリットを享受することができます。運用結果次第ですが、DBから受け取るよりも多額の年金・一時金を手にすることも可能です。少なくとも、年金のあるべき運用を実現できるという点で、DCはDBよりも優れています。

今後、2022年10月には企業型DC加入者のiDeCo加入要件が緩和され、企業型DC加入者は原則としてiDeCoにも加入できるようになります。(マッチング拠出選択者は除きます) また、2024年12月からは、多くのDB加入者の企業型DC/iDeCoの拠出限度額が引き上げられます。
リスクを愛する個人投資家の皆さん。この機会にDC掛金の増額を検討されてはいかがでしょう。