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株式

【株】投資を楽しむ

株式投資をやるからには、儲けを狙うだけでなくプロセスを楽しみたい、他人にアピールしたい。そんな人にとって、ほったらかし投資ほどつまらないものはないでしょう。大事なお金をつぎ込んでいるのに、投資をしたら後は見ているだけなんてもったいない。そんな声が聞こえてきます。

投資を楽しみ、投資をアピールするには、マーケットに参加して積極的にトレードを行うことが必要です。スリルを味わいたいなら、信用取引や先物・オプションといったデリバティブ取引が効果的です。

ただ、残念ながら投資の儲けと楽しみは両立しません。投資は、他人の嫌がるリスクを引き受ける代わりに報酬(儲け)をいただく行為です。本来、そこに「楽しむ」余地はありません。投資は辛いものです。ですから、投資を楽しもうと思ったら、儲けに係わらず「エンタメ料」を別途支払わなければいけません。「ええじゃないか」や「スチールドラゴン2000」なみのスリルが味わえる信用取引やデリバティブ取引は、かなり高額な料金となります。

ケチで小心者の私は、地味にほったらかし投資を続けています。

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株式

【株】2つのユーロ円

今回は、金融関係者にとっては常識かもしれませんが、一般には余り知られていない、そんなお話です。
6月13日の日経新聞朝刊に、「東急、CBで600億円調達」と題する記事が掲載されました。「東急は12日、ユーロ円建ての新株予約権付社債(転換社債=CB)を発行し、……」と記事は続きます。この記事、よく読むと何か変だと思いませんか? ユーロは言うまでもなく、EU加盟国の共通通貨のことです。東急が通貨ユーロを調達したのなら、冒頭の記事は「東急は……、ユーロ建ての……」となるはずですが、「東急は……、ユーロ円建ての……」となっています。「ユーロ円」って「1ユーロ=150円」みたいな、ユーロと円の交換比率のことじゃなかったっけ? ユーロ建て? 円建て? 東急はどっちで調達したの? 記事の内容が意味不明です。
ここで先にネタばらしをすると、「ユーロ円」には「ユーロと円の交換比率」の他に、もうひとつ別の意味があるんです。

話は1950年代に遡ります。当時、アメリカとソ連(今のロシア)は、資本主義V共産主義というイデオロギーのもと、世界を2分して激しく対立していました。そして、ソ連陣営に属する東欧諸国は、アメリカによる差し押えを回避するため、自国の中央銀行が保有する米ドルを西欧の銀行に預けていました。米国の主権が及ばない国外に預けられたドルは「ユーロドル」と呼ばれました。その後、「ユーロドル」に倣って自国市場外で取引されるドル以外の通貨も、ユーロなら「ユーロユーロ」、円なら「ユーロ円」と呼ばれるようになったのです。冒頭の記事を、東急が(日本国内にある円ではなく)海外にある円を調達する、という意味で読めばすっきり腹落ちします。

「ユーロ円」がどちらの意味で使われているのかは、その都度文脈から判断するしかありません。ややこしいですね。

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不動産

【不】再考、持家か賃貸か?

以前、持家と賃貸、どっちが得か議論しました。(持ち家と賃貸) そのときの結論は、同一グレードの物件での単純なコスト比較なら持家が得だけれども、定性面を含めた総合的な評価では持家が得か賃貸が得かは一概に言えない、というものでした。今回は、不動産投資家にとって持家と賃貸のどっちが得か、改めて考えてみたいと思います。一般の方の場合とはまた違った結論になるかもしれません。 

収益物件への投資を考える人が住宅ローンで持家を購入すると、その分アパートローンの与信枠を食われてしまい、以後の投資に支障が出ます。不動産投資家は自身の与信枠をアパートローンに集中する方が合理的です。たとえ、ハイパフォーマーであっても社宅等の借り住まいで我慢し、不動産投資による賃料収入の獲得に専念すべきです。また、リスクテイクに余力のある方には、併行して株式投資を行うことをお薦めします。不動産投資のレバレッジ効果と株式投資の複利効果の両輪で、資産は大きく成長することでしょう。知らんけど。

そこまでリスクを取りたくないという方には、ヤドカリ投資をお薦めします。これは、持家の住み替えを繰り返しながら、キャピタルゲインを積み上げていく投資手法です。ヤドカリ投資では、まず自己居住用の持家を住宅ローンで購入します。ここで大切なことは、将来高く売却できる可能性のある物件を選ぶことです。そして、値上がりのタイミングを捉えて物件を売却します。ヤドカリ投資の良い点は、意に反し物件が値下がりしても、そのまま住み続けていれば損失が顕在化しないことです。投資の失敗が致命傷となりにくいのです。
また、ヤドカリ投資で購入するのは自宅であるため、低利の住宅ローンを利用できます。さらには、持家を売却して利益が出た場合、所有していた期間に係わらず3,000万円までの特別控除を使えます。これは、収益物件にはない優遇措置で、ヤドカリ投資の大きなメリットです。なお、ヤドカリ投資では条件を満たせば住宅ローン控除も使えますが、3,000万円の特別控除との併用はできませんので注意が必要です。

不動産投資家にとって持家と賃貸のどっちが得か。アパートローンを利用して収益物件への投資を考えている方なら賃貸が得、ヤドカリ投資を考えている方なら持家が得、となります。

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株式

【株】初夏の大花火大会

なぜ、相場は上がるのか? 投資経験のない人に聞いたら、「買う人がいるから」という答えが返ってくるでしょう。でも、私たち投資家は知っています。相場が上がるのは、「売る人がいるから」ということを。

確かに、上げ相場は買う人がいなければ始りません。でも、買い方が中心の上げ相場は、上げ幅が限られ長続きしません。想定外の急激な上げ相場の裏には、必ず売り方の踏み上げ(損失覚悟の買い戻し)があります。相場が上がる⇒売り方が踏む&新たに売建てる⇒相場が上がる⇒売り方が踏む&新たに売建てる⇒……⇒……。この売り回転が効いている限り、上げ相場は続きます。因みに、足下の日経平均の売り方の状況(空売り比率)は下表の通りです。

(出所:日経平均リアルタイムチャート

日経平均が27,000円台に留まっていた3月下旬から空売り比率は40%台のまま、変わっていません。今回の上げ相場で売り回転が効いている証拠です。しかし、売り方は相場の上昇で損失を被りながら、なぜ性懲りも無く再び売りを入れるのでしょうか。それは、彼らが近い将来、相場が下げに転じると確信しているからです。
米国の債務上限問題や金融機関の破綻、日本でも物価上昇や日銀金融政策の変更観測等、売り材料を上げたらきりがありません。明日、相場が急落したとしても何の不思議もないです。でも、市場に弱気なムードが漂っているときほど、意外と上げ相場は続くものです。

では、この上昇相場はいつ終わるのでしょうか? 正確なところは、神様に聞いてみないと分かりませんが、予兆を探る手立てならあります。それは、空売り比率の変化に注目することです。売り方が相場の下落に賭けることを諦め、売りポジションをたたんで空売比率が低下したら要注意です。上げ相場継続の条件である売り回転が効かなくなるからです。
売り方の買い戻しは、最初は少しずつですが徐々にヒートアップし、最終局面ではパニック的な様相を呈します。もはや株価を意識する冷静さは失われ、われ先にと日経平均を買いまくります。そして、初夏の夜を彩る打ち上げ花火のように、株価は天空を目指します。
恐らくこの瞬間、日経平均株価は、当面の高値を付けることになるでしょう。

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不動産

【不】不動産投資そもそも論

不動産投資は最終目標(ゴール)をどこに置くかによって、大きく2つのタイプに分かれると思います。

一つ目は、保有する物件数の極大化を図るタイプです。30年~40年後、全ての借入れの返済を終えた時点でひとつでも多くの物件を保有し、豊富な賃料収入で悠々自適なシニアライフを目指す。そんな、ストック志向型のアプローチです。
このタイプでは、フルローン、オーバーローンを厭わず、可能な限りの借入れを行い、レバレッジをフルに効かせて物件を買い進めていきます。しかし、借入れの返済計画に狂いが生じた途端、自己破産に一直線となる危険性と隣り合わせであることを忘れてはいけません。

それだけのリスクを負って物件を買い進めた先にある到達点ですが、そこには厳しい現実が待っています。40年後、手元にある築古マンション達に、キャッシュフローを生み出す力がどれだけ残っているでしょうか。ほとんどが幽霊マンションと化し、空室が大量に発生したり、設備の老朽化で高額な修繕費が必要になったりと、毎年増加するキャッシュアウトに悩まされることでしょう。これらの負動産に年金の代わりは期待できません。「こんなはずじゃなかった」と嘆いてみても、あとの祭りです。
そもそも、大きくレバレッジを効かせたストック志向型のアプローチは、米国のようなインフレ傾向の国で、時間の経過とともに借入れの実質価値が減価していく環境でこそ有効な戦略です。デフレ傾向の我が国においては、借入れの実質価値が時間とともに増大するので、大きなレバレッジは不利です。(今後、日本でもインフレ傾向が定着すれば、ストック志向型アプローチが有効となるでしょう。)

二つ目は、各種リスクへ配慮しつつ物件の購入・売却を繰り返し、獲得するキャッシュの極大化を図るタイプで、フロー志向型のアプローチです。
このタイプは、十分な頭金と借入れで物件を購入し、物件の賃料で短期間での借入れ返済を目指します。完済したところで改めて借入れを行い、もう1物件を購入、以後2物件で借入れを返済していきます。当然、返済スピードは早くなります。その後も完済と同時に借入れを行い、物件を買い増していきます。そして、購入した物件は5年~10年単位で売却し、別の物件に入れ替えます。購入と売却のサイクルの中で、賃料利回りと借入れ金利のスプレッドを抜いていくイメージです。これはJREITや私募不動産ファンドが採用する戦略と同じで、日本のように低金利な環境で有効となります。
なお、このタイプは頭金の確保がネックとなりますが、ローンの破綻リスクは限定的です。また、継続的に物件の売却と購入を繰り返すので、流動性も確保できます。さらには、物件の購入と売却のタイミングを分散しており、金利や不動産市場等マクロ環境の変動リスクにも対応可能です。
不動産市場が低迷している場合、物件の売却には不利ですが、物件を購入するには最高の環境です。この戦略では売りと買いがセットとなるので、不動産市況の影響を中和することができます。

以上、不動産投資の2つのアプローチについてお話をしましたが、実際は両者の中間を行く投資家の方が多いと思います。また、今回は主に不動産投資のマクロ的な側面に触れましたが、優良物件の仕込み方や物件の管理手法等ミクロ的な側面も運用の成否を分ける重要なファクターとなります。

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株式

【株】相場予想が当たらない訳

お正月の日経新聞では、大手企業の経営者が向こう1年間の株式相場の予想を行うことが恒例となっています。また、毎週月曜日には証券各社のホームページに、アナリストの「今週の相場予想」がアップされます。このように、いたるところで様々な立場の人たちが、日々相場の予想を行っています。しかし、私は30年以上マーケットの近くで仕事をしていますが、高確率で予想をヒットさせる人にはお目にかかったことがありません。

でもちょっと考えれば、超能力の存在でも前提にしない限り、相場の予想などできるわけないことが分かります。月曜日の朝、A証券会社のアナリストB氏が自社のホームページに今週の相場予想をアップするとします。時刻は、ただいま7:00AM。B氏は新聞各社の報道、情報端末やインターネットの記事等、7:00AM時点で入手可能なあらゆる情報をもとに完璧な相場予想を目指します。しかし、この予想はあくまで7:00AM時点の情報がベースです。7:05AMに新たなニュースが飛び込んできたら、7:00AM時点の相場予想の完璧性は崩れます。これが、1日後、1ヶ月後……と、時間が経過するにつれ当初は想定していなかった情報があふれ、相場予想は占いと化します。明日のことならいざ知らず、アナリストに将来の相場予想を期待することは、最初から無理な相談なのです。今や世界は24時間繋がっています。世界中のどこかで起きた事件、現象を相場は即座に織り込みにいきます。相場は自ら意思を持つ生き物の如く、時宜刻々と行き先を変えます。

プロの短期投資家は、相場の方向性にベットすることはありません。相場の方向性を予想することが無意味であることを知っているからです。彼らの判断軸は統計データです。拠って立つのは、あくまでサイエンスです。過去の何十万、何百万というデータと照らし合わせ、今現在の相場の値動きに統計的に有意な異常性(アノマリー)を見い出したら瞬時にポジションを取り、異常性が消えた次の瞬間にポジションを解消する。この瞬時の僅かなサヤ取りを、アルゴリズム取引による超高速売買で繰り返し繰り返し行い、収益を積み上げるのです。
私たち個人投資家に、プロの短期投資家の真似はできません。私たちにできるのは、信頼のおけるアナリストの相場予想に、時間の経過によって新たに加わった情報を自身の手で織り込み、エコノミストの相場予想をアップデートすることです。そして、アップデートした相場予想をもとに投資戦略を考えることです。しかし、アップデートした相場予想も数分後には一部が陳腐化し、時間とのいたちごっこが始ります。

結局、個人投資家も相場にベットすることはあきらめ、相場観を入れないドルコスト平均法によって、機械的に定時定額投資を続けることが賢明なように思います。

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保険

【保】保障最新化の罠

医学の進歩に伴い、医療の現場は日々変化しています。10年前は常識であったことが現在においては非常識、といったことが頻繁に起きます。例えば、がんの治療は、10数年前であったら手術の後、入院した状態で放射線や抗がん剤の治療を行っていました。自ずと入院は長期化します。しかし、今では余程大きな手術の後でも2週間程で退院し、通院しながら外来で放射線や抗がん剤治療を受けることが一般的です。
医療保険やがん保険の保障は、その時々の医療の実態に合わせ最適な状態に設計されます。したがって、保険の保障も医学の進歩に伴い時間の経過とともに陳腐化し、使いものにならなくなります。2週間で病院を追い出されるのに、がん保険に長期の入院保障は不要です。

保険会社や代理店は、実態に合わなくなった古い医療保険やがん保険の保障見直し(保障最新化)を盛んに契約者に訴えます。役に立たなくなった保障内容を放置したら、いざというときに契約者からクレームが出ることは避けられません。保険会社や代理店は契約者(被保険者)の利益を守り、さらには契約者(被保険者)の命を守るため、必死になって古い保険契約の最新化を訴えているのです。でも……、それだけでしょうか?

保険は若いときに加入した方がお得と、昔からいいます。確かに、終身払いの保険の場合、20歳で加入した方が40歳で加入するよりも保険料の月額は安くなります。なぜ安くなるか。その理由ですが、若いときに加入した方が保険料を払う期間が長くなるからというだけではありません。病気になって保険金が支払われる可能性が高いのは、当然高齢者です。若年者は病気になる可能性は低く、保険金が支払われることもほとんどありません。つまり、保険会社にとって、高齢者はリスクが高く、若年者はリスクが低いということです。そのため、若いときに加入するほど保険料は安く設定されます。そして、若年者が払った保険料は自身の保険金として還元されることはなく、そのほとんどが掛け捨てとなり高齢者の保険金に充当されます。

ただ、これは不当ということではありません。安い保険料で加入した若年者も、やがては高齢者となります。病気がちとなり、通院だの入院だの手術だのと、頻繁に保険金の支払いを受けるようになります。つまり、若年期に掛けた保険料は、高齢期に元を取る仕組みになっているわけです。しかし、これは当初の契約を終身で継続した場合の話であって、途中で見直しを行った場合には該当しないことに注意が必要です。保険の見直しとは旧契約を解約し新しい契約に入り直すことですが、保険料も見直し時点の年齢で再計算されます。つまり、保険契約を見直すとは、若いときから掛けてきた保険料を高齢期に取り戻す権利を放棄し、年齢に見合った高いリスクを織り込んで再計算された割高な保険料に乗り換えることを意味します。
保険会社にしてみれば、若年者が高齢期に差し掛かった後は割安な保険料で保険金を支払わなければならず、逆ザヤとなります。そして、この逆ザヤは解消すべき経営課題となりましょう。

保障の陳腐化を避け、いざというときに役に立つ保険の質を維持するためには、定期的な保障の見直し、保障の最新化が欠かせません。保険会社や代理店のこの言葉に偽りはありません。しかし、保障の最新化によって失われる契約者の利益があることも憶えておいてほしいと思います。

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不動産

【不】10年で資産を倍にするには

10年で資産を倍にする。言うのは簡単ですが、いざ実行しようとしたら大変です。今回は株式や不動産を使って、はたして10年で資産を倍にできるかどうか、頭の体操をしてみたいと思います。

まず、株式です。一般に株式投資では複利効果を活用して資産を増やします。ご存じの方も多いと思いますが、「72の法則」というものがあります。これは資産が倍になる年数と利回りをかけると72になるという法則です。例えば、利回りが6%なら、だいたい12年で資産が倍になります。(6×12=72) 今回は10年で資産を倍にしたいので、必要な利回りは7.2%となります。皆さん、どうお感じでしょうか。私には7.2%の運用を10年も続ける自信はありません。また、過去の相場から考えると、10年の間に20%程度の相場下落を1回、10%程度の下落を1回は想定しておく必要があると思います。その場合、残りの8年間で必要な利回りは13.6%まで跳ね上がります。(※)
(※) 1×(1-0.2)×(1-0.1)×(1+0.136)^8=1.997
やはり、10年で資産を倍にするのは相当に難易度の高い宿題です。 
また、10年後に資産をキャッシュ化する場合、株式の売却に伴い(NISA等の非課税枠が使えない場合)20%の所得税を覚悟しなければいけません。

次に、不動産です。一般に不動産投資では借り入れによるレバレッジ効果を活用して資産を増やします。今、手元に5,000万円あるとします。これを頭金に銀行から5,000万円を借入れ(金利:0.5%変動、借入れ期間:10年)、1億円の中古一棟賃貸マンションを購入するとします。この場合、毎年の返済額(元利均等返済)は515万円です。(ご参照:高精度計算サイト) したがって、515万円÷1億円=5.15%以上の(実質ベース)賃貸利回りがあれば、10年後にローンを完済し資産倍増を達成することができます。ただ、賃貸経営には固都税を始め、FR・AD等の客付け費用、修繕費・火災保険やリフォーム代等の運用経費等、諸々のコストがかかってきます。そのため、実質ベースで5%となると、都心でも表面利回りベースで8%は必要と思われます。しかし、今どき地方の築古物件やワケあり物件を除いて、そんな高利回り物件にお目にかかることはまずありません。また、賃料の下落や空室・滞納の発生、借入れ金利の上昇(変動金利ローンの場合)等のリスクも考慮する必要があります。やはり不動産の場合も、10年で資産を倍にするのは至難の技のようです。
なお、賃料収入には不動産所得として所得税がかかってきます。また、10年後にキャッシュ化のため投資物件を売却する場合、市場環境によっては売却損が発生する可能性もあります。

今回、株式投資と不動産投資に、「10年後の資産倍増」という同じ目標を掲げてみました。両者を同じ目標の下で比較すると、投資手法の違いや特徴が良く見えてきます。株式投資は、いかに資産を増やしていくかという、足し算的な方法論。一方、不動産投資は、いかに諸々のコストを抑えローンの返済計画を無難に回していくかという、ある意味引き算的な方法論と言えます。そして、両者に共通しているのが、出口のリスクです。株式投資も不動産投資も、投資対象のキャッシュ化が終わって初めて投資の総括と結果の判断が可能となります。


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ライフプラン

【ラ】相続は難しい

相続は難しい、といつも思います。そこで、何でこんなに難しいのか考えてみました。たどりついた答えは、「相続は文脈によって意味合いが変わるから」です。相続関連の同一のワードであっても、それが遺言や遺産分割のような法律に係わる文脈で使われるのか、相続税の節税対策のような税金に係わる文脈で使われるのかによって、意味合いが異なってきます。そして、文脈が不明なまま相続の話をすると、聞き手は話し手の意図を理解できず混乱することになります。弁護士や司法書士を訪問する相談者は法律の問題で悩んでいるでしょうし、税理士を訪問する相談者は税金の問題で悩んでいるものと推測できます。しかし、FPの場合は相談者が抱える問題が何なのか様々なケースが想定され、予断は禁物です。相談者の意図を当初の段階で確認しておかないと、誤った情報を相談者に提供することになりかねません。十分に注意したいものです。
それでは、相続に関連するワードの解釈が文脈によっていかに変わるか、実例をいくつか見ていただきたいと思います。

まずは、「相続財産」です。遺産分割の対象となる財産のことですが、例えば、被相続人が被保険者となっている「死亡保険金」は、民法上は「相続財産」に該当せず、遺産分割の対象にもなりません。保険金受取人の固有の財産とされるからです。また、原則、遺留分(※1-a)の対象にもなりません。(※2) しかし、税法上は「死亡保険金」を「みなし相続財産」として「相続財産」に含め、相続税の計算をします。被相続人の死亡に伴い支給される「死亡退職金」も同様で、民法上は「相続財産」に該当しませんが、税法上は「みなし相続残産」として相続税が課税されます。
さらにややこしいのが、「遺族年金」です。厚生年金や国民年金等公的年金の「遺族年金」は、受給権者の固有の財産として民法上も税法上も「相続財産」に該当しません。しかし、企業年金のうち確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(DC)の「遺族年金」は、死亡退職金に準じて相続税の対象となります。同じ企業年金でも厚生年金基金の「遺族年金」は、公的年金に準じ相続税は課税されません。

次は、「遺産分割の期限」です。民法上はいつまでに遺産分割を終えなければいけないか、特に「期限」は設けられていません。しかし、民法の改正で2023年4月より特別受益(※1-b)や寄与分(※1-c)の主張をする場合に限り、相続開始後10年以内に遺産分割を終える必要が生じました。また、不動産登記法の改正で2024年4月より、相続が発生し不動産の所有権を取得したことを知ったときから3年以内に、不動産の登記を名義変更することが義務付けられました。
税法上は、相続が発生したことを知った日から10ヶ月以内に申告し、相続税を納税しなければいけません。10ヶ月以内に遺産分割協議がまとまらない場合、配偶者控除や小規模宅地の特例等の相続税軽減措置は使えません。ただ、相続税申告時に「3年以内の分割見込書」を提出すれば、遺産分割が成立した時点で更正請求を行うことで、遡って特例の適用を受けて納め過ぎた税金の還付を受けることができます。

最後は、「持ち戻し」についてです。民法での「持ち戻し」とは、生前に被相続人から特別受益を受けた人がいる場合、その特別受益を相続財産に加えて遺産分割を行うことをいいます。これにより相続人間の公平を図ることができます。特別受益に時効という概念はありませんので、どれだけ古い贈与であっても、特別受益として「持ち戻し」の対象とすることができます。ただし、遺留分を計算する際の特別受益については、10年以内と期限が設定されています。
また、税法での「持ち戻し」とは、相続発生の直前に行われた生前贈与はその効果が否認され、贈与された財産を相続財産に加えて相続税を計算する制度をいいます。2023年度税制大綱では、「持ち戻し」の対象が従来の相続開始前3年分から7年分に延長されることとされました。(2024年度の贈与から適用。経過措置あり。)

(※1)ここで、用語を整理しておきます。
(a)遺留分:遺贈や生前贈与などに対抗して主張できる、自己の最低限の相続分のこと。
(b)特別受益:遺贈や生前贈与で被相続人から特別な利益を得た人が相続人の中にいた場合の、その相続人が得た利益のこと。被相続人から贈与された住宅取得資金や結婚資金等が該当。遺産分割の際、その相続人の持ち分から控除します。
(c)寄与分:介護等によって被相続人の財産の維持や増加に貢献した人が相続人の中にいた場合の、その相続人が与えた利益相当のこと。遺産分割の際、貢献に応じてその相続人の持ち分に加算にします。
(※2)最高裁の判決では生命保険金について、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて持戻しの対象となると解する」とされています。つまり、保険金受取人の受取る死亡保険金が他の相続人とのバランスを大きく崩すほど多額な場合には、保険金受取人が遺留分侵害額請求の対象となりうるということです。

【おまけ】
もうひとつ悩ましいのが、民事信託(家族信託)と相続の関係です。信託財産は民法上「相続財産」ではないとされており、税法上も信託受益権を「みなし相続財産」として取り扱う旨、規定されています。(「みなし相続財産」として課税されるということです。)そのため、第一受益者に続く第二受益者が信託契約に設定されていれば、第一受益者に相続が発生しても信託受益権は遺産分割の対象とならず、信託契約に従って第二受益者に直接承継されます。ただし、第二受益者が設定されていない場合は、他の相続資産と一緒に遺産分割の対象となります。

次に、信託受益権が遺留分侵害額請求の対象になるかです。かつては死亡保険金と同様、「みなし相続財産」であるから遺留分の請求対象とはならない、とする説が有力でした。しかし、現在では受益者の死亡で移転した信託受益権は遺留分の請求対象となるとする説が有力です。民事信託の信託受益権は、原則、遺産分割の対象とならない点では死亡保険金と同様ですが、遺留分の対象となる点で死亡保険金と異なる点に注意が必要です。

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株式

【株】平成バブルと停滞の30年

まずは、下のチャートをご覧下さい。「Trading view」から拝借してきた1950年以降の日経平均のチャートです。まず目につくのが、平成バブルの際だった山の高さと谷の深さです。ITバブル、リーマンショック、コロナショックでの相場下落が可愛く見えます。それから1980年代半ばを境に、まるで別の商品になったかのように日経平均の値動きが活発になっています。これはどういうことでしょうか。

平成バブルというと決まってジュリアナ東京でお立ち台に立って踊る、超ミニスカートのお姉様方が連想されますが、当時を生きた人間の一人として、日々の生活が豊かになったとか、給料がものすごく上がったという実感は乏しかったように記憶しています。確かに、証券会社の若手社員がボーナスで200万円もらったとか、噂には聞いていましたが、一部業種を除く大方の日本人にとってバブルの恩恵は縁遠かったということでしょう。景気の高揚感ない中での資産価格の上昇。これが平成バブルの特徴かもしれません。従来であれば、景気変動にシンクロする形で株式相場も変動していたものが、2度のオイルショック以降の本邦経済の低成長化により実体経済から乖離した株式市場が、糸の切れた凧みたく独自の力学で動くようになったのが1980年代半ばではないかと考えます。そんな地合のところへ、当局により内需拡大・円高回避を企図した大量のマネーが供給されました。低成長化した本邦経済はもはやマネーを需要せず、行き場を失ったマネーは株式・不動産市場に流れ込んで、閉じた空間の中を高速回転しながら資産価格を非合理的な水準へと押し上げたのです。

平成バブルが形成される過程では景気の高揚感はなく、目立った物価の上昇もありませんでした。実体経済と資産市場の乖離。これが平成バブル形成期の特徴だったわけです。しかし、バブル崩壊後、停滞の30年で起こったことは、皮肉にも資産市場と実体経済の連鎖です。資産市場の暴落による金融機関・事業会社のバランスシートの悪化が実体経済の信用収縮に繋がり、デフレスパイラルに巻き込まれた本邦経済は悪化の一途を辿りました。1997年~98年の金融危機から2003年のりそな銀行公的資金投入までの数年間、我が国はまさに亡国の危機に瀕していたと言っても過言ではありません。ひとつ間違えば、隣国のようにIMFの管理下に置かれていた可能性すらあったのです。

足下の株高をバブルという意見もありますが、上のチャートでリーマンショックによる暴落以降の株価の足取りと、平成バブル形成期の株価の足取りを比較してみて下さい。今回の株高が、何度も立ち止まり、地べたを踏み固めながら慎重に上昇してきている様子が分かると思います。当然短期的な調整はあるでしょう。しかし、それをいたずらにバブル、バブルと煽る姿勢には疑問を感じます。そういう方々には、バブル崩壊が日本国民に如何に甚大な犠牲を強いてきたか、今一度、思い起こして頂きたいものです。