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株式

【株】メタバースで株式投資

5月13日の日経新聞で、「メタバースで金融商品」と題した記事が掲載されました。メタバースは仮想現実(VR)ゴーグルなどを使い、アバター(分身)で個人が自由に行動できる仮想空間を指します。記事では、「損害保険ジャパンはANAホールディングスが始める仮想旅行や仮想ショッピングモール内で、現実世界の旅行時のケガに備える保険を販売する。」とのこと。また、「保険会社は顧客に観光や災害の疑似体験を促しながら、保険需要を喚起できる。保険代理店やネットを含めた従来の販路に加え、メタバースが新たな販路となる。」とあります。

私はこの記事を読みながら、これは株式投資にも使えると思いました。投資未経験者が株式投資を始める場合、最大の課題が株価下落時の恐怖心の克服です。長期投資を行う場合、必ず株価の急落局面はやってきます。株が下落するたびに損切りしていたら、いくらお金があっても足りません。そのためには、相場の下落とその後の回復を実体験し、株価の下落に慣れることと、相場のリズムをつかむことが一番の近道です。しかし、多くの方は、株式投資を始めたあと最初の株価下落局面にびっくりし、もうこりごりと、そのまま株式投資から撤退してしまいます。

そこで、株式投資初心者には、メタバース内のリアルに限りなく近い環境下で株式相場の変動を疑似体験し、株価の下落に慣れていただくのです。例えば、2008年のリーマンショック時の米国株式の下落とその後の回復状況をメタバース内で疑似体験すれば、株価急落への抵抗力(胆力)を養うことができると思います。メタバース内でのトレーニングで心臓に毛が生えれば、今回のナスダックのように高値から3割下落しようが、平然と押し目を拾えるようになります。

でも、ひょっとしたら近い将来、メタバース内の仮想証券取引所の取引量がリアルの証券取引所の取引量を上回り、メタバース内取引所がメイン、東証が疑似取引所のようになってしまうかもしれませんね。

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閑話休題

【閑】ヘタレのけじめ

個人投資家を志す方たちに本質的な情報を提供していきたいとの当ブログに込めた私の思いは、トップページやプロフィールに書かせていただきました。しかし、ブログ開設に至る経緯についてはまだお話していません。そこで、今回は私のヘタレなサラリーマン人生と、私なりのけじめの付け方。そして当ブログ開設の経緯についてお話したいと思います。サラリーマン人生の失敗例として、またそうならないための反面教師として、少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。

1987年6月、私は2ヶ月間の新入社員集合研修のあと、某銀行某支店に営業担当として赴任しました。運良くリッチなお客様を担当することになったため、当初数年間は良好な営業成績を上げることができました。上司から好評価をいただき、入社5年目には会社でも花形とされる部署へ異動することになりました。今にして思えば、この瞬間が私のサラリーマン人生のピークでした。


新しい職場は、当時まだ黎明期の債券デリバティブのディーリング部門でした。スタッフの半数は外人。英語と数学が飛び交う職場です。ど文系で超ドメスティックな地方大学を赤点すれすれで卒業した人間にとって、全くの別世界です。私は転勤早々、来てはいけない所へ来たことを実感しました。私なりに努力はしたつもりです。しかし、時間がたつにつれ、私の業務への適応性のなさは誰の目にも明らかとなり、悪あがきするほどトレードの損失は膨らんでいきました。そして、ある日、上司に呼ばれ、「もういい。何もするな。」と告げられました。

普通、仕事ができない人間に対し上司がかける言葉は、「もっと仕事しろ」であり、「死ぬ気でヤレ」です。近年ではパワハラになってしまうかも、ですが。でもこれらの言葉には、「君なら頑張ればできる」という上司の期待が込められています。本当にダメな人間には、こんな言葉はかけません。そんなわけで、私は入社5年目にして早くも社内失業状態となりました。
その後、ディーリング業務を外れ古巣の営業に戻りましたが、大した成果を上げることもなく気が付けば55歳の役職定年になっていました。こんなポンコツを解雇しなかった会社には、感謝の気持ちしかありません。

役職定年で会社を去る日、私は自分にこう問いかけました。「俺は会社でいったい何をやってきたのだろう」30年の銀行員生活で私に残ったのは営業経験だけです。私はこの30年間、ずっと現場でお客様と向き合ってきました。料理人のように手に職のある方なら、10年も経験があればプロとして独立し自分のお店を持ちます。だったら私もプロとして「金融職人」として、この30年間に培った経験・知識で社会に対し何かできることがあるはずだ、そう思いました。

ただ、私の経験・知識は、社内という閉じた空間でのみ有効なものです。社会で通用するには、偏った知識に汎用性を持たせる必要があります。そこで思いついたのが資格試験へのチャレンジです。まずFPの資格を取りFPの体系に沿って知識の穴を捜すことにしました。私は長く企業年金の営業についてきましたが、世間で年金といえば厚生年金や国民年金のことです。そこで、社会保険労務士にチャレンジし、公的年金の知識の穴を埋めました。また、運用の仕事にも携わってきましたが、不動産については経験がありません。そのため、関連書籍に目を通したり、不動産業者のセミナーに通いました。マンション管理の知識を深めるため、マンション管理士の資格にもチャレンジしました。

最近、老後2000万円問題やFIREといった派手なワードに煽られ、個人投資家が誤った道に迷い込むことが危惧されています。私は金融職人として未だ発展途上ですが、個人投資家を志す皆さんに飾りのない骨太な情報を発信することでお役に立てるのではないかと思い、当ブログを始めました。
サラリーマン人生の敗者が会社から社会にフィールドを移し、人生の第2ラウンドを闘う。これが私のけじめです。

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保険

【保】保険に加入する前に考えたいこと

保険は他の金融商品に比べコストの高い商品です。そのため、保険に加入するに当たっては、加入する目的は何か、その目的は保険以外では達成できないのか、についてよく自問したいものです。では、保険以外では達成できないこととは、一体何でしょうか。今回はその点について考えてみたいと思います。

1.万一のリスクに備える~自動車保険、火災保険、定期(死亡)保険~
万一、自動車事故で人を死亡させてしまったら、遺族からいくらくらいの損賠賠償を請求されるでしょうか。ケースバイケースでしょうけど、少なくとも3億円は覚悟しておいた方がいいと思います。そんな金額、急に払えと言われても直ぐ払える人はまずいません。そういう万一のリスク発生時の巨額の支払いに備えるため、私たちは保険に入ります。
3億円なんてお金を運用で用意しようとしたら、20%の高利回りで毎年1000万円ずつ10年間積み立てても足りません。それを自動車保険を使えば、誰もが負担できる保険料で無制限の支払いに備えることができるんです。こんな芸当、保険でないと絶対に無理です。同様のことは、火災保険や定期(死亡)保険でも言えます。
なぜ保険ではこんな魔法みたいなことができるのか。それは、死亡事故や火災、世帯主の死亡といった保険事故の発生確率が極めて低いからです。これらの保険契約者の支払う保険料は、ほとんどが掛け捨てになります。そして、自動車保険なら掛け捨てとなった保険料が、10万人に4人か5人の確率で事故の加害者となった人にまとめて支払われます。仮に、3億円の保険金が10万人あたり5人の割合で支払われるとすると、10万人の保険契約者一人あたりの保険料は、僅か15,000円です。(※)
(※)300,000,000円×5人÷100,000人=15,000円(保険会社の利益、コストは考慮せず)
保険は宝くじのようなものと言う人がいますが、私はこんな宝くじに当たるのはご免です。

2.身近なリスクに備える~医療保険、傷害保険、がん保険、就業不能保険~
病気やケガ、あるいは療養中の収入の減少に備える保険が、医療保険、傷害保険、がん保険、就業不能保険などです。これらの保険事故は身近なリスクであり発生確率が高いため、支払われる保険金に対し保険料は割高になります。(1.の自動車保険等と真逆な関係とお考えください。) では、これらの保険は入る意味はないのでしょうか。
皆さんは、「預金は三角、保険は四角」という言葉を聞かれたことはありますか。預金や投資信託で資産を積み立てる場合、一定の金額になるにはある程度の時間が必要です。横軸に時間、縦軸に積立額(保険金額)を取ると、右肩上がりの直線が描けます。この直線と横軸で囲まれた部分が三角形になることから、「預金は三角」と言われます。これに対し保険の場合、初回の保険料を支払い契約が成立したら即、保険金全額の支払いが可能です(がん保険等は待ち期間の経過後)。 預金と異なり、時間の経過と関係なく一定額の保険金が支払われることから、横軸に水平な直線が描けます。「保険は四角」と言われる所以です。
病気やケガで入院しても公的な健康保険に加入していれば、自己負担は3割で済みます。また、医療費が高額になっても高額療養費制度から補填があるため、医療保険は不要との意見をよく耳にします。ただ、健康保険に入っていても、自己負担がゼロになるわけではありません。入社して間もない方や、十分な収入のない方にとっては、医療費の自己負担が厳しい場合もあります。将来的には給料が上がり十分な貯蓄ができるとしても、当面の支払いを何とか凌ぎたいというケースはあります。そんなときは、時間を買う意味で医療保険に入ることも一手です。「保険は四角」のメリットを生かす作戦です。そして、預金等の蓄えが十分な時期になったら、医療保険を解約すればいいのです。

3.相続に備える~終身(死亡)保険~
相続税における死亡保険金の非課税枠(法定相続人数×500万円)は、皆さんよくご存じだと思います。しかし、生命保険の遺言代替機能については、意外に知られていないのではないでしょうか。どういうことか言いますと、民法では相続発生時に被相続人に係る死亡保険金は相続財産とならず、受取人固有の財産となります。つまり、遺産分割を経由せず、直接受取人に渡すことができるのです。そもそも相続財産ではないので、基本的に遺留分侵害額請求の対象にもなりません。(ご参照 生命保険の歩き方
終身(死亡)保険を利用することで、ターゲットとなる受取人あてに確実に資産を承継することが可能となります。これは相続対策として、非常に強力なツールであると私は考えます。尚、相続税法上は死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象となりますので、注意が必要です。

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株式

【株】高齢者こそ株式投資を~アクティブシニアへのエール~

株などのリスク資産での運用は長期投資が可能な若年期~中年期に行い、高齢期においてはキャッシュや債券等の低リスク資産にシフトするというのが通説となっています。でも、原則があれば例外もあります。私は高齢者が株式の運用を行うのも大いにありとの立場です。人生100年時代と言いますが、あくまで100歳はこれからの時代の平均寿命であり、高齢者の半数は100歳超まで生きることになります。そんな時代を迎える私たちにとって最大のリスクは長寿です。長寿リスクに対しては、終身でキャッシュフローを受け取れる仕組みを作ることが肝要です。その仕組み作りに効果的なパーツとしてはまず、厚生年金・国民年金の公的年金が上げられます。そして、次に上げられるものが株式です。株式は取り崩さずに配当だけを受け取り、公的年金と合わせて高齢期の生活費を賄うことができれば、人生100年時代も恐るるに足らずです。また、株式本体は次世代に相続すれば、株式が貴方の子供や孫の生活を貴方に代わって支えてくれます。

定年退職を機に、多くの会社員がセミの抜け殻のようになってしまいます。特にプライベートの時間を犠牲にして仕事に打ち込んできたモーレツ社員ほど、その傾向は強いようです。私はそんな人にこそ株式投資をお薦めしたいです。一時的に資産を減らしても勉強と割り切ることのできるお金が少しでもあれば、無理のない範囲で株式投資をやってみてはいかがですか。私は、定年退職した会社員が抜け殻になるのは、ストレスと緊張感から一気に解放されるからだと考えます。人間はお猿さんの時代から捕食者の驚異というストレスにさらされる状態が普通であって、退職後のストレスレスな状態はむしろ異常なのではないでしょうか。そして、ストレスのない状態に心と体が適応不全となり、結果、人は抜け殻になってしまうのではないでしょうか。

株式投資は、金額の多寡を問わず緊張感を伴うものです。相場が下落して含み損を抱えれば、大きなストレスを感じます。相場上昇により含み益が拡大すれば、達成感と充実感を味わうこともできます。もう現役は引退したのだから、後は静かに余生を過ごしたいという方は別ですが、退職後も弛緩せずスリリングな時間を過ごしたいという方には、株式投資は最適です。ただ、高齢期から株式投資を始める場合も、成果を出すには十分な時間が必要だという点は、最初にお断りしておきます。
配当を受け取ることを目標とし、値上り益は当面期待しないことです。最低でも10年程度の時間的猶予は必要だとお考え下さい。そして、場合によっては株式の売却は見送り、次世代へ相続することも視野に入れていただきたい思います。それは無理な相談だとおっしゃる方は、ここまでの私の話は忘れてください。

投資家という仕事に定年はありません。投資家は生涯現役です。そんな高齢者はいつまでも瑞々しさを失いません。いい年して生臭さが抜けないと陰口をたたく人もいるでしょうが、いいじゃないですか、勝手に言わせておけば。ボランティアやアウトドアに取り組むのもいいですが、株式投資に挑戦することもなかなか素敵なことです。
私もあと数年で高齢者の仲間入りです。20年先を睨み、ここもとの下落相場で大きく売り込まれたグロース株をこつこつ拾っています。


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株式

【株】税金と証券口座の関係

株式に関する税金が複雑で分かりにくいというお声をよくいただきます。私自身も正直、よく分かっていません。なぜだろうと考えますに、株式の課税方式が3パターンある上に、証券口座の種類も3パターンあり、課税方式と証券口座の関係が複雑に絡み合っていることが原因ではないかと思います。そのため、今回は株式投資に係る税金と証券口座の関係について整理してみたいと思います。
【図1】に税金と証券口座の関係図を載せましたのでご覧下さい。
最初にお話しておきたいのは、配当と売却益はどちらも株式から発生するものですが、所得の種類が異なり(配当所得、譲渡所得)、課税方法も違う点です。配当所得は原則総合課税で、配当支払時に源泉徴収されてお終いです。但し、申告不要制度、申告分離課税も選択することができます。一方、譲渡所得は申告分離課税か申告不要制度の2択となります。

1.課税方法について

【表1】のように、株式投資に係る課税方法は3種類あります。総合課税は、配当所得を給与所得や不動産所得、雑所得等の他の所得と合算して課税総所得金額を算出、課税所得が多くなるほど税率が高くなる(5%~45%)累進税率を乗じることで所得税を算出します。
申告分離課税は、株式の譲渡所得を他の所得と切り離し単独で所得税を計算する方式です。税率は所得税15%で一律です。尚、住民税の計算上は分離されず総合課税となります。
申告不要制度は株式の譲渡所得を他の所得と切り離して計算し、所得税15%、住民税5%の源泉徴収で所得税・住民税の納税が完結する方式です。

2.証券口座について

証券口座の違いをひとことで言えば、口座内の株式の売買損益(譲渡損益)の計算と納税手続きをどこまで証券会社にやってもらうか、の違いです。
特定口座(源泉徴収あり)では、証券会社が譲渡損益の計算と納税手続きを完結してくれるので、投資家は確定申告をする必要がありません。
特定口座(源泉徴収なし)では、証券会社が譲渡損益の計算までやってくれます。投資家は証券会社から提供される「年間取引報告書」をもとに税額を算出し、簡易な方法で確定申告を行います。
一般口座では投資家自身が譲渡損益を計算し、税額を算出したうえで確定申告を行います。

3.課税方法と証券口座のお得な組合せ

①総合課税+特定口座(源泉徴収あり)
課税所得金額が900万円以下の方は、所得税の累進税率が23%以下(5%~23%)です。そのため、総合課税を選択し配当控除を適用すると実質税負担率が23%-10%=13%以下となり、配当に係る源泉徴収の所得税率15%を下回るので、総合課税を選択する方が有利です。(13%<15%) 尚、住民税に関しては、総合課税の税率は10%、配当控除は課税所得金額が1000万円以下の方で2.8%ですので、実質税負担率は10%-2.8%=7.2%となります。これは配当に係る源泉徴収の住民税率5%を上回るので、総合課税を選択せず申告不要制度を選択する方が有利となります。(所得税~総合課税、住民税~申告不要制度)
しかし、令和4年の税制大綱で所得税と住民税の課税方法を統一することとされたため、2023年からは所得税と住民税で異なる課税方法を選択することはできなくなります。2023年以降総合課税を選択する場合は、配当控除による所得税の減少と住民税の増加、そして国民健康保険等の負担増を比較することが必要です。

②申告分離課税+特定口座(源泉徴収なし)
複数の口座を使って株式投資をしているケースで、譲渡損が出ている口座と配当や譲渡益が出ている口座がある場合は、申告分離課税を選択し確定申告することで口座を跨いだ損益通算ができます。また、多額の譲渡損が発生したケースで翌年以降に損失を繰り越す(3年以内)場合も、申告分離課税を選択し確定申告する必要があります。尚、申告分離課税で分離されるのは所得税のみで、住民税は総合課税となる点に注意が必要です(社会保険料の増加要因となります)。

③申告不要制度+特定口座(源泉徴収あり)
一つの口座で株式投資をしており譲渡損が出ているケースで配当と損益通算したい場合、源泉徴収で納税手続きが完了する申告不要制度が有効です。

④その他:特定口座(源泉徴収なし)
1社から収入を得ている方で年収が2000万円以下、給与所得以外の譲渡所得や配当等が20万円未満の場合は、確定申告が不要であり(実質非課税ということ)、特定口座(源泉徴収なし)が有効です。

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株式

【株】短期投資というもの

最近ふとFXのことを勉強したいと思い、FXの個人トレーダーA氏の本をBOOKOFFで買って読みました。A氏は一時カリスマトレーダーともてはやされましたが、その後取引履歴詐称疑惑などがあり、今ではややネガティブなイメージのある方です。
ところで、この本に書かれているA氏のトレード手法はスキャルピングといわれるもので、僅か数秒でエントリーとエグジットを完了する超高速トレードです。相場の方向性にはベットせず、市場で付いている価格の僅かな歪みを捉え収益を積み上げていく手法です。1回のトレードで収益化する値幅はたったの数pips(ドル円なら数銭)。この薄利のトレードを1日に100回~200回繰り返すことで、十分な収益を計上できます。そして、当初の狙いに反し、価格の歪みが修整される気配がなければ、迅速にポジション解消=損切りをします。早期撤退の見極めができるかどうかが生死の分かれ目となります。

私はA氏の本を読み進めるにつれ、妙な既視感を覚えました。なぜだろうと考えるうち、A氏の投資手法が、以前読んだ米国のNo.1ヘッジファンド:ルネサンス・テクノロジーズの活躍を描いた「最も賢い億万長者」(ダイヤモンド社)に書かれていた投資手法とそっくりなことに気が付きました。ルネサンス・テクノロジーズ(以下、同ファンド)は世界的に著名な数学や物理学の専門家たちが考案したアルゴリズムで運用するファンドです。相場の方向性を予測するのではなく、その瞬間その瞬間の相場の値動きをミクロの時間軸に分解し、ライバルたちが見逃す微かな相場の癖や価格の歪み(アノマリー)を見つけ出します。そして、統計的に有意性が確認できたら、超高速回転のトレードを仕掛けます。彼らの取引に相場の上げ下げは関係なく、相場が均衡状態に回帰する過程で収益を計上することになります。1回あたりの取引で計上される収益は僅かでも、高速回転で大量のトレードを行うことで、脅威的な期間収益を安定的に実現します。

A氏も同ファンドも、①相場変動のリスクを基本的に負わない、②相場の歪みを収益源としている、③高速回転トレードを大量に行うことで利幅の薄さをカバーする、④トレードに係るコストの極小化を計っている、⑤相場の潮目が変わり従来の手法が通用しなくなったら迅速に撤退する、という点で共通しています。
因みに、A氏の本が出版されたのは2009年です。「最も賢い億万長者」の出版(2020年)に先立つこと11年です。

ここでもう一人、日本株のカリスマ投資家cisさんにご登場いただきます。彼の投資手法は著書「一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学」(角川書店)に書かれています。トレードの特徴は、①基本的に短期投資、②現時点の相場の値動きからトレンドを読みポジションを取る順張り投資、③損切りは早めに利食いはゆっくりと、④勝率よりもトータル損益を重視、となるでしょうか。私はcisさんの強さは、一般人には知覚できない相場が発する微かな音や匂い(=情報)をキャッチする能力にあるのではないかと思います。ちょっとした値動きの違和感から、仕手筋やインサイダー、機関投資家の動きを嗅ぎつけ、迅速にポジションを取りその動きに乗る。cisさんの本を読んで驚いたのは、市場は私たち一般人が考えるほど効率的でも合理的でもなく、見る人が見たらトレードチャンスが結構転がっているということです。cisさんの鬼の目にかかると、相場の裏側が透けて見えるのでしょうか。

A氏やルネサンス・テクノロジーズと、cisさんの違いは、短期とはいえ相場の上げ下げ(トレンド)にベットするかどうかにあります。FX市場で数pipsを抜くような超高速トレードを、株式市場で個人投資家が人の手で行うのは無理です。従って、株式市場で収益を上げるには、短期間であっても相場にベットする必要があるのだと思います。(もっとも、ルネサンス・テクノロジーズのような大手ヘッジファンドであれば、株式市場においてアルゴリズムを用いた超高速トレードを行うことは可能です。)

今回は、著名な短期投資家をご紹介しました。今日まで私は、投資は長期の時間軸で行うものと信じていました。しかし、A氏やルネサンス・テクノロジーズ、そしてcisさんの投資法を知り、短期の時間軸で行う(投機ではなく)投資もありだと考えを改めました。相場変動のリスクを最小限に抑えたうえでリターンが得られるとすれば、ローリスク=ハイリターンの理想郷が実現することになります。
ただ、短期投資の世界が(投機と同じく)ゼロサムで弱肉強食の世界であることにかわりはありません。理想郷に到達できるのは1割の勝者だけです。短期投資は、他者を凌駕する絶対的なスキルを持った強者が、相場変動のリスクを負わない短期の時間軸でスキル弱者を狩り立て、リターンの総取りを狙うサバイバル戦略です。絶対的スキルを持たないその他大勢は、相場変動のリスクを受け入れ、強者とは次元の異なる長期の時間軸と分散投資でリスクの希薄化を図りつつ、複利効果でゆっくりとリターンを育てていく長期投資の戦略が現実的です。


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年金

【年】生保予定利率引き下げと給付減額

4月6日の新聞各紙は、日本生命が企業年金保険の予定利率を2023年4月に年1.25%から0.50%に引き下げると報じました。企業年金は掛金の積み増しや実績に応じた仕組みへの変更を迫られそうと結んでいます。続けて4月7日の日経新聞は、大手飲料メーカーの話として「受給者への給付を減らすなど、……検討したい」とコメントを紹介しています。今回の件は、確定給付企業年金(DB)のうち日生が受託している契約に関しての話ですが、他の生保も続いて予定利率を引き下げる可能性が高いと思われます。(第一生命はすでに2021年10月に予定利率を1.25%から0.25%に引き下げています)


年金の給付は掛金と運用収益で賄います。つまり、年金給付=掛金+運用収益、です。そして、運用収益は予定利率に連動するので、予定利率の引き下げは運用収益の減少につながります。企業が一時金や年金といった年金給付の水準を維持しようとしたら、掛金を引上げるしか方法はありません。しかし、コロナ禍や原材料費の高騰で体力が低下している企業にとって、コスト増となる掛金の引き上げは困難な状況です。そんな企業にとって残された選択肢は、給付の引き下げ(給付減額)です。それも既に年金を受け取っている受給者たるOB/OGの方々の給付を減額するのが最も効果的です。
しかし、受給者の減額は既得権の侵害にあたるため、法的に厳しい制約が課せられています。また、給付減額に同意しない方への支援策も用意する必要があります。確定給付企業年金(DB)の受給者減額は、企業にとって実現に向けたハードルが高く、過去の実施例は限定的ですが、今後は止むに止まれず、強行突破を図る企業が出てくるかもしれません。そうなった時に慌てて給付減額に同意することのないように、今回はDBの受給者減額と希望者への支援策の内容につきご説明したいと思います。

まず、確定給付企業年金法では受給者減額の理由要件として、「実施事業所の経営状況の悪化又は掛金額の大幅上昇により、掛金拠出が困難になると見込まれ、やむを得ないこと」が上げられています。これは「単に経営が悪化しさえすれば足りる」のではなく、「経営の悪化により企業年金を廃止するという事態が迫っている状況下で、これを回避するための次善の策として、受給者減額がやむを得ないと認められる」場合に限られる、と解釈されています。次に、手続き要件として、「受給権者等の2/3以上の同意」と「希望者に対し給付減額前の最低積立基準額の一時金支給等の選択肢(受給権者等の全員が減額に同意した場合を除く)」が上げられています。

小難しい言葉が並んでしまいましたが、要は会社がつぶれそうで年金を廃止しないとどうにもならないような最悪の状態でないと、受給者減額はできませんよ。その場合は、受給者全員の同意をもらいなさい。それが無理なら、せめて受給者の2/3以上の同意をもらいなさい。そして、希望者には減額する前の水準で一時金を支払いなさい。ざっと、こんな内容です。

ここで、希望者への一時金支給の部分が支援策となります。なぜ支援策となるかですが、通常、年金を一時金で受け取る場合(選択一時金といいます)、年金を予定利率という利率で割り引いて一時金に換算します。現在は予定利率(※1)は2.0%~2.5%に設定している会社が多いようです。ところが、受給者減額に係る希望者への一時金に関しては特別な利率(※2)が使われ、令和4年度に関しては0.66%となっています。
(※1)ここでいう予定利率は会社が独自に設定するもので、新聞記事になった生保の予定利率とは別物です。
(※2)30年国債の応募者利回りの5年平均のことです。
やや専門的な話になって申し訳ありませんが、年金を一時金に換算する際、割り引く率が小さいほど一時金は大きな額となります。例えば、月額10万(年額120万円)の15年確定年金を2.5%で割り引いたときの一時金は約1490万円ですが、0.66%で割り引くと約1710万円になります。受給者減額に係る希望者への一時金は、通常の一時金よりも220万円も大きくなっています。


今後、皆さんの会社(あるいは以前お勤めだった会社)から受給者の年金を減額したいという申し出があった場合に、皆さんにとっていただきたい行動についてお話します。既に年金を受給中の方や年金を受給する権利を持っている方は、会社の人事や労働組合、OB会等から給付減額に同意するように依頼されても、気安く同意しないで下さい。そして、給付減額前の最低積立基準額の一時金支給を希望するようにしてください。減額に同意した元上司や元同僚との仲が気まずくなることが懸念されますが、同意したら最後、年金は2/3とか半分に削られてしまいます。同意しなければ、元の年金の(場合によっては)何割増しかの一時金が受け取れるわけです。あまりにも大きな差です。ここは多少の気まずさには目をつぶり、我が道を行きましょう。
尚、この場合の一時金は退職所得扱いとなりますので、ご安心ください。

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閑話休題

【閑】人生の逝き方について考える

日本人にとって、「死」は忌まわしいものとして口にするのも憚られますが、これからの超高齢化社会においては、「死」をもっと身近で日常的なものとしてとらえる必要があると思います。久坂部羊さんの「人はどう死ぬのか」(講談社現代新書)は、「死に関する新しい教科書」として人が上手に死ぬための方法論を、簡易な文体で展開しています。今回は、「人生の逝き方」について私の独断と偏見で、久坂部さんの本のエッセンスをご紹介させていただきます。

1.PPK 
最後はPPK(ピンピンコロリ)で逝きたいという方は多いですが、ほとんどの方はピンピンとは行けてもコロリとは逝けないようです。コロリと逝くためには、心筋梗塞や脳卒中、クモ膜下出血の力を借りる必要があります。でも、人はこれらの疾患に襲われても、発作と同時に死ぬわけではなく意識も失いません。つかの間、経験したことのない猛烈な痛みとともに、人生の一括清算を強いられます。脳卒中の場合、金属バットで頭を殴られたような痛みを感じるらしいです。でも、猛烈な痛みを感じつつ、いきなりの死を目前に恐怖と悲しみに震えながら死神に拉致されるのが、ポックリ死のリアルです。人生を振り返る余裕はなく、覚悟を決める間もなく人生を強制終了させられる。死後の準備はできず、家族や親友・恋人にお別れもできません。それでも、あなたはPPKを望みますか?
尚、日頃から健康増進に努めている奇特な方は、体力があるため簡単には死ねません。そういう方はPPKとはいかず、PPDD(ピンピンダラダラ)となります。

2.老衰
ご長寿のあとで眠るように天に召される。安らかで清々しいイメージ。老衰で逝くことに憧れる方も多いですが、実際はそんなに生易しいものではないようです。老衰は死ぬまでに、いくつものハードルを超えなければいけないからです。
死のかなり前から全身が衰え、不自由さと惨めさに耐え抜いた後でやっと楽になれます。寝たきりになり、下の世話をはじめ清拭や陰部清浄、口腔ケア等を他人に委ね、心不全と筋力低下で身体は動かせず、呼吸は苦しく、言葉を発するのも無理という「お前はすでに死んでいる」ような状態を経て、やっと死に至ります。
老衰は決して、安らかでも清らかでもありません。

3.がん
がんは治療さえしなければある程度の死期がわかるので、前広に準備が可能です。行きたい所へ行き、会いたい人に会い、食べたいものを食べることができます。お世話になった人にお礼を言い、迷惑をかけた人にお詫びをする時間があります。超高齢期に身体の自由と認知能力を失う無常を味わわずに済みます。これらのことをよく知る医療関係者が、「死ぬならがんで」と言うのも当然な気がします。
がんで死ぬときに大事なことは、無理に治ろうとしないことです。嘗て、がんは治るか死ぬかの病でしたが、今では治らないけど死なない病になりました。がんとの共存です。がんを根絶しようとすると、過度な治療を受けて副作用で苦しんだり、命を縮めたりします。過度な治療ではなく、ほどほどの治療で様子見をし、治療の効果より副作用の方が大きくなったら、潔く治療を止める。死にたくないではなく、上手に死ぬことを考えましょう。いつまでも治療に執着していると、せっかく残された貴重な時間を辛い副作用で浪費することになります。
がんとの共存はがん細胞の全滅を目指すのではなく、患者さんの命を奪わない程度なら転移があっても様子を見るという戦略です。がんが怖いのはがんが死ぬ病だからで、治らないけど死なないのなら高血圧や糖尿病等の慢性疾患と変わりません。がんは治らないと分かっても絶望する必要はなく、困った隣人だと思って上手く付き合いながら、決して短くはない残された時間を有意義に過ごすことを考えたいものです。

4.認知症
以下は私の個人的な意見ですが、私は認知症は神様からの贈り物だと思っています。認知症のご老人は「死」の恐怖すら忘れることができます。認知症のご老人には、もはや何も恐れるものはありません。

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【株】逆イールドと景気後退の関係

最近、新聞紙上で「逆イールド」という言葉を目にすることが多くなりました。イールドとは債券の利回りのことですが、株式投資家には余り縁のないものです。でも、過去において債券市場で「逆イールド」が発生すると、その1~2年後に高い確率で景気後退となった歴史があるため、米国債券市場での逆イールドの発生を株式投資家も緊張感を持って見守っているわけです。今回は、株式投資家の皆さんにも知っておいていただきたい「逆イールド」のベーシックなお話をしたいと思います。

グラフの横軸に償還までの期間を、縦軸に利回りを取った座標空間上に、年限ごとに国債利回りをプロットしていくと、通常は右肩上がりの曲線を描けます。これを順イールド(カーブ)といいます。ところが、稀に償還までの期間が長いほど右肩下がりの曲線となることがあります。これが逆イールドと言われる現象で、景気後退の前触れとされます。なぜ逆イールドは発生し、景気後退の前触れと言われるのでしょうか。

まず、イールドカーブの仕組みから考えてみましょう。専門家の間では、「純粋期待仮説」、「流動性プレミアム仮説」、「市場分断仮説」という3つの説が唱えられています。以下では、「純粋期待仮説」と「流動性プレミアム仮説」についてお話します。はじめに「流動性プレミアム仮説」についてです。これは、償還までの期間が長い債券ほど途中で売却しにくく、また市場環境が悪化したときのリスクも高いため、これらのデメリットに対応するプレミアムが長期債ほど利回りに反映されるとの説です。つまり、償還までの期間が長いほど債券の利回りは高くなるということで、順イールドが発生する根拠となります。しかし、逆イールドの説明には窮してしまいます。そこで、「純粋期待仮説」の登場です。これは、ひとことで言えば、債券の利回りは将来にわたる短期金利の予測によって決定されるという説です。ちょっと分かりにくいですね。【図1】をご覧ください。

10年債の利回りは、1年債の利回り×(1年後スタート2年後償還の1年債予想利回り)×(2年度スタート3年後償還の1年債予想利回り)×……×(9年後スタート10年後償還の1年債予想利回り)の年換算利回りに等しいと考えます。また、同様にして3年債利回りは①×②×③の年換算利回り、7年債利回りは①×②×……×⑦の年換算利回りに等しいと考えます。今、①<②<……<⑩であったとすると、1年債利回り<2年債利回り<……<10年債利回りとなり、イールドカーブは順イールドとなります。ここでは1年債の予想利回りが将来に行くほど高くなっており、市場参加者は将来の金利上昇=景気過熱を予想していると判断されます。では、市場参加者の読みが逆のケースではどうなるのでしょうか。つまり、①>②……>⑩となった場合です。このケースでは、1年債利回り>2年債利回り>……>10年債利回り、となり逆イールドが出現します。つまり、逆イールドが発生する場合、市場参加者は将来の金利低下=景気後退を予想していることになります。
債券市場は株式市場と異なり、参加者は金融機関等のプロに限定されます。プロたちが先々の景気後退を見込んでいるということが、逆イールドが景気後退の予兆と言われる所以です。

逆イールドと景気後退の因果関係としては、次のような理解も可能です。企業は短期で資金を調達し、長期で事業に回しています。短期金利<長期金利の順イールド下では、企業は長期金利と短期金利の差(長短スプレッド)から利益を上げることができます。しかし、逆イールド下では調達金利が事業収益率を上回ることになり、企業は収益を上げることが困難になります。この環境が長引くと、景気が悪化し株式市場は下落します。

インフレリスクが現実のものとなった米国では、今年から来年にかけてFRBの利上げが継続して実施されます。普通なら1回あたり0.25%の短期金利(FFレート)引上げですが、今回は0.5%の利上げもあると考えられています。債券市場の参加者は、これだけ急激な利上げを行うと、現下の良好な景気も腰折れし後退局面入りすると見ているようです。そして、その先にあるのはFRBの利下げです。
直近では2019年3月に、3ヶ月財務省短期証券と10年国債の利回りが逆転し、逆イールドの発生が話題になりましたが、その後も米国景気は後退することなく、コロナ禍の現在に至るまで堅調さを維持しています。
はてさて、今回はどうなることでしょうか?

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【年】FIREに役立つ企業年金豆知識

企業年金は厚生年金や国民年金といった公的年金と比べ制度はシンプルですが、情報へのアクセスが面倒なためか、多くの人にとって公的年金以上に馴染みの薄いものとなっています。企業年金の内容は会社ごとに異なりますが、いくつかのパターンに分類することができます。以下では、企業年金のパターン別に特徴をお話するとともに、皆さんがFIREや転職されるケースを想定し、メリット・デメリットについても触れていきたいと思います。
尚、企業年金の詳細な情報は、お勤め先の就業規則や労働協約、退職年金規程等で確認することができます。企業年金は公的年金とともに、皆さんのライフプランにおける重要なアイテムです。手許にそれらの資料がない方は、会社の人事部や総務部、労働組合等に問い合わせて、取り寄せるようにされるとよろしいかと存じます。

それでは、本題に入ります。最初は、会社の退職金(退職一時金)と企業年金の関係によるパターンの違いについてお話します。多くの会社では、会社の退職金の一部を企業年金に移行しています。このケースを内枠と言います。まれに、退職金とは別に企業年金を設けている会社もあり、このケースを外枠と言います。内枠のケースでは、企業年金とそれ以外の退職一時金を合算して、元々の100%の退職金となります。企業年金部分は年金で受け取ることも、一時金で受け取ることも可能です。(ただし、短期での退職者は一時金のみの受け取りとなります。)
年金で受け取る場合、利息(給付利率)相当だけ一時金よりも額面での受取額は多くなりますが、年金と一時金では課税方法が異なるため、手取りベースでの受取額を比較することが肝要です。(年金は雑所得として総合課税、一時金は退職所得として分離課税されます)
また、外枠のケースでは、企業年金は退職金の上乗せの位置づけとなります。この場合、退職金部分は一時金で受け取り、企業年金部分は年金か一時金での受け取りになります。年金と一時金での課税方法の違いは、内枠の場合と同様です。

次に、企業年金の種別についてお話します。企業年金は大きく確定給付企業年金(DB)と、企業型確定拠出年金(DC)に分類されます。DBは予め受取額が決まっているタイプの年金です。一方、DC(401kとも言われます)は受取額が運用の結果に応じ変動するタイプの年金です。さらに、DBは給与比例制、ポイント制、キャッシュ・バランス制(CB)に分かれます。
それでは、DBの3つの制度について簡単にご説明します。


①給与比例制
「退職時給与×勤続年数別支給率×自己都合支給率」で基準額(※)を算出する制度です。例えば、退職時給与:30万円、勤続年数別支給率:35、自己都合支給率:1の場合、30万円×35×1=1050万円が基準額となります。また、退職時給与:20万円、勤続年数別支給率15、自己都合支給率:0.5の場合、20万円×15×0.5=150万円が基準額です。ここで、勤続年数別支給率はほぼ勤続年数に等しいとお考え下さい。また、自己都合支給率は、短期勤続の自己都合退職者に対し懲罰的に0.5とか0.7を適用し基準額を減額する一方、25年以上の長期勤続の退職者に対しては1を適用し減額しないケースが多いようです。
この制度は、終身雇用・年功賃金を採用する旧来タイプの会社に多く見られます。上記事例のように、長期勤続者には有利である反面、短期勤続の自己都合退職者にとっては大きく不利な制度です。中途退職・転職が一般化した昨今の雇用環境にはミスマッチと言うべき制度です。
(※)基準額:一時金で受け取る場合の金額。基準額を年金現価率で割って年金額を算出します。

②ポイント制
「退職時ポイント累計額」で基準額を算出する制度です。一般にポイントは、職能ポイント(職能等級別に設定)と勤続ポイント(勤続年数別に設定)からなり、毎年社員にポイントが付与されます。また、ポイントを金額に換算するため、ポイント単価が設定されます。例えば、職能ポイントが、5級:10P、4級:15P、3級:20P、2級:30P、1級:40P。勤続ポイントが1年につき10P、付与されるとします。ポイント単価は1P=1万円とします。ここで、職能5級:5年、4級:5年、3級:8年、2級:7年の計勤続25年で退職した人について、退職時ポイント累計額を計算してみましょう。まず職能P累計:10P×5年+15P×5年+20P×8年+30P×7年=495P。勤続P累計:10P×25年=250P。よって、退職時P累計は495P+250P=745P。P累計額は745P×1万円=745万円となります。
この制度のいいところは、ポイントの持ち分がリアルタイムで簡単に社員にも分かり、中途退職者に不利とならないことです。また、給与比例制は、退職時の1時点での給与で受取り額が決定するため、退職に至る過程での会社への貢献度が評価されないという問題があります。ポイント制は職能ポイントの積み上げで受取り額が決定するため、退職までのプロセスも評価の対象になっています。

③キャッシュ・バランス制(CB)
この制度はポイント制の類型です。ポイント制と同様に毎年ポイントが社員に付与されます。そのうえで、付与されたポイントの累計に国債の利回りで利息を加算していきます。そして、「退職時ポイント累計額+利息累計額」で基準額を算出します。国債の利回り(新発国債の応募者利回り)は市場環境により変動するため、基準額も多少変動することになります。ただ、実際には適用利回りに2%等の下限を設けるケースが多いようです。DBとDCの中間的な性格の制度と言えます。また、ポイント制の類型であるため、中途退職者に中立的な制度です。

それでは、DC(企業型)についてご説明します。この制度はiDeCoの企業版です。掛け金(保険料)はDBと同様に会社が負担します。ただ、DBと違って、基本的に退職金の外枠がほとんどです。また、DBは会社が運用責任を負ってくれますが、DCは社員が自己責任で運用を行わなければなりません。マイナスが嫌な場合は、定期預金や保険等元本確保型の商品で運用することもできます。ただ、多くの会社では、最低限の運用利回り(想定利回り)を2%程度に設定しています。もし退職までの実際の(手数料控除後)利回りが想定利回りを下回ると、その分だけ退職金が目減りする仕組みになっているので注意が必要です。企業型DCに入っている方は、必ずこの想定利回りを確認して下さい。尚、DCもポイント制と同じく、中途退職者に中立的な制度です。

このように、企業年金はDBとDCに大別され、さらにDBは給与比例制、ポイント制、CBに分けられます。先々のFIREや転職を想定しつつ会社選びをする際は、ポイント制やCBの企業年金がある会社を選択するのがベターです。腕に覚えのある方ならDCのある会社もいいでしょう。旧態依然の給与比例制の会社は、避けた方が無難です。(最近はDBとDCの両方の制度を有する会社も増えています。)

最後に、企業年金と公的年金の違いについて、少し触れさせていただきます。厚生年金も国民年金も老齢年金(65歳になったらもらえる年金)の他に、障害年金と遺族年金がありますが、企業年金は退職年金(退職したらもらえる年金)のみです。ただ、年金支給開始後の一定期間内(10年か15年)に本人が死亡した場合、残りの期間に対応する年金が一時金に換算されて遺族に支給されます。
また、公的年金は終身年金(本人が亡くなるまでずっと支給される)ですが、企業年金は一部の会社を除き10年~15年の確定年金(一定期間内に限定して支給される年金)となります。さらに、公的年金には物価の上昇に合わせて年金額が増加する物価スライド(賃金スライド)という仕組みがありますが、企業年金にはこれらの仕組みはありません。デフレ下にあっては問題になりませんでしたが、今後インフレが定着するようだと、企業年金のこの弱点が問題視されるかもしれません。