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保険

【保】保険商品アラカルト

保険はアクシデントに見舞われたときに発生する費用・損失に備え、予め資金の準備を行うものです。将来の支出に備え資金を積み立てる商品には、預貯金や投資信託もありますが、保険は以下の点でそれらの商品と異なります。
①アクシデント(保険事故)が発生しないと保険金は支給されない。
②責任開始後に保険事故が発生すれば、資金の積み立てができていない段階でも100%の保険金が支給される。(いわゆる、預金は三角、保険は四角)
③コストが高い

「お得」な保険といいますが、コストが高いため保険は本来利殖には向かない商品です。特に低金利な昨今、その傾向が強いです。資産を増やす目的なら預金や投信等の低コストの商品を使った方がベターです。
ただ、保険料に対し支払われる保険金が大きいという意味で「お得」という考え方はありです。保険金/保険料の比率をレバレッジと言いますが、レバレッジが大きい保険を選ぶことはスマートなことです。

下図をご覧ください。縦軸は上へ行くほど支払われる保険金の大きい保険、横軸は左に行くほど発生確率の低い保険がマッピングされています。発生確率が低いほど保険料は安くなりますので、グラフの左上に位置する保険ほどレバレッジが高く入る価値の高い、あるいは入っておくべき保険、ということになります。
具体的には、自動車保険、火災保険、生命保険(死亡定期保険)などが該当します。自動車で人をはねて死亡させた場合、損害賠償として4億円を請求されるケースもあります。火災で自宅が全焼したような場合も、数千万円の損害が発生します。また、世帯主が死亡した場合、残された子供の養育費・教育費も一人当たり1千万円単位で必要になります。いずれの保険事故も発生確率は低いですが、万一発生した場合、保険に入っていないと家計破綻・一家離散につながるものです。

グラフの右下に行くほど保険事故の発生確率が高くなり、レバレッジは低下します。お得な保険イコール元が取れる保険だと思っている人がいますが、これは誤解です。元が取れるということは、それだけ保険事故の発生確率が高いということですから、保険料が割高になります。
元が取りやすい代表が医療保険です。医療保険は病気やケガで入院・手術した場合等に費用の保障を行うものですが、保険料は割高になります。それに対し入院給付金日額は3,000円とか5,000円程度です。私は、医療保障に関しては高コストのため保険スキームは使わず、預金や投信等で資金を積み立てる自己保険をお勧めしています。
本来、医療保険は預金等の積み立てが不十分で、治療費の負担が難しい方向けの商品です。でも、実際は優雅な年金生活を送るご高齢の皆さんが、お守り代わりに買っていかれます。

両者の中間に位置するのが、がん保険や所得補償保険(GLTD)です。若い方ががんにかかる可能性は低いですが、がんに罹患した場合は高額の治療費と、療養・休業期間中の所得補償が長期にわたり必要になります。がん保険は治療費だけでなく所得補償を行う商品で、中位のレバレッジ商品として加入する価値があります。
また、近年精神疾患に悩む会社員の方は多いですが、メンタルを含む疾病・ケガ等による休業時の所得を補償するものが所得補償保険です。特に会社が契約者となる長期の所得補償保険をGLTDと言いますが、保険料が格安で充実した補償を受けられるので、お勤め先でGLTDに加入できる方は絶対加入すべきです。

以上、レバレッジに着目して保険商品を見てきましたが、私が入っておいた方がいいと思う保険は、お子さんのいる方なら死亡定期保険(団体定期がお勧め)+GLTD/がん保険、お子さんのいない方なら医療保険(生協の共済がお勧め)+GLTD、です。いずれも、月額5,000円程度の保険料で済むと思います。

他に、発生確率が高く、保険事故発生時のコストが大きいリスクに長寿(長生き)があります。このリスクに対して保険、預貯金、投信等総動員で当たる必要があります。
人生100年時代においては誰もが高い確率で「超高齢者」になります。
本来、おめでたいはずの長寿がなぜリスクなのでしょうか。それは、莫大な費用負担を伴うからです。生活費に加え、医療費、介護費。生活費については、昨今、公的年金だけでは足らないので、国はさかんにiDeCoやNISAを使った自助努力を奨励しています。また、医療、介護についても、今後は公的制度の財政逼迫により自己負担の増大は避けられません。
資金力のある方は、民間の医療保険・介護保険を使って、早めに自助努力を開始することが賢明かと思います。

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不動産

【不】不動産と株式を比較してみた

私は不動産投資の経験はありません。最初に白状しておきます。なぜ不動産投資をしないのかといいますと、【表1】のように不動産投資は株式投資と比較して、とても難易度が高いと考えるからです。生半可な覚悟で参入したら大怪我します。私はチキンなんです。ですから、本来、私に不動産投資の話をする資格はないのですが、そこのところは大目に見ていただくとして、以下では株式投資を補助線にして、素人の目に映る不動産投資の特徴を語ってみたいと思います。
それでは、不動産投資と株式投資のメリット・デメリット比較から参りましょう。

不動産を売買するときは、不動産会社に物件の売りや買いを依頼します。不動産取引は、1対1、相対で行われます。取引は密室で行われ、通常、外部のものが伺い知ることはできません。
一方、株式を売買するときは一応証券会社を通しますが、実際は証券取引所で多数の買い注文と売り注文を一斉にぶつけます。売買の状況は、インターネット等を通じて確認することができます。この売買形態の違いが、【表1】の流動性、コスト、情報の対称性の違いとなって現れます。流動性については不動産の場合、個別に不動産会社が取引の相手方を探してくることなりますから、相応の時間がかかります。株式の場合は、証券取引所に売買注文を出せば即日約定が可能です。このように、流動性に関しては、株式が圧倒的に有利です。
取引コストも不動産の場合は、どうしても高くなります。(例:売買金額×3%+6万円)
また、不動産は現物投資特有の管理費や固定資産税等の税金、火災保険料等の固定費がかかります。株式の場合は、ネット証券を通じて注文を出せば、売買手数料0円のケースもあります。
投資家と業者の情報の対称性に関しても、不動産の場合、情報は業者(不動産会社)に集中し、投資家は業者から提供される情報に頼るしかないのに対し、株式の場合は、投資家はインターネット等を通じて容易に情報を収集できるため、業者(証券会社)と投資家の情報格差は少ないと言えます。

また、証券会社の社員は、金融商品取引法によって株式の売買は原則禁止されているのに対し、不動産会社の社員はそのような法規制はなく自由に取引ができます。ここのところは重要です。本当においしい案件は、投資家に情報が流れる前に不動産会社の内部や業者間で消化されます。そして、不動産会社が食べなかった案件が富裕層等のお得意様の投資家に流れ、さらにあぶれた案件が私たち一見さんの投資家のもとに流れてくるわけです。

セーフティネットについては証券会社が破綻した場合、投資者保護基金が認めたものは1顧客あたり1000万円まで補償されますが、不動産会社が破綻しても個人投資家を守ってくれる制度はありません。この点も重要なポイントです。
なぜ、国は株式投資家を保護するのに、不動産投資家は保護しないのか。それは、国が株式投資家はアマチュアだから保護する必要があるけど、不動産投資家はプロだから助け船を出す必要はないよね、と考えているからです。株式投資はBtoCだけど、不動産投資はBtoBだということでしょう。不動産投資に覚悟がいるというのは、そういうことです。

でも、ちょっと待ってください。確かに不動産市場は株式市場と比べ非効率的です。しかし、その非効率性(流動性、コスト、取引金額、情報の非対称性)を逆手に取れば、収益チャンスに変えることが可能かもしれません。不動産は株で言えば新興市場株、いや未公開株(PE:プライベートエクイティ)に近いです。未公開株は流動性、取引コストとも上場株に劣りますが、未公開情報を上手く入手できた場合には大きなチャンスが訪れます。
不動産も同じだと思います。安くない授業料を払う必要はありますが、不動産会社からお得意様とみなされた投資家は、不動産会社が持っているホットな情報を手にすることができます。陳腐化していないホットな情報に、誰よりも早くアクセスすること。それが不動産投資での成功の鍵ではないでしょうか。

不動産マーケットの特徴を語るにあたって、地主の存在は無視できません。サラリーマンが不動産投資する際は、建物だけでなく土地の購入資金を用意しなければいけません。しかし、地主は土地を無料で用意することができます。不動産投資に関し両者の損益分岐点には、決定的な差があります。普通に戦ったら、サラリーマン大家に勝ち目はありません。何とか勝負に持ち込むには、物件の仕込み価格を抑えるしかないと思います。そのためにも優良な情報が必要です。
これから2035年に向け、我が国は大相続時代に突入します。2035年には団塊の世代が皆85歳以上になります。地主大家が保有している優良物件が、相続を経て不動産市場に大量に供給される可能性があります。これらの物件は相続税の納税の関係で売却期限があり、ある意味買い手優位の案件です。相続物件の情報に早期にアクセスできれば、お宝案件との出会いがあるかもしれません。

不動産ならではのメリットもあります。不動産賃料の安定性は株式にはない魅力的なものですし、ローンの借りやすさも株式とは比較にはなりません。しかし、だからといって頭金なしのフルローンはお勧めできません。ローンの割合は一定限度内に抑える必要があります。また、不動産投資は「投資」の名前が付いていますが、実態は限りなく不動産事業に近いものです。不動産投資をする場合は管理会社に任せきりにせず、不動産賃貸会社の社長になったつもりで経営に積極的に関与すべきです。それだけに、成功した場合の達成感も、株式投資にはないものと推察します。

最後に、不動産投資と株式投資で決定的に違うと思われる点をお話します、それはゲームのルールです。株式投資は時間を味方につけて長期で戦うゲームです。短期では上がり下がりする株価も、長期では上昇トレンドを描くことが期待できます。勝つまで待つことができます。一方、不動産は現物であり生ものです。時間の経過とともに劣化していきます。物件が腐り切る前に、勝負のケリを付けなければいけません。つまり、不動産投資は中期の勝負(長期譲渡所得の対象となる5年程度は保有する)であり、投資開始時からしっかりと出口をイメージしておくことが肝要だと思います。

因みに、運用資産230億円を誇る個人株式投資家のカリスマcisさんですが、不動産にも投資をしているそうです。リーマンショックで不動産価格が暴落したタイミングで購入したとのことで、不動産投資の腕も一流ということでしょう。そのcisさんいわく、「罰ゲームを受けているような気持ちになる」そうです。詳細は、「一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学cis」(角川書店)をご覧下さい。

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閑話休題

【閑】深読み名古屋めし

私は愛知県の出身です。愛知県といえば、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三英傑を生んだ土地ですが、今でも色々なところで戦国時代の名残を感じることができます。


愛知県は、お寺の多さで日本一です。愛知4,600、大阪3,400、京都3,100、東京2,900。だいたいこんな感じです。愛知県にこれだけたくさんのお寺があるのは、戦国時代に戦勝祈願をしたり亡くなった武将を弔ったりと、お寺がよく使われたからだと言われています。
また、愛知県人はバカ、アホの意味で「たわけ」をよく使います。時代劇で殿様が「たわけもの!」と部下を叱るあれです。ほかにも、年配の方は「お先に失礼します」の意味で、「ご無礼します」と言ったりします。

食にも戦国時代の名残を感じます。例えば、「味噌煮込みうどん」です。太い生煮えの粉っぽい麺が、赤みその濃厚なだし汁の中でぐつぐつ煮えているやつです。赤みそは八丁味噌とも言われますが、家康の生誕の地、三河の岡崎が発祥です。
では、あの特徴的な麺はどこで生まれたと思いますか?答えは、山梨県です。味噌煮込みの麺のルーツは「ほうとう」です(他説もあり)。山梨の名物ですが、ほうとうはその昔、戦国武将の携帯食でした。
となれば、武田信玄が徳川を攻めたときも、ほうとうを持参したに違いありません。残念ながら、武田氏は長篠の合戦のあとで滅んでしまいますが、戦国最強の武田軍の兵士の多くは、三河藩に転職したといわれています。(その後三河藩は最強と言われた) ここで三河の八丁味噌と甲斐のほうとうが運命的な出会いをします。そして生まれた愛の結晶が「味噌煮込みうどん」だったのです。

次にご紹介したいのが、あんかけスパです。「あん」といっても、あんかけうどんや天津飯とは違ってスパイシーなデミグラスソースのようなものです。
炒めた太麺パスタにソーセージやベーコン、玉ねぎ等をトッピングし、その上に黒褐色のあんをかけます。希望によってカツやハンバーグ、目玉焼きなんかを乗っけることもできます。見るからにB級グルメ。初めて食べた人は間違いなく「何だこれ?」と感じることでしょう。はっきりいって美味しくはありません。二度と口にしようと思わない人が大半です。でも何かの間違いで3回口にすると、不思議なことに虜になってしまいます。実際、あんかけスパのお店はどこも大人気です。

ところであんかけスパのルーツはどこでしょうか?これは私の勝手な推測です。
あんかけスパ発祥とされる名古屋市の某店は、もともと洋食屋さんでした。通常、洋食における主役は、カツやハンバーグ、ステーキです。そして、少量のパスタやサラダが脇役として申し訳程度に添えられます。
ここからは私の推測ですが、ある日某店のシェフはふと思いました。洋食の主役と脇役を逆にしたら、どんな料理になるだろうと。そんなシェフの偶然の思い付きから生まれた料理が、あんかけスパではないでしょうか。
ここではパスタが主役に躍り出て、カツやハンバーグは脇役に格下げされます。これぞまさに洋食界の下剋上。農民から天下人に成り上がった秀吉を彷彿とさせます。

愛知県人は今日も名古屋めしを食べながら、戦国の武将たちに思いを馳せるのです。

 

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閑話休題

【閑】ぞうさん

皆さんは、童謡「ぞうさん」を聞いて違和感を感じたことはありませんか。
私は子供の頃から「そうよ母さんも長いのよ」の部分に強い違和感を感じ、たびたび悪夢にうなされました。

私の夢の中では、仲の良い親子(ママと坊や)が動物園で柵の外から像を見ており、坊やはママの背中におんぶされています。そして、坊やがママに問いかけます。「ぞーさん、ぞーさん、お鼻が長いのね?」

ママはその問いかけに、「そうよ、母さんも長いのよ」と答え、肩越しに坊やを振り返ります。さっきまで普通だったママの鼻が、恐ろしいことに蛇のように長く伸びているではありませんか。

恐怖に震える坊やの青ざめた顔。甲高い声で笑い続けるママ。
これほどシュールな童謡が他にあるでしょうか。


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株式

【株】長期投資への思い

これまで私は一貫して長期投資をお勧めしてきましたが、投資手法は十人十色、人それぞれでいいと思います。長期投資が正しいというエビデンスもありません。
ただ、私は個人投資家が気楽に取り組むには、ほったらかし投資が向いているんじゃないかなと思っています。

私は金融機関で30年間、年金基金や機関投資家のお客様に、内外の債券や株式、不動産等のオルタナティブ商品を販売してきました。私が勤務していた会社は一応大手といわれる運用会社です。その運用会社が運用する商品や、海外の一流ファンドの運用商品を購入いただいたお客様に、3ヶ月ごとに運用結果の報告を行っていました。私が30年の経験で知ったことは、一流といわれる運用会社や最先端のヘッジファンドでも相場を当てることは至難の業で、良好な運用実績を何年も続けることはできないという厳しい現実です。優れた過去実績を掲げた商品が、お客様にご採用いただいたとたん運用が悪化しクレームとなることが何度もありました。
内外の一流プロでさえ勝つことが難しい運用の世界で、個人投資家がガチでぶつかって勝ち残る可能性がどれだけあるでしょうか。短期運用で巨額の利益を上げている個人投資家が存在することは知っていますが、正直、私には彼らが幸運なサバイバーにしか見えません。

私は、株式投資を個人がもっと手軽に取り組めるものになればいいと思います。しかし、株式は銀行預金とは異なります。価格下落、元本割れのリスクを受け入れることができない方は、株式に近寄るべきではありません。しかし、リスクを正しく理解し受け入れることのできる方には、もっと気軽に株式投資にアクセスしてほしいです。専門的な知識や継続的な相場のモニタリングなどなくても株式投資は可能です。そして、そのための方法のひとつが、買値にこだわったほったらかし投資です。
プロ投資家とは異なる土俵で戦い、長期の時間軸でゆっくりと投資先企業の成長を見守り、成果を享受する。私がお勧めするのは、そんな運用です。

私が長期投資をお勧めする際によくいただくお叱りは、バブル崩壊後30年たつのに、いまだ日経平均はバブル高値を回復していないではないか、というものです。おっしゃる通りで反論できません。ただ、私は今後日本でバブルが崩壊しても、平成バブルのようにはならないだろうとの希望的観測を持っています。なぜなら、平成バブルは特殊なケースであり、今やその特殊性は大幅に改善していると考えるからです。具体的には、①当時は企業間や銀行と株式持合いが盛んに行われていたこと、②東京市場での外国人シェアが極端に低く内外の価格裁定が働かなかったこと、③バブル崩壊後の政府日銀の政策対応が誤っていたこと、等です。

今後も資本主義の宿命として、5年から10年のサイクルでバブルの形成と崩壊が繰り返されるでしょう。そして、バブル崩壊の時期は誰にも分りません。ただ、今後はバブルが崩壊したら当局の適切な政策対応によって、他国と同様に5年程度で相場は回復するものと期待しています。

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株式

【株】ビッグウェンズデー

ビッグウェンズデーという映画をご存知でしょうか。
1970年代に公開されたアメリカ映画です。カリフォルニアの海で、水曜日にやってくるという伝説の大波に挑む若きサーファーたちの物語です。詳しい内容は忘れてしまいましたが、映画を見たあとの爽快感は鮮明に覚えています。
何でそんな話をするのかといいますと……。感じるんです、ビッグウェーブの胎動を。

私が会社に入ったのはバブル前夜の1987年です。当時担当していた某取引先が社員食堂ならぬ社員ディスコ(今ならクラブですか)を作ったり、同社の関係者が時価2億円の超高級外車(確かフェラーリF40)をデート中に炎上(SNS上ではなく文字通り)させるなど、とにかく浮かれたエピソードには欠かない時代でした。
金余りの中、銀行が不動産を担保に会社や個人にお金を貸しまくり、会社や個人は株や土地を買い漁りました。日本中がヘッジファンドと化していたのです。

当時は銀行と事業会社、あるいは事業会社同士が株を持ち合っていたため、市場に流通する株式は数が限られており、その限られた株式を会社と個人が奪い合いました。そして、気が付いたときには、日経平均株価は39,000円目前に迫っていたのです。また当時、東証の外国人の売買シェアは8%程度と低かったため、日本市場と海外市場の裁定は働かず、日本株の割高さが修正されることはありませんでした。1989年の日本株のPERはなんと60倍。今にして思えば、極東のガラパゴスで起きた珍現象でした。

しかし、さすがに日経平均40,000円の大台を前に、酔っ払いたちの目も覚めたのでしょうか。1989年の大納会で付けた38,915円を最後に、日本株は下げに転じます。下がり始めるとレバレッジが逆回転し、一気に相場は崩れました。バブル崩壊です。このころはバブルというワードがまだ一般化しておらず、私の上司など取引先を訪問しては、「バブルが弾けた」と言うつもりで「バルブが飛んだ」とよく言ってました。

バブルかどうかは、事前にはわかりません。グリーンスパン元FRB議長が言ったように、バブルは弾けて初めてバブルであったと分かるものです。ですから、金融当局が取るべき行動は、事前のバブル潰しではなく、バブル崩壊後の相場の下支えです。ここのところを当時の日銀は理解せず、セオリーと真逆のことをやらかしました。日銀はバブル崩壊後速やかに金利を引き下げるべきところ、金利を引き上げたのです。それも、15ヶ月の短期間に3.5%もの利上げです。この危篤患者に冷や水を浴びせるような行為により、日本株は瀕死状態となります。「平成の鬼平」と言われた当時の日銀総裁は、国民の支持もあり「バブル退治」と言いながら、掟破りの魔手をうち続けます。日本経済はその後「失われた30年」といわれる長期停滞に陥りましたが、私はこれは日銀の不作為による人災だと思います。
ちなみに、リーマンショック後の米国株は、当局の迅速かつ適切な政策対応により5年ほどで回復しています。

瀕死状態となった日本株ですが、死んではいませんでした。失われた30年の間に、あれほど割高であったPERは国際標準の15倍程度に修正され、EPSも着実に改善しました。東証の外国人シェアも、今では60%を超えています。仮に、足元の日経平均のEPS2,100円を米国並みのPER20倍で評価すると、2,100×20=42,000円となります。余裕で最高値の38,915円を更新する勢いです。また、東証1部の足元の時価総額は730兆円と、バブル期の606兆円をはるかに凌いでいます。冒頭、私がビッグウェーブの胎動を感じるといった理由がお分かりでしょうか。

振り返ればこの30年、もう二度と日経平均最高値38,957の更新はないという絶望と閉塞感が、日本社会を覆ってきたように思います。しかし、前回のピークから35年、ようやく、そのくびきから解放されるときが来ました。今まさにFRBは金融政策の転換に入ったところです。コロナ禍による過剰流動性で底上げされた現下の株価水準は到底維持困難であり、調整は必至でしょう。しかし、私は調整を終えた次の上昇波動において、日経平均株価は最高値を更新するとみています。そして、その瞬間、日本人は再び前を向いて歩き始めるのです。

来るべき「ビッグウェンズデー」に向けて、仕込みは抜かりなく。

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株式

【株】公式から見える株価変動のメカニズム

証券分析で使用する公式はいくつかありますが、今回はシンプルで利用価値の高い2つの公式に焦点を当て、そこから見えてくる株価変動のメカニズムについて考えたいと思います。

最初にご紹介する公式は、P=EPS×PER……① です。Pは株価、EPSは1株利益、PERは株価収益率です。株価は1株利益に株価収益率をかけたものに等しい、という意味になります。ここでPERについてご説明します。①式の両辺をEPSで割ると、PER=P÷EPSとなります。つまり株価が1株利益の何倍か、その倍率がPERです。ですから、PERが大きい株は1株利益に対し割高、PERが小さい株は割安と見ることができます。また、別の見方もできます。PERが大きい株は割高でも買われるほど人気のある株、PERの小さい株は割安でも買われない人気のない株、という見方です。特に、この人気という観点でPERを評価する場合、PERは理屈の世界を離れ、好き嫌いという市場参加者のセンチメントの世界に入ってしまい、投資家にとって扱いにくいものになります。

もう1度①式を見てください。決算が好調な企業は1株利益EPSが上昇しますので、通常であれば株価Pも上昇するはずです。しかし、好調な決算を発表した企業の株価が、決算発表後に急落する場面を私たちは頻繁に目にします。これはどういうことでしょうか。可能性の一つが、決算に対する投資家の期待が高く、決算発表前のPERが高過ぎたケースです。決算発表の前後でEPSが100→120に2割増加したとします。PERに変化がなければ、株価も2割上昇するはずです。しかし、PERが20→10に減少したらどうでしょう。株価は100×20=2000から120×10=1200に下落します。
企業の決算をチェックすることでEPSの動きはそれなりの確度で予測できますが、市場参加者の心理状態を映す鏡であるPERはその時々で自在に変化し、短期的な動きを予測することは困難です。短期的な株価がランダム・ウォークする所以です。
PERが極端に上昇した状態をバブルといいます。そして上昇しきったPERが通常の水準に回帰する過程がバブル崩壊です。株価PはEPSの上昇に合わせて中長期的には上昇トレンドを描きながら、PERの上下動に伴い短期的にはトレンドを離れ上昇、下落を繰り返します。

次にご紹介するのは、割引配当モデルと言われるものです。P=D÷(rーg)……②
Pは株価、Dは配当、rは株主資本コスト、gは配当成長率です。株価は配当を株主資本コストから配当成長率を引いた率で割ったものに等しい、という意味になります。株主資本コストとは耳慣れない言葉ですが、ここでは「株主資本コスト(r)=国債利回り+α」、とザックリご理解ください。金利の上昇によって株価が下落することはよくありますが、②式から、金利↑⇒r↑⇒P↓の因果関係が見えてきます。
最近の米国市場では金利の上昇を受け、ナスダックのグロース株がバリュー株に比べ大きく売られるケースを目にします。この点を②式で確認します「´」をグロース株、「”」をバリュー株とします。配当成長率はグロース株の方がバリュー株より高いですから、g´=3%、g”=1%、と仮定し、金利上昇に伴いrが4%⇒5%に上昇したとします。この場合グロース株は、P´=D´÷(4%-3%)=100D´が、P´=D´÷(5%-3%)=50´、に50%下落します。
バリュー株は、P”=D”÷(4%-1%)=33D”、がP”=D”÷(5%-1%)=25D”、と24%のの下落に留まります。

このように、②式から金利上昇の影響は、配当成長率の高いグロース株の方が強く受けることが分かります。しかし、過去のデータから、中長期的には金利上昇局面でグロース株が上昇することが分かっています。これはどう理解したらいいのでしょうか。もう一度②式をご覧ください。先程の例では配当成長率gは不変としましたが、通常、金利が上昇するときは景気が良好なときです。企業の業績も好調でしょうから配当も増加するはずです。rが上昇しても、それ以上にgが上昇すれば、例えば、rが4%⇒5%のときにg´が3%⇒4.5%となったら、P´は100D´⇒200D´と2倍になります。つまり、金利の上昇は、配当成長率gが変化しない短期においてはグロース株の下落要因となりますが、配当成長率gが上昇する中長期においては、グロース株の上昇要因になるということです。


また、別の見方もできます。配当Dを不変とすると金利の低下に伴う株主資本コストrの低下により、株価Pは上昇します。これが金融相場です。一方、配当成長率gの上昇による株価Pの上昇が業績相場です。
景気が悪化すると、中央銀行は金融緩和策を取ります。これにより金利は低下、金融相場が始まり株価は上昇に転じます。景気は徐々に回復し、金利も上昇していきます。中央銀行のスタンスも金融緩和から引締めモードに変わります。金融相場の終了です。このままでは株式相場は下落します。しかし、景気回復に伴い企業業績が改善すれば、配当成長率は上昇。業績相場が始まり、株価は更なる上昇を演じます。

P=EPS×PER、とP=D÷(r-g)というシンプルな2つの公式ですが、以上のように株価変動のメカニズムを簡潔に説明してくれます。ときどきこれらの公式を思い出して、現状の把握に役立てていただきたいと思います、

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株式

【株】コンセンサスを知る

私たち個人投資家が株式投資をするうえで知っておくべきこととして、コンセンサス(市場参加者の予想の平均値)があります。私は主に新聞の記事や、テレビの情報番組の出演者のコメントからコンセンサスを探ります。新聞の記事が一様に相場に強気なときは、市場参加者の大半が強気であると判断します。そんなときに好材料が出ても、株価の上昇につながらないことが多いです。逆に、大した悪材料でなくても、相場急落の材料とされることもあります。つまり、短期的な相場の動きは、材料(実績値)の絶対的な水準ではなく、コンセンサスと実績値の乖離幅という相対値に依存しているわけです。乖離幅が大きいほど市場参加者にとってサプライズとなり、相場が大きく動くことになります。個人投資家にとって新聞やテレビは、投資方法を教えてくれる先生ではなく、あくまでコンセンサスを知るためのツールと割り切ることが大切です。

それから、長期投資家の皆さんにお勧めしたいのが、SNSを通じて投稿者のコメントの動きを見ることです。私はこれを海釣りをするときの鳥山のように感じます。SNSが投稿者のポジティブなコメントに溢れている状態を、海鳥が魚を目指して殺到する様になぞらえているわけです。ただ、海釣りと違うのは、投稿者が殺到している最中は静観し、投稿者のコメントが落ち着いてから買いに動くところです。

また、日経平均VI(ボラティリティ・インデックス)も参考になります。これは、市場参加者の警戒感を表すものです。VIが20以下で低位安定しているときは、市場参加者がガードを下げ安心しきっていることを意味します。そんなときに好材料が出ても買いにはつながりにくいですが、ちょっとした悪材料が思わぬ急落を呼ぶことがあります。

「人の行く裏に道あり花の山」。敢えて人と反対の行動をとる。長期投資家は、天邪鬼でひねくれ者のほうが向いてるかもしれませんね。

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ライフプラン

【ラ】FIREの問題点とFP的対応②

FP的対応①では、会社からの独立は想定していません。独立を前提としたFIREを目指す場合は、公的年金の終身年金機能をフルに活用して人生終盤の収入を固めた上で、FIREから年金支給開始年齢までに必要となる収入の原資をFIREするまでに確保することが必要です。そして、FIREから年金支給開始までの間は、その原資を取り崩して生活費を賄うことになります。公的年金を最大限活用すれば、過度に資産運用にベットしない生活設計が可能です。以下ではFIREを想定した修正MLPを検討しましょう。

【修正MLPの前提条件】
・45歳で本業をFIREするものとします。各年齢での収入は以下の通り。
・同じ年齢の妻(専業主婦)と28歳で結婚するものとします。
(1)22歳~45歳まで:本業に年収500万円で従事。300万円を生活費に充当し、残額の200万円を運用資産として積み立てます。運用利回りは2%とします。
(2)45歳~70歳まで:(1)の期間で積み立てた金額は45歳時点で5,769万円となります。この資産を引き続き2%で運用しながら25年間で取り崩すことで、年間294万円を生活費に充当できます。
(3)70歳~    :(1)の期間の会社勤務の結果、厚生年金と国民年金を65歳時に年間209万円受給することができます。それを70歳まで繰り下げて297万円の年金を終身受給することができます。

上記の修正MLPではFIRE前に会社員時代の平均年収を500万円とし、うち200万円を毎年積み立てて2%で運用する計算です。決して無理な運用利回りではありませんが、FIREの45歳時には積立額は5,769万円まで拡大することになります。この資産を引き続き2%で運用しながら70歳時までの25年間で取り崩すことにすると、年間294万円を得ることができますので最低限の生活費は賄える計算になりますにす。(月間生活費25万円の前提)
そして、70歳以降は会社員時代の厚生年金と国民年金をまとめて繰り下げることで、年間297万円の年金を終身受給できます。

このように、修正MLPでは公的年金を最大限活用することで、過度な運用利回りと過大な運用資産額を前提としなくても45歳時にFIREするための絵を描くことができます。(ただし、お話を簡潔にするため税金、社会保険料等は考慮していませんのでご容赦ください)
また、上表ではFIREの年齢を45歳と40歳、運用利回りを0%~4%、年収を500万円~800万円、でパターン分けして記載しています。理屈の上では、FIRE前の平均年収や運用利回りをもっと大きな数字に置けば、早期のFIREも可能になります。しかし、長期にわたって4%以上の利回りを条件とするプランは、個人的には破綻する可能性が高いと感じます。

老後を含む生涯にわたり最低限の生活費を確保する目途がたてば、後は「本業」(=修正MLP)に「副業」と「投資」を乗っけることで、ゆとりある収入の確保を図ることになります。従来の会社員生活の問題点は、(ⅰ)「最低限」の収入の獲得、と(ⅱ)「働きがい」の獲得、そして(ⅲ)「最低限+α」の収入の獲得、の全てを本業に求める点にあると思います。SCaPでは(ⅰ)~(ⅲ)を一旦バラバラにして、それぞれの役割を本業、副業、投資に割り振った上でポートフォリオを再構築します。

これにより過度に会社=本業に依存した不安定な1本足打法から、安定した3輪走行に移行し、社会人生活を無理なく効率的に送ることが期待できます。
最後に改めてSCaPのメリットを言いますと、
1.セーフティネットを失わない。
2.資産運用の目線を下げることができる。(4%→2%)
3.仕事の役割を分解することで会社に隷属せず、自立した社会人生活を送れる
4.社会との関係性を維持できる

(注)SCaPは本来Supreme Commander for the Allied Powers(連合軍最高司令官)の意味ですが、ここでは「効率的職業ポートフォリオ」を意味するFP花草の造語として使用しています。

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【ラ】FIREの問題点とFP的対策①

若年期に会社員生活を終えるFIREの最大の問題点は、老後の生活費の原資となる年金への悪影響です。FIRE後は国民年金に加入することになりますが、厚生年金と比較すると65歳以降受給できる年金額が大きく減少しますし、障害者になった場合や死亡した場合の保障も大幅に劣化します。他にも、健康保険を脱退し国民健康保険に加入することで、保険料は全額自己負担(健康保険は労使折半)となりますし、休職時の傷病手当金も支給されません。また、失業時の雇用保険の給付(基本手当)もなくなります。
このようにFIREすることは、会社からの自由と引き換えに、セーフティネットを失うことを意味します。

以下では敢えてFIREせず、人生100年時代を細く長く安心に送るためのモデルプランを検討してみます。まず手始めに、公的年金を活用した終身年金を設計していきます。この年金により生涯を通じた月収25万円(税込み)生活が可能となります。これを、必要最低限の生活設計の意味で、ミニマムライフプラン(MLP)と呼ぶことにします。

【MLPの前提条件】
・生涯を通じ税込み25万円を必要最低限の生活費(月額)とします。(年間300万円)
・本業となる会社に22歳で入社、60歳で定年退職。その後、70歳まで嘱託として継
 続雇用。
・同じ年の妻(専業主婦)と28歳で結婚。
・各年齢での収入は以下の通り。
(1)22歳~60歳:月収25万円、年収300万円で本業に従事。60歳で本業は定年退職。
(2)60歳~65歳:年収200万円で嘱託として継続雇用。
(3)65歳~70歳:年収100万円で嘱託として継続雇用。

65歳時に受給できる老齢厚生年金(老厚)、及び老齢基礎年金(老基)は、
・老厚=(300万円×38年+200万円×5年)×0.55%=68万円。老基=78万円(※)
これを70歳まで繰り下げると、(68万円+78万円)×1.42=207万円、となります。
また、65歳から70歳の再雇用による年金増加分が、100万円×5年×0.55%=3万円
よって、207万円+3万円=210万円。妻の老基(32年間加入)を70歳まで繰り下げると、78万円×32年/40年×1.42=89万円となります。
結果、世帯合算では210万円+89万円=299万円。ほぼ300万円の年金(年額)を70歳から終身(世帯主が生きてる限り)受給することができます。
(※)老厚の一部として支給される経過的加算を老基にカウントしています。

ここで強調したいのは、22歳から70歳の間に前提条件(1)~(3)の年収300万円~100万円で会社勤めをすれば、老後資金は国の方で準備のうえ年間300万円の年金として70歳から終身支給してくれることです。無理して運用で老後資金を作る必要はありません。例えば、70歳から100歳までの30年間に受け取る年金は300万円×30年=9000万円です。これを運用で準備しようと思ったら大変です。ちなみに、厚生年金の保険料は給料の約9.2%ですが、MLPの例でいくと22歳から70歳までに国に支払う保険料は、(300万円×38年+200万円×5年+100万円×5年)×9.2%=1180万円です。
1180万円が9000万円になるとしたら、結構なパフォーマンスです。

尚、60歳~70歳の生活費が合計で1500万円不足するので、この足らずについてはiDeCo等で別途補う必要があります。例えば、毎月1.5万円を年利3%で38年間運用すると、1240万円になります。差額は退職金等で補えば、1500万円を確保できる計算です。

上記MLPは70歳までの継続雇用でモデルを設計してみました。嘱託期間を含め70歳まで会社員生活を続ければ、高額な年収や無理な運用利回りを前提としなくても、公的年金をフル活用することで最低限の生活設計が可能です。
セーフティネットで守られ、細く長く安定した生活を送ることができます。