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閑話休題

【閑】目から鱗が落ちる

皆さんは目から鱗が落ちた経験はありますか。最近、私はある本を読んでいて、目から鱗が落ちました。この言葉の意味は、「何かがきっかけとなって、急に物事の実態がよく見えるようになること」ですが、せっかくなので語源も調べてみることにしました。当初、私は中国の故事か何かだろうと思ったのですが、何と、新約聖書の使途列伝九でパウロがイエスの教えに目覚める瞬間の出来事に由来しているそうです。これを知って私は一人で興奮してしまったのですが、皆さんはご存知でしたか?
それにしても、パウロの目から落ちた鱗は、さぞ大きな鱗だったでしょうね。それから、パウロは人魚か半魚人だったのでしょうか。

私が何について目から鱗が落ちたのか、話を続けます。日本の労働生産性が先進国で最低であることは広く知られていますが、バブル期まではトップレベルであったことを知る人は少ないです。なぜかバブル崩壊後の1990年代に入り、日本の労働生産性は急低下してしまったのです。
労働生産性は、国内総生産(GDP)を就業者数で割って算出し、労働者1人あたりの産出量を表します。
なぜ、日本の労働生産性が先進国の中で飛び抜けて低いのか。よくある説明として、日本の企業は残業時間が長いとか、年功賃金であるとか、ITの導入が遅れているとか言われますが、私は予て疑問に思っていました。なぜなら、それらの日本企業の特徴はバブル前後で変わっていないのに、それを労働生産性が急低下した原因だというのは無理があるからです。

そんな私の疑問に明快に答えてくれた本が、岩田規久男さん(前日銀副総裁)の「なぜデフレを放置してはいけないか」(PHP新書)です。この本には、デパートの店員と売上高の例が出てきます。景気が悪化すると、来店客は減ります。店員は暇を持て余しますが、店員の労働時間は変わらず売上だけが減少します。逆に、景気が良くなると来店客は増加し、店員は繁忙となって売上は増加します。しかし、デパートは定時に閉まるので、店員の労働時間は変わりません。売上が増加したのはデパートがITを導入したからでも、店員の接客技術が上がったからでもありません。単に、景気が良くなったからです。
これと逆の現象が、バブル後にデフレ下の日本で起きたということです。なぜ、日本の労働生産性が1990年代に入り急低下したのか。なぜ、日本だけが突出して労働生産性が低いのか。その答えは、いずれもデフレです。日本がデフレに陥ったのは1990年代に入ってからです。そして、第二次世界大戦後、デフレになった国は世界で日本だけです。

ポストコロナにおいて、先進諸国はインフレに見舞われることになります。それは日本も例外ではありません。しかし、他の国々では経済を蝕む忌まわしいインフレも、我が国にとってはデフレを退治してくれる救世主かもしれません。

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株式

【株】投資信託を考える

これまで当ブログをご訪問いただいた方は、私が投資信託に言及しないことに疑問を持たれたかもしれません。そこで、今回は私が(国内)株式投信について思うところをお話したいと思います。
一般に株式投信のメリットは、①小口の資金でも投資できる、②(アクティブ投信の場合)専門家の運用力に期待できる、③NISAやiDeCoといった税制優遇制度を利用できる、などです。

以下では、特に②について堀り下げたいと思います。投信を購入する個人投資家は、専門家の卓越した運用力に基づく良好な運用結果を期待します。当然、投信を運用する専門家もその期待に応えようと努力するわけですが、彼らの目指している努力の方向性を確認しておく必要があります。個人投資家は、専門家にプラスの収益を上げてほしいと思っています。しかし、専門家の目指す方向は、個人投資家の思いとは必ずしも同じではありません。彼らが目指しているのは、東証株価指数(トピックス:TPX)や日経平均株価といったベンチマーク(※)に勝つことです。TPXがー10%のときに投信がー8%であれば、彼らの世界では勝ちとなります。つまり、投信が目指すのはベンチマークに対する相対的な勝ちであって、プラス収益を上げる絶対的な勝ちではないということです。
(※)ベンチマーク:運用実績を比較するための指標

そして、もう1点注意が必要なのは。投信が対ベンチマークでの勝ちを狙う以上、ベンチマーク自体の収益率が低下すると、投信の運用実績(絶対値としての運用実績)も引きづられて低下してしまうことです。
現在、TPXは2000社を超す東証1部上場の全企業を対象としていますが、TPXに投資することは日本経済全体に投資することにほぼ等しいです。平成バブル以降、日本の経済成長率はずっと1%近辺で低迷しており、TPXの期待収益率に下方バイアスがかかるため、投信の運用実績も悪影響を受けます。TPXをベンチマークとした日本株投信を買う場合、泥舟の日本丸と心中する覚悟が要ります。

では、これら問題含みの日本株投信に対し、個人投資家が取れる行動は何があるのでしょうか。私が今思いつくものは、以下の通りです。
1.低成長の日本経済の影響を受けない、成長力のある外国株投信を買うことです。最近、日本をパスして米国株式に若い方たちの投資マネーが流れているようですが、理にかなった賢明な行動です。
2.日本株投信でも、TPXのような包括的な指標でなく、対象を限定した指標をベンチマークに設定した投信を買うことです。例えば、成長株に限定した投信や、小型株に限定した投信、あるいは業種を限定した投信等です。尚、成長株投信の看板を掲げたものでも、ベンチマークがTPXとなっているものはNGです。ETFと言われる上場投信であれば、規模別や業種別等の豊富な指標のバリエーションから、投信を選択することができます。
3.絶対収益を追求する投信を買うことです。対ベンチマークでの相対的な勝ちではなく、絶対値としてのプラス収益を目指す投信です。ただ、絶対収益追求ファンドの中には、先物や空売り等の投資手法を使ったり、不動産や未公開株、バンクローン等に投資したりと、純粋な株式投信と言えないものが多いです。また、信託報酬率が3%を超えるものもあり、要注意です。
優秀なアナリストによって厳選された優良企業への投資で絶対収益を狙っていく、ノンベンチマーク型の株式投信があれば買ってみたいのですが、私が勉強不足なのか、未だお目にかかったことがありません。そのため、私は業種別代表企業の個別株を、押し目を待って泥臭く拾うことにしています。

先程お話した国内株式投信の抱える問題点は東証も自覚しており、TPXを成長力ある企業を対象とした指標に見直す予定です。2022年4月4日に東証は市場の再編(プライム、スタンダード、グロース)を実施します。これまで、TPXの構成銘柄は、東証1部に上場する全企業が対象でした。しかし、市場再編後は市場区分に関係なく、基準を満たした企業のみが選出される形に変更されます。TPXが選抜型になることで優良企業のみが算出の対象となり、指標の質の向上が期待されます。
今後、TPXが成長性の期待できる指標=インデックスとして生まれ変わったなら、私も個別株派から投信派へ宗旨替えするかもしれません。

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不動産

【不】減価償却による節税効果

不動産会社の営業マンがお客さんに物件を薦める際の常套句は、「年金の代わりになります」「生命保険の代わりになります」ですが、次に多いのが「節税対策になります」です。不動産を年金や保険の代わりにと言って薦めてくる営業マンは、現下の不動産マーケットにおいて、不動産が運用手段として使えないと言ってるに等しいことに気付いていません。ただ、節税対策に関しては、使いようによっては不動産は有効なツールとなると思います。
雑誌等には、富裕層が相続税の節税対策としてタワマンを購入する事例が良く紹介されますが、以下では不動産を使った所得税(+住民税)の節税対策を見ていきます。

まず、所得税の節税の仕組みです。これには、減価償却費(※1)という独特の費用科目を使います。減価償却費は、現金の支出を伴わないという特性があります。帳簿上は立派な費用ですから、減価償却費を計上すれば不動産所得の赤字(損失)が立ちます。そして、確定申告で給与所得の黒字と不動産所得の赤字を通算し、課税総所得金額を圧縮することで所得税を節約できます。
(※1)減価償却:建物の取得価格を法定耐用年数の期間に亘り定額で費用処理すること。1年間の費用処理額を減価償却費という。

年間の所得金額が1800万円を超える方であれば、所得税40%、住民税10%で計50%、稼いだお金の半分を税金に持っていかれるわけです。そこで、上記の不動産所得の赤字をぶつけることで、圧縮した課税総所得金額の50%を節税できた計算になります。

しかし、話はここで終わりません。なぜなら、減価償却費を計上するために購入した不動産物件(建物)は、償却期間が終わったら売却する必要があるからです。不動産売却時には、「不動産の帳簿価格(取得価額ー減価償却費累計額)+仲介手数料+印紙税等」の譲渡原価と、売却価額差額に対して譲渡所得税がかかります。
譲渡所得税の税率は、物件の所有期間5年以下で約40%、所有期間5年超(※2)で約20%です。つまり、所有期間5年超、かつ取得価額と同額で売却できたとすると、50%と20%の差分の30%が税金の軽減効果として得られることになります。尚、譲渡所得は分離課税のため、売却益が他の所得や住民税の税額に影響することはありません。
(※2)物件売却年の1月1日において保有期間が5年超であること

このように、不動産を使った所得税節税スキームの本質は、減価償却費の税の繰り延べ効果を使った異時点間の税率アービトラージです。ですが、このアービトラージが成功するためには、幾つかの条件があります。
①給与等の総合課税の累進税率が高いこと(高所得者で所得税率40%以上が効果的)
②購入物件の償却期間が短いこと(築古木造で6年程度が望ましい)。
③保有期間5年超で物件を売却できること。(デッドクロス(※3)前に物件売却できない場合、キャッシュアウトが急増し節税効果が減殺されます)
④物件の売却で節税額以上の損失を出さないこと。


(※3)デッドクロス:ローン返済額が減価償却費を上回る時点のこと。デッドクロスが生じると黒字倒産(勘定合って銭足らず)のリスクが高まる。

デッドクロスに関しては、節税目的でなく運用目的で不動産を購入する方も注意しておく必要があります。例えば、築15年の木造中古アパートに投資した場合、【表1】より(22-15)+15×0.2=10年で減価償却が終わります。10年経過後は急速にキャッシュフローが悪化し、手残りが減少、手出しが増加することになります。

最後に。営業マンの「年金代わり」「生命保険代わり」のセールストークが出たらご用心ください。また、新築ワンルームは節税対策には効果薄です。気を付けましょう。


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株式

【株】公式から見える株価変動のメカニズム②

米国株安に連れる形で日経平均株価は年末に29,000円を割り込み、1月27日には26,000円割れ寸前まで大幅な下落を演じました。その背景には、米国での実質金利の上昇があると言われています。今回は、公式シリーズの第二弾として、金利(債券)と株式の相関関係を説明する「イールドスプレッド」を取り上げたいと思います。
イールドスプレッド(s)とは、株式の益利回り(=一株利益:EPS÷株価:P=1/PER)と、長期金利(r)の差のことです。長期金利は名目金利を使う場合もありますが、最近は実質金利を使うケースが多いようです。

イールドスプレッド(s)=1/PER-r ………③

イールドスプレッドは一定のレンジに収束する傾向があります。今回のように、実質金利(r)が上昇したら、それに合わせて益利回り(1/PER)も上昇し(PERは下落)、イールドスプレッド(s)は一定値が維持されるという話です。


では、実際に昨年11月から今年1月にかけての米国市場の数値を確認してみましょう。実質金利は11月9日にー1.19%を付けたあと、FRBの金融政策の変更を織り込む形で1月26日にー0.52%まで上昇しました。その間、0.67%の金利上昇です。一方、NYダウの益利回りは11月9日の4.42%(PERは22.65)から、1月26日に5.02%(PERは19.93)まで0.60%上昇しており、ほぼ実質金利の上昇分に相当していることが確認できます。つまり、11月から1月にかけてのNYダウの下落は、実質金利の上昇でほぼ説明ができるということです。
今回の米国株の下落は巷間言われるように、市場の予測を上回るFRBのタカ派的スタンスに、市場がビックリしたというところでしょうか。尚、グロース株の多いナスダックはより強く実質金利上昇の影響を受け、NYダウを上回る下落となっています。

公式から見える株価変動のメカニズム」の中の公式②で、金利が上昇してもそれ以上にEPSが増加すれば株価が上がるメカニズムをご説明しました。今、米国、日本とも12月決算発表の真っ盛りですが、金利上昇に負けないEPSの力強い成長が確認できれば、一旦は相場も戻り歩調を強めると思われます。
しかし、今回の実質金利上昇の背景にあるインフレは、コストプッシュ型の供給サイドを起点とするもので、いわゆる「悪いインフレ」と言われるものです。(「インフレが春を呼ぶ」ご参照) このタイプのインフレは、金融引き締め策が効きにくい点が特徴です。
今後、FRBの金利引き上げとバランスシート圧縮(QT)によってもインフレ鎮静化が難しいとなれば、米国株式市場、そして我が国の株式市場も、改めて大幅な調整局面を迎えることになるでしょう。

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株式

【株】仕組み債の闇

先日の朝日新聞で、金融派生商品を組み込み高い利回りを売り物にした仕組み債の販売が地銀で増えており、金融庁が問題視しているとの報道がありました。そもそも、仕組み債の「仕組む」というワードに、あまりいいイメージはないですよね。「仕組まれた罠」、とか使ったりします。そこで、今回は仕組み債の闇に光を当ててみたいと思います。
朝日新聞では仕組み債の損益の概要を、次のように説明しています。
①株価が上昇し判定日に早期償還判定水準を超えていたら、早期償還され以後満期まで利息は得られない。
②株価が下落し元本割れ判定水準を1度でも下回ったら、満期日に元本割れで償還される。
③株価が早期償還判定水準と元本割れ判定水準の間で推移した場合は、満期まで高い利回りが受け取れ、元本も満額で償還される。

文字で書くと分かりにくいですが、要は仕組み債を購入した顧客は、株価が一定のレンジ内に収まっていれば勝ち(収益を得る)となり、株価がレンジを外れて上へ行ったり下に行ったりしたら負け(損失を被る)となります。これと似たような話、以前どっかで聞きませんでした? そう、「手作りオプションで遊ぼう」でご紹介した「ストラドル」にそっくりですよね。そうなんです。仕組み債は、ストラドルのようなオプション等の金融派生商品を仕組んだ債券なんです。仕組み債を購入した顧客は、株価が一定のレンジ内に収まれば高い利回りを享受でき「勝ち」となるので、「ストラドルの売り手」に相当します。実際はストラドルの様なプレーンなオプションではなく、経路依存型とかエキゾチックと呼ばれる複雑怪奇なオプション等が仕組まれていますが、基本的な構造は同じだとお考えください

仕組み債を買った顧客は、債券を買うのと同時にオプションを売っています。ここが1番目の問題点です。恐らく、顧客は自分がオプションを売ったことを自覚していないし、仲介者である地銀の営業担当者も、そのことを十分説明していないでしょう。また、顧客が売るオプションですが、その価格が証券会社から開示されることはありません。ここが2番目の問題点です。顧客は適正価格がいくらか知らないまま、証券会社の言い値でオプションを売らされます。顧客は知らないうちに安値でオプションを売らされた挙句、巨大なリスクを背負わされているかもしれないのです。

仕組み債は高利回りをセールスポイントとして販売されます。しかし、高利回りの種を明かせば、何のことはない。自分が売ったオプションの料金を、利息として受け取っているだけです。それも、オプションを叩き売りした結果の、すずめの涙ほどの利息かもしれません。
今、発効価格100円の5年物債券があるとしましょう。マイナス金利の昨今、通常であれば利率は0%です。そこで、証券会社は債券の購入者である顧客に、日経平均のオプションを15円で売らせます。証券会社は、オプションの料金を一度に顧客に支払ってもいいですが、ここでは1年に3円ずつ5年に亘って支払うことにします。顧客の口座には毎年オプション料が3円入金されます。これが、年利3%の高利回り5年物債券の正体です。


でも、オプションの適正価格が25円だったらどうでしょうか。本当なら5%の利息がもらえるはずです。この例では、100円あたり25円ー15円=10円(10%)が証券会社に抜かれていることになりますが、実際のところは開示がないので確認のしようがありません。ただ、オプションは満期までの期間が長いほど、価格は高くなります。現在東証で取引されている日経平均オプションは4月限までです。満期が5年先のような特殊なオプション価格は相当高いはずです。

冒頭あったように、金融庁も仕組み債のコストが不透明であるとして問題視しています。欧州では仕組み債のコストは、販売価格と公正価格の差額として開示されているとのことです。
仕組み債の販売額が伸びているということは、マイナス金利の世の中にあって、それだけ個人投資家のニーズが強いということです。証券会社はそのニーズに付け込むような真似はせず、仕組み債に仕組まれた金融派生商品の販売価格と適正価格、そしてリスクを明示した上で、正々堂々と顧客に販売してほしいと思います。
仕組み債を購入する個人投資家も「仕組み債」と聞いたら、まずは「怪しい」と警戒しましょう。そして説明を聞いて理解できないものには近付かないことです。

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年金

【年】副業で変わる社会保険制度

コロナ禍によって私たち労働者の生活は大きく変わりました。収入の減少を補うために副業を始めた知人が、私の周りにも大勢います。日本社会の特徴と言われてきた終身雇用や年功賃金も、今では、いつの話?と聞かれる始末です。労働者の置かれる社会のあり様が変われば、労働者をサポートする社会保険制度も変化を求められます。
実際、2020年9月に複業者(本業+副業というように複数の仕事に従事する人)に係る労災保険が、そして、2022年1月から雇用保険が変わっています。今回は、労災、雇用保険を含めた社会保険制度における複業者の取扱いについて、確認していきたいと思います。

まず、労災保険です。労災保険は、労働者が業務や通勤が原因で病気やケガになったり死亡した場合に、所定の給付金が支給されます。そして、その給付金の計算の基になる給料(給付基礎日額)は、これまで災害や事故が発生した会社の給料を基に計算していましたが、今回の改正で複業者については、各勤務先の会社の給料の合計額で給付基礎日額を算定することになりました。
これは考えてみれば当たり前のことです。例えば、A社(給料10万円)とB社(給料20万円)の2社で働いていた人がA社で勤務中、業務上のケガで1ヶ月間休業を余儀なくされた場合、今までは労災からA社10万円の給料に対応する休業補償給付しか支給されなかったわけです。しかしこの場合、A社休業中にB社に従来通り出勤できるはずはなく、B社も休業することになります。ですから、A社とB社を合算した給料を基に給付基礎日額を算出する今回の改正は当然の変更です。

もうひとつの労災保険の変更点です。従来は労災認定する際、ひとつひとつの会社の労働時間やストレスを別々に評価していましたが、今回、複数の会社の労働時間やストレスを合算して評価することに変更となりました。これまでなら、A社のみの労働時間では労災認定に届かなかった場合も、これからはA社とB社の労働時間を通算することで、労災認定されるケースが増えてくるものと思われます。

次は雇用保険(失業保険)です。雇用保険は加入する条件として、①1週間の所定労働時間が20時間以上、②31日以上継続して雇用する見込み、となっています。複業している人が2社の所定労働時間や雇用日数を合算することはできません。主たる勤務をしている会社(本業)でのみ、雇用保険に加入することができます。
でも今後、本業と副業のウェイトの差がなくなってくると、現行ルールでは弊害が生じると思います。それを見越してか、今回の改正では65歳以上の労働者に限定し、本人の申請があった場合には、副業先での労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が、試験的に開始されています。

最後は、健康保険(介護保険)と厚生年金での複業者の取扱いを見ておきましょう。複数の会社で健康保険と厚生年金に加入することになった場合(※)も、健康保険証は一人につき一枚です。メインとなる会社を自分で選択し届け出ることで、選択した会社の健康保険から健康保険証が発行されます。
(※)健康保険と厚生年金の両方に加入しなければいけないという法律の規定はありませんが、実務上、健康保険と厚生年金の加入手続きは一体で行われるため、両制度の片方だけ加入し、他方には加入しないという選択はできません。

ここで、メインとなる会社を選択する際の注意点です。それは、給料を多くもらっている会社の健康保険組合を、単純にメインとなる健康保険組合として選択するのは間違いだということです。A社とB社の2社で働いている場合、A健保組合とB健保組合の保険料率(健康保険+介護保険)と付加給付(健保組合独自のプラスアルファ給付。高額療養費や傷病手当金等で上乗せ給付する制度)の内容を比較し、有利な方をメインの会社に選択しましょう。片方が組合健保、もう一方が協会健保の場合は、組合健保の会社を選択した方がベターな場合が多いと思います。また、A社B社とも協会健保に加入している場合は、協会健保間で保険料に差があるので保険料の安い方をメインに選択するといいでしょう。


厚生年金に関しては保険料は全国一律ですから、A社、B社どちらを選択しても有利不利はありません。また、厚生年金の年金額については、A社とB社両方の給料を合算した額(平均標準報酬額)が年金額に反映されますので、やはり、A社とB社のどちらをメインに選択しても違いはありません。



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ライフプラン

【ラ】介護・認知症プラン

人は誰でも最後はPPK(ピンピンコロリ)で逝きたいといいますが、今後は難しくなるかもしれません。2021年の厚生労働省の健康寿命調査では、男性は72.68歳、女性は75.38歳でした。医学の進歩で今後とも男女の平均寿命は伸びていくでしょうが、健康寿命の伸びは限定的と思われます。結果、介護・認知症ステージの期間が伸びることになります。その場合、人々はNNK(ネンネンコロリ)で最後を迎える可能性が高くなります。
介護・認知症はゆっくりやってくることもあれば、いきなりやってくることもあります。高齢者を抱える家族としては、早い段階から準備にはいっておいた方がいいです。私自身、認知症で要介護状態の親がいます。今回は、高齢者の介護・認知症への備えとして、何をどういう順番で進めていけばいいのか、皆さんと考えてみたいと思います。

親が認知症となり意思能力を失った場合、まっさきに困るのは親の預金口座が凍結されることです。子が親の介護費用を親の口座から支払おうにも、銀行は支払いに応じてくれません。そうならないために、介護・認知症プランの第1ステップとして、親が認知症になる前に、親の普通預金のキャッシュカードとパスワードを子と共有しておきたいです。また、親の定期預金は、できれば普通預金に振り替えておいた方が無難です。銀行の中には、予め親の代理人を登録できるところがありますので、確認のうえ可能であれば必ず登録しましょう。生命保険では指定代理請求人を登録できますので、登録しておきましょう。親が株式や投信をお持ちなら、証券会社の代理人登録サービスを利用してください。以上が、まずやっておきたいことです。

次に、親が要介護の状態となった場合のキーマン(司令塔、情報集約者)を、家族の中で決めておいてください。いざというときにリーダーとなってプランを推進していく役割です。そして、親の介護対応について本人の希望を聞き、その実現可能性につき人繰りと金繰りの観点から検討します。

【図1】は厚労省が全国の40歳以上の男女に、どこでどのような介護を受けたいかについてアンケートを行ったものです。男女とも約3/4が自宅での介護(①~③)を希望しています。住み慣れた環境で介護を受けたいとの思いは強いようです。皆さんの親御さんも、自宅での介護を希望する可能性が高いと想定しておきましょう。自宅介護の問題は、介護を行う「人繰り」をどう付けるかです。絶対避けなければいけないのは、家族が介護を丸抱えして介護離職に追い込まれたり、精神的肉体的に追い詰められて家族の方が病んでしまうことです。

そのためには、公的介護保険の制度を理解し、使い倒すことです。介護保険の居宅サービス(介護担当者が自宅を訪問し親のサポートをしてくれる)や、通所サービス(親が介護施設を訪問し、レクリエーションや食事、入浴を楽しむ)をフルに活用し、家族の負担を最低限に抑えます。そして、残った介護対応に家族の誰が当たるのか、その負担に耐えられるのか、を検討します。
家族が負担に耐えられない場合は、残念ですが親の希望に反して介護施設への入所を検討せざるを得ません。各地の包括支援センターが無料で色々な相談に乗ってくれるので、積極的に活用するといいです。

親が【図1】の④~⑥(特に④)を希望した場合は、「金繰り」が問題となります。介護に係る費用は、親の金銭で賄うことが大前提です。そのため、親の経済力、キャッシュフロー、ストックの資産について、親から情報を入手しておく必要があります。年金や株の配当といった正のキャッシュフローと、借入金の支払い等の負のキャッシュフローの金額。株式や不動産、保険といったストックの資産の金額です。
年金以外にも収入があるようなら、自己負担で介護サービスを追加することができますし、不動産や株式等の資産があれば、有料老人ホームの入居一時金に充当することができます。

介護施設も種類が分かれています。公的施設か民間施設か。長期入所者用か短期入所者用か。医療行為が必要な人向けか、不要な人向けかなど。事前に近隣の介護施設をチェックし、予算と目的にあった施設があるか確認しておきたいです。

親が認知症になったら資産が凍結されると言いました。預金や生命保険等、予め代理人を登録することが可能な資産は安心ですが、親御さんが不動産をお持ちの場合は、別途方策を検討しなければいけません。不動産は預金のように代理人を登録することはできませんが、信託契約を子と締結することで代理人と同様の効果を持たせることができます。具体的には、親を委託者兼受益者、子を受託者とする信託契約(家族信託)を締結する方法です。この場合、親名義の資産は子の名義に移るため、契約締結後に親が認知症となり意思能力を失っても、子が契約者として親の資産の管理・売却ができます。また、信託契約には、不動産以外にも預金や株式等の管理・運用を対象とすることも可能です。相談には、司法書士や行政書士等の法律専門職が乗ってくれます。(実際に契約書を作成する場合は手数料が必要になります。)

最後に。親の希望を可能な限り叶える形で介護・認知症プランを設定して、それで終わりではありません。大事なのは、介護・認知症プランが実際に走り出した後です。親が意思能力を失った後は、子が主人公です。子は、介護・認知症プランが問題なく回っているか、定期的にチェックしなければいけません。介護担当者や施設のスタッフにヒアリングし、親の介護における問題点の把握に努めます。そして、必要に応じ、家族だけでなくケアマネージャーを交えてミーティングを開き、対応を検討します。家族と介護関係者との良好なコミュニケーションが、親への上質な介護サービスの提供につながります。

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株式

【株】ヘタレの夢

若い頃に保険のおばちゃんに勧められるまま入った個人年金、それから企業年金と厚生年金、プラス株の配当で、我が家の老後生活は贅沢をしなければ何とか回りそうです。個人年金と企業年金の支給開始は60歳。私は60歳以降も嘱託として細々と働くつもりですが、その給料は家計に入れなくても良さそうです(嫁はんのOKはもらっていません)。

給料といってもシニアの給料ですから、多寡が知れています。年間100万~150万円くらいでしょうか。でもこのお金はただのお金じゃありません。最悪、なくなってもいいお金です。私が60歳にして初めて手にする超リスクマネーです。

超リスクマネーの使い道と言ったら、ハイリスクの株式運用しか思いつきません。今まで「カローラに乗って制限速度遵守」みたいな運用をしてきましたが、人生の終盤に「ちょっとだけポルシェに乗って」も、ばちは当たらないでしょう。

超リスクマネーを使って渡部師匠の「1O倍株の4つの条件」を60歳からの10年間で実践し、その過程と結果を再現性をもった内容にまとめ上げ、皆さんに還元する。これがヘタレの夢です。現在は当ブログにて、しょーもない記事をくどくどと書いておりますが、還暦を迎えた暁には、皆さまの収益につながる(かもしれない)真に有益な情報をお伝えできたらと思っております。

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保険

【保】生命保険の歩き方

今回は、「生命保険の歩き方」と題して、生命保険の3つの使い方についてお話します。

最初は予期せぬアクシデント(保険事故)に見舞われたときの出費に備える、保障ツールとしての使い方です。これは改めてご説明するまでもありませんが、死亡、病気・ケガ、就業不能等に備えて、定期/終身保険、医療/がん保険、就業不能保険等に加入することです。ただ、各種保険に入り過ぎて、保険料の支払いで保険貧乏になっては元も子もありません。保険に入る前に、しっかり社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険等)の給付内容をチェックし、足らないところに限って民間の保険を利用すべきです。保険料の目安は家計収入の5%~10%と言われますが、そんなには要らないと思います。3%程度で十分じゃないでしょうか。(月収30万円の家計で保険料1万円のイメージ)

ここで、簡単に国の保険(社会保険といいます)についてご説明します。死亡に関しては、厚生年金・国民年金から遺族年金が支給されます。病気・ケガの場合は、健康保険に加入していれば治療費の自己負担は3割で済みますし、手術や入院が必要で多額の治療費が生じた場合も、高額療養費制度で自己負担は月当たり10万円以下に抑えられます。また、就業不能時には、健康保険から傷病手当金として給料の2/3程度の金額が最長1年6ヶ月支給されます。さらに、障害が残った場合には、傷病手当金の期間を引き継いだ1年6ヶ月経過後から障害年金が支給されます。(役所の障害認定が必要です)

次は運用ツールとしての使い方です。以前、「保険アラカルト」でお話しましたが、保険は他の金融商品と比べて大変コストの高い商品です。そのため運用ツールとして使うには不向きで、預貯金や投資信託を優先すべきです。例外があるとすると、超長期国債の代替として使うケースです。長期金利が急騰(債券価格が急落)した後の金利低下局面を捉え大きなリターンを得ようと思ったら、できるだけ残存期間の長い固定利付債を買うことが有効です。しかし、今のところ日本で私たち個人投資家が購入できるのは、10年変動利付国債と5年&3年固定利付国債のみです。個人年金は残存期間が30年を超える超長期の社債と見えなくもないので、代替策として使おうという話です。ただし、国債であれば好きなときに売却できますが、個人年金は売却はできません。中途解約も元本を大幅に割り込むため、事実上不可能です。個人年金に流動性はないものとご理解ください。

最後は、相続ツールとしての使い方です。これもご存知の方が多いと思いますが、死亡保険金の受取人が法定相続人の場合、保険金のうち「500万円×法定相続人数」までは相続税が非課税になります。非課税メリットのほかに、争続予防メリットがあります。相続が発生したのち、死亡保険金は受取人固有の資産とされ、遺産分割の対象からはずれます。(共有財産とならない)つまり、被相続人が生前に渡したいと思った相手=受取人に、確実にお金を渡すことができるのです。遺産分割の対象にならないということは、他の相続人から遺留分侵害額請求をされる恐れも、基本的に(※)ないということです。これは遺言や家族信託にもない、非常に大きなメリットです。
(※)最高裁の判決では生命保険金について、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて持戻しの対象となると解する」とされています。つまり、他の相続人との不公平が度を過ぎて大きい場合には、保険金受取人は遺留分侵害額請求を受ける可能性があると言うことです。

また、医療保険(がん保険)も相続ツールとして使うことができます。例えば、父=資金負担者=契約者、子=被保険者=受取人、とする医療保険に保険料全期前納払(一括払)で加入します。そして、父(契約者)に相続が発生した場合に、子に名義変更します。契約設定時は資金負担者=契約者=父であるので、子への贈与には当たらず贈与税は発生しません。父の相続発生時に契約者を父→子へ名義変更する際、子に相続税が課税されます。この場合の相続税課税評価額は、保険料払込期間終了後は解約返戻金相当額(入院給付金日額の10倍)となります。一括払保険料が300万円で入院給付金日額が1万円の場合、相続税課税評価額は1万円×10=10万円、となります。現金300万円の評価を10万円に圧縮できたことになります。死亡保険金の相続税非課税枠をすでに使用済で、さらに財産圧縮を図りたいという方には最適なツールです。

また、この全期前納払の医療保険は契約時に保険料の払込が完了し、以後の保険料負担はありません。つまり、子=被保険者=受取人は、生涯の医療保障を父からプレゼントされたことになります。これからの人生100年時代において、医療費の自己負担の増大は避けられず、民間の医療保険等で公的医療保険を補完する備えが必要です。受取人となった子が手にするメリットは、今後ますます大きくなるでしょう。
本スキームは親から子への医療費の贈与に等しい経済効果がありながら、法律的には贈与行為に該当しないため、贈与税が課税される余地はありません。今後、相続と贈与の一体化の議論において贈与税非課税措置の撤廃が懸念される中、本スキームの有効性は変わることはなく、一層クローズアップされていくものと見ています。


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【不】不動産投資のリスク管理②

次に、この出口における投資利回り上昇リスクへの対応について考えてみます。結論から先に言うと、出口のタイミングを分散するしかないと思います。例えば、「物件を9年間保有したら売却→新規物件購入」の1サイクルを、3年おきに3物件で入替えをしながら回していくイメージです。そうすれば、9年間で出口を3時点に分散することになり、投資利回りの上昇リスクを軽減することができます。


しかし、この戦略の難点は多額のキャッシュが必要なことです。普通のサラリーマンには難しい話です。でも、ここまでやらないと不動産のリスク管理はできないということです。株式であれば相場が回復するまで待てばいいのですが、不動産は現物であり経年劣化との時間の勝負です。たまたま出口で利回りが上昇していたとしても、売却の先送りは危険です。やはり健全なリスク管理という点では、複数物件による売却タイミング=出口の分散しかないと思います。

私は不動産投資は勝者の守りの投資だと思います。十分な資産を構築した投資家が、インフレで資産を減らさないための投資です。ハイレバレッジによる不動産投資で、少額の頭金から資産を構築しようとするような行為は、順番が逆です。
資産を築くなら、まずは本業で地道にステイタスアップを図り、そこで得たキャッシュを株式に投じる。株式投資をエンジンにして、目標の水準まで資産が成長したら、そこで初めて不動産投資の出番です。
レバレッジを利かせた不動産投資からスタートするのは、既に相当な年収を稼いでいるハイパフォーマーに限定されると思います。

最後に、レバレッジに関し注意すべき点について、触れさせていただきます。それは、不動産投資において売却を行う場合、銀行に抵当を外してもらう必要があることです。銀行は残債が売却価格を下回っている場合(残債<売却価格)に限り、抵当権解除に応じます。残債が売却価格を上回っている場合は、別途自己資金を投入して差額を補填しなければいけません。


物件の売却価格は売却時の投資利回りで、残債は頭金(とローン金利)で決まります。売却時の投資利回りを想定し、売却価格を下回る残債の金額から当初必要な頭金を逆算できます。【表1】では、賃料1000万円、投資利回り4%、価格2億5000万円の物件を、10年後に売却するケースを考えます。
現在4%の投資利回りが10年後にどこまで上昇すると見るのか。6%まで上昇すると見た場合、頭金5000万円では足りないことになります。(頭金5000万円では利回りが5.44%でほぼ残債=売却価格となり、それ以上に利回りが上昇すると残債>売却価格で、別途自己資金の補填が必要になる。)
頭金ゼロのフルローンでは利回りが4.35%を上回った場合、自己資金を投入しない限り売りたくても売れない状態になります。

出口を想定して物件を購入する場合、出口での投資利回りの想定値に頭金の金額が拘束されるという点にご注意いただきたいと思います。