カテゴリー
株式

【株】税金と証券口座の関係

株式に関する税金が複雑で分かりにくいというお声をよくいただきます。私自身も正直、よく分かっていません。なぜだろうと考えますに、株式の課税方式が3パターンある上に、証券口座の種類も3パターンあり、課税方式と証券口座の関係が複雑に絡み合っていることが原因ではないかと思います。そのため、今回は株式投資に係る税金と証券口座の関係について整理してみたいと思います。
【図1】に税金と証券口座の関係図を載せましたのでご覧下さい。
最初にお話しておきたいのは、配当と売却益はどちらも株式から発生するものですが、所得の種類が異なり(配当所得、譲渡所得)、課税方法も違う点です。配当所得は原則総合課税で、配当支払時に源泉徴収されてお終いです。但し、申告不要制度、申告分離課税も選択することができます。一方、譲渡所得は申告分離課税か申告不要制度の2択となります。

1.課税方法について

【表1】のように、株式投資に係る課税方法は3種類あります。総合課税は、配当所得を給与所得や不動産所得、雑所得等の他の所得と合算して課税総所得金額を算出、課税所得が多くなるほど税率が高くなる(5%~45%)累進税率を乗じることで所得税を算出します。
申告分離課税は、株式の譲渡所得を他の所得と切り離し単独で所得税を計算する方式です。税率は所得税15%で一律です。尚、住民税の計算上は分離されず総合課税となります。
申告不要制度は株式の譲渡所得を他の所得と切り離して計算し、所得税15%、住民税5%の源泉徴収で所得税・住民税の納税が完結する方式です。

2.証券口座について

証券口座の違いをひとことで言えば、口座内の株式の売買損益(譲渡損益)の計算と納税手続きをどこまで証券会社にやってもらうか、の違いです。
特定口座(源泉徴収あり)では、証券会社が譲渡損益の計算と納税手続きを完結してくれるので、投資家は確定申告をする必要がありません。
特定口座(源泉徴収なし)では、証券会社が譲渡損益の計算までやってくれます。投資家は証券会社から提供される「年間取引報告書」をもとに税額を算出し、簡易な方法で確定申告を行います。
一般口座では投資家自身が譲渡損益を計算し、税額を算出したうえで確定申告を行います。

3.課税方法と証券口座のお得な組合せ

①総合課税+特定口座(源泉徴収あり)
課税所得金額が900万円以下の方は、所得税の累進税率が23%以下(5%~23%)です。そのため、総合課税を選択し配当控除を適用すると実質税負担率が23%-10%=13%以下となり、配当に係る源泉徴収の所得税率15%を下回るので、総合課税を選択する方が有利です。(13%<15%) 尚、住民税に関しては、総合課税の税率は10%、配当控除は課税所得金額が1000万円以下の方で2.8%ですので、実質税負担率は10%-2.8%=7.2%となります。これは配当に係る源泉徴収の住民税率5%を上回るので、総合課税を選択せず申告不要制度を選択する方が有利となります。(所得税~総合課税、住民税~申告不要制度)
しかし、令和4年の税制大綱で所得税と住民税の課税方法を統一することとされたため、2023年からは所得税と住民税で異なる課税方法を選択することはできなくなります。2023年以降総合課税を選択する場合は、配当控除による所得税の減少と住民税の増加、そして国民健康保険等の負担増を比較することが必要です。

②申告分離課税+特定口座(源泉徴収なし)
複数の口座を使って株式投資をしているケースで、譲渡損が出ている口座と配当や譲渡益が出ている口座がある場合は、申告分離課税を選択し確定申告することで口座を跨いだ損益通算ができます。また、多額の譲渡損が発生したケースで翌年以降に損失を繰り越す(3年以内)場合も、申告分離課税を選択し確定申告する必要があります。尚、申告分離課税で分離されるのは所得税のみで、住民税は総合課税となる点に注意が必要です(社会保険料の増加要因となります)。

③申告不要制度+特定口座(源泉徴収あり)
一つの口座で株式投資をしており譲渡損が出ているケースで配当と損益通算したい場合、源泉徴収で納税手続きが完了する申告不要制度が有効です。

④その他:特定口座(源泉徴収なし)
1社から収入を得ている方で年収が2000万円以下、給与所得以外の譲渡所得や配当等が20万円未満の場合は、確定申告が不要であり(実質非課税ということ)、特定口座(源泉徴収なし)が有効です。

カテゴリー
株式

【株】短期投資というもの

最近ふとFXのことを勉強したいと思い、FXの個人トレーダーA氏の本をBOOKOFFで買って読みました。A氏は一時カリスマトレーダーともてはやされましたが、その後取引履歴詐称疑惑などがあり、今ではややネガティブなイメージのある方です。
ところで、この本に書かれているA氏のトレード手法はスキャルピングといわれるもので、僅か数秒でエントリーとエグジットを完了する超高速トレードです。相場の方向性にはベットせず、市場で付いている価格の僅かな歪みを捉え収益を積み上げていく手法です。1回のトレードで収益化する値幅はたったの数pips(ドル円なら数銭)。この薄利のトレードを1日に100回~200回繰り返すことで、十分な収益を計上できます。そして、当初の狙いに反し、価格の歪みが修整される気配がなければ、迅速にポジション解消=損切りをします。早期撤退の見極めができるかどうかが生死の分かれ目となります。

私はA氏の本を読み進めるにつれ、妙な既視感を覚えました。なぜだろうと考えるうち、A氏の投資手法が、以前読んだ米国のNo.1ヘッジファンド:ルネサンス・テクノロジーズの活躍を描いた「最も賢い億万長者」(ダイヤモンド社)に書かれていた投資手法とそっくりなことに気が付きました。ルネサンス・テクノロジーズ(以下、同ファンド)は世界的に著名な数学や物理学の専門家たちが考案したアルゴリズムで運用するファンドです。相場の方向性を予測するのではなく、その瞬間その瞬間の相場の値動きをミクロの時間軸に分解し、ライバルたちが見逃す微かな相場の癖や価格の歪み(アノマリー)を見つけ出します。そして、統計的に有意性が確認できたら、超高速回転のトレードを仕掛けます。彼らの取引に相場の上げ下げは関係なく、相場が均衡状態に回帰する過程で収益を計上することになります。1回あたりの取引で計上される収益は僅かでも、高速回転で大量のトレードを行うことで、脅威的な期間収益を安定的に実現します。

A氏も同ファンドも、①相場変動のリスクを基本的に負わない、②相場の歪みを収益源としている、③高速回転トレードを大量に行うことで利幅の薄さをカバーする、④トレードに係るコストの極小化を計っている、⑤相場の潮目が変わり従来の手法が通用しなくなったら迅速に撤退する、という点で共通しています。
因みに、A氏の本が出版されたのは2009年です。「最も賢い億万長者」の出版(2020年)に先立つこと11年です。

ここでもう一人、日本株のカリスマ投資家cisさんにご登場いただきます。彼の投資手法は著書「一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学」(角川書店)に書かれています。トレードの特徴は、①基本的に短期投資、②現時点の相場の値動きからトレンドを読みポジションを取る順張り投資、③損切りは早めに利食いはゆっくりと、④勝率よりもトータル損益を重視、となるでしょうか。私はcisさんの強さは、一般人には知覚できない相場が発する微かな音や匂い(=情報)をキャッチする能力にあるのではないかと思います。ちょっとした値動きの違和感から、仕手筋やインサイダー、機関投資家の動きを嗅ぎつけ、迅速にポジションを取りその動きに乗る。cisさんの本を読んで驚いたのは、市場は私たち一般人が考えるほど効率的でも合理的でもなく、見る人が見たらトレードチャンスが結構転がっているということです。cisさんの鬼の目にかかると、相場の裏側が透けて見えるのでしょうか。

A氏やルネサンス・テクノロジーズと、cisさんの違いは、短期とはいえ相場の上げ下げ(トレンド)にベットするかどうかにあります。FX市場で数pipsを抜くような超高速トレードを、株式市場で個人投資家が人の手で行うのは無理です。従って、株式市場で収益を上げるには、短期間であっても相場にベットする必要があるのだと思います。(もっとも、ルネサンス・テクノロジーズのような大手ヘッジファンドであれば、株式市場においてアルゴリズムを用いた超高速トレードを行うことは可能です。)

今回は、著名な短期投資家をご紹介しました。今日まで私は、投資は長期の時間軸で行うものと信じていました。しかし、A氏やルネサンス・テクノロジーズ、そしてcisさんの投資法を知り、短期の時間軸で行う(投機ではなく)投資もありだと考えを改めました。相場変動のリスクを最小限に抑えたうえでリターンが得られるとすれば、ローリスク=ハイリターンの理想郷が実現することになります。
ただ、短期投資の世界が(投機と同じく)ゼロサムで弱肉強食の世界であることにかわりはありません。理想郷に到達できるのは1割の勝者だけです。短期投資は、他者を凌駕する絶対的なスキルを持った強者が、相場変動のリスクを負わない短期の時間軸でスキル弱者を狩り立て、リターンの総取りを狙うサバイバル戦略です。絶対的スキルを持たないその他大勢は、相場変動のリスクを受け入れ、強者とは次元の異なる長期の時間軸と分散投資でリスクの希薄化を図りつつ、複利効果でゆっくりとリターンを育てていく長期投資の戦略が現実的です。


カテゴリー
年金

【年】生保予定利率引き下げと給付減額

4月6日の新聞各紙は、日本生命が企業年金保険の予定利率を2023年4月に年1.25%から0.50%に引き下げると報じました。企業年金は掛金の積み増しや実績に応じた仕組みへの変更を迫られそうと結んでいます。続けて4月7日の日経新聞は、大手飲料メーカーの話として「受給者への給付を減らすなど、……検討したい」とコメントを紹介しています。今回の件は、確定給付企業年金(DB)のうち日生が受託している契約に関しての話ですが、他の生保も続いて予定利率を引き下げる可能性が高いと思われます。(第一生命はすでに2021年10月に予定利率を1.25%から0.25%に引き下げています)


年金の給付は掛金と運用収益で賄います。つまり、年金給付=掛金+運用収益、です。そして、運用収益は予定利率に連動するので、予定利率の引き下げは運用収益の減少につながります。企業が一時金や年金といった年金給付の水準を維持しようとしたら、掛金を引上げるしか方法はありません。しかし、コロナ禍や原材料費の高騰で体力が低下している企業にとって、コスト増となる掛金の引き上げは困難な状況です。そんな企業にとって残された選択肢は、給付の引き下げ(給付減額)です。それも既に年金を受け取っている受給者たるOB/OGの方々の給付を減額するのが最も効果的です。
しかし、受給者の減額は既得権の侵害にあたるため、法的に厳しい制約が課せられています。また、給付減額に同意しない方への支援策も用意する必要があります。確定給付企業年金(DB)の受給者減額は、企業にとって実現に向けたハードルが高く、過去の実施例は限定的ですが、今後は止むに止まれず、強行突破を図る企業が出てくるかもしれません。そうなった時に慌てて給付減額に同意することのないように、今回はDBの受給者減額と希望者への支援策の内容につきご説明したいと思います。

まず、確定給付企業年金法では受給者減額の理由要件として、「実施事業所の経営状況の悪化又は掛金額の大幅上昇により、掛金拠出が困難になると見込まれ、やむを得ないこと」が上げられています。これは「単に経営が悪化しさえすれば足りる」のではなく、「経営の悪化により企業年金を廃止するという事態が迫っている状況下で、これを回避するための次善の策として、受給者減額がやむを得ないと認められる」場合に限られる、と解釈されています。次に、手続き要件として、「受給権者等の2/3以上の同意」と「希望者に対し給付減額前の最低積立基準額の一時金支給等の選択肢(受給権者等の全員が減額に同意した場合を除く)」が上げられています。

小難しい言葉が並んでしまいましたが、要は会社がつぶれそうで年金を廃止しないとどうにもならないような最悪の状態でないと、受給者減額はできませんよ。その場合は、受給者全員の同意をもらいなさい。それが無理なら、せめて受給者の2/3以上の同意をもらいなさい。そして、希望者には減額する前の水準で一時金を支払いなさい。ざっと、こんな内容です。

ここで、希望者への一時金支給の部分が支援策となります。なぜ支援策となるかですが、通常、年金を一時金で受け取る場合(選択一時金といいます)、年金を予定利率という利率で割り引いて一時金に換算します。現在は予定利率(※1)は2.0%~2.5%に設定している会社が多いようです。ところが、受給者減額に係る希望者への一時金に関しては特別な利率(※2)が使われ、令和4年度に関しては0.66%となっています。
(※1)ここでいう予定利率は会社が独自に設定するもので、新聞記事になった生保の予定利率とは別物です。
(※2)30年国債の応募者利回りの5年平均のことです。
やや専門的な話になって申し訳ありませんが、年金を一時金に換算する際、割り引く率が小さいほど一時金は大きな額となります。例えば、月額10万(年額120万円)の15年確定年金を2.5%で割り引いたときの一時金は約1490万円ですが、0.66%で割り引くと約1710万円になります。受給者減額に係る希望者への一時金は、通常の一時金よりも220万円も大きくなっています。


今後、皆さんの会社(あるいは以前お勤めだった会社)から受給者の年金を減額したいという申し出があった場合に、皆さんにとっていただきたい行動についてお話します。既に年金を受給中の方や年金を受給する権利を持っている方は、会社の人事や労働組合、OB会等から給付減額に同意するように依頼されても、気安く同意しないで下さい。そして、給付減額前の最低積立基準額の一時金支給を希望するようにしてください。減額に同意した元上司や元同僚との仲が気まずくなることが懸念されますが、同意したら最後、年金は2/3とか半分に削られてしまいます。同意しなければ、元の年金の(場合によっては)何割増しかの一時金が受け取れるわけです。あまりにも大きな差です。ここは多少の気まずさには目をつぶり、我が道を行きましょう。
尚、この場合の一時金は退職所得扱いとなりますので、ご安心ください。

カテゴリー
閑話休題

【閑】人生の逝き方について考える

日本人にとって、「死」は忌まわしいものとして口にするのも憚られますが、これからの超高齢化社会においては、「死」をもっと身近で日常的なものとしてとらえる必要があると思います。久坂部羊さんの「人はどう死ぬのか」(講談社現代新書)は、「死に関する新しい教科書」として人が上手に死ぬための方法論を、簡易な文体で展開しています。今回は、「人生の逝き方」について私の独断と偏見で、久坂部さんの本のエッセンスをご紹介させていただきます。

1.PPK 
最後はPPK(ピンピンコロリ)で逝きたいという方は多いですが、ほとんどの方はピンピンとは行けてもコロリとは逝けないようです。コロリと逝くためには、心筋梗塞や脳卒中、クモ膜下出血の力を借りる必要があります。でも、人はこれらの疾患に襲われても、発作と同時に死ぬわけではなく意識も失いません。つかの間、経験したことのない猛烈な痛みとともに、人生の一括清算を強いられます。脳卒中の場合、金属バットで頭を殴られたような痛みを感じるらしいです。でも、猛烈な痛みを感じつつ、いきなりの死を目前に恐怖と悲しみに震えながら死神に拉致されるのが、ポックリ死のリアルです。人生を振り返る余裕はなく、覚悟を決める間もなく人生を強制終了させられる。死後の準備はできず、家族や親友・恋人にお別れもできません。それでも、あなたはPPKを望みますか?
尚、日頃から健康増進に努めている奇特な方は、体力があるため簡単には死ねません。そういう方はPPKとはいかず、PPDD(ピンピンダラダラ)となります。

2.老衰
ご長寿のあとで眠るように天に召される。安らかで清々しいイメージ。老衰で逝くことに憧れる方も多いですが、実際はそんなに生易しいものではないようです。老衰は死ぬまでに、いくつものハードルを超えなければいけないからです。
死のかなり前から全身が衰え、不自由さと惨めさに耐え抜いた後でやっと楽になれます。寝たきりになり、下の世話をはじめ清拭や陰部清浄、口腔ケア等を他人に委ね、心不全と筋力低下で身体は動かせず、呼吸は苦しく、言葉を発するのも無理という「お前はすでに死んでいる」ような状態を経て、やっと死に至ります。
老衰は決して、安らかでも清らかでもありません。

3.がん
がんは治療さえしなければある程度の死期がわかるので、前広に準備が可能です。行きたい所へ行き、会いたい人に会い、食べたいものを食べることができます。お世話になった人にお礼を言い、迷惑をかけた人にお詫びをする時間があります。超高齢期に身体の自由と認知能力を失う無常を味わわずに済みます。これらのことをよく知る医療関係者が、「死ぬならがんで」と言うのも当然な気がします。
がんで死ぬときに大事なことは、無理に治ろうとしないことです。嘗て、がんは治るか死ぬかの病でしたが、今では治らないけど死なない病になりました。がんとの共存です。がんを根絶しようとすると、過度な治療を受けて副作用で苦しんだり、命を縮めたりします。過度な治療ではなく、ほどほどの治療で様子見をし、治療の効果より副作用の方が大きくなったら、潔く治療を止める。死にたくないではなく、上手に死ぬことを考えましょう。いつまでも治療に執着していると、せっかく残された貴重な時間を辛い副作用で浪費することになります。
がんとの共存はがん細胞の全滅を目指すのではなく、患者さんの命を奪わない程度なら転移があっても様子を見るという戦略です。がんが怖いのはがんが死ぬ病だからで、治らないけど死なないのなら高血圧や糖尿病等の慢性疾患と変わりません。がんは治らないと分かっても絶望する必要はなく、困った隣人だと思って上手く付き合いながら、決して短くはない残された時間を有意義に過ごすことを考えたいものです。

4.認知症
以下は私の個人的な意見ですが、私は認知症は神様からの贈り物だと思っています。認知症のご老人は「死」の恐怖すら忘れることができます。認知症のご老人には、もはや何も恐れるものはありません。

カテゴリー
株式

【株】逆イールドと景気後退の関係

最近、新聞紙上で「逆イールド」という言葉を目にすることが多くなりました。イールドとは債券の利回りのことですが、株式投資家には余り縁のないものです。でも、過去において債券市場で「逆イールド」が発生すると、その1~2年後に高い確率で景気後退となった歴史があるため、米国債券市場での逆イールドの発生を株式投資家も緊張感を持って見守っているわけです。今回は、株式投資家の皆さんにも知っておいていただきたい「逆イールド」のベーシックなお話をしたいと思います。

グラフの横軸に償還までの期間を、縦軸に利回りを取った座標空間上に、年限ごとに国債利回りをプロットしていくと、通常は右肩上がりの曲線を描けます。これを順イールド(カーブ)といいます。ところが、稀に償還までの期間が長いほど右肩下がりの曲線となることがあります。これが逆イールドと言われる現象で、景気後退の前触れとされます。なぜ逆イールドは発生し、景気後退の前触れと言われるのでしょうか。

まず、イールドカーブの仕組みから考えてみましょう。専門家の間では、「純粋期待仮説」、「流動性プレミアム仮説」、「市場分断仮説」という3つの説が唱えられています。以下では、「純粋期待仮説」と「流動性プレミアム仮説」についてお話します。はじめに「流動性プレミアム仮説」についてです。これは、償還までの期間が長い債券ほど途中で売却しにくく、また市場環境が悪化したときのリスクも高いため、これらのデメリットに対応するプレミアムが長期債ほど利回りに反映されるとの説です。つまり、償還までの期間が長いほど債券の利回りは高くなるということで、順イールドが発生する根拠となります。しかし、逆イールドの説明には窮してしまいます。そこで、「純粋期待仮説」の登場です。これは、ひとことで言えば、債券の利回りは将来にわたる短期金利の予測によって決定されるという説です。ちょっと分かりにくいですね。【図1】をご覧ください。

10年債の利回りは、1年債の利回り×(1年後スタート2年後償還の1年債予想利回り)×(2年度スタート3年後償還の1年債予想利回り)×……×(9年後スタート10年後償還の1年債予想利回り)の年換算利回りに等しいと考えます。また、同様にして3年債利回りは①×②×③の年換算利回り、7年債利回りは①×②×……×⑦の年換算利回りに等しいと考えます。今、①<②<……<⑩であったとすると、1年債利回り<2年債利回り<……<10年債利回りとなり、イールドカーブは順イールドとなります。ここでは1年債の予想利回りが将来に行くほど高くなっており、市場参加者は将来の金利上昇=景気過熱を予想していると判断されます。では、市場参加者の読みが逆のケースではどうなるのでしょうか。つまり、①>②……>⑩となった場合です。このケースでは、1年債利回り>2年債利回り>……>10年債利回り、となり逆イールドが出現します。つまり、逆イールドが発生する場合、市場参加者は将来の金利低下=景気後退を予想していることになります。
債券市場は株式市場と異なり、参加者は金融機関等のプロに限定されます。プロたちが先々の景気後退を見込んでいるということが、逆イールドが景気後退の予兆と言われる所以です。

逆イールドと景気後退の因果関係としては、次のような理解も可能です。企業は短期で資金を調達し、長期で事業に回しています。短期金利<長期金利の順イールド下では、企業は長期金利と短期金利の差(長短スプレッド)から利益を上げることができます。しかし、逆イールド下では調達金利が事業収益率を上回ることになり、企業は収益を上げることが困難になります。この環境が長引くと、景気が悪化し株式市場は下落します。

インフレリスクが現実のものとなった米国では、今年から来年にかけてFRBの利上げが継続して実施されます。普通なら1回あたり0.25%の短期金利(FFレート)引上げですが、今回は0.5%の利上げもあると考えられています。債券市場の参加者は、これだけ急激な利上げを行うと、現下の良好な景気も腰折れし後退局面入りすると見ているようです。そして、その先にあるのはFRBの利下げです。
直近では2019年3月に、3ヶ月財務省短期証券と10年国債の利回りが逆転し、逆イールドの発生が話題になりましたが、その後も米国景気は後退することなく、コロナ禍の現在に至るまで堅調さを維持しています。
はてさて、今回はどうなることでしょうか?

カテゴリー
年金

【年】FIREに役立つ企業年金豆知識

企業年金は厚生年金や国民年金といった公的年金と比べ制度はシンプルですが、情報へのアクセスが面倒なためか、多くの人にとって公的年金以上に馴染みの薄いものとなっています。企業年金の内容は会社ごとに異なりますが、いくつかのパターンに分類することができます。以下では、企業年金のパターン別に特徴をお話するとともに、皆さんがFIREや転職されるケースを想定し、メリット・デメリットについても触れていきたいと思います。
尚、企業年金の詳細な情報は、お勤め先の就業規則や労働協約、退職年金規程等で確認することができます。企業年金は公的年金とともに、皆さんのライフプランにおける重要なアイテムです。手許にそれらの資料がない方は、会社の人事部や総務部、労働組合等に問い合わせて、取り寄せるようにされるとよろしいかと存じます。

それでは、本題に入ります。最初は、会社の退職金(退職一時金)と企業年金の関係によるパターンの違いについてお話します。多くの会社では、会社の退職金の一部を企業年金に移行しています。このケースを内枠と言います。まれに、退職金とは別に企業年金を設けている会社もあり、このケースを外枠と言います。内枠のケースでは、企業年金とそれ以外の退職一時金を合算して、元々の100%の退職金となります。企業年金部分は年金で受け取ることも、一時金で受け取ることも可能です。(ただし、短期での退職者は一時金のみの受け取りとなります。)
年金で受け取る場合、利息(給付利率)相当だけ一時金よりも額面での受取額は多くなりますが、年金と一時金では課税方法が異なるため、手取りベースでの受取額を比較することが肝要です。(年金は雑所得として総合課税、一時金は退職所得として分離課税されます)
また、外枠のケースでは、企業年金は退職金の上乗せの位置づけとなります。この場合、退職金部分は一時金で受け取り、企業年金部分は年金か一時金での受け取りになります。年金と一時金での課税方法の違いは、内枠の場合と同様です。

次に、企業年金の種別についてお話します。企業年金は大きく確定給付企業年金(DB)と、企業型確定拠出年金(DC)に分類されます。DBは予め受取額が決まっているタイプの年金です。一方、DC(401kとも言われます)は受取額が運用の結果に応じ変動するタイプの年金です。さらに、DBは給与比例制、ポイント制、キャッシュ・バランス制(CB)に分かれます。
それでは、DBの3つの制度について簡単にご説明します。


①給与比例制
「退職時給与×勤続年数別支給率×自己都合支給率」で基準額(※)を算出する制度です。例えば、退職時給与:30万円、勤続年数別支給率:35、自己都合支給率:1の場合、30万円×35×1=1050万円が基準額となります。また、退職時給与:20万円、勤続年数別支給率15、自己都合支給率:0.5の場合、20万円×15×0.5=150万円が基準額です。ここで、勤続年数別支給率はほぼ勤続年数に等しいとお考え下さい。また、自己都合支給率は、短期勤続の自己都合退職者に対し懲罰的に0.5とか0.7を適用し基準額を減額する一方、25年以上の長期勤続の退職者に対しては1を適用し減額しないケースが多いようです。
この制度は、終身雇用・年功賃金を採用する旧来タイプの会社に多く見られます。上記事例のように、長期勤続者には有利である反面、短期勤続の自己都合退職者にとっては大きく不利な制度です。中途退職・転職が一般化した昨今の雇用環境にはミスマッチと言うべき制度です。
(※)基準額:一時金で受け取る場合の金額。基準額を年金現価率で割って年金額を算出します。

②ポイント制
「退職時ポイント累計額」で基準額を算出する制度です。一般にポイントは、職能ポイント(職能等級別に設定)と勤続ポイント(勤続年数別に設定)からなり、毎年社員にポイントが付与されます。また、ポイントを金額に換算するため、ポイント単価が設定されます。例えば、職能ポイントが、5級:10P、4級:15P、3級:20P、2級:30P、1級:40P。勤続ポイントが1年につき10P、付与されるとします。ポイント単価は1P=1万円とします。ここで、職能5級:5年、4級:5年、3級:8年、2級:7年の計勤続25年で退職した人について、退職時ポイント累計額を計算してみましょう。まず職能P累計:10P×5年+15P×5年+20P×8年+30P×7年=495P。勤続P累計:10P×25年=250P。よって、退職時P累計は495P+250P=745P。P累計額は745P×1万円=745万円となります。
この制度のいいところは、ポイントの持ち分がリアルタイムで簡単に社員にも分かり、中途退職者に不利とならないことです。また、給与比例制は、退職時の1時点での給与で受取り額が決定するため、退職に至る過程での会社への貢献度が評価されないという問題があります。ポイント制は職能ポイントの積み上げで受取り額が決定するため、退職までのプロセスも評価の対象になっています。

③キャッシュ・バランス制(CB)
この制度はポイント制の類型です。ポイント制と同様に毎年ポイントが社員に付与されます。そのうえで、付与されたポイントの累計に国債の利回りで利息を加算していきます。そして、「退職時ポイント累計額+利息累計額」で基準額を算出します。国債の利回り(新発国債の応募者利回り)は市場環境により変動するため、基準額も多少変動することになります。ただ、実際には適用利回りに2%等の下限を設けるケースが多いようです。DBとDCの中間的な性格の制度と言えます。また、ポイント制の類型であるため、中途退職者に中立的な制度です。

それでは、DC(企業型)についてご説明します。この制度はiDeCoの企業版です。掛け金(保険料)はDBと同様に会社が負担します。ただ、DBと違って、基本的に退職金の外枠がほとんどです。また、DBは会社が運用責任を負ってくれますが、DCは社員が自己責任で運用を行わなければなりません。マイナスが嫌な場合は、定期預金や保険等元本確保型の商品で運用することもできます。ただ、多くの会社では、最低限の運用利回り(想定利回り)を2%程度に設定しています。もし退職までの実際の(手数料控除後)利回りが想定利回りを下回ると、その分だけ退職金が目減りする仕組みになっているので注意が必要です。企業型DCに入っている方は、必ずこの想定利回りを確認して下さい。尚、DCもポイント制と同じく、中途退職者に中立的な制度です。

このように、企業年金はDBとDCに大別され、さらにDBは給与比例制、ポイント制、CBに分けられます。先々のFIREや転職を想定しつつ会社選びをする際は、ポイント制やCBの企業年金がある会社を選択するのがベターです。腕に覚えのある方ならDCのある会社もいいでしょう。旧態依然の給与比例制の会社は、避けた方が無難です。(最近はDBとDCの両方の制度を有する会社も増えています。)

最後に、企業年金と公的年金の違いについて、少し触れさせていただきます。厚生年金も国民年金も老齢年金(65歳になったらもらえる年金)の他に、障害年金と遺族年金がありますが、企業年金は退職年金(退職したらもらえる年金)のみです。ただ、年金支給開始後の一定期間内(10年か15年)に本人が死亡した場合、残りの期間に対応する年金が一時金に換算されて遺族に支給されます。
また、公的年金は終身年金(本人が亡くなるまでずっと支給される)ですが、企業年金は一部の会社を除き10年~15年の確定年金(一定期間内に限定して支給される年金)となります。さらに、公的年金には物価の上昇に合わせて年金額が増加する物価スライド(賃金スライド)という仕組みがありますが、企業年金にはこれらの仕組みはありません。デフレ下にあっては問題になりませんでしたが、今後インフレが定着するようだと、企業年金のこの弱点が問題視されるかもしれません。

カテゴリー
株式

【株】インフレの守り神/物価連動債とは

原油・天然ガス等エネルギー価格の上昇や、人手不足・物流の停滞等により、我が国でもインフレが現実のものとなろうとしています。個人投資家として、いかにインフレに備えればいいのか。教科書的には、預貯金や国債等の金融資産を、不動産や金(ゴールド)といった現物資産や株式にシフトすればいいと言われます。しかし、今まで安全資産に置いていたお金を、いきなり株や不動産に移すのはリスクが高過ぎる気もします。そんな時は、債券でありながらインフレにも対応できる物価連動債(インフレ連動債)が便利です。

物価連動債は、物価上昇率に応じ元本が調整される債券です。通常の固定利付債は元本とクーポン利率は固定であるため、物価が上昇すると実質ベース(物価上昇率を控除したもの)では債券の価格は低下します。一方、物価連動債はクーポン利率は固定ですが、物価上昇率に連動して元本が増加するため、利払い額や元本償還額は増加します。つまり、物価連動債はインフレが発生しても、実質的な価値は変化しない債券と言えます。(通常の固定利付債は、物価上昇率を考慮しない名目価値が維持されるという意味で、名目債と言われます。)

 名目債利回り=実質利回り+期待インフレ率(※)………①
 (※)市場参加者が予想し市場に織り込まれたインフレ率

では、現在、日本で発行されている物価連動国債の仕組みを見てみましょう。

【図1】では、発効時の消費者物価指数(CPI)を100としています。半年後には物価上昇に伴いCPIは101となり、想定元金額は101億円となります。利子は101億円×3%/2=1.515億円です。発行時の利子3%/2=1.5億円の1.01倍です。
1年後のCPIは102となり、想定元金額は102億円に増加、利子も102億円×3%/2=1.53億円に増加しています。その後も物価上昇は続き、10年後の償還時のCPIは120、想定元金額は120億円となります。償還時の利子は1.8億円、償還金額は120億円です。
ところで、物価が順調に上がっていけばいいのですが、逆に物価が下がってしまったらどうなるのでしょうか。例えば、半年後のCPIが99だったとしましょう。この場合、想定元金額は99億円に減少、利子も99億円×3%/2=1.485億円に減少することになります。このように物価の下落は、物価連動債にとって最大のリスクとなります。ただ、平成25年以降に発行された物価連動国債については、償還時の特例が設定されており、償還時のCPIが発行時のCPIを下回ったときは、発効時のCPIを適用することとなっています。この特例により、償還元本は保証されます。(元本割れはなし) 尚、償還時の利子だけは償還時のCPIに基づく想定元金額で算出します。

【表1】はインフレ率及び金利の変化が物価連動債の価格に与える影響をまとめたものです。物価連動債は金利が低下すれば価格上昇し、またインフレ率が上昇すれば、やはり価格上昇します。

固定利付債(名目債)とのパフォーマンスを比較します。①式より発行時において物価連動債は、期待インフレ率分だけ名目債よりも低いクーポン利率で発行されます。その後、実際のインフレ率が発効時の期待インフレ率を上回れば、物価連動債が名目債のパフォーマンスを上回ります。逆に、実際のインフレ率が発行時の期待インフレ率を下回れば、物価連動債は名目債のパフォーマンスを下回ります。
今後、物価上昇に歯止めがかからない反面、景気悪化懸念から日銀が利上げに慎重になるような場面では、物価連動債の強みが最大限に発揮されると思われます。

我が国物価連動国債は最低額面金額が10万円の10年満期の債券として発行されますが、個人投資家が投資する場合は中途売却時の流動性等を考慮し、投資信託を利用する方がベターだと思います。ご参考に、物価連動国債投信の2022年1月末時点の過去1年騰落率をご紹介します。大和アセットマネジメントの日本物価連動国債ファンドで+3.6%、三菱UFJ国際投信のeMAXISの国内物価連動国債インデックスで+2.9%といずれも良好な実績を計上しています。
従来、デフレ下の日本にあって全く評価されなかった物価連動債ですが、これから本格的なインフレが到来した際には、ミドルリスクのインフレヘッジツールとして脚光を浴びるものと思います。





カテゴリー
不動産

【不】マンションワンダーランド

皆さんのお住まいは戸建てですか、それともマンションですか。私は社宅生活が長かったせいもあり、未だに賃貸のアパート暮らしです。ところで、(分譲)マンションですが、その本当の姿をご存知の方は意外に少ないのではないでしょうか。そこで、今回はマンションの不思議な世界に迫ってみたいと思います。
マンションは法律上は区分所有建物といいます。民法が規定する所有権(物権)は物を全面的に支配する権利であり、区分という概念はありません(一物一権主義)。そこで、区分所有法という民法の特別法によって、複数の住人で一つの建物を区分所有するという不思議な権利関係が実現することになりました。私はマンションを見ると、沖縄の海で目にしたテーブルサンゴを連想してしまいます。

○マンションの不思議その1~管理組合
見ず知らずの他人同士が一つ屋根の下に暮らすのですから、各人がやりたいようにやっていたら収拾が付きません。そこで住人をまとめる仕組みが必要になります。その仕組みが管理組合です。区分所有法第三条では、「区分所有者は全員で建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うための団体を構成し、……」とあり、住人(区分所有者)は全員強制的に管理組合の組合員となります。強制的と聞いて、「えっ?」と思われた方もいらっしゃると思いますが、住人は希望の有無を問わず、自動的に管理組合の組合員となっていきます。ちょっと不思議な気がします。
管理組合は住人の安心・安全な生活と資産価値保全のため、敷地や共有部分の保安・保守・清掃等を行い、組合管理部分の修繕や長期修繕計画を作成し、共有部分の火災保険その他損害保険の業務、風紀・安全の維持の業務等を行います。戸建てであれば、所有者は王様のように思いのまま勝手にふるまえますが、マンションの場合は区分所有者の自由は制限され、管理規約に従わなければいけません。マンションの住人であるサラリーマンは、外で会社組織に属しつつ、内では管理組合に属するという二重の隷属を強いられます。
管理組合の業務は上記のように多岐に亘るので、組合員自ら対応するには無理があります。そのため業務の大半が管理会社に委託されます。ところが、昨今管理員の人件費高騰により、管理会社から管理組合に管理費の値上げが要請されています。この要請に応諾できない管理組合は、管理会社から委託を拒絶されるケースが増えているようです。今や管理会社が管理組合を選ぶ時代です。資金力のない管理組合は、止むを得ず自主管理をすることになります。マンションを買うときは「管理を買え」と言いますが、今後は管理の実態以上に修繕積立金や管理費の水準が十分かが問われることになると思います。

○マンションの不思議その2~専有部分と共用部分
マンションは専有部分と共用部分(+敷地)からできています。ザックリいうと、区分所有者個人の持ち物が専有部分、マンションの住人全員の持ち物が共用部分です。区分所有法第二条には、専有部分は「区分所有物の目的たる建物の部分をいう」とあり、共用部分は「専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の付属物及び規約により共用部分とされた付属の建物をいう」とあります。これだと分かりにくいので、マンション標準管理規約にある共用部分の範囲を抜粋します。
(共用部分の範囲、抜粋)
エントランスホール、廊下、階段、エレベーター、共用トイレ、屋上、屋根、内外壁、界壁、床、天井、柱、基礎部分、ポンプ室、機械室、電気設備、給水設備、排水設備、消防・防災設備、インターネット通信設備、管理人事務室、倉庫及びそれらの付属物、集会室……
注意していただきたいのは太字の部分です。壁、床、天井、柱は共用部分となります。区分所有者個人の持ち物じゃないんです!では、マンションの部屋からこれらを除いたら、一体何が残るのでしょうか。空気? 私たちは空気を買うために数千万円もの大金をはたいているのでしょうか。何とも不思議な話です。
各住戸の専有部分と共用部分の境界について区分所有法には規定がなく、マンションごとの管理規約に委ねられますが、次の3通りの考え方があります。
①内法説
壁、床、天井等の境界部分の全てが共用部分で、境界部分によって取り囲まれた空間部分のみが専有部分とする考え方。
②壁心説
境界の壁の中央までが専有部分の範囲とする考え方。
③上塗り説
壁や天井の躯体部分は共用部分であるが、その上塗り部分(壁紙や内装部分)は専有部分とする考え方。

さすがに①内法説は厳し過ぎるからか、標準管理規約では③上塗り説を採用し、天井、床及び壁はコンクリートを除く部分、玄関扉は鍵および内側の塗装部分のみが専有部分となります。玄関扉や窓ガラスは共有部分になるので、勝手に取り替えることはできません。リフォームする場合も、床のじゅうたんや壁紙等は自由に変更できますが、その他の修繕や工事は事前に管理組合の理事長に申請し、承認を受けなければいけません。

このように何かにつけ自由を制限されるマンションですが、根強い人気があります。近隣に駅や病院、学校やショッピングセンター、レストラン等があり、日常生活をおくるのに便利であることが理由です。これからも大都市圏を中心にマンションの供給は続くでしょう。マンションの購入をご検討中の方は、マンションの不思議な世界を予めご理解いただくことをお奨めします。

カテゴリー
閑話休題

【閑】目から鱗が落ちる

皆さんは目から鱗が落ちた経験はありますか。最近、私はある本を読んでいて、目から鱗が落ちました。この言葉の意味は、「何かがきっかけとなって、急に物事の実態がよく見えるようになること」ですが、せっかくなので語源も調べてみることにしました。当初、私は中国の故事か何かだろうと思ったのですが、何と、新約聖書の使途列伝九でパウロがイエスの教えに目覚める瞬間の出来事に由来しているそうです。これを知って私は一人で興奮してしまったのですが、皆さんはご存知でしたか?
それにしても、パウロの目から落ちた鱗は、さぞ大きな鱗だったでしょうね。それから、パウロは人魚か半魚人だったのでしょうか。

私が何について目から鱗が落ちたのか、話を続けます。日本の労働生産性が先進国で最低であることは広く知られていますが、バブル期まではトップレベルであったことを知る人は少ないです。なぜかバブル崩壊後の1990年代に入り、日本の労働生産性は急低下してしまったのです。
労働生産性は、国内総生産(GDP)を就業者数で割って算出し、労働者1人あたりの産出量を表します。
なぜ、日本の労働生産性が先進国の中で飛び抜けて低いのか。よくある説明として、日本の企業は残業時間が長いとか、年功賃金であるとか、ITの導入が遅れているとか言われますが、私は予て疑問に思っていました。なぜなら、それらの日本企業の特徴はバブル前後で変わっていないのに、それを労働生産性が急低下した原因だというのは無理があるからです。

そんな私の疑問に明快に答えてくれた本が、岩田規久男さん(前日銀副総裁)の「なぜデフレを放置してはいけないか」(PHP新書)です。この本には、デパートの店員と売上高の例が出てきます。景気が悪化すると、来店客は減ります。店員は暇を持て余しますが、店員の労働時間は変わらず売上だけが減少します。逆に、景気が良くなると来店客は増加し、店員は繁忙となって売上は増加します。しかし、デパートは定時に閉まるので、店員の労働時間は変わりません。売上が増加したのはデパートがITを導入したからでも、店員の接客技術が上がったからでもありません。単に、景気が良くなったからです。
これと逆の現象が、バブル後にデフレ下の日本で起きたということです。なぜ、日本の労働生産性が1990年代に入り急低下したのか。なぜ、日本だけが突出して労働生産性が低いのか。その答えは、いずれもデフレです。日本がデフレに陥ったのは1990年代に入ってからです。そして、第二次世界大戦後、デフレになった国は世界で日本だけです。

ポストコロナにおいて、先進諸国はインフレに見舞われることになります。それは日本も例外ではありません。しかし、他の国々では経済を蝕む忌まわしいインフレも、我が国にとってはデフレを退治してくれる救世主かもしれません。

カテゴリー
株式

【株】投資信託を考える

これまで当ブログをご訪問いただいた方は、私が投資信託に言及しないことに疑問を持たれたかもしれません。そこで、今回は私が(国内)株式投信について思うところをお話したいと思います。
一般に株式投信のメリットは、①小口の資金でも投資できる、②(アクティブ投信の場合)専門家の運用力に期待できる、③NISAやiDeCoといった税制優遇制度を利用できる、などです。

以下では、特に②について堀り下げたいと思います。投信を購入する個人投資家は、専門家の卓越した運用力に基づく良好な運用結果を期待します。当然、投信を運用する専門家もその期待に応えようと努力するわけですが、彼らの目指している努力の方向性を確認しておく必要があります。個人投資家は、専門家にプラスの収益を上げてほしいと思っています。しかし、専門家の目指す方向は、個人投資家の思いとは必ずしも同じではありません。彼らが目指しているのは、東証株価指数(トピックス:TPX)や日経平均株価といったベンチマーク(※)に勝つことです。TPXがー10%のときに投信がー8%であれば、彼らの世界では勝ちとなります。つまり、投信が目指すのはベンチマークに対する相対的な勝ちであって、プラス収益を上げる絶対的な勝ちではないということです。
(※)ベンチマーク:運用実績を比較するための指標

そして、もう1点注意が必要なのは。投信が対ベンチマークでの勝ちを狙う以上、ベンチマーク自体の収益率が低下すると、投信の運用実績(絶対値としての運用実績)も引きづられて低下してしまうことです。
現在、TPXは2000社を超す東証1部上場の全企業を対象としていますが、TPXに投資することは日本経済全体に投資することにほぼ等しいです。平成バブル以降、日本の経済成長率はずっと1%近辺で低迷しており、TPXの期待収益率に下方バイアスがかかるため、投信の運用実績も悪影響を受けます。TPXをベンチマークとした日本株投信を買う場合、泥舟の日本丸と心中する覚悟が要ります。

では、これら問題含みの日本株投信に対し、個人投資家が取れる行動は何があるのでしょうか。私が今思いつくものは、以下の通りです。
1.低成長の日本経済の影響を受けない、成長力のある外国株投信を買うことです。最近、日本をパスして米国株式に若い方たちの投資マネーが流れているようですが、理にかなった賢明な行動です。
2.日本株投信でも、TPXのような包括的な指標でなく、対象を限定した指標をベンチマークに設定した投信を買うことです。例えば、成長株に限定した投信や、小型株に限定した投信、あるいは業種を限定した投信等です。尚、成長株投信の看板を掲げたものでも、ベンチマークがTPXとなっているものはNGです。ETFと言われる上場投信であれば、規模別や業種別等の豊富な指標のバリエーションから、投信を選択することができます。
3.絶対収益を追求する投信を買うことです。対ベンチマークでの相対的な勝ちではなく、絶対値としてのプラス収益を目指す投信です。ただ、絶対収益追求ファンドの中には、先物や空売り等の投資手法を使ったり、不動産や未公開株、バンクローン等に投資したりと、純粋な株式投信と言えないものが多いです。また、信託報酬率が3%を超えるものもあり、要注意です。
優秀なアナリストによって厳選された優良企業への投資で絶対収益を狙っていく、ノンベンチマーク型の株式投信があれば買ってみたいのですが、私が勉強不足なのか、未だお目にかかったことがありません。そのため、私は業種別代表企業の個別株を、押し目を待って泥臭く拾うことにしています。

先程お話した国内株式投信の抱える問題点は東証も自覚しており、TPXを成長力ある企業を対象とした指標に見直す予定です。2022年4月4日に東証は市場の再編(プライム、スタンダード、グロース)を実施します。これまで、TPXの構成銘柄は、東証1部に上場する全企業が対象でした。しかし、市場再編後は市場区分に関係なく、基準を満たした企業のみが選出される形に変更されます。TPXが選抜型になることで優良企業のみが算出の対象となり、指標の質の向上が期待されます。
今後、TPXが成長性の期待できる指標=インデックスとして生まれ変わったなら、私も個別株派から投信派へ宗旨替えするかもしれません。